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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第5章

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第87話 夜会の支度

 城中にパーティーの知らせが渡り、ペルタ達は早速ドレスを選んだ。


 広い衣装部屋には、オトギの国のドレスが並んでいた。ドレスは同じ色でも、生地の質感、リボンやレースの付け方で個性が出ていた。


 ペルタとユメミヤとアンドレアは、色違いを着ることにした。


「私は赤にしたいわ」


 ペルタの願いをふたりは承諾した。


「私は控えめな色で、白⋯⋯はドレスだと目立ちますね。青か、灰色か」


 ユメミヤが段々逃げ腰になって言った。


「灰色だなんて。せっかくのパーティーに、灰かぶりのままみたいになるわ! こんな時に遠慮すると、後悔するわよ」


 ペルタに恐い顔で言われて、ユメミヤはハッとなった。


「でも、灰色のドレスはあるわよ」


 アンドレアがユメミヤにドレスを当てた。


「似合わないわね。灰色は大人向きね」


 ユメミヤが選ぶと、アンドレアが言った。


「私は心が落ち着かなくて」


 心の状態で姿を変えられるアンドレアは、幼い美少女になったり、大人の美女になったりころころ変貌した。アンドレアはペルタに言われて深呼吸した。


「心は決まった。こういう時はやっぱり、本当の自分でいかないとね」


 アンドレアの決意に、ペルタとユメミヤはうんうんとうなずいた。


 三人は支度部屋に移動して、ドレスを着はじめた。ペルタとアンドレアが、ユメミヤにせっせとドレスを着せた。


「ありがとうございます。私も覚えないと」

「覚えれば、ひとりで着れるわよ。お姫様になってお城で暮らすことになっても、メイドは居ないかもしれないからね⋯⋯」

「オトギの国でメイドになるなんて、絶対王子様を狙ってるよ!」


 ペルタとアンドレアの話を、ユメミヤは真剣に聞いていた。ペルタとアンドレアが自分で着付けをはじめた。


「魔法使いのおばあさんが居てくれればね」


 ペルタが言った時、扉が開いて、小柄なおばあさんが入ってきた。三人がビックリして見ていると、おばあさんはニッコリした。


「お城に泊めてもらっているお礼に、ドレスを着るのを手伝うことにしたのよ」


 おばあさんは手作業だったが、みんな有り難く世話になった。


 三人は次に、小物部屋で靴を選んだ。


「見て、ガラスの靴よ!」


 白い箱を開けたアンドレアが驚愕して、ガラスの靴をそっと台においた。吸い寄せられるように、ペルタが足を入れてみた。


「くっ、入らないわ!」

「⋯⋯私も入りません!」

「これじゃ、意地悪なお姉さんの立場だわ!」


 ペルタとユメミヤは抱き合って嘆いた。


「ユメミヤが無理なら、私も無理ね」


 アンドレアは一応試したが入らなかった。


「なんて小さい靴でしょう」

「今日が舞踏会じゃなくてよかったね」

「身長を変えられる、アンドレアの勝ちだもんね」


 ペルタの仏頂面に、アンドレアは得意げに微笑んだ。部屋のみんながガラスの靴を試したが誰も履けず、みんなほっとした。三人は綺麗な靴を選んだ。

 次にアクセサリーを選んだ。特別に金庫から出されたものもあった。


 三人はまず首飾りを選んだ。


「アクセサリーまで派手だと、けばけばしくなるね」


 アンドレアはシンプルなペンダントを手にした。横でペルタが四角い箱を開けた。


「見て、これは本物のルビーかしら?」


 箱の中には、金鎖にハート型の赤い宝石がついたペンダントが入っていた。


「レッドダイヤかもしれない!」

「青いダイヤは不幸を呼ぶけど、赤はどうかしら? 幸せを呼ぶかも⋯⋯」


 ペルタはペンダントをつけて鏡を見たが、あまりの豪華さに怖じ気づいてすぐに外した。アンドレアとユメミヤも続いた。


「これで、揃って幸せになれるかもね」


 三人は笑い合い、ペルタはペンダントを箱に戻した。

 アクセサリーを選んだ三人は、自分達の部屋で髪をセットした。ペルタはコテを使って髪を巻き、アンドレアはすでに巻いてある髪をチェックした。


「ユメミヤ、髪飾りをつけたら? これはどう?」


 髪を巻かないユメミヤに、ペルタが赤いリボンのカチューシャをつけた。ユメミヤは姿見でカチューシャをじっと見た。


「可愛いよ。年相応って感じで」

「いつも落ち着いてて大人びて見えるけど、やっぱり可愛い物が似合うわよ」


 ユメミヤは頬に両手を当てて、ふたりに笑顔を見せた。三人は次に薄化粧をした。


「さぁ支度はできたわ」


 ペルタが気合いを入れるように、握りこぶしを胸にかざした。


「マナーの確認をしましょう。まずは王子様への、お辞儀の仕方」


 アンドレアもこぶしを振って言った。


「王子様⋯⋯」


 ユメミヤは高鳴りはじめた胸をおさえた。


 その頃、ルイスも自分の部屋で支度していた。

 セバスチャンが持ってきてくれた服は、ドレスシャツに白のベストとズボンに革靴と着なれたものだった。

 しかし、ベストは金の刺繍がされて、カフリンクスや|ボタンは、金と宝石をあしらっていて緊張した。白い蝶ネクタイもつけたが、細いリボンを蝶結びにしたもので、あまり気にならなかった。

 支度が済み、ルイスはセバスチャンに礼を言って見送った。それから鏡を見て、顎までまっすぐ伸ばした髪を整えた。身支度が済むと他の人が気になって、廊下を見たが誰もいなかった。


 イスに座って気持ちを落ち着かせていると、ノックがされた。


「どうぞ」


 ルイスが開けると、ペルタが立って居た。


「お時間、大丈夫かしら?」

「大丈夫、入って」


 改まったペルタに、ルイスは笑いかけて部屋に入れた。


「ルイス君、素敵よ!」


 ペルタがルイスを眺めて、目を輝かせた。


「ありがとう、照れるな」

「私はどうかしら? この格好」


 ルイスはペルタのドレス姿を眺めた。

 ペルタは長い黒髪を綺麗に縦巻きにして、スイートハートネックにパフスリーブの真紅のドレスを着ていた。スカートには自然な波立ち(ドレープ)があり裾の広がりは控えめだったが、薔薇の花びらのような美しさと可愛さのあるドレスだった。


「凄いよ! おとぎ話のお姫様だ!」


 ルイスは前のめりになって誉め讃えた。


「最高の褒め言葉よ! ありがとう!」


 ペルタは頬を赤く染めて笑った。ルイスも喜んでもらえて、満足の笑みを浮かべた。


「ルイス君に一番に見せたかったの。ドレスを着る勇気をくれたから、お礼の気持ちよ」


 ペルタはスカートの両端を摘まんでお辞儀した。


「凄く、伝わったよ」


 ルイスは改まったお礼にドキドキしながら答えた。ペルタにドキドキするのはおかしいなと思ったが、美しい変貌は嬉しかった。


「さて、王子様達のところに行かなくちゃ。一番反応のいい王子様は誰かしら?」


 ペルタは早くも扉に目を向けて、スカートをさらに持ち上げた。ルイスはドキドキも消えて後に続いた。


「ドレスの中に、鳥かごみたいなのはつけてるの?」


 廊下を歩きながら、ルイスはドレスに目を奪われていた。


「スカート部分をふっくらさせるフープのことね。つけてないわ。よく知ってるわね」

「お姫様のことも、勉強しなければいけないからね」


 実際は王子を目指す前に、キャロルが見せた本の知識だった。


「偉いですわ。だけど、お姫様のドレスの中を気にするなんて、いけませんわ。しかも廊下で!」


 ペルタがニヤリと笑いかけ、ルイスは慌てた。


「そういうつもりじゃないよ! 鳥かごみたいなのをつけてるのが、面白いと思っただけで」

「わかってるわよ。だけど、他のお姫様に聞いていたら、勘違いされていたわよ」

「だから、ペルたんに聞いたんだよ。勘違いの心配がないからね」


 最早、姉のように思っているペルタに、ルイスはニヤリと笑い返した。


「そうね。ドレスについては夜がふけて、ふたりきりになってから聞くのよ。フフ」

「聞かないよ!」


 ペルタのアドバイスから逃げるように、ルイスは急いで先を歩いた。


 パーティー会場の大広間の前でふたりは、アンドリューにあった。


 警備を引き受けたアンドリューは、いつもより鋭い顔つきだった。


「アンドリューまで、いつもと違うじゃない」


 アンドリューはいつもの黒革の上下を着て、外は濃紺、中は赤のマントに、銀の肩当てとベルトをつけていた。


「まさしく、お城を守る騎士のようよ!」

「カッコいいよ!」


 ペルタが満足そうにアンドリューに笑いかけ、ルイスは目を丸くした。


「ありがとう」


 アンドリューはこそばゆいと言うような笑顔で、ふたりに軽くお辞儀した。


「しかし、こういう時だけだぞ。このマントは、絶縁マントではないからな」

「つれないこと言わないで、特注してよ。そして、どう? 私は?」


 ペルタがその場でゆっくりと回って見せた。


「⋯⋯とても、きらびやかだ。似合っているぞ」


 ルイスにジェスチャーで急かされて、アンドリューはぎこちない笑顔で言った。ルイスとペルタはうーんと考えこんだ。


「もっとはっきり」

「さぁ王子様のところへ行くんだ。俺も見回りに行ってくる」


 ペルタが言いきる前に、アンドリューが言った。


「アンドリューさん、見回りありがとう」


 ルイスは胸に片手を当て、笑顔を向けた。ペルタもお姫様の礼をした。


「俺に丁度いい役目だ。ルイス、しっかり王子のすることを見ておくのだぞ」

「はい」

「アンドリュー、なるべく、お城の中もぐるぐる見回るのよ」

「ああ、今のアンドリューさんを見たら、女の人達は喜ぶね」

「見せ物ではないぞ」


 アンドリューはニヤニヤするふたりに言って、さっさと見回りに向かった。アンドリューを見送ると、大広間からロッドが出てきた。


「遅かったな。迎えに行くとこだった」


 ロッドはミディアムヘアの黒髪を片側オールバックにして、服装はルイスと同じで黒だった。


「ロッド君、素敵よ! やっぱり王子様だったのね!」

「疑ってたの?」


 ペルタの褒め言葉に、ロッドはニヤッとした。


 ロッドは両手を後ろで組み、胸を張って堂々としていた。ルイスは城の風景に溶け込んでいるロッドに圧倒された。


「さぁ入りなよ。一番乗りだよ」


 ロッドに(いざな)われて、ペルタは喜びに顔を輝かせた。ルイスは深呼吸して心を落ち着かせた。


 両開きの大きな扉は開かれていた。三人は並んで大広間に入った。

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