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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第7章

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第130話 旅の王子様2 旧友と新しい友

 ブロウはさっそく、内線電話でタリスマンを呼んだ。


「彼は夜型でね、朝は苦手なんだ。もう少し待ってくれたまえ」

「どのようなご友人ですか?」

「うーん、そうだな。普通の友人じゃないね。彼はこの国の王を目指していてね、僕は彼の伝奇を書こうと思っているんだ。未来に語り継がれるサーガをね」


 ランドルフは思わぬ関係性に、ほうと感嘆した。


「あれは、今年のドラゴン祭り前日の夜だった……」


 ブロウがタリスマンとの出会いを話していると、扉がノックされた。


「待ってたよ」

「おはよう。朝っぱらから王子様がやって来るとは、爽やかだなぁ」


 眠そうな顔でタリスマンが入ってきた。ランドルフは立ち上がって迎えた。


 タリスマンとランドルフは軽く会釈を交わした。


「おお、なんかお(かた)そうな王子様だな」


 ランドルフを前にしたタリスマンは、ちょっとたじろいだが、すぐに背筋を伸ばし胸を張った。


「我はタリスマン。よろしくな、ランドルフ王子様」


 床につきそうな長い髪、十人並みの顔立ちに余裕綽々といった目つきと笑顔、神聖な者のように白い衣を纏ったタリスマンは、ブロウよりも背が高く、ランドルフも圧倒されるようだった。

 尊大な挨拶も、王を目指していると聞いた後では、ランドルフを妙に納得させた。


 ランドルフは片手を胸に当てた。


「ランドルフと申します。以後お見知りおきを。タリスマン、さん」

「我らは結構、歳が近いのではないか? 遠慮なく呼び捨てにしていいぞ」

「ならば、私のことも、遠慮なく呼び捨てにしてほしい」

「わかった。ランドルフ、よろしくな」

「よろしく、タリスマン」


 気さくなタリスマンに釣られて、ランドルフも笑顔になった。見守るブロウも嬉しそうに微笑んだ。


 タリスマンはランドルフの格好に目を走らせた。


「全く王子様に見えないな。すっかり旅人と化しているではないか」

「旅人に見えるか、よかった。それが肝心なんだ。王子とバレたら、つけ狙われることがあるからな」

「王子様を探す女達にか?」


 タリスマンは爆笑して、ブロウは片手で口をおさえて笑いをこらえた。


「と、盗賊にだ」


 ランドルフは困惑の顔でふたりを見た。


 ブロウは笑いを飲み込むと、少し怖い顔でタリスマンに向かい指を振った。


「そうだよ、盗賊にだ。わかってるくせに、そんなこと言ってると、女性達に怒られるよ」

「怒られるのは嫌だ」


 タリスマンは力なく言ったが、気を取り直して言った。


「違う話をしよう。面白い話をな」


 タリスマンとブロウは長椅子に並んで座り、ランドルフは向かいに座った。


「ランドルフの話を聞きたい。どこから来たのだ?」

「ここからずいぶん離れたところからだ。名もない町が点在するそばの、名もない森にある城から」


 少し悲しげな笑みのランドルフに、タリスマンも一瞬リアクションに困った。


「そんな名もない場所に、王子様が住んでいるのか?」

「ランドルフ君のご両親は、この国の元国王なんだ」

「ほお」


 タリスマンは目を見張って、ランドルフを見た。


 オトギの国は数年に一度のペースで、国王が入れ替わる制度のようなものがあった。


「元国王は戦いを挑まれたり、命を狙われたりすることがあるというからね。ご両親は安全な暮らしのために、名もなき場所にある城を選んだのさ」

「なるほど。我の両親も、この国の元国王でな」


 今度はランドルフが目を見張って、タリスマンを見た。


「奇遇だな」

「ああ」


 ふたりは打ち解けた笑みを交わした。


「我の両親も、我を安全な場所で育てるために、国を出たと言っていた」

「タリスマンは、どこで育ったんだ?」

「ふ、名もなき国の名もなき町でだ」

「名もなき町って、なんだかカッコいい響きだね。僕も今度出身地を聞かれたら、そう答えよう」

「名もなき町で生まれ育った我が、いずれこの国に伝説を残す王となるか。カッコよすぎるな!」


 笑い合うタリスマンとブロウに、ランドルフは圧倒され気味で視線をめぐらせた。


「ところで、ランドルフは王になる気はあるのか?」

「いや、私が生まれた時、父は既に王ではなかった。だから、王という者は知らないし憧れを抱いたこともない。それでも、王子として育てられたから王子として生きているというか……」


 ランドルフの言葉が途切れたので、ブロウが口を開いた。


「この国の男の子は、決まって両親から奇石で王子になれと言われるんだ。ランドルフ君の場合は、ご両親が元国王だから自然にそう育った面もあるけど、それでも、珍しいよ。王子として生きているなんてね。大抵は、別の者になるんだよね」


 自分も珍しい存在だと気づいて、ブロウは可笑しさに笑いをこぼした。


「偉いな」


 タリスマンはじっと、生真面目そうな顔立ちのランドルフを見つめた。


「理想の息子だな。だが、王子様なんて大変ではないか? プレッシャーが顔に出ているぞ?」


 笑うタリスマンと苦笑いするブロウを前に、ランドルフは静かに言った。


「少し、肩に荷を感じているのは確かだ。時々、ブロウさんの型にはまらない生き方が、羨ましくなります」


 ランドルフに見つめられて、ブロウは慌てた。


「僕を真似しちゃいけないよ。ランドルフ君には、今の純粋で真っ直ぐなままでいてほしいな。もちろん、無理をせずにね」


 ランドルフは感謝の笑顔でうなずいた。


「純粋で真っ直ぐな王子様に、親のいないところでくらいハメを外して遊ぼうとも言えないな。とりあえず、肩の力を抜いたらどうだ?」


 タリスマンに言われて、ランドルフは肩の力を抜いてみた。すると、眉根のシワがなくなり、年相応の青年になった。


「その調子で、炭酸にポテトチップでお茶にしようではないか」

「そうだね」


 ブロウはお茶を頼むべく立ち上がった。


「それから昼食には、この町の伝統料理を作ってもらおう」


 微笑みを向けるブロウに、ランドルフは喜びの笑顔をみせた。

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