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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第7章

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第141話 旅の王子様13 音楽室2

「わかった。順番的に俺だよな」


 ロッドが言って、少しピアノに寄った。


 ランドルフが指を構えて、ルイスとペルタとシュヴァルツはロッドの方を向いた。


 “シンデレラのために” が奏でられ、ロッドが歌い出した。


 まだ少年の残る瑞々(みずみず)しい美しさがあったが、棒読みならぬ棒歌いで、声量もほとんどなかった。

 ルイスはフムと冷静に聴きながら、隣のペルタを見た。

 ペルタは目を輝かせて、興味津々といった笑顔だった。

 レア王子が歌っているからだなと、ルイスは思った。


「綺麗な歌声だったわぁ」


 歌い終わると、ペルタがうっとりした顔で言った。次々と王子様の歌声を聞いて骨抜き、もはや、立っているのもやっとだった。


 ロッドは満足の笑顔でうなずいた。


「フム、後は歌い方だね」

「もっと、感情を込めると良くなるよ」


 ルイスとランドルフが冷静に問題点をあげた。


「俺は、ほとんど歌ったことがないし、これからもないと思います」


 ロッドは反抗的にニヤリと笑った。


「王子様は、歌わなきゃいけない時が来ると思うよ。歌えた方がいいと思うな」


 ルイスは腕組みをして、真っ向から対立した。


「歌うことなんて、ある?」


 ロッドは首をかしげて、シュヴァルツに聞いた。


「ん、そうだな」


 ルイスと並んで腕組みしていたシュヴァルツは、記憶を思い返してみた。


「ないな……」

「ふう、よかった」


 力なく腕をおろしたふたりを尻目に、ロッドはペルタを見た。


「お姫様は、歌わなきゃいけない時がくるかもね」


 笑いかけるロッドに力なくうなずいて、ペルタはそそくさとピアノのそばに寄ってランドルフにお辞儀した。


 どこかザコキャラ臭くなったペルタの様子に、ルイスはハッと嫌な予感がした。


「では」


 ランドルフが “シンデレラのために” を奏で始めた。


「シン、デ、レラァ〜今宵も、君を待っっているぅう〜」


 ルイスとロッドとシュヴァルツはずっこけそうになるのを、なんとかこらえた。


 声は可愛さがあり声量もあった。しかし、ルイスは残念だけど面白いなと思った。

 必死なペルタの手前、決して笑うまいとしたが、ロッドが声を出さずに笑っているのを見て釣られてしまった。

 微笑みで誤魔化しているシュヴァルツとランドルフを心から尊敬して、修業が足りないなと久しぶりに痛感した。


 ペルタは苦しそうに息継ぎしながら、なんとかサビまで歌った。

 歌い終わると、花が萎れたようになり、重苦しい沈黙がしばし場を支配した。


「ドンマイだよ」


 ルイスの中のペルタに歌がうまいイメージはなかった。音痴なのはどこかでわかりきっていながら、いざ慰めるとなると言葉が見つからなかった。


 ペルタはガクリと両膝をついた。


「ごめんなさい、ロッド君。こんなに早く、期待を裏切って……」


 膝に手をついて、苦笑いしつつ自分をのぞき込むロッドを、ペルタは放心状態で見上げた。


「気にしないでよ」


 ロッドは笑ったまま、優しく言った。


「お姫様も、歌う機会なんかきっとないからさ」

「そうだ、歌う必要は特にない」


 シュヴァルツも同意して、後ろからそっとペルタの両肩を支えて助け起こした。


「私も、歌うのは苦手なんだ。そう気にしないでくれ」


 ランドルフはイスを譲りながら、困った笑顔をみせた。


 ルイスと王子様達の優しい笑顔を見上げたペルタは、ようやく元気を取り戻して笑顔をみせた。


「さてと、歌は上手い王子様に任せて、俺はバイオリンを弾いてみたいかな」


 ロッドが場の空気を変えるように、気軽な調子で言った。


「僕も、凄く大きなバイオリン、あれがあったら弾いてみたいな」


 ルイスとロッドはバイオリン類の棚に向かった。

 ペルタもシュヴァルツとランドルフに(いざな)われてついて行った。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 数日後、ペルタはテスト結果を報告するべく、ユメミヤと共にルイスの部屋にやって来た。


 ルイスは立ってふたりに向かい合った。


「86点」

「おお!」

「嘘、68点」


 ペルタが一瞬で白状して、ルイスはガクリと脱力した。


「……68点。歌のテストはあったの?」


 冷静さを取り戻した鋭いルイスの視線に、ペルタは力なく首を横に振った。


「うーん、なら、のびのびとお姫様になりたい気持ちが出た結果、みたいだね」

「その通りだわ。その気持ちに気を取られて、なんだか、集中できなくて」


 ペルタは膝をつきそうになっていたが、救いを見出したようにルイスに笑いかけた。


「ロッド君はテスト結果なんてきっと気にしないし、シュヴァルツ様もランドルフ様も、自然体がいいみたいな感じだったし、テストなんてねぇ?」

「でも、シュヴァルツさんもランドルフさんも、テストでは良い点取ってほしそうだったよ」


 ペルタは倒れそうになりながら目を閉じた。


「お願い、おふたりには86点と言わせて」

「ダメだよ」


 厳しく一刀両断されたペルタは、長椅子によよと泣き崩れた。


「また、頑張ろう。ユメミヤは、どうだった?」


 ペルタに厳しく言うと、ルイスは気を取り直してユメミヤに顔を向けた。


「100点でした」

「100点!? 凄いね! さすがだ」


 ルイスはユメミヤならやってくれる気がしていた。期待に応えた彼女の自信に満ちた笑顔に、尊敬の眼差しを向けた。


「お作法には、少し自信があったんです」

「ユメミヤなら、できると思ってたよ! おめでとう!」

「ありがとうございます」


 ルイスは心から拍手して、ユメミヤはお姫様のお辞儀で応えた。


 幸せそうなふたりを、ペルタは力なく横目に見ていたが、片手にグッと力を込めると起き上がった。


「私だって! このまま終わらないわよ!」

「うん! そうこないとね!」


 復活したペルタに、ルイスとユメミヤは笑顔で応じた。


 テストの緊張が解けたペルタは、元気よく伸びをした。


「あーあ、今回の結果じゃ、王子様達からのご褒美は望めないわね」


 ご褒美目当てでもあったんだと、ルイスはまた脱力したが、ユメミヤに笑顔を向けた。


「ユメミヤにはなにか、お祝いをあげたいな」

「えっ、それなら……」


 ユメミヤは少し、もじもじしてから言った。


「ルイス君の、歌を聴きたいです」


 ペルタとロッドからルイスの歌について聞かされてから、ユメミヤは自分も聴きたくてうずうずしていた。


「喜んで」


 ルイスはさっそく、“シンデレラのために”を心を込めて歌った。

 ユメミヤは夢のようなご褒美を満喫したが、ペルタは王子様達からも、また頑張るように言われただけで、やはりご褒美にはありつけなかった。

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