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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第6章

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第119話 王子様の馬探し10 危険な夜

 タリスマンに膝をついた男の、仲間の仕業だった。

 あっさり負けた仲間を目にして、怒りに強行手段に及んだのだった。


 ルイスは男の腕力の凄まじさに、満足にもがくこともできなかった。太い腕に首をホールドされて、息苦しいのも追い打ちをかけた。

 なす術もなく、ルイスが引きずられる中、残された3人はぼう然と建物の間を見ていた。


「ルイスが消えた?」


 男の早業に気づかず、ロッドとタリスマンは闇をただ見ていた。


「いや、誰かが、タリスマン君、光を!」


 ブロウの緊迫した声に、タリスマンは弾かれたように片手を闇に向けた。

 光に照らされた建物の間に、男に羽交い締めにされているルイスが浮かび上がった。


「ああ! ルイス!」


 タリスマンが動揺の声を上げた。ルイスに向かって、腕を伸ばすことしかできなかった。


 突然の光と人の声に、男はギクリと立ち止まったが、さらに力を込めてルイスを引きずって後退した。


 遠ざかるルイスと男をブロウが追いかける前に、ロッドが追った。ほんの数秒で、ロッドはクリスタルの短剣を男の首筋に当てた。


「ルイスを離せ」


 男は自分の状況を理解するのに時間がかかったが、ルイスにはすぐにロッドが助けに来てくれたと理解できた。男が硬直している隙に、ルイスは腕を押しのけて走り出した。

 ロッドに引っ張られて通りに飛び出たルイスは、今度はタリスマンの腕に捕まって抱き寄せられた。


「ルイス! もう終わりかと思ったぞ! 怪我はないか?」

「勝手に終わらせないでほしいな、大丈夫だよ!」


 ルイスは意外なリアクションに驚いたが、笑顔で抱きしめ返した。ロッドはブロウに優しく抱きしめられていた。


「ロッド君、よくやってくれたね。驚いたよ」

「うん」


 笑顔で答えたロッドは、ルイスのそばに行った。


「ロッド! ありがとう!」

「上手くいったな! まだ、震えてるぜ」


 ロッドはわずかに震える、短剣を持つ手を見せた。


 笑い合うルイスとロッドに、ほっとしたブロウとタリスマンは目を見交わして、建物の間を両側から挟んで、闇に顔をそっと向けた。

 タリスマンが光で照らし、ブロウが体を傾けて覗き込んだ時、男が突進して来た。

 男が飛び出した瞬間、タリスマンは体をのけぞらせて避けた。今度はしっかりとルイスとロッドを背中で庇っていた。

 ブロウは男の肩を掴んで己の方を向かせた。男はブロウを認識すると、こぶしで顔面を狙ってきた。

 冷静にこぶしを手のひらで受け止めたブロウに、男はハッとしたが、またこぶしを繰り出した。


 通りで始まった格闘に、通行人は立ち止まって、すぐに即席の格闘場のような輪ができた。


「ブロウ王子は、格闘技の達人だったのか」


 タリスマンがぼう然とつぶやいた。


 無骨な割に速い攻撃を繰り出す男のこぶしや足を、全て受け流すブロウは、ルイスにも格闘技を極めているようにしか見えなかった。


「ブロウさんは無闇やたらに強いんです。多分、どんな戦い方でも」

「ただ者じゃないと思っていたが」


 タリスマンとロッドは、納得してうなずいた。


 戦い続けるふたりは、息が上がってきていた。男の方が心の乱れが大きかった。原因は他ならぬ、細身のくせに強いブロウだった。


「もうやめるんだ」


 ブロウは警告するように言った。


 ムキになった男の強烈な右ストレートをかわしたブロウは、完璧な後ろ蹴りを喰らわせて夜空に吹き飛ばした。


 遠のいて消えていく男を、誰もが見送るしかなかった。


 そして、どっしりと立っているブロウを、誰もが畏怖と羨望の混じった目で見つめた。


「お星さまにしてしまったのか?」


 しんとした中、タリスマンがブロウに近づいて、震える声で聞いた。ルイスとロッドもそばに行った。


「加減したから、森に落ちたんじゃないかな?」


 ブロウは肩の力を抜くといつもの軽い調子で、男を探して遠くの森を見ながら答えた。


「よかった」

「ブロウさん、凄かったです!」

「剣を使うまでもなかったね」


 緊張が解けたルイスとロッドは、はしゃいだ笑顔を見せた。


「ありがとう。とっさで驚いたけど、僕もまだまだやれるね」


 ブロウも晴れやかな笑顔で胸を張った。


「兄ちゃん、凄いな!」


 誰かが言うと、歓声と拍手が起こった。


「お兄さんの方が勝ってよかったわ」

「ああ、飛ばされた奴は、いかにも悪人だったな」


 そんな会話が耳に入って、ルイスは思わず笑った。


「お騒がせしました。皆さん」


 ブロウは軽くお辞儀して拍手に応えた。格闘家から王子様に戻った姿を、ルイスは尊敬の目で見つめた。


 歩き出した人々の中から、ジョゼフとスカイが四人のそばに来た。


「申し訳ありません。見回りをしていながら、この体たらく」


 ジョゼフは眉をよせて、ブロウから視線をそらせた。


「今回は、敵に出し抜かれてしまったね」


 ブロウも残念さを見せて言った。


「次回、頑張ろう」

「はい」


 寛大なブロウに、ジョゼフとスカイは落ち着きを取り戻してうなずいた。


「ブロウ王子、相変わらずお強いですね」


 ジョゼフが敬服した笑みを見せた。スカイも改めてブロウを見つめていた。


「ブロウ様が居ると、出番がないんだ」


 ジョゼフの悩みに一同が笑う中、男が近づいてきた。パワーストーン屋の店員だった。


「王子様、よかった。あの男とはちょっとした知り合いでして、いえ! もう過去のことです。この少年を狙っていると聞いて心配していたんです」


 店員はルイスを見た。


「誘拐されかけましたよ」


 ルイスが教えると、店員はビクリとした。


「すまない、早く知らせておけば」

「いいんです。心配してくれてありがとうごさいます」


 しゅんとする店員に、ルイスは優しく言った。

 ほっとした店員は、こちらを見つめる男に気づいた。


「あっ、あいつは、さっきの男の仲間です!」


 店員の指差した先には、心細そうな様子の男が居た。


「あの男は、我が完全勝利した男ではないか」

「あの男も倒していたんですか!」


 店員はタリスマンを畏敬(いけい)の目で見た。


 一同は男の前に行って、ブロウが厳しい顔を向けた。


「他にも、子供を誘拐したのか?」


 男は急いで首を横に振った。


「なら、仲間を探しに行くんだね。同じ場所に蹴り飛ばすのは、難しい」


 男はいっそ蹴り飛ばしてほしいと言うような、泣きそうな目でブロウを見つめた。


「…僕も行こう」


 ブロウはそんな男の心を察して言った。


「あの男が、誰かに八つ当たりしても困る。戦意喪失しているか、確かめないとね」

「王子様」


 男はウルウルする目でブロウを見つめた。


「森は暗いぞ、我も行こう」

「あ、ああ、神様まで」


 男はタリスマンに目を向けた。

 神様扱いされたタリスマンは、さすがに男の精神状態を心配したが、すぐにすまし顔をした。


「そ、そう。我は神。弱き者は、見捨てないのだ」

「人だってバレたら、またヤバいことになりそうだな」

「うん、ブロウさんがいるから、大丈夫だと思うけど」


 ロッドとルイスはヒソヒソと話した。


「ふたりは連れて行けない。ゲオルグ君達と合流しないとね。ジョゼフ君、スカイ君、見回りを頼むよ」

「今度こそ、お任せください」


 ふたりは力強く応えて、人混みに消えていった。

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