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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第6章

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第109話 変じゃない?

 カーム王子のご視察を見た数日後、ルイスは美しい庭を、悩みながらさ迷っていた。


「まずは、味方を見つけた方がいいかな」


 ルイスは広い芝生を歩きながら、難しい顔で呟いた。


 さらに歩くと、庭の端の木の下にうずくまるペルタを見つけた。近づいて見ると、ペルタは木の根元に咲いた小さなスミレを見て、ため息をついていた。


「どうしたの?」


 ルイスは王子様を意識して、片膝をついて笑いかけた。


「あっ、ルイス君!」


 ペルタはキラキラした笑顔を向けてきた。


「王子様かと思ったわ!」


 ルイスは大いに満足した。


「ありがとう、嬉しいよ。それで、どうしたの?」

「うん」


 ペルタはまた悩み顔をスミレに向けた。


「"ペルタ姫"って、変じゃない?」

「えっ?」


 ルイスは突然の質問に驚いた。そして、ペルタ姫が変かどうかより、別のことが気になった。


「もしかして、王子様が見つかったの?」

「えっ?」


 今度はペルタが驚いた。


「いえ、そんなことは全然」

「そっか」


 ルイスもここ最近のペルタを振り返り、そんなことはなかったかと納得した。


「私には、早すぎる心配だったわね」


 ペルタはさらに力を無くした様子で、悲しげにスミレを見つめた。ルイスは慌てて言った。


「いや、今から心配してもいいと思うよ」

「そう?」

「うん、だけど、どうしたの? 急に」

「前から気になっていたんだけど、この目立たないスミレを見ていたら、私はお姫様になれないんじゃないかと思ってしまったの」


 ペルタは泣きそうな顔で目を閉じた。


「ペルタ姫なんて変じゃない?って。私に、お姫様は似合わないんじゃないかって!」


 ペルタは膝に顔を伏せた。


 ルイスは痛ましく思うと同時に、ここだと思った。


「そんなことないよ! ペルタ姫。凄くいいよ!」


 力強い励ましにペルタは顔を上げた。己を見つめる揺れる瞳に、ルイスはニッコリ笑いかけた。


「本当に?」

「僕が嘘を言うと思う? ペルタ姫! 凄く可愛いよ。呼ぶ度に、段々可愛いさが増してきた!」

「ありがとう、ありがとう⋯⋯」


 両手に顔を埋めるペルタを、ルイスは笑顔で見ていたが、胸の苦しみに耐えきれなくなった。


「僕には⋯⋯無理だ! ごめん、ペルたん」

「えっ?」


 片手で胸を押さえて、前のめりに苦しむルイスを見て、ペルタは驚きに目を丸くした。


「ペルたんを味方につけたくて、大げさに褒めたんだ」

「そんな!」


 ルイスの告白に、ペルタはショックでしばし動けなかった。


「じゃあ、ペルタ姫が可愛いというのは、嘘!?」

「嘘じゃないよ。可愛い気がするけど、そこまで可愛い気もしないような」


 ペルタは襲いかかる猛獣のごとく爪を向けた。


「ごめん」


 ルイスは力尽きた獲物のように、尻をついて目を閉じた。


「でも、珍しくていいと思うよ」


 ペルタが襲ってこないので、ルイスは目を開けて言った。


「珍しい、ね」

「うん、一度聞いたら忘れられない名前だよ」

「そうかしら? みんな、ペは覚えてるけどその後がね。ペルーとか、ペーターとかよく間違えるわよ」


 そういえば、ブロウさんも "ペル師匠" と間違ったまま呼んでいるなとルイスは思い出した。


「そうだ! ブロウさんだよ!」

「なにが?」


 ルイスの笑顔に、ペルタは驚きの目を向けた。


「ペルたんに、味方になってもらいたいことがあるんだ」


 ルイスの真剣な眼差しに射ぬかれて、ペルタは体の力を失って片手を芝生についた。


「私はいつでもルイス君の味方よ」

「そうだったね。弱みにつけこもうとして、ごめん」

「もういいの。それで、なにをしようと言うの?」


 ペルタはドキドキしながら聞いた。


「実は⋯⋯夜の町を見てみたいんだ」

「ルイス君!」


 ペルタはあまりの衝撃に尻もちをついた。


「別に、怪しい店に行きたいわけじゃないよ! そうじゃなくて、祭りの露店みたいなのを想像してるんだけど」


 恐ろしい想像をして震えるペルタの誤解を解くために、ルイスは急いで言った。


「お祭り⋯⋯確かに、そういう店も沢山出てるわ」

「やっぱり?」


 ルイスは一度見たクロニクルの夜の町を思い出したが、あの時は店を眺めるどころではなく、おぼろげにしか浮かばなかった。


「どんな店があるのか、見てみたくてさ。ロッドとそのことばかり話してるんだ」

「ロッド君と……」


 ペルタは困った顔になった。ルイスには、また自分とロッドがこっそり出かけるのを心配しているなとわかった。


「そこで、ブロウさんに頼もうと思うんだ」

「ブロウ様に」

「うん、ブロウさんは一度夜の冒険に連れて行ってくれたことがあるし、冒険が好きみたいだから、連れて行ってくれそうに思うんだ」

「そうね、ブロウ様なら」

「それに、ブロウさんが一緒なら、カームさんやアンドリューさんも許してくれるんじゃないかな?」

「確かに」


 ブロウは年長者で、なにより信頼が厚かった。


「そこで、ペルたんにも説得を手伝ってほしいんだ。いつもの押しの強さで」


 ルイスは片膝をついて頼んだ。


「押しの強さ⋯⋯」

「お願いします」

「わかったわ。決して、怪しい店に行かないと約束してね」

「約束します」


 ふたりは誓いの握手をした。


 次の日、ペルタはロッドとも誓いの握手をして、ルイスと三人客間に集った。


「アンドリューさんは絶対反対するから、なるべくなら居ないところで話をしたいな」

「そうだな」


 ルイスの申し出に、ロッドがうなずいた。

 こんな時、邪魔にされハブられるアンドリューを思い、ペルタは悲しげな顔をした。


「厳し過ぎるのも考えものね。だけど、わからず屋ってわけじゃないのに」

「わかってるよ。だけど、反対されると分が悪くなるから。ブロウさんも、絶対連れて行ってくれるとは限らないよね」

「なるべく、自然にその話に持ち込みたいよな」


 アンドリューが町の見回りに出たのを見計らい、ブロウをお茶に誘い客間に連れて来ることにした。


「ユメミヤも反対するわよ」


 ペルタがルイスに言った。


「お前の言うことなら聞くだろ? 説得しろよ」


 ロッドがニヤリと笑いかけ、ルイスはドキリとして答えられなかった。


「あら、ロッド君もユメミヤの気持ちに気づいていたの?」

「まあね、ルイスしか見えてないって感じだし」


 ロッドはやれやれと言うジェスチャーをした。


「そうなのよ。周りに素敵な王子様が大勢いるのにね」


 ペルタは前のめりでロッドに笑いかけた。ロッドは獲物を狙うようなペルタの笑みから、ツンと顔をそらせた。


「そう言うことだから、ユメミヤはルイス君に任せるわ」

「わかったよ。なんとか、説得します」


 ニヤニヤするふたりに、ルイスはたじたじで答えた。


「そういえば、タリスマンさんはどうする?」


 ルイスは急いで話題を変えた。タリスマンはブロウと行動を共にしているので、話さないわけにはいかない気がした。


「タリスマンさんはノリがいいからな。大丈夫だろ」


 ロッドが言って、タリスマンも巻き込むことに決まった。

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