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第17話 アンドリューに報告

 翌日午前、ルイスはアンドリューの部屋に居た。

 アンドリューの部屋はベッドと小さい本棚があるだけで小綺麗に整頓されていた。アンドリューは白いシャツと灰色のズボン姿で、どこにでも居る独身男といった感じだった。

 壁につけた机に向かい、彼には少し小さいような椅子に座っていた。


 アンドリューは仁王立ちして腕を組んでいるルイスを、明らかに警戒して見ていた。


「どうした? 怒ってるな。俺はなにかしたか?」


 アンドリューは極力穏やかに尋ねた。


「なにも。そうじゃなくて、アンドリューさん、この国の王様を決める戦いは、いつ始まるんですか?」

「誰に聞いた?」

「ペルタさんです」

「アイツめ⋯⋯」


 アンドリューは鋭くため息をついた。


「そんな事はいいんです! いつ始まるんですか?」


 アンドリューはルイスの荒々しい口調に驚いて、ルイスの顔に釘付けになった。


「どうした、少し落ち着け」

「落ち着けませんよ」

「とにかく、詳しく話してくれ」


 アンドリューはルイスに向き合って、両手を振ってなだめた。


「アレス王子ですよ!」

「よくわかった」


 アンドリューは眉にシワを寄せてうなずいた。


「まだなにも言ってませんよ! アレス王子がペルタさんと、僕になにをしたか」

「なにをした?」

「ペルタさんを突き飛ばしたり、ペルタさんが階段から転げ落ちたら、手を叩いて笑ったんですよ」

「そいつは酷い」

「そして、僕の頬を⋯⋯ぶん殴ったんですよ!」


 ルイスは自分の頬を打つ真似をして見せた。


「抵抗もできず、虫けらのように! 吹っ飛ばされました!」


 アンドリューはルイスの大袈裟な説明に、思わず肩を震わせて笑ったが、慌てて口を押さえた。


「そうか、虫けらのように吹っ飛ばされたら、そりゃ怒るのも無理はない」

「そうですよ⋯⋯」


 ルイスはアンドリューに自分の言った事を聞かされて、ようやく自分がおかしくなっていると気づき、冷静さを取り戻した。


「とにかく、僕はアレス王子が王になるのは反対です。ぶたれなくても、その前に、敵対宣言しましたし」

「なんで、そんな事を」

「だって、ペルタさんを奥さんにして悪巧みを⋯⋯」

「奥さんになったのか?」


 アンドリューの顔が険しくなり、動揺したように聞いた。


「なりませんよ! あんな酷い人の!」

「そうか⋯⋯だが、あの人は自分の側の人間には、寛容だそうだぞ」


 アレスがペルタに、男と自由に暮らせと提案していたのをルイスは思い出した。アレスの寛容さというのは、ルイスには理解出来なかった。アレスの事は決着がつかないので話を変えた。


「アンドリューさんは、ペルタさんが酷い目にあわされて、なんともないですか?」

「そりゃあ、気の毒だとは思うが、アイツの場合は自業自得なところがあるからな。子供でもないし」


 さっきは動揺していたのに、おかしいとルイスは思った。


「女性として、心配じゃないですか?」

「ファウストは、俺にとっては兄妹(きょうだい)みたいなもんなんだ。兄妹に恋愛感情は抱かないだろ?」

「でも、兄妹じゃないですよね。アンドリューさんは、宿屋の息子さんだそうですが、本当ですか?」


 ルイスはペルタと共有する疑惑、アンドリューは実は王子ではないかと、暗に聞いた。


「⋯⋯なにを吹き込まれたか知らんが、俺は宿屋の息子だ! 残念だったな!」


 アンドリューは意地悪く笑い、話題を振り払うように急いで机の方を向いた。仏頂面になったアンドリューに、ルイスはため息をついた。


「今のは、僕が気になったから質問しただけです。ペルタさんからはなにも頼まれてませんから、怒らないでください」

「怒ったりしてない。ファウストにもな」

「よかった」

「これから旅する仲間だからな」


 微笑むアンドリューにルイスも微笑んだ。しかし、またある疑惑が浮かんできた。


「さっき、奥さんになったのか? って慌てたのは、もしかして、ペルタさんが奇石を変な風に使わないように、見張ってるからですか?」

「誰かに頼まれたわけじゃないけどな」


 真面目な上に、責任感が強いんだなと、ルイスは尊敬の眼差しを向けた。


「これからも、よろしくお願いします」

「ああ。でも、今回はルイスが活躍したわけだな。アレス王子の悪巧みに利用されるのを、体を張って阻止してくれたんだからな」


 ルイスは無意識に打たれた頬に手を当てた。昨夜の記憶と共に、悔しさがまた甦ってきた。


「アンドリューさんの力なら、アレス王子に勝てますよね?」


 ルイスの好戦的な質問に、アンドリューはまた警戒した顔になった。


「俺は戦ったりしない。争いは話し合いで解決するもんだ」

「そんな平和主義者が、どうして電撃なんて危ない力を持ってるんですか?」


 ルイスのもっともな質問に、アンドリューは少し動揺した。


「念のためだ。ナメられたら、話し合いの機会も無いからな」

「ふぅん⋯⋯」

「とにかく、使わんぞ!」


 ルイスの納得していない様子を見て、アンドリューは力強く断言した。しかし、ルイスは諦めきれずに考え続けた。


「そうだ、スリルなら、アレス王子に勝てる!」


 ルイスが嬉しそうに言うと、アンドリューが怪訝な顔を向けてきた。


「スリル⋯⋯宝探しの子か。どうして、アレス王子に勝てるんだ?」

「アンドリューさん達は知らなかったですね。スリルは、物をすり抜ける能力者になるんですよ」

「スリルだけにか。名前を並び替えたら、スルリになるな! グハハ!」


 突然の冗談と悪役っぽい笑い方、ルイスは少しショックを受けた。


「しかし、スルリじゃなかった、スリルを巻き込むのはどうかと思うな」


 ルイスは答えられなかった。

 そのまま、ルイスが苦悩していると、アンドリューが勢いよく立ち上がった。


「よし! 俺が修業に付き合ってやる。それで、ストレス発散しろ!」

「えっ⋯⋯」


 ルイスは自分の機嫌が悪い時、必ずランニングに誘う父を思い出して、アレスへの怒りを一時忘れて、体の力も抜けた。 

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