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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第7章

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第139話 旅の王子様11 日帰り旅行

「では、王子様達が喜びそうな、とっておきの場所に案内しますよ」


 出かける準備をして再び集まったルイス達に、オデュッセウスはサービス精神旺盛に笑いかけた。


「お願いします」


 カームが代表で言った。最初遠慮したが、ほんの少しの間でも楽しめるということで、妻達に留守を任せることにしたのだった。


 ルイスとアンドリューもペルタとユメミヤに留守を頼んでおいた。

 ほんの少しでも楽しめる場所とはどこだろうと、ルイスは得意げに笑いかけてきたオデュッセウスに笑顔を返して、彼と手を繋いだ。全員が手を繋ぎ合うと、オデュッセウスはテレポートを発動した。


 一瞬で景色が変わり、ルイス達はおおっとつい歓声を上げた。


「さぁ、到着しましたよ。見てください、あれを」


 オデュッセウスはニコニコして、後ろを仰ぎ見た。


 乳白色の固い地面、白い雲の浮かぶ青空、それだけのシンプルな場所に城が建っていた。


「おお! 城だ!」


 ファルシオンが歓声を上げて、一同はそびえ建つ城を見上げた。


 白亜の石でできた、どっしりとした城だった。大きさはカームの城の半分くらいだが、入口の巨大な柱とその奥にある頑丈そうな黒鉄の扉には、壮大な想像をかき立てる雰囲気があった。


 一同はしばし、感嘆のため息をついて見物した。

 ルイスは思わず、入口に向かって進みたくなった。


「この城は、初めて見ますね。どなたのでしょうか?」


 カームが城を見上げながら、隣のオデュッセウスに聞いた。


「私が見つけた時から無人でした。見つけたのは一年以上前です。場所が場所だけに、ずっと誰も住んでないんじゃないかと思います」

「場所?」

「フフフ、こちらへ来てください」


 オデュッセウスは一同を連れて、少し移動した。


 ルイス達はまた歓声を上げだ。

 城が建っているのは、ルイス達の居た地上より遥かに高い崖の上だった。

 辺りには似たような崖が連なり、両側が削られ孤立した崖もちらほらあった。 

 遠く下方のなだらかな山には、山肌に点のように色とりどりの屋根が見えた。他に人工物は見えなかった。城は完全に人の世界と隔絶した場所にあった。


「これぞ、天空の城だ!」


 ファルシオンが城を振り返って声を上げ、ルイスも一気に興奮した。


「天空の城、こんな城が本当に存在するとは」


 ランドルフは一歩踏み出して、景色を見つめ空を見上げた。


「オデュッセウスさん、どうやってここを見つけたんですか?」


 カームが興味津々に尋ねた。


「偶然ですよ。どこか、人のいない場所で休もうと色々探していて、偶然来たんです」


 オデュッセウスは頭をかいて笑った。


 カームは(かす)む崖下に視線を巡らせてから、城を振り返った。


「こんな場所に、なぜ城が?」

「王子様が、住んでいたのでしょうかね?」


 アンドリューもカームの隣に立って、城を見つめた。


 ルイスは城の方を向いた王子達を見ていった。

 優しい雰囲気を持つカームとファルシオンにも、寡黙(かもく)な雰囲気のランドルフとゲオルグにも、この天空の城が似合うと思った。黒いマントに身を包む勇者アンドリューにも。

 あいにく、オデュッセウスは観光客に見えた。自分も多分。


「誰が住んでたにしても、どうやってここまで行ったり来たりするんだろ?」


 ファルシオンの疑問に、ルイスはハッとした。


 そんなルイスにオデュッセウスが笑いかけてきた。それは、ここに来る前に見せた笑顔だった。


「ドラゴンに乗って、だと思いますよ」


 オデュッセウスはルイスと目を合わせたまま、ファルシオンに答えた。ルイスも目を見ままうなずいた。そして、ドラゴン探してを遠くまで目を凝らした。いかにも、ドラゴンが飛んでいそうな景色だったが、残念なことに見当たらなかった。


「こっちへ来て見てください」


 オデュッセウスは城の扉の前に、一同を連れて行った。


「あれを見てください」


 一同が見上げた先、扉の上にはドラゴンの浮き彫り(レリーフ)があった。


 ルイスの興奮と、オデュッセウスの得意げなニヤつきは最高潮になった。


「間違いない、ドラゴンと住んでたんですよ」


 ルイスは両手のこぶしに力を込めて言った。


「うむ、これは……」


 アンドリューも言葉を失って目を見開いた。あまりにも、ドラゴンを愛するルイスにぴったりの城に見えた。


「ルイス君、将来ここに住んだらどうだい?」


 オデュッセウスが言った。


 屋上でルイスと話すなかで、ルイスがドラゴンが大好きで、将来ドラゴンと城に住みたいという夢もオデュッセウスは知っていた。


「この城の存在は、ルイス君が城を探し始めたら教えようと思っていたんだ」

「オデュッセウスさん……ありがとうございます」


 ルイスは喜びと感謝のあまり、オデュッセウスに抱きつきそうになった。その気持ちを笑顔に込めた。


「ルイスに相応しい城だな」


 アンドリューもしみじみと言った。


「ルイスは、ドラゴンとこの城に住みたいのか?」

「はい!」


 ランドルフの問いかけに、ルイスは笑顔で答えた。


 そのはつらつとした返事に、ランドルフはオデュッセウスの提案もなるほどと納得した。


 カームとゲオルグも嬉しそうなルイスに、ニッコリとしていた。ファルシオンだけは慎重な顔つきだった。


「大丈夫? 少し空気薄いんじゃない?」


 ファルシオンの言葉に、一同はスーハーと呼吸してみた。


「アハハッ、冗談だよ!」


 可笑しそうに手を叩くファルシオンに、一同は気恥ずかしさに動揺した。


「空気はともかくさ、少しっていうか結構不便じゃない? ここ」


 ファルシオンについて行き、一同は外界に続く道を探した。

 山頂のような崖の傾斜(けいしゃ)は下に見える森に続いているようだったが、道らしい道はなく、人が掴むためにロープが通してあったであろう鉄の棒が、ところどころに突き立っているだけだった。


「かなりの登山上級者でなければ、登ってはこれないな」


 アンドリューの感想に、一同はうなずいた。


 それでもルイスは、ドラゴンがいれば大丈夫と、この天空の城で暮らす夢を捨てられなかった。


 城を振り返るルイスの気持ちを察して、オデュッセウスが言った。


「この場所は誰にも内緒にしておくから。また来たくなったら、言ってくれ」

「ありがとうございます」


 ルイスは感激の笑顔を返した。


 王子達とアンドリューも内緒にしておくと言い合った。


「ありがとうございます。僕とドラゴンのために」


 ルイスは感動して、また城を見上げた。


 ドラゴンに乗って城に降り立つ自分が、はっきりと想像できた。これぞ、将来住む城かもしれない。キャロルにも見せないとと、ルイスは思った。


 屋上に戻ったルイス達は、オデュッセウスに礼を言って握手を交わした。


「最高だったよ! 創作意欲が刺激されまくりだった、さっそく絵を描くね」


 ファルシオンはすくさま屋上を出て行った。


「ありがとう、こんな経験は初めてだった。あんな素晴らしい景色も初めて見たよ」


 ランドルフも興奮して、握手した手に力がこもった。


「自分も、あのような神秘的な城は初めて見た。ありがとう」


 ゲオルグも充足した笑顔をみせた。


「あんないい城を教えてくれて、ありがとう。ルイスなら、きっとドラゴンとあの城で暮らせるだろう」


 アンドリューとオデュッセウスは笑顔でうなずき合った。ルイスはオデュッセウスと笑みを交わした。


 最後にカームが、オデュッセウスに微笑んだ。


「本当にありがとうございました。他では味わえない、素晴らしい体験でしたよ」


 オデュッセウスは感極まって泣きそうになった。


 一同は屋上を後にして別れ、ルイスはゲオルグとアンドリューと一緒に図書室に行って、オトギの国について書かれた本を調べた。すると、天空の城についていくつか話が載っていたが、どれも最近の話ではなく噂や言い伝えのような書き方だった。


「ふむ、全てが謎の城だな」


 ルイスは自分のように、ドラゴンと住みたい誰かが建てたのではないかと予想した。


 夕食を済ませて客間でくつろぐ間も、ルイスとアンドリューとランドルフはペルタとユメミヤを交えて、天空の城の話をした。


「会いに行くのが、大変そうね」


 もう住んでいる想像をしてうっとりしているルイスに、遠慮がちにペルタが言った。ユメミヤも不安そうな顔をした。


「うん、凄い場所にあるよね」


 ルイスは少し困ったが、解決策はすぐに見つかった。


「僕がドラゴンに乗って迎えに行くよ」

「それは、最高ね」


 またうっとりしだしたルイスを、ペルタとユメミヤは笑顔で見守るしかなかった。


 ペルタとユメミヤが寝るために客間を出た後も、ルイス達は天空の城の話を続けた。


 深夜近く、ベッドに横になったルイスは、故郷の、ドラゴングッズに囲まれた自分の部屋にいる気分になった。

 久しぶりに、ルイスはドラゴンで満たされて眠りについた。

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