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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第1章

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第12話 オトギの国の試練

 ルイスは朝から町を見て回った。

 おとぎ話を意識しているのか、三角の屋根の可愛い家が並んでいた。白い家が並ぶ町で暮らしてきたルイスは、色鮮やかな町を見ているだけで楽しかった。

 町の人は目が合うと、親しみを込めた挨拶を交わしてくれて、ルイスは異国情緒を味わいながら、のんびり歩くことが出来た。


 ルイスは図書館を見つけて入ってみた。見たこともない古いドラゴンの本が並んでいるのを見つけて、それを読書スペースで読んで午前を過ごした。


 昼食を済ませてからまた町を回わり、宝探しの少年スリルを探したが、スリルどころか、ルイスと同年代の男が見当たらなかった。ルイスより年少か、かなり年上の青年しか居ないようで、フアンとのお茶の時間に聞いてみた。


「奇石が現れると、みんな旅に出るんだよ。この町は平和で、時間が止まったようなところがあるからね。男の子にインスピレーションを与えるものが、少ないんじゃないかな」

「どこに行くんでしょうか?」」

「オトギの国も広いからね。刺激的な場所も沢山あるよ。もちろん、国を出る子もいるだろうね」

「僕はここが好きだな」

「私もだよ」


 確かに、フアンさんには外の世界の機械的な部屋より、アンティークな家具とティーセットがよく似合うとルイスはうなずいた。


「でも、来たばかりのルイス君には、不便に感じるところがあるだろうね」

「どんなことでしょう?」

「ルイス君、チョコレートを食べていたね。外のお菓子が、この町で売っているかどうか」

「えっ」

「もちろん、お菓子は売っているよ。気に入るのがあるといいけど」

「失礼して、いってきます」


 ルイスはお菓子屋に走った。お菓子屋には国外のお菓子はなかったが、チョコレートが何種類かあった。とりあえず全種類まぜて買って帰った。


 フアンは出かける前と同じで優雅にソファに座っていて、ルイスの素早い行動に笑った。


「これをどうぞ」


 ルイスは銀紙で包まれたチョコレートをお裾分けした。


「ありがとう。よっぽど好きなんだね」


 フアンは紙袋に大量にチョコが入っているのを見て、たまらず吹き出した。


「一日一個食べないと、落ち着かなくて」

「よくわかるよ。特に今は神経が張りつめているだろうからね」


 ルイスはこれで当分の間の心配事が無くなったと思い、フアンに微笑み返した。


 町に同年代の男の子が居ないなら、出歩いても仕方ないと思い、午後はリンデル氏の仕事を手伝うことにした。


 それに、宿舎の仕事を手伝うと、滞在費が少し安くなるという。ルイスは城の後ろにある畑で人参を収穫した。その間、畑をウサギが走っているのに気づいて、ルイスは人参を持って近づいてみた。

 茶色いウサギがルイスの様子を見ているので、ルイスは人参を見せて(おび)き寄せようと試みた。


「ルイス君、ウサギが好きかい?」


 リンデル氏の声が急に後ろから聞こえて、ルイスはビクッとして振り向いた。リンデル氏は大きな虫取網を持っていた。


「可愛いですよね」


 ルイスは虫取網の用途に気づいて、リンデル氏に立ちはだかる様にして真顔で答えた。


「その内、()れるよ。ここでは、ウサギは美味しくいただくんだ」


 リンデル氏の対立的な言葉に、ルイスはキッパリと抵抗した。


「僕は、食べませんよ!」

「わかったよ。騙して食べさせたりしないから」


 リンデル氏はルイスの様に抵抗する少年がほとんどだと言いながら、畑に戻って行った。

 あんな可愛いウサギを食べるのを余儀なくされる日が来るのかと、ルイスはこれからの暮らしが少し怖くなった。

 その時がきたら、野菜とチョコだけで生きていこうと誓った。


 ルイスが畑仕事に戻ったところで、城の方から男がやって来た。それがアンドリューだと分かり、ルイスは走って行った。

 アンドリューは黒い勇者服姿で、脇に巻いたカーペットかなにかを抱えていた。リンデル氏と親しげに挨拶して、生真面目な顔でルイスに向き合った。


「ルイス、暮らしには馴染めそうか?」

「はい」

「そうか、ここは国でも一番待遇のいいところだ。体がなまるかもしれん。これからの旅でへばらないよう、これを持ってきた」


 アンドリューは持っていた物を見せた。


「これは?」

「リンデルさん、庭にお邪魔していいですか?」

「もちろん、どうぞ」


 裏庭の芝生に、アンドリューは持ってきた物を広げた。それは一人用のマットだった。ルイスはアンドリューの考えを察した。


「フアンから、剣の稽古は受けたか?」

「まだです」

「体も鍛えておけ」

「はい」


 ルイスは自ら、マットに仰向けになった。アンドリューがすかさず足首を押さえた。


「とりあえず、出来るだけやってみろ」

「はい」


 ルイスは腹筋を始めた。父と一緒にジムに通わなかった事を、歯をくいしばって悔やんだ。二十回ほどで、ルイスは仰向けになったまま、空を見詰めて荒い息をした。


「嘘だろ? どうした?」


 アンドリューはかなりショックを受けて、ルイスが二度と起き上がれなくなったかの様にうろたえた。

 リンデル氏も騎士の性分なのか直立不動で、ルイスの足下から難しい顔で見下ろしてきた。ルイスは起き上がって、ふたりがなにか言う前にキッパリと言った。


「僕は、こういう体を酷使する運動は苦手なんです。スポーツなら得意なんですけど」

「スポーツか、どんな?」


 アンドリューが気を取り直して、期待を込めて聞いた。


「1番得意なのは水泳です。サーフィンも、後は、サッカーとか野球とか」

「水泳以外、よくわからんな」


 アンドリューが腕をくんで、少し悔しそうに言った。ルイスは簡単に説明した。


「そうか、サーフィン以外人数がいるな。ボールもない……そうだ、見回りに行くか? 丁度、日が暮れてきた」

「いきましょう!」


 ルイスはカッコいい仕事だなと思い、勢いよく立ち上がった。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 ルイスとアンドリューは夕日に染まった通りを歩いた。

 前から来た女性がふたりに微笑みかけて、すれ違う時にアンドリューに問いかけてきた。


「お弟子さんですか?」


 ふたりは不覚にも、お揃いの服なのを忘れていた。アンドリューはうろたえ、ルイスは笑って誤魔化した。


「俺が脱ぐ」


 アンドリューは女性が見えなくなると、すぐさま上着を脱いで白いシャツ姿になった。


 ふたりはなるべく人気の無い、賊の入り込みそうな場所を見回った。


「どんな危険があるんですか?」

「そうだな、賊が暴れたり、怪物が暴れたり」

「結構、凄まじいですね」

「この辺は(まれ)だ。王子が見回っているし、深い森や山が近くにないからな」

「森や山ですか」

「お前の好きなドラゴンも(ひそ)んでいる⋯⋯」


 ルイスはアンドリューを見つめた。


「まだ早い、連れて行かんぞ」


 アンドリューは片手を振って、なだめながらも断言した。


「⋯⋯わかりました。まずは、体を鍛えて、剣の稽古をします」

「それでいい。なにせ、お前は奇石を使ってないんだからな。今死んだら悔いが残るだろ?」


 ルイスは奇石を触って、ドラゴンに襲われる自分を想像した。


「ドラゴンに食べられるなら、悔いはないです」

「筋金入りのドラゴン好きだな。ドラゴンも喜ぶだろう」

「でも、キャロルに、僕の彼女に伝えてください。僕は君に会えて」

「そういう事は、フアンに頼め」

「わかりました」


 そういえば、遺書を書いておいた方がいいのかな、僕には遺す財産なんて無いけどとルイスは考えた。

 ルイスの真剣な顔を見て、アンドリューは付け足した。


「頼むから、ドラゴンが飛んでても、追いかけて行くなよ」

「そんな、子供みたいな事、しませんよ」


 ルイスは想像するだけで嬉しくなったが、一応了解しておいた。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 アンドリューは図書館の側にある、大きな家の前で立ち止まった。


「ここに俺は住んでる。国の役人の住む家でな、俺の部屋は201号だ。大抵はここに居るから、いつでも来い」

「わかりました⋯⋯アンドリューさんは勇者で、役人でもあるんですか?」

「旅の合間に、役場の雑務を請け負っているだけだ。この国で役場仕事をするやつは、少ないからな」

「真面目なんですね」


 ルイスは尊敬の念を込めて言った。


「最近はな。それまでは、好きにやってたもんだ」

「問題児ですか?」

「それほどではない。人様に迷惑をかけずに、だ」


 アンドリューはルイスに言い聞かせる様に、厳しい顔で答えた。ルイスはやっぱり真面目な人だなと思い、心得たという様にうなずいた。


 その夜、ルイスはドラゴンを求めて、部屋の窓からずっと空を眺めていた。しかし、そう都合良く飛んでくれず、眠気に負けて日付が変わった頃に眠りについた。

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