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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第7章

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第184話 貝殻

 ラルラがボートに掴まったまま、尾ひれをヒラヒラさせて楽しみに待っているとロッド王子様が戻って来るのが見えた。

 隣に誰かいる。二人きりじゃなくなって少しガッカリだけど、予想できていたことでもあった。ロッド王子様が人魚に会いに行かない?と誘ったんだろう。

 問題は来たのが誰かということ。

 自分と同い年くらいの男の子。ロッド王子様と親しげに話してる。黒髪に灰色の瞳のどこか神秘的なロッド王子様と対照的。眩しい金髪で笑顔は明るくて優しそうなのが一目でわかる。そう、彼も王子様なのが一目でわかった。


 尾ひれがピシャンと興奮気味に海面を打ったとき、新たな王子様の青い瞳がこっちを見た。


「初めまして」


 ルイスは桟橋を歩きながら、にこやかに挨拶した。


「僕は、ルイス。ロッド王子に誘ってもらって来ました」


 ラルラはやっぱりとうなずきながら笑顔を返した。


「私はラルラといいます!」

「よろしくね!」

「よろしくです! ルイス王子様!」


 ロッド王子様とは違う親しさ。すぐ打ち解けることができた。


「ルイスはまだ王子見習いなんだ」


 ボートに乗りながら笑うロッドとルイス。


「王子見習い!?」


 ラルラは驚愕した。


 ルイスの胸には奇石があるのを確認した。

 奇石を使わずに、こんな王子様みたいに魅力的なんて。ロッド王子様との間で揺れてしまった。


「人魚の尻尾、見せてもらってもいいかな?」


 首をかしげて聞いてくるルイス王子様(見習い)


「あっ、はい!」


 キモがられることが気になって緊張したけど。


 あらがえずに、ラルラは身を任せた。

 ルイスは有り難く尾ひれを眺めた。綺麗な赤やオレンジや黄色系のグラデーション。光の加減で輝く鱗。


「うーん」


 眉を寄せる。


 ラルラはドキッとした。ロッド王子様も何を言うのかと横目に見ている。キモいとか言いそうにないけど、言ったらロッド王子様はフォローしてくれるかなと考えていると、


「凄くいいね。僕も、半分ドラゴンになろうかな」

「えっ!?」


 ドラゴンになる!?


 予想外のルイス王子様(見習い)の感想。

 ラルラは目を丸くした。

 ロッドは予想通りと笑った。


「やっぱり、そんなこと考えてたか」

「うん。魚っていう別の生き物の下半身がさ、自然に動いてるのを実際に見てドラゴンと融合したイメージが(はかど)るよ」

「よかったな」


 ラルラも役に立ててよかったと笑っておいた。


「泳ぐとこ見せてくれるかな?」

「はい!」


 ルイスとロッドの期待に輝く瞳と笑顔。


 ラルラはドラゴンのことを深く追求する間もなく、ボートから離れた。

 ルイスとロッドもゴーグルをつけて海に飛び込んだ。

 ラルラのほうに泳いでいき、ついていくように潜る。

 海底の砂も見える透明な海のなか、人魚が泳いでいく。

 光のベールをすり抜けるようにスイスイ、くるくる、ロマンチックで幻想的でもありオトギ話の絵本のようでもあり。それでいて、凄いスピードで遠くに消えて戻ってきたりとスペクタクルもあり。

 ルイスとロッドは感動しつつ、ラルラと笑顔を交わして、息が続くまで見ていた。


「凄かったな」

「凄かったね!」


 海面に出て息をすると同時に言い合った。


 ラルラが二人の間に飛び出してきた。


「どうでしたか?」

「凄かったよ。予想より速いし驚いた」


 ロッドは満足して笑みを向けた。


 ラルラはよかったと笑った。

 ロッド王子様は速く泳ぐのを見たがっていたから、気合いを入れて全速力を出した甲斐があった。


「うん、速いし色んな動きができるんだね。楽しそうだし、泳いでる姿はやっぱり――」


 ルイスは続きを目配せでロッドにうながした。


 ロッドは言わねばならぬセリフがわかったが、ニヤリと半笑いを返すだけにした。ちょっと抗議の目を返してから、ルイスは仕方なく自分で言うことにした。


「綺麗だったよ! 凄く!」

「ありがとうございます!」


 一番待っていた言葉。


 ルイス王子様(見習い)と目配せをしたのと笑顔を見るに、ロッド王子様もそう思っているらしい。

 ラルラは水平線まで歌いながら泳いで行きたい気分になった。

 そこに、


「ルイス君、ロッドさん」


 女の子が桟橋を歩いてきた。


 つばの広い真っ白な帽子とワンピースが似合っている、可憐な感じで綺麗な子。

 どっちのお姫様? ラルラは緊張した。


「あ、ユメミヤ」


 ルイスはすぐに桟橋まで泳いでいった。


 仲良さそうな二人。ユメミヤさん、はルイス王子様(見習い)の……?

 悲しいけど、ホッともしつつ、ロッド王子様と一緒に桟橋に近づいた。

 ラルラを見て、ユメミヤも緊張していた。

 もう仲良さそうにロッド王子と泳いでくる。リバティのことを想うと……

 しかし、敵意を持つ気はなかった。

 微笑んで、


「初めまして」


 挨拶すると、ラルラも緊張を少し解いて笑った。


「初めまして」

「ユメミヤと申します」

「ラルラです」


 慎ましいユメミヤにラルラは習った。


「人魚さんだそうですね」

「はい」


 尾ひれを上げてみせる。


 ユメミヤは桟橋から身を乗り出して、尾ひれを興味津々で眺めた。人魚姫の物語がよぎって、嬉しさと切なさを感じた。


「まぁ、綺麗な本物の人魚さん。感動しました」


 心からの感想をラルラも信じられた。


 ユメミヤさんとは仲良くなれそう。

 そう思ったとき、


「リバティは?」


 ルイスが聞いた。


 リバティ?

 新たな、お姫様?

 ラルラはまた緊張してきた。


「あの、涼しい木陰を見つけたのでと眠っていました」

「猫らしいね」


 ユメミヤのはぐらしを信じて、ロッドは笑った。


 猫?

 リバティという猫を連れてきてたんだ?

 それとも、自分のように猫になる女の子……?

 ラルラは聞きたかったが。

 聞かないことにした。いないなら深入りすることはないと。知らないままでいたかった。防衛本能のようなもの。


「寝てるなら仕方ないな。俺たちだけで遊ぼう」


 ロッド王子様も納得してくれたし。


「ねぇ、今度は泳ぎながら手を引っ張ってくれない?」


 手を繋いで泳ぐことになった!


「はい!」


 深入りしなくてよかったとラルラは笑った。


 海に潜ると差し出された両手を繋いで、引っ張って泳ぎだす。どこまでも、どこまでもいきたかった――


 ボートの上では、ルイスとユメミヤが様子を見ていた。しんみりと。


「ロッド、楽しそうだね」

「ええ……」

「リバティは?」

「少し、元気になってくださいました。でも、ここに来るのは怖いから窓から見ていると」


 二人はコテージの窓を見た。


「いないね」

「ええ」

「泣き顔が元に戻ったら、来るとも言っていました」

「来てくれるといいね」

「はい」


 笑顔を交わしたところに、ロッドとラルラが出てきた。


「楽しかったよ、ありがと」


 珍しい、ロッドの無邪気な笑顔。


 ルイスとユメミヤの胸に刺さった。

 リバティは来なくてよかったかもしれないと、思わずにはいられなかった。


「ルイスも引っ張ってもらえば? 自分で泳ぐよりかなり速いぜ」

「そうだね」


 気持ちを切り替えよう。

 そう思ったルイスは、ふと疑問を聞いた。


「ロッドって凄く速く走れるんだから、速く泳げるんじゃないの?」

「どうだろうな? 海面は走れそうだけど」


 想像してケラケラ笑うルイスを置いて、ロッドは潜って泳いでみた。


「泳げたよ」

「やっぱりね」


 なんだ、自分で速く泳げるなんて。


 ガッカリするラルラに、ロッドは手に持っているものをあげた。

 白い巻き貝だった。

 それも、手に収まらないくらいの。


「これ、あげるよ」

「あ、ありがとうございます!」


 ラルラは喜びに震えて貝殻を握りしめた。


 そんな大きな貝殻を!?


 ルイスとユメミヤは驚愕して顔を見合わせた。

 リバティがもらった小さい貝殻、ユメミヤは自分がもらった貝殻も思い出して比べていた。

 大きさに意味があるなら……

 二人は深刻な顔のまま、様子を見守った。


「お礼に」


 付け足して、ロッドはルイスのそばにいった。


「お礼か、お礼なら大きいほうがいいよね」

「そうですね、お礼なら」


 安堵して呟きあうところに、


「貝殻じゃなく、真珠とかのほうがいいか?」


 ロッドの問いかけにルイスとユメミヤはまた驚愕した。


「ロッド! 王子様らしいけど、真珠はその、お、大げさじゃない?」

「そうです、大げさですよ」


 勘違いしてしまいます。


 ユメミヤは厳しい顔つきで訴えた。

 ロッドは気づいていなかった。

 真珠のことは何気なく言ったんだろうけど、心臓をドキドキさせる。ルイスは額の冷や汗をぬぐった。

 これから、ラルラとロッドはどうなるのか。

 心配になったとき、


「みんな――! お昼よ――!!」


 ペルタの呼び声がした。


「バーベキューに、サンドイッチに、サラダに、デサートもあるわよ――!」


 遠い砂浜から、おいでおいでをしている。


「はーい!」


 ルイスは代表で手を振って、


「行こうか」


 みんなをうながした。


「ちょうどよかった。一緒に食べない?」

「えっと」


 ロッド王子様の嬉しい誘い。

 ラルラは即答できなかった。ぜひ、ご一緒したい気持ちを冷静さが考えさせる。リバティという猫が本当に猫なのか。確かめて、もし、お姫様だったら?


「私は、ここで。今日は帰ります」


 貝殻を胸に抱く。この幸せを壊したくなかった。


「そっか、気が変わったら来なよ」

「はい」

「じゃあ、またね」


 ロッド王子様は気軽にそう言って。


 さっさと行ってしまった。

 見送るラルラはすぐにでもコテージに行きたかった。

 でも、焦って食事に押しかけなくても――

 海で待っていれば、ロッド王子様とまた絶対会えると確信できた。

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