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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第7章

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第140話 旅の王子様12 音楽室

 爽やかな午後、ルイスはランドルフとロッドと共に、庭でシュヴァルツから草花について教わった。

 一時間ほどの厳かな授業が終わり、ティールームで喉を潤してから客間に戻ると、ペルタがテーブルに向かい頬杖をついて本を読んでいた。


「あ、みなさま。ごきげんよう」


 ペルタは本を閉じて、姿勢を正した。


「難しい顔で、なに読んでたの?」


 ルイスは横から本をのぞき込んだ。


 タイトルは“お姫様になるための問題集100”だった。


 ルイスも難しい顔になっていると、ペルタが盛大にため息をついた。


「もうすぐ、カーム様の奥様達が出すテストがあるの」

「それは……大変だね」


 ペルタの深刻な様子とは反対に、ルイスは月並みなことしか言えなかった。


「ちょっと読ませて」


 ロッドが面白そうに本を取って開き、シュヴァルツとランドルフも興味津々でのぞき込んだ。


 本はなかなか分厚く、イラスト付きで丁寧に作法やドレスの選び方などが載っていた。


「意外に、大変そうだね……」


 勉強嫌いなロッドは、辟易(へきえき)した顔になった。


 シュヴァルツとランドルフは感心した様に、真剣な目でフムフムとうなずいた。


「ユメミヤも勉強中よ」


 ペルタはルイスに笑いかけた。


「ユメミヤは初めてだから簡単な問題になるけど、それでも部屋の机にかじりついているわ。なんだか気後れして、ここに来たの」

「ふたりとも、偉いね」


 ルイスは勉強するユメミヤを想像して微笑んだ。


「ふう、私としては難しいことは気にせずに、のびのびお姫様ライフを送りたいんだけど」


 ペルタは浮かない顔で片手を頰に当てた。


「うんうん、それがいいよ」


 ロッドが笑顔で本を返した。


 ルイスとシュヴァルツとランドルフも笑顔を向けたので、ペルタも笑顔になった。


 しかし、すぐキッとした顔で、腕を組んだ。


「だけど、テストを受けないのは、お姫様を目指す者のプライドが許さないというか」


 今度はシュヴァルツとランドルフがうんうんとうなずいた。


「良い点取れるように祈ってるよ。そうだ、僕ももっと王子様の修業がしたいです」


 ルイスは笑顔で王子様達と向き合った。


「今度は、ランドルフさんからも学ばせてください」

「そうだな、私が教えられること……」


 ランドルフは腕を組み目を閉じて考えた。


 シュヴァルツ王子と同じように、得意なことを教えるのがいいかと目を開けた。


「私は、楽器、特にピアノなら弾ける方なのだが、どうだろうか?」

「おお、楽器」


 ルイスはロッドと顔を見合わせて笑顔になった。


「お願いします」


 ふたりはランドルフにお辞儀した。


「わかった。よろしく」


 ランドルフもかしこまって受けた。


「俺も見学させてくれ」


 シュヴァルツが生真面目な顔で頼んだ。


「私も見学させてください。ぜひ、ランドルフ様のピアノお聴きしたいし、ふたりが学ぶ姿を見たら勇気をもらえるわ」


 ペルタが立ち上がった。


「もちろんです。みんなで行きましょう」

「これ以上、見学は増やさないでね。緊張するからさ」


 ロッドがくぎを刺した。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 ルイスはさっそくカームに事情を話して許可を取り、一同で音楽室に入った。


 広い室内は白い柱と赤と金の豪奢な内装で、奥にはグランドピアノがあった。


「王子様達、音楽室が似合いますわぁ」


 ペルタが頰に両手を当てて、早くもぽーっとした。


 ランドルフは白い襟付きシャツにサスペンダーをつけた黒ズボンに黒靴、ロッドは黒い襟付きシャツ、シュヴァルツはそれにブロケードの黒いベストを着ていた。


 王子達は如才なく礼を言った。


「ルイス君も」

「ありがとう、ペルたんも似合ってるよ」


 ルイスは白い襟付きシャツに紺色のベストとズボンに黒靴姿だった。

 ペルタは首元が広く開いた、クリーム色の夏らしい薄地のワンピースを着て、かかとの低い赤い靴を履いていた。


 ふたりは “ここまでは合格だな” と笑みを交わした。


 壇上にあがったランドルフはピアノの用意をしてイスに座り、四人は固まってそばに寄った。


「では、オトギの国の有名な曲 “シンデレラのために” を弾きましょう」


 ランドルフはひと呼吸して弾き始めた。


 優美で繊細な指の動きと、奏でられる優しいメロディが相まって、四人はうっとりと聴き入った。


 ルイスはランドルフの艶のある黒髪が揺れる横顔に惹きつけられて、僕が女の子なら惚れているなと思った。

 そっと、隣のペルタを見ると、感動のためか瞳が潤んでいて、無理もないなと思った。


 演奏が終わり、四人は惜しみなく拍手した。


「ありがとうございました」


 ランドルフも笑顔でお辞儀した。


「さて」


 ランドルフはルイスとロッドを見た。


 感動から醒めたふたりは困惑顔を見合わせたが、ルイスが意を決してイスに座った。


 まずは、ドレミから、ランドルフの指を追って弾いていった。それはあまりにも、たどたどしい動きだった。


「ランドルフさんみたいに弾けるまで、100年はかかりそうだな」

「できれば、10年くらいで弾けるようになりたいな」


 ルイスとロッドはニヤニヤし合った。


 ロッドも弾いてみたが、ルイスとどっこいだった。


「ピアノでなくともいいさ、他に興味のある楽器はあるか?」


 ランドルフの優しい提案に、ふたりは考え込んだ。


「歌はどうかしら? 王子様といえば、歌よね」


 ペルタが期待して、ふたりに笑いかけた。


 ロッドは首をかしげたが、ルイスは笑顔を返した。


「実は僕、歌は自信あるんだ。シンデレラのためにも歌ったことがあるし」

「キャロルに頼まれて?」


 からかうロッドに、ルイスは素直に笑ってうなずいた。


「ぜひ、聞かせて!」

「伴奏しよう」


 ランドルフが弾き始め、ルイスは目を閉じて歌い出した。


「シンデレラー今宵も君を待っているー」


 優しさのこもった透き通る歌声に、四人は驚きながらも聴き入った。


 のびのびと歌い終わると、ルイスは惜しみない拍手に包まれてお辞儀した。


「最高だったわ! ランドルフ様のピアノともピッタリだった! 歌ってる姿なんて、王子様そのもので……」


 ペルタはまた瞳を潤ませて、言葉をつまらせた。


「素晴らしいよ、ルイス君。惹き込まれたよ」


 ランドルフも感動の眼差しを向けた。


「こんなに清らかな “シンデレラのために” は初めて聴いた」


 シュヴァルツも称賛の笑顔を向けた。


「ありがとうございます」


 ルイスは嬉しさを隠さず、満面の笑顔でお辞儀していった。


「こんな特技を隠してたなんてな。ズルいぜ」

「まぁまぁ、ロッドだって、足の速さを隠してただろ?」


 ちょっとにらんでくるロッドを、ルイスは笑顔でなだめた。


「まぁ、お前にはよく似合う特技だな」


 ライバル意識より仲間意識を持つロッドは、すぐに笑った。


「そうだ、シュヴァルツさんは歌えるの?」


 ロッドは素朴な疑問半分、からかい半分に聞いた。


 一同の視線を受けてシュヴァルツは一瞬固まったが、コホンと咳払いすると深呼吸した。

 ルイスとロッドとペルタはシュヴァルツの方を向き、ランドルフはピアノに向かい指を構えた。


「では」


 ランドルフは “シンデレラのために” を弾き始めた。


 深く澄んだ青年の力強い歌声が響いた。シュヴァルツの堂々とした姿に、ルイスは舞台を観ているような気分になった。シンデレラになった気さえしてきた。

 隣のペルタをそっと見ると、胸に両手を当てて前のめりになっていた。シンデレラになってるなと、ルイスは思った。

 ロッドはあまりに予想外な一面に、驚きの顔で聴き入っていた。


「どうだった?」


 シュヴァルツは頬を高潮させて、片手で口を隠しコホンと咳払いした。


 一同は惜しみない拍手を送った。


「腰が抜けそうですわぁ」


 ペルタは甘いため息をついて、今にも気絶しそうにうっとりした。


「凄いよ、なんでもできるんだね」

「王子らしいことは、色々やってみているのだ」


 喜ぶロッドに、シュヴァルツもニッコリして答えた。


「舞台を観ているみたいでした! シンデレラになった気がしてきて……凄かったです!」


 ルイスはさっき思ったままを言って、ペルタも飛び跳ねるようにうなずいた。


「また、惹き込まれました」


 ランドルフは続く美しい歌声に、うっとりと酔心してきていた。


 シュヴァルツは優雅にお辞儀して称賛に応えた。


 興奮冷めやらぬなか、ロッドがペルタに耳打ちした。


「シュヴァルツさんから去っていった元恋人さんはバカだね。ペルたんは頑張って」


 ロッドは笑っていたが、その灰色の瞳に真剣に見つめられて、ペルタはドキリとした。


「ロッド君に、そんなに期待されているとは思わなかったわ……」


 ペルタは呼吸が乱れ、青ざめてきた。


「さて、次は」


 ふたりは自然に視線を交わした。

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