第88.5話 夜会2
カームとテオドールとゲオルグが話していた。
ルイスは少し近づき、パーティーの主催、カーム王子を見てまずぼうっとなった。
男の人なのに縦巻きの長い金髪か似合っている。全身黒が基調なのに、キラキラして見えた。
同じ人間とは思えないなと、ルイスはぼんやり思いながら隣のテオドールに視線を移してまたぼうっとなった。
肩に流れるようなプラチナブロンドに、モデルだからだろうかどこか作り物のような完璧な顔。あまり接したことがないせいか、別世界の人のように見えた。それでも、王子様の格好をしている姿はレアなんだろうなと、ルイスはしっかりと目に焼き付けておいた。
そして、隣に立つゲオルグに目を移した。黒髪を軽く後ろにかきあげて、キリリとした顔つきがいつもより際立ってい見えた。王子様の格好もよく似合っていて、強そうな王子様という感じだった。
ルイスはゲオルグまで遠くに感じて、三人を横目に見つつ通り過ぎた。
その時、三人のグループの会話が聞こえた。
「こんなお城は、他にありません」
「もっと増えてくれたらいいのに」
お姫様達がルイスに流し目をくれた。ルイスは気づかない振りで、なるべく自然に歩いた。
次に、ルイスは長椅子に座るペルタとアンドレアとユメミヤを見つけた。三人にはいつも通り近づけてほっとした。
「料理食べないの?」
三人はさっきのルイスのようにぼうっとしていた。
真ん中に座るペルタが答えた。
「胸がいっぱいで、食べられないの」
わかるよと、ルイスはうなずいた。
周りの女性陣も、王子様と食べている人以外は長椅子やバルコニーでぼうっとしてなにも食べていなかった。
「でも、後でお腹すくんじゃない?」
現実的なルイスに、三人は困った顔をした。
「すくでしょうね。真夜中くらいになると」
ペルタは思わずお腹を押さえた。
「食べに行こうよ。凄く美味しいよ!」
「行きます!」
ユメミヤが真っ先に答えて、ルイスの隣に立った。
「私も行きます。邪魔はしませんから」
アンドレアがニヤニヤして、ユメミヤの頬を赤くさせた。
四人は料理やデザートをもう一度楽しんだ。
「アンドリューは食べないのかしら?」
フィンガーフードを皿に取っていたペルタが、扉の方を見た。
「取り分けておこうか?」
ルイスも気になって、少なくなった料理を見回した。
それを聞きつけたカームが、近づいてきてニッコリした。
「大丈夫ですよ。アンドリューさんの分は食堂に用意してあります。コックさん達と食べているでしょう」
「よかったです」
ルイス達はほっとして、デザートも楽しんだ。
王子様達も一緒に親睦を深めていった。
お腹いっぱい食べたペルタ達三人を長椅子まで送ると、ルイスは一息つくためにバルコニーに出た。
そこへ、ロッドが来た。
「お姫様は、こんなお城をもっと作ってほしいそうだよ」
「⋯⋯先輩達に、頑張ってもらうしかないな」
「シュヴァルツさんが作ったら、受け継がなきゃね」
「城を出て一人立ちする、いい機会だ」
ルイスのからかいに、ロッドはさらりと答えた。ふたりは並んで庭や星空を眺めた。
「城のパーティーに出てるなんて、信じられないよ」
「そうだな⋯⋯故郷の彼女のおかげだな」
「そうだね。ここに居たら、喜ぶだろうな」
「忘れてるんじゃないかと思ったぜ。あの子と浮気するなよ」
「するわけないだろ」
ルイスは急いで否定してから、小さな声で続けた。
「ユメミヤのこと、ロッドになら任せられるよ。王子様を探しているんだ」
「⋯⋯前にも、眠り姫を俺に任せようとしたな。誰も彼も俺に任せるなよ」
ロッドは冷静な眼差しで釘をさした。
「ごめん。適当な気持ちで言ってるんじゃないんだ」
「それならいいけど、言ったろ? 俺はレア中のレアなんだよ」
ルイスはユメミヤでも無理だろうかと思った。ロッドは真顔で腕を組んだ。
「冗談だよ。今はお姫様のことまで、考える余裕がないんだ。同じだろ?」
「うん、だけど、立食パーティーの次は、いよいよ舞踏会かな?」
「舞踏会なんか、夜の0時まで躍りまくるんだろ? 全く、大変だな」
「王子様は偉いね」
ふたりは他人事のように言って、お姫様達に囲まれる王子様達を眺めた。
デザートも済んだ頃、城の主カームの挨拶で、夜会はなごやかに終わった。王子達は広間を出る姫達を見送った。
扉が閉められると、ルイスはほっとしてガックリと膝をついた。王子達の褒め言葉をうけて、ルイスは達成感に満ちた笑みを浮かべた。




