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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第7章

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第126話 森にはやっぱり危険と王子様が!?

 冒険に備えて体を慣らすため、森に入り山道までやって来たペルタ、ユメミヤ、アンドレア、ドルチェは、道の脇にできた野原で足を止めた。


「ここなら、お昼ごはんを食べることができますね」


 ドルチェは野原を見回して、バスケットを持ち上げた。


「特製ハンバーガーを作ってきましたから」


 みんなゴクリと喉を鳴らして、笑顔を見せた。


「私も、イクサの国のごはん、おにぎりを作ってきました」

「おにぎり? 初めて食べます、楽しみですね」


 ユメミヤの持つ四角い布(つつみ)を見て、みんなまたゴクリと喉を鳴らした。


 アンドレアはシートをひいて、ペルタは大きな水筒と紙コップの入ったカバンをバスケットと布包の横に置いた。


「さぁて、お昼ごはんの前に、走り込みよ!」


 ペルタは今来た道を指差し、三人が目を向けた。


「今登ってきた坂が丁度いいわ。慣れてきたら、森の中を走りましょう。砂利道は滑りやすいから注意よ! 森の中も怪我の危険があるから、もしもの時はドルチェ、お願いします」

「わかりました!」


 ドルチェは眉を上げて、両手に握りこぶしをつくった。


 反対に、ユメミヤは眉を下げた。


「こんな人気のないところで走ったり、ごはんを食べたり、大丈夫でしょうか? 山賊など出ませんか?」


 ユメミヤは恐ろしそうに、両手をこすり合わせた。


 ドルチェとアンドレアは警戒の目を辺りに向けたが、ペルタはチッチっと指を振った。


「こんな危険な森に、私達だけで来てるわけないじゃない」

「えっ?」

「王子様よ。王子様が、陰から見守っていてくれてるに、決まってるじゃない」

「王子様」


 三人は、辺りをキョロキョロしてみた。ペルタは声をひそめた。


「そして、私達に危機が迫れば、颯爽と現れてくれるのよ」


 ポーッとする四人を、少し離れた木の陰から男が見ていた。


「王子様じゃくて、すまなかったな」


 勇者アンドリューは心から申し訳なく思い、呟いた。


 しかし、後から王子様のゲオルグも来ることだし、まぁいいかと思い直した。

 準備運動を終えた四人が動き出したので、アンドリューは体の向きだけ変えて様子を追った。


 四人は砂利の坂道を軽めに走って、登り降りを繰り返した。


「なかなか、キツイですね」


 ユメミヤは立ち止まると、前のめりにふうふうと息をした。


「頑張れ、頑張れ!」


 道端に立ったドルチェが、ニコニコと両手を叩いて励ました。


「ドルチェ! あなたももっと走りなさい!」


 ペルタが猛々しく命じて、ドルチェは怯えて両手を振った。


「だって、私は治癒者ですから。そんなに走る必要はないし、走るの苦手だし」

「そんなだから、簡単に敵に捕まったりして“足手まといで追放!”とかになるのよ!」

「うぐっ、そんな話を聞いたことがあるような、ないような」

「他の治癒者の一歩先へ行くのよ」

「わかりました。行きます」


 覚悟を決めたドルチェは、走り込みに加わった。


「それにしても、ユメミヤもドルチェも意外に動きが機敏だわ。体力がなくなる前に、森に入りましょう! いいかしら?」


 ふたりがキリリとした顔でうなずいたので、四人は草を踏みわけて森に入った。

 森の中はやはり薄暗く、ランダムに生えた木々が障害物のようだった。まずは、ペルタとアンドレアが辺りを調べて安全を確認した。


「地面もしっかりしてるし、蛇や虫もいないわ」

「大丈夫だね」

「じゃあ、走りましょう!」


 ユメミヤはペルタについて走り、その後にアンドレアについてドルチェが走った。四人は木々をかわしながら走り、俊敏さを鍛えていった。


「みんな、凄い身体能力じゃない!」


 一息ついて、ペルタが笑った。


「うん、俊敏だよ!」


 アンドレアも笑顔で額の汗を拭いた。


 ユメミヤとドルチェは喜びの笑顔を交わした。

 その時、ペルタの視界の隅に黒い影が映った。


「く、熊!?」


 ペルタが声を上げて、全員が影の方を見た。

 数メートル先の木の間に、熊のような男が立っていた。


「で、出たっ」

「山賊!?」


 アンドレアとユメミヤが身構えて、ドルチェがキャッと身をすくめた。


「くっ、相手はひとり。叩き伏せることも可能っ」


 アンドレアがベルトから警棒を抜いた。


「落ち着くのよ! 熊みたいだからといって、敵とは限らないっ」


 狼のような顔つきになったアンドレアとユメミヤを、ペルタが制した。


 道端から様子を見ているアンドリューは、身を乗り出してよくよく成り行きを見つめた。

 固まる四人へ、大男はゆっくりと近づいてきた。スキンヘッドの(いか)つい顔に、動物の皮を縫い合わせた服を着て、ゴツいブーツが重々しい足音を立てる。


「相手はおじさんひとり、訓練通り走れば逃げられるよ」


 アンドレアが大きく一歩後ずさりながら言い、三人もゆっくりと後ずさった。


「グオおおーッ!!」


 突如、大男は両手を上げて咆哮(ほうこう)した。


「ひえええー!!」


 ドルチェが腰を抜かして尻もちをつき、三人は置いて逃げることはできずに固まった。


「来なさい! ()ちのめす!」


 ペルタも警棒を手にして、アンドレアと共に立ちはだかった。ユメミヤはドルチェと手を取り合った。


 アンドリューが足を踏み出した時、横をヒラリと誰かが駆け抜けた。


 大男を待ち受ける四人の前に、漆黒のマントをひるがえして男が現れた。後ろになびく黒髪に精悍な横顔、長身を包む黒のサーコートとブーツ、マントからのぞく光る剣。


「ああ、ゲオルグ様!」


 たくましい男の背中に、ペルタが声を上げた。


「やっぱり、王子様が来てくれたわ!」


 ペルタとアンドレアはキャイキャイと沸き立ち、ユメミヤとドルチェが目を見張るなか、大男が立ち止まった。


「おお、王子様!? 待ってくださいや、冗談ですよ!」


 腰の剣に手をかけたゲオルグを、大男は両手を伸ばして制した。


「やはり、冗談でしたか。あなたは町で見た覚えがある」


 ゲオルグは剣から手を離して、肩の力を抜いた。


 ユメミヤの手を借りて、ドルチェはなんとか立ち上がった。そこへ、アンドリューもやって来た。


「肉屋のオヤジさんだな?」

「ああ、猟の帰りだよ」


 オヤジさんは背中に縛りつけたイノシシを見せた。


「オヤジさん! なんて人騒がせなの!」


 ペルタが警棒を振って怒ると、オヤジさんは額をかいた。


「いやぁ、ついな。悪かったよ」

「まぁ、いい訓練になりましたわ」


 ペルタは気を取り直して言った。


「訓練?」

「森を冒険するための訓練ですわ」

「オヤジさんの迫真の演技、凄かったよ」

「ほう、役に立って嬉しいね」


 アンドリューがペルタに向き合った。


「熊みたいだからと慌てず、冷静に対処しようとしたのは偉かったぞ。成長したな」

「アンドリューが教えてくれたことだったわね」


 珍しく褒められて、ペルタはモジモジした。


「覚えていてくれたか、教えた甲斐があったな」

「うん、ありがとう」


 ペルタの礼に、アンドリューはほろりとした。


「私達も覚えておこう」

「はい」


 アンドレアにユメミヤとドルチェが返事をした。


「どんな時も、冷静さは大事だからな」


 アンドリューはまたほろりとした。


 次に四人はゲオルグに向き合って、口々に礼を言った。


「ゲオルグ様の勇姿、素敵でしたわぁ」

「本当に王子様が助けに来てくれるなんて」


 四人はポーッとゲオルグを見上げた。


「ぶ、無事でよかった」


 ゲオルグは顔を赤くして、ぎこちなく横を向いた。


「勇者様は遅すぎるわよ!」


 ペルタのダメ出しに、アンドリューは仏頂面になった。


「出遅れたのは、認める」

「出番を譲ってくれたのだろう?」


 ゲオルグが笑いかけた。


「うむ、そういうことでもある」


 アンドリューは腕を組んでうなずいた。


 全員ふうん? と納得していないような顔をして、アンドリューの眉をピクピクさせた。


「何はともあれ、訓練に戻ったらどうだ?」


 アンドリューが流れをかえるために言った。


「そうね」

「そろそろ、お昼だよ」

「お腹がすきました」


 ペルタにアンドレアとユメミヤが訴えた。


「そうね、ご飯にしましょう」


 オジサンも誘ってみんなで野原に行くことにした。


 シートに座った一同は、お茶を飲んで一息ついた。


「ドルチェ、大丈夫? 食欲あるかしら?」


 わずかに体が(かたむ)いているドルチェを、みんな心配そうに見た。


「はい。お昼ごはんになってくれて、助かりました」


 復活したドルチェは、笑顔でバスケットを開けた。


 肉と色とりどりの野菜を挟んだ、鮮やかなハンバーガーが並んでいた。ペルタとアンドレアが身を乗り出した。


「おお! 綺麗っ、美味しそう!」


 一同、さっそくハンバーガーにかぶりついた。


「味もいいわ!」

「美味いな!」

「おにぎりも食べてください」


 ユメミヤが四角い箱を開け、みんな興味津々で身を乗り出した。


「私の故郷、イクサの国のごはんです。こちらが小魚の佃煮入り、これが野沢菜入り、これが鮭入りです」

「どれにしようかな?」


 みんな好きなのを選んで頬張った。


「うーむ、これも美味い!」

「他のも食べたい!」

「俺ももうひとつ!」


 ハンバーガーもおにぎりもペロリと食べ尽くされた。


「ふたりとも、いい奥さんになれるな」


 食後のお茶を飲んでほっとした時、オヤジさんがお約束のセリフを発した。


 ペルタ、アンドレア、ユメミヤ、ドルチェの目は反射的に、王子様(ゲオルグ)に注がれた。


「自分も、そう思います」


 視線に(こた)えて、ゲオルグは穏やかに言った。


 微笑みを浮かべてあぐらをかいて座る、悟りを開いたような雰囲気のゲオルグに、すがるようにペルタがにじり寄った。


「ゲオルグ様! 今度、私の作ったサンドイッチも食べてください! 具がたっぷりで、ズッシリと食べごたえがありますわ!」

「た、楽しみだ。大胆な性格が出ていそうなサンドイッチだな」


 ゲオルグはなんとか如才なく答えた。


「私だって! サンドイッチには自信があります!」


 アンドレアが参戦した。


「私も、ハンバーガーだけじゃないんですよ?」

「サンドイッチが人気なのですか? 私も挑戦しますっ」

「ええい、負けないわよ!」

「全く、声が腹に響く! 静かに休憩するんだ!」


 アンドリューが腹を撫でながら叱った。


 ゲオルグの方は、近いうちサンドイッチをたらふく食べることになりそうだと確信して腹を撫でた。

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