第9話 レストランとドラゴン
日が完全に暮れてから、ルイス一行は森を抜けた。
「町についた!」
「ルイス君、よく歩いたね」
ペルタとフアンが感動の声を上げた。
「お腹が空きました」
ルイスは感動もそこそこに訴えた。途中、小さなキャンプ場で一休みして、ひたすら歩く方を選択した結果だった。
ルイス達はさっそく、賑わう繁華街に直行すると、食べ物屋を物色した。レストランから飲み屋まで色々あって、ルイスとペルタが率先して通りに出てあるメニューを見て回った。
フアンがメニューを見て、あることに気づいた。
「ペルたん、アンドリュー。ちょっと」
フアンはふたりを呼ぶと、ルイスから少し距離をとった。
「どの店にも、ドラゴン料理があるね」
「ドラゴン愛好家がいたな」
三人はルイスをチラ見して、深刻な顔で黙った。
「俺達で勝手に注文しよう」
「少し可哀想な気もするね。メニューを見せないのも不自然だし」
「もしかしたら、ドラゴンが好き過ぎて、食べるのも好きになってくれたりして⋯⋯?」
ペルタの希望に、アンドリューとフアンが即座にうなずいた。
「それに賭けるしかないね」
熱心にメニューを見るルイスの元に、三人は笑顔で近づいた。
「決まったよ。一番大きなレストランにしよう。ゆっくり落ち着いて食べられるからね」
「メニューもいっぱいあるわよ」
ルイスは満面の笑みでうなずいた。
◇◇◇◇◇◇◇
一番大きなレストランといっても、素朴な雰囲気で、色んな客層で賑わっていた。
フアン王子の登場に店員はかしこまって、仕切りのある奥の席に案内してくれた。客達も一様に、フアンを目で追ったが、騒ぐものはいなかった。
「フアンさん、レストランに来たことがあるんですか?」
「何度もあるよ。自分の領地や見回りする町は、とても身近なんだ」
「その上、フアン様はとても気さくで、親しみやすい王子様なの」
ペルタの言葉にルイスはうなずいた。ルイスの想像の中の王子はもっと近寄り難かった。王子様像が一つ変わった。
ルイスは席について一息ついたが、アンドリューがマントを脱いだのでハッとした。アンドリューが上げている服の袖を下ろそうとしたので、ルイスは素早く片手をあげた。
「袖を下ろしちゃいけません!」
「兄弟みたいでいいじゃない」
ペルタが服のお揃いに気づいてからかってきた。
「仲が良すぎますよ」
ルイスが言い返えし、アンドリューも袖をおろすのをやめた。
ルイスはほっとして、メニューを開いた。三人は途端に緊張した。それぞれ、メニューを見ながらチラチラルイスを伺った。
ルイスの目の動きが止まり、表情が固まったのに三人は気づいた。ルイスも三人の視線の意味に気づいた。
「ドラゴン料理⋯⋯」
「ルイス君、この国ではドラゴンの肉はなくてはならない、貴重な栄養源なんだよ。それに、オトギの国にやって来た冒険者はこの町でドラゴン料理を食べて、旅に備えて力をつける伝統があるんだ」
フアンが穏やかに説明して、アンドリューがうなずいた。
「か、唐揚げがオススメよ」
ペルタが場の空気を和まそうと、大げさな笑顔を見せた。
「ペルタさん。抱き締めてくれた時に気づいたんですが」
「えっ? 私への恋に? 抗えない大人の魅力に?」
ルイスは冷静だったが、反対にペルタは動揺していた。
「ペルたんさんの着ている服、ドラゴンの革ですね?」
ペルタはとっさに、メニューで服を隠した。
「これは、安らかな最後を遂げたドラゴンの遺言で、私に着てほしいと」
「よかったですね」
ルイスは目を閉じて淡々と言った。ルイスの冷徹な態度に、ペルタはさめざめと泣き真似をした。
「ルイス、この国ではドラゴンは生活に欠かせんのだ。受け入れろ」
アンドリューが身を乗り出して命じた。フアンも厳格な切実な表情でルイスを見つめている。
「知ってました。オトギの国ではドラゴン料理を食べること、革製品もあること」
ルイスはペルタへの態度に少し罪悪感を抱いて、なるべく優しく話した。
「みなさんの話を聞いて、覚悟ができました。ありがとうございます。唐揚げをいただきます」
ルイスはペルタのオススメを食べることにした。
「無理しなくていいのよ?」
「どんな味か、興味あるので」
「よかった」
「適応力は高そうだな」
三人が笑顔になり、ルイスは気を取り直してペルタの服を見た。
「サラマンダーの革ですか?」
「火に強いのよ。あっ、ドラゴンマスターはご存じですわね」
ドラゴンマスターか悪くないなと、ルイスはニヤリとした。
「ルイス、気づいているかも知らんが、お前のその服も」
「ジルトニラですね」
「流石ドラゴンマスターだ。どんな素材より丈夫なんだ。受け入れろ」
「はい」
笑顔のルイスに、アンドリューはほっとした。