表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/184

第99話 冒険しなきゃ!

 アレス王子が訪れた翌日の晴れた午前、カーム王子の城の芝生で、ルイスはペルタとユメミヤとアンドレアとのんびりしていた。

 ルイスは庭師の手伝いの後で、麻の白いシャツに茶色の皮製ズボンにブーツ、ペルタ達は白いブラウスにコルセットワンピースにブーツ、牧歌的な格好だった。


「アレス様はさっさと帰ってしまったわね」


 体を横たえたペルタが言った。


「昨日はあんなに狼狽(うろた)えて、帰ったらほっとしてたのに。もう会いたくなったの?」


 ルイスは苦笑いで言った。アレスを思い出しても、もう頬は(うず)かなかった。


「お会いしてしまったが最後、抵抗できないんだから」


 アンドレアが力なく笑った。


「ルイス君が説得してくれたおかげで、ようやく帰っていただいたのですよ」


 ユメミヤが叱るように言った。


「わ、わかってるわよ」


 ペルタは引き下がって、頬杖をついた。


「ジャスパー君もすぐ帰っちゃって、残念だったわねぇ」


 ペルタの感想に、今度はユメミヤとアンドレアはうなずいた。


「城中の女の人から、王子様に勧誘されればね」


 ルイスは膝を抱えて座り、上手く守ってやれなかったことを残念に思った。


「『僕はまだ未熟者です。出直してきます』って、わざわざ家に帰って出直さなくたってね。オトギの国の入り口からでいいのに」

「次はいつ会えることか」


 ペルタとアンドレアは遠くに目を向けた。


「おっとりした優しい顔で、育ちもよくて、王子様に相応しい感じだったわね」

「オトギの国を冒険して、強くなってくれたら完璧ね!」


 キャッキャしているペルタとアンドレアを横目に、ルイスは立ち上がった。


「僕はこの辺で失礼するよ」


 立ち去るルイスを、ペルタとアンドレアは無言で見送り、ユメミヤを見た。


「ついていかないの?」


 ルイスの後ろ姿を見送っていたユメミヤは、ふたりの問いかけにハッとした。

 うつ向いたユメミヤに、ペルタは首を横に振った。


「お城にいる間に楽しい思い出をつくるんでしょ?  散歩くらい遠慮しなくても。遠慮と言えば、アンドレアはどうして客間に来ないの?」


 アンドレアまでうつ向いた。


「だって、アンドリューには兄妹認定されたし」

「諦めが早すぎるわよっ」


 アンドレアが言い終わる前に、ペルタがキッとなって叱った。


「貴女ほど、しぶとい女になれたらね」


 アンドレアはペルタを冷静に見つめて、ユメミヤがうなずいた。ペルタは体を起こした。


「なりなさいよっ。私達は今、夢にまで見たオトギの国にいるのよ?  ここでしぶとく生きずに、どこで生きるの!」


 ペルタはこぶしを振って訴えた。


「ペルタさんは、本当に生き生きしていますね。よほどオトギの国に来たかったんですね」


 ユメミヤが微笑み、ペルタも笑みを返した。


「ペルタさんは、どこのお生まれなのですか?」

「どこで生まれたかわからないの。親が冒険好きで、小さい頃はいつも知らない国の知らない場所で、体が隠れるくらいの盾を持たされて『ここで待機!』と言われたら、親が戻ってくるまでじっと待っていたわ」

「よく無事だったね」

「安全な場所だったんでしょうけど、私は置いていかれるのが嫌だった。だから、そんな暮らしから逃げたくなった。それで、オトギの国の王子様と結婚して、お城で幸せに暮らしたいと思うようになったの」


 ペルタは空を見て、瞳をキラキラさせたが、すぐに深刻な顔に戻った。


「ママには『王子様? ひとりで冒険できるかしら?  軟弱な男と結婚したら大変よ』と笑われたわ」

「ママは王子様のこと、なにも知らなかったのね。王子様はひとりで冒険くらいできるよ!」


 アンドレアが必死に言った。


「そうよね!  ママは、お供や護衛の勇者を連れた王子様しか見たことがないって言ってたけど、ブロウ様もシュヴァルツ様もロッド君もみんな、お城に住む前はオトギの国をひとりで冒険してるもの。孤独で過酷な冒険の果てに王子様になるのよ!」


 そこでペルタはあることに思い当たった。


「ルイス君は私とアンドリューが居るけど、居なくても冒険できるわよ!」


 アンドレアとユメミヤも力強くうなずいた。


「パパには『お城暮らし?三日で飽きるぞ』」

「飽きないよ!」

「飽きません!」

「そうでしょ?  パパはお城に住んだことがないのよ。なのに『お城なんて所詮デカイ家なんだ。家にずっと居たら退屈だろ? お城に居ても退屈だぞ。だけど、オトギの国のお城は狙われるから、おちおち留守にも出来ない。冒険に行けないぞ!』と反対されたわ」


 3人はやれやれと、首を横に振った。


「パパとママとは何度も喧嘩したわ。それで、奇石が出た次の日にオトギの国のゲートに連れて行かれて『ここでお別れよ。私達は冒険に行くわね』『王子様と結婚してニュースになるのを待ってるぞ!』⋯⋯パパとママとはそれっきり会ってないわ」

「そんな⋯⋯」

「本当に捨てられていたなんて」


 ユメミヤとアンドレアはペルタの肩に手を置いて慰めた。


「奇石が出てから、オトギの国に置いていってくれただけ良心的よね。両親だけにね」


 ペルタはフッと笑った。


「それで、私は奇石と冒険に出る時の盾とリュックと少しのお金、それだけでオトギの国の冒険を始めたの!」

「いきなり、一人立ちの時が⋯⋯」

「野生動物みたいね⋯⋯」


 ユメミヤとアンドレアは急展開に呟いた。


「野性的な暮らしなんてもう嫌よ!  だけど、結局オトギの国を冒険してる⋯⋯自分だけの王子様が見つからないんだもの」


 3人は視線を落として、小さくため息をついた。


「ユメミヤは自分の国から、ひとりで来たんでしょ? 凄いわね」


 ペルタはユメミヤに笑いかけた。


「お金と引き換えにされそうになって、逃げて来たのよね?  私よりずっと壮絶な過去だわ」

「イクサの国は、怖いところね」


 ユメミヤは目を閉じて胸を押さえた。


「はい。義理の兄、姉の夫が成り上がるためにお金が必要で、手段を選ばなかったのです。姉は普段は兄に逆らえない人ですが、この時ばかりはこっそり逃がしてくれました。母がお金を持たせてくれて、それでなんとか」

「恐ろしいお兄様。逃げてよかったわね」


 黙ったペルタをユメミヤはしばし見つめた。


「ペルタさんに見向きもされないとは⋯⋯」


 ユメミヤは義兄を思い、悲しげな顔をした。


「さすがにヤバすぎるよ。無事オトギの国に来れてよかったね」


 アンドレアが言って、ペルタがうんうんとうなずいた。


「はい。母と姉が気がかりですが、今の私ではなにもできません。王子様と結婚したら、お城に呼んであげたいです」


 ユメミヤは自分の大胆な発言に、赤くなった頬に両手を当てた。


「素晴らしい夢ね。応援するわ!  ユメミヤと王子様の取り合いにならなければいいけど」

「私もペルタさんを応援しています」


 ふたりは少し不安な顔を見合わせた。


「ふたりは凄い過去があるね。私はホウの国の生まれで、普通の家で育ったからなにもないよ」


 アンドレアが少し羨ましそうに言った。


「でも、そういう普通の子も侮れないわ。普通の暮らしからのシンデレラストーリー。以外によく聞くじゃない?」


 ペルタの意見に、アンドレアは不敵にうなずいた。


「オトギの国に来たから、後は王子様とお近づきになるきっかけだけ」

「ふたりきりでね」

「それが難しいんだよね」


 ペルタとアンドレアは肩を落とした。


「きっかけと言えば、私は絵本やアニメで王子様を知ったけど、ふたりはどこで知ったの?」


 アンドレアが聞いた。


「私も絵本やアニメよ。お婆ちゃんからオトギの国の話を聞いたりもしたわ」

「私も祖母から聞きました。なぜ知っていたのかはわからりませんが、話しを聞く度にオトギの国に憧れが募って⋯⋯」

「きっと、お婆ちゃん達も王子様に憧れていたのよ」


 ペルタはカッと目を見開き、胸の前でこぶしに力を込めた。


「私達はなんとしても、おばぁちゃんになる前に王子様と結婚してお城で暮らすのよ!」


 ユメミヤとアンドレアもこぶしに力を込めた。


 少し離れたところからその場面を目撃したルイスは、幸運を祈りつつそっと引き返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ