第181話 推し対決どころか貝殻拾い開始
青空から日差しが照りつける海と砂浜。
ルイスとロッドたちはコテージの前から眺めていた。
「潮風が気持ちがいいね」
「ああ、気持ちいいな」
ロッドは両手をうーんと後ろに伸ばした。
ルイスと一緒に一息つくと、一緒に横を見る。
視線の先にはペルタがいた。
姫たちに混じって、まんべんなく王子様たちに笑顔を振りまいている。
王子様たちは揃ってホワイトシャツとズボンとサンダルというラフな格好をしている。ルイスとロッドも。
それでも海をバックに日差しを浴びているとカーム王子などは特にキラキラ眩しくて目を開けて見ていられないほどだった。
問題のシュヴァルツ王子とランドルフ王子はホワイトシャツとタイトな黒ズボンに革のサンダルとスタイルがかぶっていた。シュヴァルツ王子は長い髪を後ろで結んでいるという違いはあるが、背の高さも服の下からでもわかる筋肉のつき方や立ち姿なんかも似ている。
ルイスは互角かと思った。
それなのに、ペルタはシュヴァルツのほうへ近づいていった。
驚愕の眼差しに気づかずペルタは、
「シュヴァルツ様と海に来れるなんて、夢のようですわ!」
はしゃいで飛び跳ねた。
「本当にな。そなたと海に来る日がこようとは」
シュヴァルツも笑顔でうなずいた。
「せっかくだ。浜を歩かないか?」
「ぜひ!」
二人は肩を寄せて歩き出した。
横を通り過ぎるのを見れずルイスは膝をついた。
「こんなに早く、負けるなんて」
敗因は付き合いの長さだと理解できた。
「引きこもりだったシュヴァルツさんが海来てくれたことは僕だって驚きだし嬉しいよ……だけど」
見つめる先で、
「美しい貝殻だ。受け取ってくれ」
「ありがとうございます! 一生大切にしますわ!」
貝殻を間にする距離で向かい合われてしまうとは。
「貝殻のプレゼントまでするなんて!」
「その辺に落ちてる貝殻あげたりもらったり、そんなに特別で嬉しいか?」
ロッドは冷静に眺めながら言った。
ルイスは立ち上がり、冷静さを取り戻して優等生として教えにかかった。
「その辺の貝殻を、わざわざあげたりもらったりするから特別なんだよ」
「へぇ、なるほど?」
わかったような、わからないような。
まぁ、ルイスが言うならそうなんだろう。確かに、特別仲良さそうに見えるし。
ロッドが見つめる先で、シュヴァルツはさらに貝殻を拾いそばにいた姫にもあげた。
「誰にでもあげるのかよ」
不満げなロッドと反対に、ルイスは勝機を見出した。
「ペルたんにだけあげなくてよかったよ。ランドルフさんは?」
ランドルフはシュヴァルツの行為を見て学んでいた。貝殻を拾うと少し迷い、そばにいた姫にあげた。
「ペルたんにあげてほしかったな」
また膝をつきそうになる。
ロッドはフフンと笑い、ルイスはため息をついた。
「シュヴァルツさんもランドルフさんも、お姫様みんなに貝殻あげちゃってる。勝負以前の状況な気がするよ」
「まぁ、シュヴァルツさんは一度ペルたんと決着ついてるし、ランドルフさんは会ってからまだそんなに仲良くなるほど一緒にいないし、ペルたんは何も知らないしな」
今すぐ事情を話して勝ちにいきたかったが、まだ早すぎるとルイスはまたため息をついた。ペルたんはすぐ暴走して振られるから。
その時、姫たちの悲鳴があがった。
「ほらー! 遊ぼうよー!!」
ファルシオン王子が海水をかけて笑っていた。
水着で同じく水着の姫たちと一緒だった。
「あんな風に何も考えず遊べたら、人生楽しいだろうね」
「ああ、俺たちも遊ぼうぜ?」
「そうだね」
ルイスとロッドはやっと笑顔を交わした。
そこへ、ユメミヤと猫姫リバティがやってきた。
「ルイス君、ロッド君、一緒に遊びましょう」
「うん! そうだ、貝殻探そうか?」
「はい!」
ルイスは率先して貝殻を探しに出発した。
王子のほとんどが貝殻拾いをするのを見てロッドはおかしく思いながらついていった。
「貝殻がなくなっちまうぜ」
「うん、この辺にはもうないよ」
四人は少し浜辺を歩いた。
ルイスは綺麗な真っ白い貝殻を見つけると、
「はい」
ユメミヤにあげた。
自然にそうしていた。
「ありがとうございます! 一生の宝物です……」
白いワンピースの胸に当てて目を閉じる。
感動してくれるユメミヤにルイスも感動していた。
同じくらいのタイミングで艷やかな桃色の貝殻を見つけたロッドは、
「はい」
リバティにあげた。
じっと見てくるキラキラした瞳がそうさせていた。
「ありがとうございます! 一生の宝物です!」
耳はピクピクして白いワンピースから出た尻尾はくねくねして喜んだ。
ロッドも喜んでもらえて嬉しくなり、
「貝殻をあげる気持ちがわかってきた」
ルイスに呟いて教えた。
「そっか、よかった。ロッドって、王子様としての成長が早いよね」
「当たり前」
「それじゃ、留守番してるお姫様たちにも、お土産に拾って帰ろうか」
「そうだな」
歩きだしたロッドは、ついてくる猫姫を見た。
「そういえば、猫は暑いの苦手じゃないの? 大丈夫?」
「大丈夫、です!」
本当は苦手だけど、ロッドのそばにいたい。
リバティは強い気持ちでジリジリ焦げそうな耳の熱さに耐えた。しかし、ロッドの自分を見る瞳のまっすぐさに心がとけていった。
「あっ、コテージに麦わら帽子があったから被ってきます!」
「そうしなよ」
「ロッド王子も被りますか?」
「俺はいいよ。ありがと」
「行ってきます!」
リバティは走り出した。
さすがに四つん這い走りはしなかったが、猫の速さにも負けない気持ちで。
その間にも、ロッドは歩いた。
ルイスとユメミヤからも離れて一人で。
手漕ぎボートが二隻つないである、小さな桟橋についた。
「ボートか。魚釣りは無理そうだけど、ちょっと漕ごうかな」
ボートから海面をのぞいたら、小魚くらい見れるかもしれない。
期待して桟橋に近づいていくと、誰かが水面から上半身を出しているのが見えた。
こちらを見ている、同い年くらいの女の子だった。




