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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第1章

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第14話 王子様を探して

 ルイスはペルタに会いに行こうと、商店街に向かった。

 勇者の格好は効果があった。同年代の女の子はすれ違っても、特別反応しなかった。

 しかし、女の子達の横を通り過ぎようとした時、呼び止められて囲まれてしまった。女の子達はレースの沢山ついたワンピースを着ていた。ルイスはまた異国情緒を感じた。


「どうして、勇者なの?」

「どうしてと言われてもね⋯⋯俺は行くところがあるから」


 ルイスは出来るだけ、勇者っぽく素っ気なく話した。


「どこに行くの?」


 反射的に聞いたのか、問いかけた子も、他の女の子達も特に興味は無さそうだった。


「ペルタさんっていう、勇者様のところだよ」


 女の子達全員が驚きルイスを見た。ルイスは少し後ずさった。


「レディ・ファウスト様のところへ?」

「弟さん?」

「違うよ。ちょっと、知り合い」


 ルイスはとりあえず、気になった部分を聞いてみた。


「レディファースト様って?」

「レディ・ファウスト様はとても恐ろしいのよ。夜の町や、危険な場所に行ったら⋯⋯現れるの。仲間もいるわ」

「3回、危険行為を見つかったら、連れて行かれてしまうのよ」

「どこへ!? そして、仲間って?」

「わからない⋯⋯まだ、連れて行かれた子は居ないから。仲間も同じように恐ろしいわ。魔女みたいにね。あなたも、気をつけて」

「自分から会いに行くなんて」


 ルイスはペルタのところへ行くのを、考え直したくなったが、ここで引き返すような無様な真似はできなかった。


「そうか、怒らせないように気をつけるよ。ありがとう」

「ファウスト様は私達の為に、見回りをしてくれているの。お礼言っといて!」


 女の子達は慌てて付け足してきた。ルイスは承知して、ゾクゾクしながら店に向かった。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 ペルタが開く骨董品店ベラルーチェを見つけ、ルイスが大きなガラス窓から覗くとペルタが居た。客は居なかった。ペルタはルイスに気づくと、笑顔でおいでおいでをした。

 ルイスは魔界への(いざな)いを受けている様な錯覚の中で、ゆっくりと店内へ入った。


「いらっしゃい。ドラゴンに魅入られし少年」


 ペルタはニヤリとした。黒い革のスリットドレスを着て、肘まである布地の紫の手袋をしていた。ペルタの魔女みたいな格好と、骨董品の出す雰囲気に、ルイスはかしこまって聞いた。


「こんにちは。ここには、ドラゴンのなにかが?」

「アンドリューから言われたのよ。ルイス君を見張ってろって」


 ペルタは思わせ振りに、ルイスに背中を向けて続けた。


「ドラゴンの情報を流すなと」

「ひどいですよ!」

「ひどいわよねぇ。私も睨まれているのよ! 間違ってもルイス君を(そそのか)すなと」


 ペルタさんならやってくれそうだなと、ルイスは思わず笑顔を見せた。ペルタはルイスの考えを読んだのか、申し訳なさそうに言った。


「ルイス君とドラゴンを探しに行きたいけど⋯⋯アンドリューを裏切る訳にはいかないの」

「アンドリューさんのこと、好きなんですか?」

「好きだなんて」


 ルイスの唐突な質問に、ペルタは片手を頬に当てて、うろたえた笑みを見せた。


「アンドリューは、本気にしてくれないから」

「本気にさせればいいんですよ」


 恋愛では先輩のルイスは、力を込めて言った。


「頼もしいですわ。ルイス先生」

「先生ってほどじゃ、でも、アンドリューさんは勇者でしたね」

「勇者だけど、ほら、勇者だと思っていたら、実は王子様だったみたいな? あるかもよ。ああいう超展開、いいわよねぇ」

「アンドリューさんが、実は王子様⋯⋯か」


 ルイスは想像してみたが、つい、フアンと比べて、王子様要素がないなと思った。


「宿屋の息子って聞いてるけど、嘘かもしれないし!」

「いつかアンドリューさんの実家に連れていってもらいましょう。そうすればわかりますよ」

「楽しみだわ⋯⋯」

「宿屋の息子だと思うけどな。ダメですよ、露骨にガッカリしちゃ」

「わかってる。期待値は低めに設定しておくわ」

「それにしても、アンドリューさんにまで、そんな期待を。王子様みたいな人じゃなく、実際に王子様じゃないとダメですか?」

「ルイス君、ここはどこですか?」

「オトギの国です」

「この国ではあるのかもしれないの。そういう、突然の王子様との出会いが」


 ルイスは否定できなかった。ペルタはため息をついた。


「ここは最高よ。小さい頃の夢が叶うの。いつか、理想の王子様が現れる。それを信じて、みんな、つらいひとり旅をしているの」

「最高につらい旅になってませんか? オトギの国を旅すれば、すぐに出逢えそうだけどなぁ」


 ルイスの容赦無い疑問に、オトギの国をさ迷い続けるペルタはしゅんとなった。


「探しても、見つからないの⋯⋯」

「おかしいですね、どこかに居ますよ、きっと」


 ルイスには、月並みな励まししか言えなかった。


「ルイス君も、フアン様も⋯⋯まさか、もう既に全ての王子様に、お姫様がいるんじゃないでしょうね?」


 ペルタは絶望的な疑惑に動揺した。ルイスも緊張して聞いた。


「もし、そうだったら、奇石で魔女に?」

「ふっ、安心して。私は諦めない。町を守る勇者をしながら待つわ。まだ、(ひと)り身の王子様が現れるのを⋯⋯」


 ペルタは額に手をかざして、遠くを見ながら宣言した。


「こんなこと、店番しながら言っても、仕方ないんだけどね。陰から王子様が、聞いてくれてる訳じゃないし」


 すぐに打算的な事を言うペルタに、ルイスは脱力した。


「ルイス君。さっきの私のしおらしいセリフ、男の人達に片っ端から伝えていいのよ」


 王子様に伝わるのを期待して、ペルタはニヤリとした。


「セリフ、覚えてません」

「ルイス君! 君は何の為に、ここに来たのかね?」

「ちょっと、顔を見せに」

「私の王子様を、探す為でしょう!?」


 逃げ出すには、扉が遠過ぎた。


「わかりました。 手伝うって、約束しましたからね」


 ペルタの前で、ルイスは胸に手を当てた。


「ありがとう。頼もしいわ。さすが、王子様見習いね。お礼に、一番高い商品あげちゃう!」

「ええ!? 嬉しいけど、もらえませんよ!」

「王子様の特権なのに。特権階級というものね」

「最終的に処刑されそうだから、僕はもらいませんよ、そういうの」


 ルイスはそう言ったが、商品が気になって少しの間眺めた。


「そうだ、さっき会った女の子達が、レディ・ファースト様は、町を守ってくれている、お礼を言っておいてって言ってました」

「ありがとう。様をつけるほどの者じゃないけどね」

「ペルたんさん、どうして、レディファースト様って呼ばれるようになったんですか?」

「子供達に『誰ですか』って聞かれたときに、そう呼ぶように頼んだの。ペルタじゃ可愛いでしょ? カッコいい呼び名が欲しかったの」


 勇者のエピソードを期待していたルイスは、少しガッカリした。そして、もう一つ聞いた。


「見回りの仲間もいるんですよね? 魔女、いや、どんな?」

「そうね、一言じゃ言えないけど、勇者仲間、外から来た仲間、王子様を探す仲間? 色んな仲間達と、この町だけじゃなく、国中を守っているわ」


 ルイスは感謝しつつ、もう一つ気になることを聞いた。


「子供が三回危険行為をしたら、どこかに連れていくんですよね? どこですか? 特別に教えてください!」

「魔界よ。オトギの国の地下にある」


 真顔のペルタに驚き、ルイスは思わず足元を見た。


「冗談よ! 魔界なんて、ルートを変えて何回も旅したけど、見たことも聞いたこともないもの! 家に帰すのよ!」


 ルイスはそんな真相は信じなかった。しかし、魔界に行きたいと思わず、行く暇もないので、深く追及しないことにした。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 せっかくなので、ルイスはまた商品を見て歩き、舞踏会でつけるような豪華だが怪しい、目元だけを隠す仮面が壁に沢山掛けてあるのを見つけた。

 ペルタが1つ取って自分の目元を隠して、ルイスを見つめてきた。ルイスは下を向いたが、仮面が視界に現れた。


「興味あるんでしょう。一つあげるわ」

「いいですよ、ないですよ」

「遠慮しなくていいのよ。ルイス君は王子様になるんだから、必要になるわ。仮面舞踏会に呼ばれたりして?」

「仮面舞踏会があるんですか? それで、あんなに沢山」

「あれは、私の趣味よ。綺麗で神秘的でしょ? この仮面が似合う人が私の王子様だといいな。私を守ってほしい」


 ルイスは一瞬、怪しい仮面をつけたアンドリューを想像して、急いで幻影を消した。


「僕の中の、アンドリューさんが壊れていく」

「これからの旅に、持って行こっと!」


 ペルタのはしゃぎ様とは反対に、ルイスは力つきそうだった。


「まぁ、持って行くのは自由ですけど。もうそろそろ、僕はこれで」


 ルイスは魔界から脱出すべく、扉のノブに手をかけた。


「待って! お願いがあるの!」


 無事に帰れるわけがないかと、ルイスは観念しつつもぎこちなく振り向いた。

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