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第13話 王子様とルイスとペルタ

 気持ちよく晴れた午前、ルイスはフアンと共に、お茶を飲むための広間でくつろぐ、年配の王子達に挨拶して回った。

 かしこまって自己紹介するルイスを、(ろう)王子達は喜んで向かえてくれた。


「頑張るんだぞ、若き王子見習いよ」


 老王子の横で、老姫も涙ながらに喜んでいた。


「頑張ってね、貴方は、この国の、女性達の希望の星よ」

「頑張りますっ」


 ルイスはキッと(くう)を見つめて、力強く返事をした。


 挨拶回りを終えて、ルイスはフアンと長イスに座った。


「今から、楽団が演奏するよ。今日は、ルイス君を歓迎する意味もあるから、喜んでくれると嬉しいな」


 ルイスはうろたえたが、嬉しかったので、ありがたく受けた。


 すぐに奥のステージに、正装の楽団が現れて演奏をはじめた。聞こえてきたのは、華やかなで優雅な音楽だった。


「なぜだろう? どこかで聞いたことがあります⋯⋯」


 ルイスは圧倒されたり、感動したりしつつ、フアンに言った。


「これは、宮廷音楽というものだけど、城以外だとどこで流れるかな?」

「……アニメです! おとぎ話とかの」


 ルイスは気恥ずかしさに笑い、フアンも釣られて笑った。


 城で流れる宮廷音楽の生演奏に、ルイスは中世にタイムスリップしたような、おとぎ話の世界に入り込んだような気がして感動した。

 姿勢を正したまま聞き惚れていたルイスはふと、斜め前に座る老王子が、新聞を読んでいるのを見てがく然とした。


「僕も、王子になったら、宮廷音楽を聞きながら、新聞が読めるようになりますかね?」

「あの王子様は、演奏を聞きながら新聞を読むのが好きなんだよ。私は新聞を読もうと思ったことはないよ」


 笑って言うフアンに、ルイスはほっとした。しかし、悠然とした老王子の後ろ姿に、少し憧れを覚えた。


 演奏が終わると、ルイスは思いきり拍手した。すぐに誰も拍手していないことに気づいて、またがく然とした。しかし、ルイスに釣られたのか拍手が起こった。


「今の拍手は、僕を歓迎してくれたので、感謝の気持ちです」

「私達も、いつもお礼を言っているし、心の中では拍手しているんだよ」


 フアンが笑顔で拍手しながら、ルイスをフォローしてくれた。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 昼食の後、ルイスは公園の木のベンチに座っていた。


 朝の歓迎を思い出して、胸の高ぶりにふぅと息をついた。そして、公園の静かな空気と小鳥のさえずりに耳をすまして、心を落ち着けようと目を閉じた。


「ゴラァーッ、待ちなさーい!」


 女の怒鳴り声と子供達の悲鳴が、ルイスの瞑想を破った。驚いて目を開けると、目の前を数人の子供達と、護衛の勇者ペルタが駆け抜けて行った。


「言うこと聞かないと、魔女となりて、とって食ってしまうわよー!!」


 両手を伸ばして追いかけるペルタの脅しに、子供達は悲鳴を上げながら、散り散りに公園から出ていった。


「ハァハァ⋯⋯子供は、すばしこいわね⋯⋯あら、王子様!」


 ペルタはルイスに気づくと、急に身を縮めて、笑顔でウィンクした。ペルタの迫力にのけぞっていたルイスは、変貌ぶりに脱力した。


「ペルたんさん、奇石を使う必要ないですよ⋯⋯僕だってビビりました。子供達のトラウマになってしまいますよっ」

「だって、森の中に入ろうとするんだもん。森には危険がいっぱいなの。私は平和を守る勇者。なんとしても、阻止しなくちゃ」


 ペルタの任務を知って、ルイスは直立不動になった。


「お疲れ様です」

「ありがとう。ルイス君も、王子様になったらこの仕事が待ってるわ」

「はい、頑張ります!」

「レクチャーしてあげましょうか?」

「いや、僕は王子になるので、王子様に習いますよ」


 笑顔で誘うペルタに、ルイスは苦笑いで断った。子供達の安全は、もう少し優しく守ってやりたかった。


「それはそうね⋯⋯そうだ、王子様といえば、これからフアン様が、午後のお茶会を開いてくれるわね」

「午後のお茶会ですか?」

「聞いてないの?」


 興味を示すルイスに、ペルタは腕を組んで考えてから言った。


「あれを見れば、フアン様の恋人が逃げていったのも、うなずけるわよ」

「逃げたんですか!?」


 フアンから、恋人は外の世界に戻っているだけという風に聞いていたルイスは驚いた。ペルタは慌てて続けた。


「フアン様に問題があるわけじゃないわよ? ある意味問題か⋯⋯とにかく行きましょ!」


 ♢♢♢♢♢♢♢


 城の庭園の広場では、すでにお茶会の準備が整っていた。白いテーブルクロスを掛けた丸いテーブルの上には、沢山のティーセットと美味しそうなお菓子が用意されていた。

 そして、綺麗に着飾った女性達がいた。夫婦や親子や老人もいた。みんな、お茶を飲んだりお菓子を食べたり、花の咲き誇る花壇を見て回ったり、座って話をしたり、思い思いに楽しんでいた。


 ルイスとペルタは、少し離れたところから様子を眺めていた。


「フアン様が定期的に開いてくれるお茶会よ。町の女の人達の願いを叶えてくれたの。フアン様は、多くの女性を、この平凡な町に引き留めているわ。罪なお方⋯⋯」


 ルイスはペルタの指差した方を見た。一ヶ所に年齢バラバラの女性達が集まっていた。その中心にフアンがいるのを見て、ペルタの言わんとしていることを悟った。


「恋人さんは、これから逃げだしたと⋯⋯」

「恋人と暮らしていた城で、お茶会を開いていたかはわからないけど、そんなことしなくても、フアン様はモテるもの。きっと耐えられなかったのよ」


 黙りこむルイスに、ペルタは重々しく続けた。


「フアン様は、ひとりだけの王子様になっては、いけないのかもしれない」

「そんな⋯⋯それなら、ペルたんさんだけの王子様にも、できませんね」

「ぐふっ!?」


 恋人の後釜を狙うペルタは、墓穴を掘ってしゅんとした。


 ルイスはもう一度、女性達に囲まれるフアンを見た。至極楽しそうに微笑み、一ミリの動揺も興奮も感じていなさそうだった。同じ態度がとれるかと、ルイスは不安に思った。それに、あそこまでモテる王子になる自信はなかった。


 それぞれ、複雑な思いを抱えながら、ルイスとペルタはため息をついた。ふたりは端の方で、ひっそりとお茶会に参加した。


「ふう、フアン様は人気者で近寄れないし、もうお一方は、今日も出てこないわね」


 一口サイズのケーキを食べながら、ペルタは城を見上げた。


「もうお一方、引きこもりがちの?」

「そう。レアな王子様。レア王子ね」


 ルイスもバルコニーや窓を確認してみた。誰もいなかった。


「レア王子とか言われると、凄く会いたくなりました。どうして、出てこないんだろう? 僕なら、こんなお茶会が開かれたら、絶対引きこもっていられないけどなぁ」

「王子様になると、どんなことにも、動じなくなるのよ」


 ペルタが持ってきた、山盛りのケーキに動揺して興奮していたルイスは、深く反省した。


「僕が王子になれるのは、10年後かな⋯⋯」


 ルイスは開き直って、伸びをしながら呟いた。


「フアン様のところに行って、挨拶してきたら? 今すぐ、王子様気分を味わえるわよ。ルイス君なら!」

「えっ⋯⋯」


 ルイスはしばし悩んだが、やはり勇気が出なかった。


「挨拶は、5年後で」


 ルイスがフアンに気後(きおく)れしていることに気づいて、ペルタはそれ以上勧めなかった。そして、笑顔で励ますように、ルイスの肩を軽く叩いた。

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