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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第6章

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第106話 王子様のお膝元

 ある晴れた日、ルイスとロッドはカーム王子のお膝元の町に、ふたりで来ていた。

 町は一階に店舗を構えたレンガ造りの家が並び、通りを行き交う人々は多く、にぎやかながらも穏やかな雰囲気だった。

 ふたりは新調した外出着、世を忍ぶ借りの姿で人々に溶け込んでいた。ふたりともドラゴンの黒革の上下だったが、デザインの違うものを選んでいた。


 ふたりは武器屋に入った。

 広く明るい店内は、武器の種類ごとにコーナー分けされていて、ふたりは剣のコーナーに行った。

 簡単に手に持てるように並んでいるのが、平和な町で育ったふたりには信じられないことだった。

 高価な剣は壁の高いところや、ガラスケースに納められていた。


「伝説の剣かな?」


 ルイスはガラスケースの剣を張りつくように見た。グラディウスという片手剣で、持ち手は金とルビーが輝き、目が飛び出すほど高価だった。


「伝説の剣には、岩に突き刺さっててほしいよな」

「誰かが抜いたんだ。僕も抜いてみたいよ」

「オトギの国なら、結構いろんなところに突き刺さっててそうだな」


 ふたりは剣をいくつか素振りしてから、短剣の棚に移った。

 ロッドはひとつひとつ丹念に見ていった。ルイスは短剣の方に身近な危険を感じた。


「おい、なんだこりゃ」


 ロッドが柱の注意書きに声をあげた。

 注意書きには『明らかに十八才未満の方にはお売りできません』と書いてあった。


「明らかにってなんだよ?」


 ロッドは不満もあらわにルイスに聞いた。


「僕達のことかな?」


 ルイスは近くの姿見に自分を映して答えた。ロッドも鏡に映って見た。自分達は十八才以上には見えない気がした。


「ここは無法地帯じゃないのかよ」


 ロッドは空をにらんだ。


「きっと、カームさんのお膝元だからだよ」

「なるほど」


 この町がある程度の法やルールを守っているのは、明らかだった。


「お膝元じゃない町ならいいか?」

「路地裏や地下にある店、いかにも怪しい店主からなら買えるかもね」


 ロッドに釣られていたルイスはハッとした。


「そんなところを見られたら、悪い噂が立つんじゃないかな? 王子の名に傷がつくよ」


 ルイスの厳しい目つきに、ロッドはたじろいだ。


「王子見習いがそんなところに居るのも、かなりヤバイな」

「うん⋯⋯」

「しばらくは、切れない剣を持ってるしかないか」


 ふたりは剣の入手は諦めて、防具コーナーに行った。

 いかにも中世の騎士、といった見た目の兜を被ったりしていると、いかにも強そうな店員が側を通りかかり、ふたりは冷やかしをやめて店を出た。


 そこでふたりは、武器屋の向かいの本屋に立つ、怪しいふたりに釘つけになった。

 ふたりはフードを被った紫のローブ姿で、ルイス達に背を向けて、店の前のワゴンに並ぶ本を漁っていた。


「魔女かな?」


 ルイスはローブからのぞく、スカートを見て言った。


「魔女が必死に探す本って、ヤバすぎる本だろうな」


 前のめりで本を漁る魔女達に、ルイスとロッドは震え上がったが、好奇心にかられて後ろから近づいてみた。魔女のひとりが振り向いたので、ふたりはビクリと身構えた。


「あら、ふたりとも。見つかってしまったわね」


 魔女がフードを取った。正体は、ペルタとアンドレアだった。

 ルイスとロッドは安堵と残念な気持ちから脱力した。


「凄く目立ってるよ」

「そう?」


 ペルタとアンドレアは行き交う人々を見回した。明るい町並みを行く人々は、誰もローブなど着ていなかった。


「夜だと、目立たないのよ」


 ペルタは力なく笑って言い訳した。


「ふたりは、上手く溶け込んでいるわね」


 ペルタはルイスとロッドを上から下まで眺めた。


「お忍びで町を歩く王子様を、なかなか見つけられないのも納得だね」


 アンドレアの感想にペルタがうなずいた。


「もっと、わかりやすく歩いてもいいのよ?」


 ニヤリとするペルタから、ルイスとロッドは視線をそらせた。


「ふたりはお忍びで、どんな本を買うの?」


 ロッドがニヤリとして聞いた。


「お、男の子には、関係のない本よ」


 ペルタとアンドレアは大いにうろたえた。


「ついでに、僕達を見張ってたの?」


 ルイスは腰に手を当てて聞いた。


「ついでだなんて。それがメインよ」


 ペルタがルイスにすり寄るように言った。

 見張られていたことに機嫌が悪くなったルイスとロッドに、ペルタとアンドレアは困った笑顔を見せた。


「王子様を陰から見守る。陰護衛(かげごえい)というやつよ」


 陰護衛のどこかカッコいい響きに、ルイスとロッドはふたりを許すことにした。


「難しいわ」 


 ペルタとアンドレアはフウと肩の力を抜いた。


「完全に、他のことに気を取られてるし」


 ロッドがあきれ顔で言った。


「ふたりには、早すぎたね」


 ルイスも笑って言った。

 ペルタとアンドレアはガックリと肩を落とした。


「アンドリューさんは?」


 ルイスは辺りを見回した。アンドリューはルイスとロッドが出かける時、多少心配していたが、それでも快く見送ってくれたはずだった。


「城に居ると思うわ。陰護衛は私達の思いつきよ」


 ルイスもアンドリューが難しい陰護衛を、ペルタに任せるわけないかと納得した。


「これから、どうするの?」

「いろんな店を冷やかすつもり」


 ペルタの質問にロッドが答えた。


「そう、なにかあったら私達のところに来てね」


 ペルタは余裕の笑みを見せた。


「つかず離れずで護衛してるから」


 アンドレアもこぶしに力を込めて笑った。


「フードを被っててよ。わかりやすいからね」


 ルイスとロッドは笑って、今さら恥ずかしそうにフードを被るふたりと別れた。


「僕達にも、ローブが要るかな?」


 ふたりはすぐに服屋に入った。小さい店内には、ファンタジー世界に溶け込めそうな服が並んでいた。

 目的のローブもあって、ふたりはさっそく着てみた。


「誰でも、ローブを着ると怪しく見えるみたいだ」


 ルイスは姿見の自分にニヤリとした。


「それに、戦闘力は未知数って感じだな」

「ローブ着てフードで顔を隠してるキャラって、かなり強いよね」


 ルイスはうつ向いて顔を隠してみた。


「強いヤツに絡まれたら、厄介だな」


 ふたりはローブはやめて、マントをつけてみた。


「旅人って感じだな」


 砂色の革製マントをつけたロッドは、姿見の自分に笑った。


「けど、こっちの方が町に溶け込めるな」


 通りを行く人々の中には、マントをつけている人は結構居た。


「ロッド、これをつけなよ」


 ルイスはマントを差し出した。その青いマントには、銀の肩当てがついていて、王子か騎士がつけていそうなマントだった。


「ふざけるなよ」


 言いつつ、ロッドはマントをつけてみた。


「似合うよ! 長さも丁度いいし、君のための」


 ロッドが外したマントをぶつけたので、ルイスは最後まで言えなかった。


 服屋を出たふたりは、カフェに入った。

 ふたりの後に、怪しいローブのペルタとアンドレアも入って来て、入り口の見える席に座った。ルイスとロッドは2階に行き、通りを眺められる席に座った。


 飲み物と軽食を注文して、通りを眺めた。


「そういえば、罰ゲームの友達が、王子様になったのを確かめに来たりしてないの?」


 通りに自分達と同世代の少年達を見つけて、ルイスは聞いた。


「とっくに来たよ。全員じゃないけど」

「いつ?」

「シュバルツ様の城に来たばかりの時。呼び鈴鳴らして『ロッド君居ますか?』って。クロニクルの城から順番に探して来たってさ」


 ルイスは真面目に聞こうとしていたのに笑ってしまった。


「それから」

「ご想像通り笑われたよ」


 ロッドも頬杖をついて、通りの少年達を目で追いながら答えた。

 別に不機嫌でもないロッドを、ルイスは興味深く眺めた。


「それより、あの時はまだ、シュバルツ様の機嫌が最悪だったからな。気づかれて出てこないかヒヤヒヤしたぜ」

「気づかれずに済んだ?」


 ルイスもヒヤヒヤしながら聞いた。


「ああ。城に入りたがったけど、全力で阻止した。そこにセバスチャンが来てくれて『もうロッド様は、あなた方とは住む世界が違うのですよ。お帰りください』って言ったら、帰ったよ。それっきり」


 経験を積んだ執事セバスチャンの威厳か、「住む世界が違う」にショックを受けたのか、その両方の効果かとルイスは思った。ルイスはそんな別れにショックを受けた。


「気にするなよ。引っ越して来て会ったばかりで、そんなに仲良くなかったし」


 注文の品が運ばれてきて、ロッドはさっそくサイダーを飲んだ。

 ルイスはほっとして、アイスチョコミルクを飲んだが、置き換えてみた。


「ロッドで笑われるんだから、僕が王子様になったら、大爆笑されるんだろうな」

「俺の場合は、罰ゲームだからさ」


 憂鬱な顔のルイスに、ロッドは笑った。


「お前は、友達に会ってないのか?」

「うん、先に来てるキール以外、みんな進む方向が違って、学校を卒業したらそれっきりだよ」


 ルイスは青空に向かって遠い目をした。


「王子様の友達が、もっと増えるといいね」


 ルイスはロッドの方に向き直って言った。


「俺達の世代は、俺達ふたりだけだったりしてな」


 ロッドが真面目な調子で言ったので、ルイスは苦笑いした。


「怖いこと言わないでよ」


 ロッドはニヤリとした。


 ルイスは落ち着くためにチョコミルクを飲んで、焼きたてのプレッツェルを食べた。


「暑くなってきたね」

「もう夏だな」

「王子見習いになってそろそろ半年だよ、その間に会った同世代の王子はロッドだけ。まずいのかな?」

「どうだろうな? ひとり仲間が居ただけでも、ラッキーな気もするけど」

「ペルタさん達に、勧誘してもおうか⋯⋯」

「本当に、ふたりだけになっちまうぞ」


 ロッドが恐い顔をしたので、ルイスは提案を撤回した。


 ルイスはペルタとアンドレアの格好を思い出した。


「ふたりとも、ローブで暑くないのかな?」


 ルイスは顔を青空から、階段の方に向けた。


「任務中だと、暑さも忘れるのかな?」


 その時、階段を登って、怪しいローブ姿のペルタが、ひとりの男を(ともな)って来た。


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