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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第6章

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第124話 新たな王子様はどこ?

「みんな、昨日は心配かけてごめんなさい」


 惚れ薬騒動の翌日、客間で朝の挨拶をした後、ペルタが笑顔で言った。


「大変な目に遭ったよね」


 ルイスは慰めるように笑顔を返して、アンドリューとユメミヤもほっとしてペルタを見ていた。


「ほんと、大変な目に遭ったわ。胸が張り裂けるかと思うほど泣いて、満身創痍だし」


 ペルタの痛々しく腫れた目を、三人は気の毒に見た。


「惚れ薬の作り方の記憶もメモも、失ってしまったし」


 ペルタはガックリと肩を落とした。


「今の私は、ただの無力な女よ」


 心細そうに肩を抱くペルタを、アンドリューとユメミヤは厳しい目で見ていた。


「そうだね」


 ルイスもそんな冗談には適当に答えた。


「アンドレアさんは大丈夫?」

「……幸せの反動で、シワシワのお婆さんになってるわ」


 心の状態を具現化できるアンドレアは、本当にお婆さんになっているんだとルイスはゾッとした。


「後で、お見舞いに行くよ」


 それでもルイスは勇気を出して言った。


「ありがとう。喜ぶわ」


 ペルタとユメミヤの笑顔から、ルイスは力なく視線をそらせた。


「泣いてる女の人達に、なにもできなかったよ」


 ルイスは昨日の悲劇を思い出しながら呟いた。


「心配してくれただけでも、充分よ」


 ペルタは優しく言って、アンドリューをちらとにらんだ。


「それに、“引き続き王子様を探そう”って、励ましてくれたじゃない。頼もしかったわ」


 笑いかけるペルタに、ルイスは少し元気になって微笑み返した。


「そうです」


 ユメミヤも元気づけるように力強く言った。


「そうだぞ、ルイス。女達の嘆く中を歩けただけでも立派だ。俺は部屋に逃げ込んでいた……」


 アンドリューはそれを恥じて目を閉じた。


「僕も、ひとりだったら部屋に逃げ込んで、助けを待ってたと思うよ」


 ルイスはそう確信して力なく言った。


 もっと成長しなければ、城の王子様達のようにと、ルイスは強く思った。


「ブロウさんは大丈夫かな?」


 ルイスは窓に近づいて外を見た。


「もう、来なくなるかもな」


 アンドリューが腕を組んで重々しくいうと、ペルタが絶望の顔になった。


「えっ、そんな!」

「来てくれると思うけど」

「そうよね!」


 ルイスの予想に、ペルタは救われた笑顔を向けた。


「解毒剤を飲んだ後、汗をダラダラかいてたから、具合が悪くなったり、風引いてないか心配だよ」

「お電話しなきゃ!」

「お前はするな。もし、具合が悪ければ悪化する危険がある」

「どうしてよ!?」


 アンドリューとペルタの攻防を背に、ルイスとユメミヤは心配顔で外を見つめた。


 ブロウさんにこれ以上負担をかけないためにも、もっと王子様にいて欲しいなとルイスは強く思った。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 その頃、クロニクル城のブロウは、寝間着にガウンを羽織り自室のソファに座って、多少ぼんやりした頭で昨日のことを思い返していた。


 宇宙規模の複雑な気分になったところで、扉が無遠慮にノックされた。開けて見ると、タリスマンが立っていた。


「おはよう、王子様。大丈夫か?」


 タリスマンは就寝用の白い(ころも)姿で、冴えない顔をしていた。


「おはよう。ありがとう、大丈夫だよ。タリスマン君は珍しく早起きだね」

「悪夢を見て、飛び起きたのだ」


 タリスマンは長椅子に王のごとく、しかし、けだるげに座って答えた。


「ブロウ王子は、いまだに悪夢の中ではないか?」


 反応に戸惑うブロウを、タリスマンは鋭く見据えた。


 ブロウは惚れ薬を飲んだ場面を、また思い返した。


「悪夢なんて、そんなことは」


 ないとは言い切れずに、ブロウは一人掛けソファに座り膝を抱えた。


「もう、カーム王子の城には行かないか?」

「そんなことは、ないよ」


 ブロウは足を伸ばして座り、余裕を取り繕って答えた。


「これしきの事で行かなくなるなんて、僕はそんな繊細じゃないよ。少しはショックを受けているけどね」

「魔女に薬を飲まされたんだからな」

「アンドレア君は魔女じゃないよ……そう信じたいな」


 また膝を抱えるブロウをタリスマンが眺めていると、アンティークな造りの電話が鳴った。ブロウは洒落た電話台の前に行った。


「はい。やぁ、おはよう。ルイス君!」


 ブロウは弾んた声と笑顔になった。


 タリスマンもブロウの持つ受話器に耳を寄せた。


『お加減はいかがですか?』


 ルイスのかしこまった聞き方に、ブロウは笑った。


「大丈夫だよ。心配かけてすまない、ありがとう」


 優しさが胸に染みて、涙しそうになった。


「我も悪夢を見て、気分最悪だぞ」

『あっ、タリスマンさん。大丈夫?』

『まぁ、過ぎたことだから、これ以上は責めないけどな」


 タリスマンは肩を落とすブロウを見て言った。


「ルイス君は、大丈夫かい?」


 タリスマンと代わってブロウが聞いた。


『はい。大丈夫です。朝早くにごめんなさい。ペルタさんが、どうしても今すぐ電話しなさいと言うもので』

「ペル師匠がね」


 女性に打ちのめされた自分を気遣って、アンドリューあたりが止めたのかもしれないが、それでも自分で電話してこないペルタの自制心に、愛と思いやりを感じた。


「今の僕は、コロッと落ちそうだよ」

『えっ? なに』

『ブロウ様! コロッと落ちそうって誰にです!?』


 ルイスを遮るペルタの声に、ブロウは大いに慌てた。


「聞いてたの!? 聞き間違いだよ! ()()()()()()()よと言ったんだ!」

『ふうむ……』


 疑うペルタに、ブロウは冷や汗をかきながら笑った。


「やっぱり、もう少し休むことにするよ」

『……お大事にしてください』


 ルイスの寂しげな声が続いた。


『また、来てくださいね。アンドレアさんは、深く反省しています……』

「わかっているよ。また、会おう」


 今度はブロウが元気づけるように即答した。


 受話器を置いたブロウを、タリスマンが見つめた。


「ブロウ王子、結構失恋していると言ってたな。案外、コロッと落ちやすいのではないか?」


 タリスマンの疑惑に、ブロウは目を丸くした。


「まさか、僕は……自慢じゃないけど、もう何年も恋人はいないよ。そう簡単には、落ちないからね」

「ふうん」


 キッパリ言い切るブロウに、タリスマンは一応納得した。


「それより、元気が出たようでよかった」

「うん。友人達のおかげだ。食欲がわいてきたよ」

「我もだ。最近暑くて、水っぽい物しか食べてないから、歯ごたえのある物が食べたいな」

「僕なんか、昨日から()()()()()()しか飲んでないからね」


 ニヤつくブロウに、タリスマンも笑った。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 次の日、ルイスの客間にタリスマンだけが訪れた。


「ブロウ様は?」


 ペルタが絶望の顔で出迎えて聞いた。


 テーブルを囲むルイスとユメミヤとアンドリューも、表情を無くしていた。


「セバスチャンに、薬を盛られたことがバレたのだ。夏バテだと誤魔化したんだが、セバスチャンはやはり騙せなかった。それで、もう城に行かない方がいいのではないかと、止められてしまってな」

「どうすればいいの?」


 重くるしい沈黙の中、ペルタが嘆いた。


「アンドレアを、火炙りにするしかないか?」


 タリスマンが深刻な顔を上げて言った。


「なんですって!?」

「ヒッ」


 ペルタが猛獣のように爪を見せたので、タリスマンは急いで防御の形をとって光った。


「そんなこと、しちゃいけないよ!」


 恐ろしそうに震えるユメミヤの隣で、ルイスは立ち上がって抗議した。


「限りなく魔女の所業だが、処刑はさすがにできないぞ」


 テーブルに両肘をつき指を絡ませて、アンドリューも言い切った。


「わかった。処刑はなしだ。だが、どうにかしないといけないだろ」

「アンドレアを呼んでくるわ」


 ペルタは言って、まだ力ないアンドレアを連れてきた。


「私は、城を出て行きます」


 事情を聞いたアンドレアは、即座に言った。


 一同は言葉を失くして、アンドレアを見つめた。


「そうしないと、ブロウ様が安心して来れないでしょう?」


 アンドレアはペルタに悲しげに笑いかけた。


「それは」


 ペルタが答えられないでいると、ユメミヤが立ち上がった。


「私も、ついて行きます」

「えっ」


 一同は驚いてユメミヤを見た。


「そんな」


 ルイスはあまりに突然の決意に、頭が混乱した。


「ユメミヤ、どうして?」

「そうだぞ、アンドレアが心配なのか?」


 ペルタとアンドリューも酷くうろたえていた。


「それだけではありません。先日、オトギの国の地図を見て、ペルタさんの旅の話を聞いて、自分もオトギの国を見て回りたいと思ったのです」


 ユメミヤは胸に片手を当て、力強く答えた。


「それに、以前から、そうして王子様を探さねばと思っていましたから」


 ルイスを見ないように言って、ユメミヤはアンドレアに顔を向けた。


「よろしければ、ご一緒させてください。アンドレアさんと一緒なら、どれほど心強いことか」

「私の方こそ」


 アンドレアはユメミヤに微笑み返した。


「私も行きたい……」


 ふたりにペルタが力なく、すがるように言った。


「いけません」

「ええっ」


 ユメミヤに即答されて、ペルタはがく然とした。


「ペルタさんには、ルイス君を守ってもらわなければなりません」

「うっ、うん」

「他の人には任せたくありません。ペルタさんも心配ですが、かろうじて委ねられます」

「かろうじてって、なによ!」

「ペルタさん自体が心配ですが、仕方ないですね」

「なによ! それ!」


 前のめりで抗議するペルタに、ユメミヤは笑った。


「ふ、ふん。わかったわよ」


 ペルタは気を落ち着かせて、ユメミヤとアンドレアに笑顔を向けた。


「ま、待って。本当に旅立つの?」


 穏やかに微笑み合う女性陣に、ルイスはまた動揺して聞いた。


「みんな、落ち着け。いきなり、旅立つな」


 アンドリューが立ち上がって言った。


「そうだ、旅立つことは許さんぞ」


 タリスマンが一歩前に出て、アンドレアとユメミヤをにらんだ。


「そんな形で決着をつけたら、ブロウ王子が気にするだろ」


 一同が黙り込む中、タリスマンは腕を組んでアンドレアを見た。


「ブロウ王子は、もう気にしていない。それより、セバスチャンをなんとかして、ブロウ王子を助けてやるのだな」


 アンドレアはハッとして、しばし考えた。


「わかりました。なんとか、方法を考えます」


 思い直したアンドレアに、ルイスはほっとした。


「ユメミヤ、いいかしら?」

「はい」


 憂いない笑顔を見せるユメミヤに、ルイスはさらにほっとして座った。


 アンドレアを見送った後、ペルタはタリスマンを見た。


「見直したわ。あんなに思い詰めていたアンドレアを説き伏せるなんて。本当に王様みたいな威厳があったわよ」


 まじまじと見てくるペルタに、タリスマンは胸を張った。


「我は王なのだ。当然だろう」

「本当に、王族の人?」


 ペルタの疑問に、自分をじっと見つめて、真剣に回答を待つ三人にタリスマンは気づいた。


「あ、当たり前だろ。外国の普通の家で普通に育てられたが、血には抗えなかった。両親はこの国の元国王」

「本当か」


 鋭い視線を向けるアンドリューに、タリスマンは笑みを見せた。


「父は闇の王。母は光の女王。ふたりで少しの間だが統治していたのだ」

「聞いたことがあるような……」

「王様の子!? 王子様!!」


 一足飛びに前に来たペルタに、タリスマンはのけぞるあまり長椅子に尻もちをついた。


「王子様ではない! 生まれがらの王なのだ!」

「そんなつまんないこと言わないで、王子様らしくしてください」


 前のめりに進言するペルタを、タリスマンは長椅子にすがりついてにらんだ。


「生まれながらの王をつまんないと言い切るなど、お前くらいのものだぞ」

「だって、王子様の方が好き!」

「我は、王様の方が好きだ!」

「光と闇の王って、そういうことだったんだね。最初に会った時、そう言って遊んでたよね」


 ルイスは出会った時を思い返した。


「この国の森や洞窟は、我にとって庭のようなもの。庭で遊ぶのは当然だろ」


 壮大だなとうなずいて、ルイスはタリスマンを見た。


「王子様がこんなに近くに居たとは。僕も嬉しいよ」


 ニコニコのペルタに、ルイスもニッコリした。


「待て! だから、王子様じゃない!」

「ペルタさんがタリスマン様をお慕いしていたのは、王子様だということを、どこかで感じ取っていらっしゃったからでしょうか?」


 首をかしげるユメミヤに、ペルタは向き合った。


「そうよ! この第六感は、旅の中で研ぎ澄まされていくわ!」

「私も身につけることができますか?」

「もちろんよ!」


 目を光らせて笑みを見せるふたりに、男性陣はしばし言葉を失った。


「まだ、旅には出ないんだろ? そうギラギラするな。それに、我のことより、セバスチャンだ」


 タリスマンが両手を振って、ペルタとユメミヤをなだめた。


 一同はそのことを思い出して、祈るように黙り込んだ。


 アンドレアの詫び状と、今後惚れ薬は使用禁止の旨を書いたカームの嘆願書と、ブロウの願いもあって、セバスチャンは城に行くことを許してくれた。


 後日、にこやかにやって来たブロウと、彼を遠くから見るだけのアンドレアと、タリスマンを追いかけ回すペルタを、ルイスとユメミヤとアンドリューは温かく見守った。

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