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第2話 少年は大志を抱いた!

 青空が広がる午後。

 キャロルに呼び出されたルイスは浜辺の見えるベンチに座った。

 そこへ、キャロルがやって来た。

 金髪縦ロールに、カールしたまつげにピンクのチークとツヤツヤの赤いリップ。最大限可愛い顔。淡い水色のワンピースにエナメルの靴が似合っている。お姫様のような女の子。


 キャロルは膝を密着させるように、ルイスと向かい合って座った。


「奇石が出てきたの!」

「よかった!」


 キャロルのキラキラする笑顔に、ルイスはほっとして笑顔を返した。

 寄りかかってきたキャロルに、優しく身を寄せる。


「それで、願いごとは」


 聞くまでもなかった。


「まだ、なんて願ったらいいかわからなくて。夢はあるんだけど」


 わかりきっているのに。

 ルイスは焦らずに、笑顔をみせた。


「そっか。焦ることないよ。僕達はまだ15なんだ⋯⋯ちなみに、夢って?」


 ルイスは肩の力を抜いて、相談相手に徹することにした。

 キャロルはフフッと笑って、ルイスの視線を釘付けにさせて縦ロールを指先でいじった。


「ルイスにだけだからね」

「誰にも言いません」

「私、フフッ⋯⋯王子様と結婚したいのぉ!」


 女性の話を無闇に笑ってはいけない、微笑むんだ。

 父の教えを思い出し、ルイスは微笑んだ。


「お、おう、じ」


 微笑みに全力を出したせいで、言葉が上手く出せなかった。


「だけど、私、お姫様になる自信がない」


 キャロルは力無く呟いた。

 ルイスは即座に笑いを消し去り、うつむく彼女の肩に優しく手を置いた。


「大丈夫だよ。王子様と結婚しようと思えば、出来る世界なんだ。それに、キャロルなら――、キャロルの将来はお姫様だよ」


 奇石にお姫様になりたいと願えば、お姫様の人生が始まる。

 王子様と結婚の可能性も生まれる。

 キャロルと読んだ本で、成功体験談を知っていた。

 キャロルが叶えられないことはない。

 さっきは、不意を突かれて笑いそうになったが、キャロルは本気だと、小さい頃から付き合う中でルイスは感じていた。


 だけど、そうなったらキャロルとはお別れかな。

 ルイスは呆然とした。

 王子様相手にこの普通過ぎる自分がどう戦えばいいのか……

 戦わずして敗北しそうなルイスを、キャロルが潤んだ目で見つめてきた。


「ルイスが王子様になってくれたら、いいんだけどな」


 ルイスは背もたれがなければ、後ろにひっくり返っていたはずだ。


「僕が、王子様に!?」


 宇宙規模の衝撃をうけるなか、ルイスはキャロルとのこれまでを振り返った。

 自分がドラゴンに彩られた毎日を送ってキャロルにもドラゴンの魅力を教えてきたように、キャロルは王子様とお姫様に彩られた毎日を送ってその魅力を教えてくれていた。

 けれど、どこか夢の世界のように受け取っていた。

 ついに、現実的に受け取る日が来たかと冷静に意味を考えた。


 僕がキャロルの王子様に。

 僕がキャロルの王子様でキャロルは僕のお姫様。

 それって。

 ルイスが確認のため見てみると、キャロルは頬を赤く高潮させて、キラキラした真剣な目で微笑んでいた。

 自分の考えていることは、間違いないなと確信した。


「私は、ルイスのお姫様になりたい」


 逆プロポーズ。

 ドキドキに浮かされながら。キャロルはルイスの肩に頭をあずけて片手でしがみつき、ぴったりくっついた。


「キャロルが僕のお姫様に。僕はキャロルの王子様」


 同じ言葉を繰り返しながらキッと空を見つめる。

 ルイスはキャロルの体をしっかりと腕に抱いた。


「いいよ。僕は、キャロルの王子様になる」


 優しい笑顔を向けるルイス。 

 キャロルはハッとしてパッと笑顔になった。


 言葉にならない喜びと感動の眼差しでルイスの笑顔を見てから、ギュッと体を寄せた。

 ルイスはドキドキで体が熱かった。興奮と少しの気恥ずかしさを落ち着かせるため、目を閉じてキャロルの髪に顔を寄せた。


「ルイスの願い事は?」


 キャロルが夢見心地で重要な質問をした。


「僕は、ドラゴンと暮らしたいんだ」


 キャロルはルイスのドラゴンだらけの部屋や言動を思い出して、自然なことだとうなずいた。


「オトギの国に行くのね?」

「うん」


 小さい頃、遊園地でドラゴンの背中に乗る体験をして以来、ドラゴンに夢中だった。父から、あのドラゴンはオトギの国から特別にやって来たのだと聞いた。

 大人になったら、オトギの国にあるというドラゴンと暮らせる町に住みたいと願ってきた――


 また、ドラゴンに心をとらわれてる。

 真剣な眼差しで前を見つめるルイスを、キャロルは見つめて、


「それなら、ドラゴンと暮らす王子様に⋯⋯」


 手を合わせて、キラキラした目で笑いかけた。


 前向きなキャロルのおかげで、ルイスも前向きな気持ちになれた。

 すでに自然と王子様も人生に取り込めていた。

 優しい笑顔を向けるルイスに、キャロルはさらにキラキラした。


「僕は、ドラゴンと暮らす王子様になるよ!」


 また一つ、叶える願いが増えた。

 ルイスは笑った。オトギの国に行くのがさらに楽しみになった!


「キャロルはそれでいい? ドラゴンと暮らせる?」


 重要な質問に、


「うん、大丈夫」


 キャロルは即答した。


「ルイスのおかげで私もドラゴン好きになったから。一緒に背中に乗せてね?」

「約束するよ。そのためには相棒になってくれるドラゴンを探さないとね。それから、王子様にも会って見学させてもらわないと」

「見学!  ふふっ、どっちかというと……弟子入りじゃない? 弟子入り修業とかいうやつ!」

「弟子入り、修業⋯⋯」

「そう、男の子好きでしょ? 修業!」


 綺麗な王子様のイメージと、修業の汗臭いイメージが重ならない。苦笑いするしかなかった。


「一旦落ち着いて考えよう。キャロル、僕が王子様なら、キャロルはお姫様になるための修業をする?  つまり、キャロル姫になる修業?」

「キャロル姫!」


 キャロルは爆笑したが、ルイスは釣られないようなんとか()えた。


「そうよ、姫修業もしなきゃね。任せて、ルイス!…ルイス、本気にしてね。私、ずっと待ってるから⋯⋯素敵な展開。夢みたい、ルイスが私の王子様!」


 キャロルはうっとりと青空を見上げ、想像の世界の住人になった。


 ルイスも青空を見上げたが、想像力が足りないなと思った。


「多分、凄く時間がかかると思う。王子様になれるまで」


 空をにらみ、ほとんど闇雲に話していた。


「もしなれなかったら⋯⋯」

「私がお姫様になって、ルイスとドラゴンがお城に住めるようにする!」


 別れを覚悟していたルイスは、感動してキャロルを抱き締めた。


「他の王子様と結婚しても、いじけないよ」

「そんな弱気なこと、言わないで」

「うん。キャロルの王子様とドラゴンと暮らす夢。絶対どちらも叶えるよ。奇石もあるし!」


 気を取り直して、シャツからのぞく奇石に触れた。


 願いを叶えれば、凄い人生になる。

 しかし、具体的には想像できなかった。

 だいたい、自分の中の王子様要素なんて、金髪碧眼くらいしかない気がした。

 それに、キャロルの王子様になってドラゴンとお城に住む。


 人生そんなに上手く行くかな?


 段々と冷静になっていったが、キャロルがうっとりとした目で顔を近づけてきたので、ルイスは自分からキスした。


「でも、使い道は慎重に考えないとね」


 冷静さを取り戻すために呟いた。


「うん。私も、どんな能力を持つお姫様になるか慎重に考えるわ。やっぱり、傷を治す力は必須よね。それと、他のお姫様とは違う特別な力を持ちたいな。なにがいいかな。ルイスはどう思う?」

「お姫様に必要な特別な力か。全然わからないな」

「私も、オトギの国に行って叶えたい願いを見つけなきゃ。本当は、一緒に行きたいんだけど……」


 キャロルとルイスの顔は深刻になった。


「それは、僕もだけど、オトギの国は無法地帯で危ないから。お父さんとお母さんも反対するんじゃないかな?」

「うん、まだ早すぎるって……ルイスは大丈夫?」

「前からオトギの国に行きたいとは伝えてるから、大丈夫だよ。今日、話してみるよ。早く行きたくなったからね」

「行けるように、祈ってる」

「ありがとう」


 ルイスは笑顔に戻った。


「先に行って様子を見てくるよ。連絡するから待ってて」

「うん、待ってる!」


 王子様になるためにオトギの国に行くルイス。

 無事を祈りながら待つ。

 これが理想だったの。

 キャロルは祈りのポーズで目を閉じた。


 それから、ルイスにキスをした。



 キャロルを家まで送ったルイスは、急いで家に帰って自室に閉じこもった。


 タブレットでとりあえず、王子を検索。

 王子とは王の息子。または、ある領地を支配する者の称号。なるのはもちろん後者しかない。


「オトギの国で、理想の王子像を見つけよう」


 オトギの国の奥地にあるという町でドラゴンと暮らすという夢が、急に壮大な夢に変わったのがわかった。


 自分の夢もキャロルの夢も、現実にしたい。

 今すぐにでも、オトギの国に行きたくなった。

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