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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第5章

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第98話 アレス王子再び2

 セバスチャンを見つけたルイスは、さっきの勢いで自分の考えを話した。セバスチャンは折れてくれて、ルイスを応接間に入れてくれた。広い応接間には調度品が並び、話し合いのテーブルと長イスから死角になる場所にルイスは隠れた。カームとアレスの話し合いだけで、城を手放さずに済めばそれでよかった。


 しばし待機していると、深刻な顔でカーム王子が、そして、アレス王子が入って来た。

 アレスは初めて会った時と変わらなかった。金の短髪、端正な顔の強い目つきと不敵な笑み、俊敏(しゅんびん)そうな体に白い仕立てのいいドレスシャツにズボンと革靴を身に付けていた。

 カームも長い金髪に同じような姿だったが、ルイスにはふたりが白と黒ほど違って見えた。


 アレスは長イスに座ると、投げ出した足を優雅に組んだ。


「話はすでに聞いていると思うが、改めて俺から言おう。この城を明け渡してほしい」


 アレスは向かいに座るカームに、優しい笑みを見せて切り出した。ルイスは耳をすませて目をこらした。カームはビビっているようには見えないが、悩ましげな顔だけに受け身に見えた。


「この近くの森の中に、使われていない城がある。移るのに、丁度いいだろう」


 アレスの提案に、カームとルイスは目を見開いた。アレスの言っている城とは、アンドリューとタリスマンが以前調査に向かった城ではないかとルイスは直感した。あの城は、とてもこの城の大所帯が移れる大きさではなかった。


「女が入りきらないなら、俺が何人か引き受けてやろう」


 アレスはカームの驚きも気にしなかった。

 ルイスは思わず首を横に振った。これ以上、アレスにカームを苦しめさせる気はなかった。


「そうは行きませんよ!」


 ルイスは跳躍するように死角から出て、王子達の前に仁王立ちした。カームとアレスはルイスに長く釘つけになった。


「またお前か!」


 アレスが驚きとあきれの混じった顔で、ルイスを上から下まで見た。


「覚えていてくれたんですね」


 ルイスは冷静な態度でアレスを見返した。


「⋯⋯お前のような、珍妙なヤツは忘れられない」


 アレスは長イスにもたれて笑った。ルイスは冷静でいるために、フウと息をついた。アレスは黒いワイシャツに黒いズボンと革靴姿で立ちはだかるルイスを、改めてジロリと眺めた。


「中身は成長していないようだな」


 見た目は成長して見えるのだなと、ルイスは前向きに受け取った。


「アレス王子様がこの城を手に入れるのは、反対させていただきます! お帰りください」


 ルイスが決然と言うと、アレスだけでなく、カームもこわばった顔で身を乗り出した。


「どうしてもお城がほしいなら⋯⋯森の中に、丁度使われていない城があります。すみやかにそちらにお引っ越しください」


 ルイスは冷酷な目つきで提案した。


「なっ⋯⋯貴様、無礼な!」


 アレスはルイスに大股で近づくと、首を掴んできた。ルイスは全身から力が抜けたが、冷静にアレスをにらみかえした。


「⋯⋯僕が王を目指さないこと、よかったと思ってほしいですね⋯⋯」

「なんだと!?」


 ルイスはアレスに突き飛ばされたが、すぐに立ち上がって向かいあった。カームがルイスを庇おうと近づいてきたので、ルイスはふたりから素早く離れた。そして、怒れるアレスに向かい合った。


「僕は王子になります。ですが、貴方がこの城を諦めないなら、王を目指して貴方と戦います! それで決着をつけましょう! 丁度この国を『ドラゴニア王国』にしたいと思っていたところです」


 ルイスはアレスを見据えて決然と宣言した。


「ドラゴ?」


 アレスが驚きの呟きをもらした。カームも驚いた顔でルイスを見つめた。ふたりとも、すでに国名まで決めていることに驚いたのかもしれないと思い、ルイスは可笑しさに微笑んだ。


 アレスは長くルイスを見つめて、その間に冷静さを取り戻して笑った。


「まだ、王子にもなっていない者が、大きなことを言うものだな」


 ルイスはハッと目を見開いて、それから視線をアレスからそらせた。白い顔になったのを見て、アレスはいつものように不敵に笑った。


「お前のような者と、城ひとつを巡って争うのはつまらない」


 アレスは楽しさに興奮した瞳で、ルイスを見下した。


「⋯⋯お前が王になれるか⋯⋯」


 アレスは天井を見上げてしばし黙った。


「いや、まずは、王子になれるか見ていてやろう」


 指を振って、ルイスに言い聞かせるように言った。


「それから俺の先であれ後であれ、お前が王になったら。祝福してやってもいいぞ」


 全く深刻に(とら)えずに笑いながら扉に向かうアレスを、ルイスは見つめ続けた。


 音を立てて扉が閉められてアレスは去った。ルイスは握りこぶしに力を込めた。


「僕は王様にはならない。王子様になるんだ」


 惑わされないように呟いた。そこへ、カームが近づいて来て、ふたりはしばし視線を交わした。


「ルイス君、なぜあんなところに?」


 カームはルイスの潜んでいた場所を見た。ルイスは前回のアレスとのことを話した。


「その時は、やられっぱなしだったから。今回は上手くやりたかったんです」

「リベンジですか」


 王子様にあるまじき行為だったかと、ルイスは過ちにぞっとした。


「ごめんなさい」

「⋯⋯もうしないことです。生きた心地がしませんでしたよ」


 カームの心配に満ちた瞳に見つめられて、ルイスはこれっきりにしようと誓った。


「しかし、礼を言わせてください。ありがとう」


 カームがルイスを胸に抱き締めた。ルイスは喜びと安堵を感じた。


 そこへ、セバスチャンが応接室に入って来た。


「アレス王子様は、お帰りになりました。城は他を当たると」


 ルイスは城が守られた喜びを実感した。セバスチャンが続けた。


「言っておくが、この辺の小さな城ではないぞと、おっしゃっていました」


 それを聞いて、ルイスとカームは顔を見合わせて笑った。そして、3人で安堵の笑顔を交わした。


 客間に戻ったルイスを、一同が立って出迎えた。


「アレス王子は諦めて、帰ってくれました!」


 ルイスは笑顔で告げて、一同は喜びの歓声を上げた。ひとしきり喜びを分かち合うと、ルイスはアンドリューに小声で報告した。


「また敵対宣言しちゃいました」

「なぜだ? ルイス」


 アンドリューがルイスの肩を掴み、震える小声で聞いた。


「後方支援じゃありませんよ。王になるって言っちゃいました」

「王だと!?  お前は王子様になるんだろ?」


 アンドリューの叫びに一同が驚愕して、なぜだとルイスに聞いた。


「凄く怒らせてしまったから、王座争いで決着をつけるしかないと思ったんです。それに、アレス王子が王になったら、僕が無事に王子になれるかわからないと思って。笑われたから、本気にされたかは、わかりません」


 ルイスは一同を安心させるように手を振った。


「みなさん、ルイスは平和主義者なんです」


 アンドリューが片手を上げて言った。


「ルイス、お前こそ王に相応しい!  俺が王になるのはお前の後でいいぞ」


 力無く言うタリスマンに、ルイスは慌てた。


「困りますよ!  僕は王にはなれない」


 後ずさり、一同に向かって言った。


「みなさん、僕は王にはなりません。今まで通り、王子を目指します!」


 一同は目を見開き、ルイスを見つめた。


「おお!」


 アンドリューが感嘆の声を上げて、ほっと肩の力を抜いて手を叩き、一同が拍手を送った。


「ありがとうございます!」


 ルイスはほっとして、笑顔を見せた。


「もしも、アレス王子と会ってその話になったら、そう言っておくよ」


 ブロウの言葉に、シュヴァルツもうなずいた。


「お願いします」


 ルイスは先輩王子達にお辞儀した。


「もしも、王になる時は協力するぜ」


 ロッドが愉快そうに言った。


「私も、協力します」


 ユメミヤも両手に握りこぶしを作って、笑顔で言った。


「ありがとう。でも、できれば、王子様になる時に協力してほしいな」


 ルイスは今さらながら動揺に震えて、もつれる舌に苦労しながら言ったので一同笑った。


 早い鼓動と震えを抑えようと胸に手を当てたルイスは、ブローチに気づいてペルタのそばに行った。


「これがあって、心強かったよ」


 ペルタは笑顔でルイスを抱き締めた。


「もしも、アレス王子に敵だと思われて狙われることになっても、ついてきてくれるよね?」


 ルイスはペルタとアンドリューに聞いた。


「王子様に追われるなんて、本望よ」


 ペルタが覚悟の笑みで、キッパリと答えた。


「追いかけてくるのは、アレス王子の兵士達だろうがな」


 アンドリューが言って、ルイスの頭を優しく強く撫でて笑い、ルイスも笑った。


 その夜、城が守られたお祝いの後、城は安らかな眠りの静寂に包まれた。ルイスは机に向かい、キャロルへの手紙に今日のことを書いた。

 王子様になるから安心してほしいと結び、


「王を目指すなんて、大胆なことを言ったな」

 

 笑いが止まらなかった。

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