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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第7章

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第135話 旅の王子様7 カーム城

 シュヴァルツ王子の城を後にしたランドルフは、一路カーム王子の城に向かった。


 草原の丘に建つカーム王子の城は、今まで見た城のなかでひときわ大きく美しいとランドルフは釘づけになった。

 あの城なら旅に疲れた者、特に女性が憩いの場にするのもわかる気がした。

 自分も疲れた旅人として、お世話になろうとランドルフは改めて思った。


 白い門の前に到着したランドルフは、城の方に視線を向けた。すると、バルコニーに女性がいて、ランドルフの方を見ていた。

 女性が三回手を振ったので、ランドルフも三回振り返した。これが事前に約束した合図だった。女性が城に入って少しすると門が自動で開き始め、初老の執事がやって来た。


「お待ちしておりました。ランドルフ王子様」

「お世話になるよ」


 ランドルフは緊張の面持ちで、執事について行った。


 以前、カーム王子に招待されたのを、個人的な気持ちで断っているため、それを謝らねばならない。それを思うと、緊張感が高まってきた。


 玄関ホールに入ると、カーム王子とルイスが待っていた。


「ようこそ、ランドルフ王子」


 にこやかに出迎えてくれたカームと、ランドルフはぎこちない笑顔で握手を交わした。


「以前はお誘いをお断りして、大変失礼なことをいたしました」

「気にしないでください。こうして、来てくれて嬉しいですよ」


 カームの優しい笑顔に、ランドルフはほっとした。


 一目見ただけで、カームが慈愛に満ちた人なのがわかった。それに、こんなに美しさを感じさせる王子も会ったことがない気がした。

 ランドルフは一瞬で、ここでの滞在がいいものになると確信できた。


「あなたを王子と知っているのは、私達城の関係者とルイス君とお連れだけです。ゆっくりと過ごしてください」

「ありがとうございます」


 ランドルフはルイスとも握手をした。


 町で会った時と違い、今日のルイスは白い襟付きシャツ、水色と白のストライプのベスト、白ズボンに靴とさわやかなで清楚な出で立ちだった。


 ランドルフを見る大きな瞳も光り輝き、活発そうな笑顔には優しさも伺えた。


「お久しぶりです」

「久しぶりだね」


 ルイスはランドルフの明るく優しい笑顔を見て、最初に会った時と全然違うなと思った。


 ランドルフはルイスの落ち着いた挨拶に感心していた。笑顔に嬉しさがにじみ出ているのも可愛かった。

 握手も手慣れたもので、正に未来の王子と言える少年だと思った。


「案内は僕がしますね」

「ありがとう」


 ふたりはさっそく階段を上って部屋に行った。



「ルイス君のお連れにも、挨拶したいんだが」


 荷物を置いてから、ランドルフが言った。


「はい。みんな、客間にいますから行きましょう」


 ふたりは客間に行って、ノックして入った。


 アンドリューとペルタとユメミヤが、テーブルを囲んで座っていた。

 ルイスがランドルフを迎えに行ったのを知っている三人は、ルイスの後ろから男が入ってきたのを見て、サッと立ち上がりふたりの前に来た。


「みんな、こちらがランドルフ王子様です」


 ルイスの紹介に、始めましてと三人はおじぎした。


アンドリューとユメミヤは落ち着いていたが、ペルタは浮足立つのを抑えていた。


 ルイスはランドルフにも三人を紹介した。


「こちらは、僕の護衛をしてくれているアンドリューさん、ペルタさん、それから……」


 ユメミヤをなんと紹介しようかと、ルイスは言葉を探した。


「な、仲間のユメミヤです」


 その紹介に、ユメミヤはニッコリしたので、ルイスはほっとした。


 ランドルフは片手を胸に当てて言った。


「どうか、ここでは王子ではなく、旅の者として気安くお付き合い願います」


 ランドルフの微笑みに、三人は笑顔でうなずいた。


 かしこまった挨拶も終えて、ほっとした空気が流れた。


「ランドルフ様! お久しぶりでございます!」


 それを待ち構えていたペルタが、ズイッと前に出てキラキラした笑顔でランドルフを見つめた。ランドルフのために、半袖だが夏にはちょっと暑い厚い生地の、薔薇のように赤いワンピースを着ていた。


「ひ、久しぶりだ。元気そうでなにより」


 ランドルフはなんとか受け止めようと、意識して前のめりに応じた。

 後ろにのけぞらないのは凄いなと、ルイスとアンドリューとユメミヤは冷静にふたりを見ながら思った。


「様をつけちゃいけないよ。王子様だってバレるからね」


 ルイスはそこを忘れず注意した。


「わかったわ。じゃあ、ランドルフさ、ん」


 あまりにも自信なさげなペルタの呼び方に、四人は一抹の不安を感じた。


「なるべく、名前は呼ばないようにするんだぞ」


 アンドリューが腕を組んで命じた。


 ペルタも不安を感じていて、珍しく素直にうなずいた。


「いつもの私が、出せそうにないわ……」


 ペルタはチラとランドルフの顔を見上げた。


 ランドルフはさっきから、ジッとペルタを見ていた。

 その強く熱心な視線に、ペルタは射抜かれて腑抜けになりそうだった。


 妙にしおらしくなったペルタを、ルイスとアンドリューとユメミヤは驚きと疑いの目で見ていた。

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