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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第7章

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第183話 リバティとユメミヤ

 リバティはベッドの上で猫のように丸まって泣いていた。

 もう猫になってしまいたかった。


「ううん、人魚になればよかった!」


 奇石の消えた胸をギュッと掴む。


 もう、どんなに後悔してもどうにもならない。

 猫耳は聞いてしまっていた。人魚なんだと驚いてからのロッド王子様と人魚さんの会話。

 キモいですか?という問いかけに気にしないでとか綺麗だとか……そんなこと言われたら。

 人魚さんはロッド王子様を好きになってしまったに違いない。

 ロッド王子様のあんなに楽しそうな笑顔も、自分と駆けっこしたときに見せた笑顔よりも楽しそうに見えた……

 そう思いたくないけど、今だって人魚さんと一緒にいる……


「うぅっ――」


 猫のように唸るしかできない自分がくやしい。


 もう片方の手に握り締められた貝殻。ロッド王子様がくれた貝殻が手のひらに刺さったように痛い。胸の深くまで刺さって抜けなくなりそう。

 一生、苦しむのかな?

 一人で絶望していると――


 ノックの音がして、リバティは飛び起きた。


「リバティさん、いらっしゃいますか? ユメミヤです」

「ユメミヤさん……」


 居留守を使おうと思ったけど。


 ユメミヤとは最近仲良くなってきていた。

 それに、ユメミヤさんは落ち着いていて騒いだり面白がったりしないしと思った。

 けど、どうぞと言ったり扉を開けたりはできなかった。じっとしてされるに任せた。


「入りますね」


 鍵は開いていたので、ユメミヤはそっと開けた。


 部屋の前に落ちていた麦わら帽子を持っていた。これのおかげで場所がわかった。自分が見つけてよかったと思った。こちらを向いたリバティは涙で顔が濡れて赤くなっていて。

 ユメミヤは神妙に近づいていった。


「大丈夫ですか?」

「……今、ロッド王子様がね……人魚さんと一緒にいるの」


 言葉にしてみると悲しみがまた込み上げた。


「猫じゃなく人魚になればよかったなって! 思ってたとこ……」


 人間の手で目元をゴシゴシこする。


 耳も尻尾も、猫の部分は出していなかった。せめて、ただの人間でいたくなったから。


「人魚も魅力的ですが、猫も魅力的ですよ」


 ユメミヤの気づかいが胸に刺さった。


「でも、ロッド王子様は人魚さんと」

「ロッド王子様からの伝言です。リバティさんも来なよ、と」

「私も?」

「はい。ルイス君もロッド王子様と一緒に行きました。私もお誘いを受けています」

「そう、みんな……」


 二人きりじゃないんだ。そのことには救われた。


「でも、やっぱり、私は……楽しそうな二人を見るのが怖い。想像するだけで涙が出るし。ユメミヤさんには悪いけど行けないよ……」

「リバティさん……」


 涙を隠すリバティの肩に、ユメミヤはそっと触れた。


「私もです。私もルイス君が恋人さんと仲良くしているところを想像すると辛いです」

「ユメミヤさん、ルイス君は恋人がいるのに」

「好きです。だから、一緒にいられる時を楽しもうと決めています」


 断言した強い表情からリバティは目を離せなかった。


「たとえ、仲間としてでも……何よりも、特別で大切な時だから。それに、そうしておけば、いざ別れる時がきても納得して後悔せずにいられると思うのです」

「リバティさん、強いね……」


 別れる時のことまで、もう今から考えて……


「私は奇石の力で打たれ強くなっていますから」

「そうだったね、私も打たれ強くなればよかったな」


 笑顔を交わせてから、リバティは少しうつむいた。


「ユメミヤさん、ありがとう。ちょっと前向きになれた」


 顔をこすってみると、涙は乾いていて出そうにもなかった。


「でも、こんな顔じゃ行けないから窓から見てるね……!」


 宣言通りに窓辺に腕を置いて眺めてみる。


 ロッド王子様とルイス王子様と人魚さんが海の中に入っていくのが見えた。

 また、込み上げるものがあったけど。その感情達は楽しもう! と打ち消した。


「大丈夫、見てられるよ」

「よかったです――目を冷やすものを持ってきますね」

「ありがとう。自分で行くから、ユメミヤさんも海に行って。私も顔が元に戻ったら行くから」

「わかりました。ですが、リバティさんが来ないとロッド王子様もルイス君も気にすると思います」

「そう?」


 聞きつつ、ユメミヤの言うことは信じられた。


「はい。なんと言っておきましょうか」

「そうだね、うーん、気持ちいい日陰を見つけて寝ちゃってたってのはどう? 猫だから誤魔化せるよね?」

「そう言っておきます」

「お願い」


 笑って、泣いた後の顔を隠すために麦わら帽子を被った。


 一階に降りてリビングに通りかかると、白いソファーにペルタが座っていた。

 どこか疲れたような気の抜けた顔を二人に向けると、


「あら、ユメミヤとリバティかしら?」

「はい」


 リバティは帽子で顔半分を隠したまま返事した。


「そう、どこ行くの?」

「私は海に行きます。人魚さんを見に」

「私は洗面所と――キッチンに。ジュースでも飲もうかな」

「そう」

「ペルタさんは、どうなさるのですか? 一緒に海に行きますか?」

「私は少し休憩するわ」


 ペルタはソファーに深く沈んで天井を見た。


「お疲れですか?」

「疲れるわよねぇ。王子様とイイ感じになれるかも! って喜び勇んで来て気を引こうとあれこれ喋って歩き回って。それなのに、お姫様が多すぎてさぁ。王子様はあっちもこっちも忙しそうでさ」


 ユメミヤとリバティはうんうんうなずいた。


「私みたいな傷つきやすい人は、こうして力が抜けちゃうのよねぇ」


 リバティはペルタをよく観察してみた。


 泣いてもないし、足も組んでるし。自分よりずっと大人に見えた。

 ユメミヤにそっと口を寄せた。


「ペルタさんも、打たれ強そうだけど」

「ええ、傷つきやすいですけど……傷だらけでも立ち上がる。そういう打たれ強い方です」

「見習わなきゃあ……」


 リバティはペルタを見直してうなずいた。


 ユメミヤを見送って洗面所に行くと顔を洗い、麦わら帽子を脱いだ。

 キッチンに行くと、コックと何人かの姫が昼食の準備を始めていた。


 ロッド王子様のためにできることをしよう。


「私も手伝います」


 リバティは昼食作りに参加して、今を楽しみ始めた。

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