第7.5話 真の仲間
「アンドリューさんの武器はなんですか?」
ルイスの質問にアンドリューは立ち止まって、片手を上げた。
「少し離れろ、ルイス、フアン。ビリッとするぞ」
ふたりは言われた通り、アンドリューから少し離れた。ペルタが私は?と聞くように、自分を指差している時、アンドリューからバリッという音がした。
「痛!」
同時にペルタが悲鳴を上げて、アンドリューから離れた。
「非道!」
「俺にくっつくとどうなるか、忘れてたんだろう? 思い出させてやったんだ」
体をさすりながら抗議するペルタに、アンドリューは淡々と言った。
「大丈夫ですか?」
ルイスはペルタに走り寄った。
「ありがとう、優しいのね。無傷よ」
ペルタが余裕を見せる様に笑顔になり、姿勢を正して答えた。ルイスはほっとして、アンドリューの方を向いた。
「怒るな、ルイス。ドアノブの静電気より、少し痛い位だ。前にそう言ってたな? ファウスト」
「そう、これは、ただの大人の遊び」
ペルタがわざと色っぽく返答した。ルイスはどっちかというと子供っぽい遊びだなと思った。
「電撃ですか?」
ルイスは気を取り直して、アンドリューに聞いた。
「そうだ。電撃を操れる。俺が奇石に願ったのはこれだ」
「凄いカッコいい!」
興奮して誉めちぎるルイスに、アンドリューも気を良くしてニヤリとした。
「カッコいいが、この力を持ってる奴は少ないようだな。オトギの国では一切見かけん。日常生活に支障がでる可能性が高いからだな。俺は森を歩く中心の独り旅だから、特に気にもしなかったが」
「電化製品、壊してしまいますよね」
ルイスが言った。
「大事な人に、怪我を負わせてしまうかもね」
フアンが言った。
「私とか」
ペルタが言った。
「俺はしっかり気をつけている。電気を通さないマントまで着てるんだ」
アンドリューは動揺を振り払う様に言うと、マントで体を隠した。
「とにかく、女を抱え上げるのも、剣を振るうのも、腕力がいる。体力も。体をしっかり鍛えるんだ!」
「はい!」
まずは体力だと思い、ルイスは力強く歩き出した。
「腕力に体力が欲しい……願い事って色々あるもんね。どれにしよっかな? ねぇ、ルイス君」
ペルタがニコニコして聞いてきた。
「そうですね⋯⋯」
ルイスは空を見上げた。青い空に、ドラゴンに乗っている自分がはっきりと現れた。
「ルイス君は王子様になるのよねぇ?」
ペルタの確認に、ルイスはハッとして立ち止って、急いで答えた。
「そ、そうですよ!」
三人も立ち止まると、ルイスを観察するように見つめてきた。ルイスの肩にフアンがそっと片手をのせて言った。
「ルイス君。本当はなにか、他にも叶えたい願いがあるんじゃないのかな?」
流石は大人の観察眼で、ルイスの心は見透かされてしまった。
「ルイス君。私達は仲間でしょう? 怒らないから、言ってごらんなさい」
ペルタが優しい笑顔を見せた。アンドリューは無言でルイスを見下ろしていた。ルイスはアンドリューから、物凄い圧を感じて顔を見れなかった。
「僕は、実は」
ルイスは目を閉じて、両手のこぶしに力を込めた。
「ドラゴンが好きなんです! 好きで好きでたまらないんです!」
ルイスは力を抜いて、ハーと息を吐いた。封じ込めていた気持ちが発散されて、解放感を味わった。
ルイスのエネルギッシュな告白に、三人は顔を見合せた。ルイスはどんな反応をされてもいいと思った。目を閉じて穏やかな笑みを浮かべていた。
「凄くいいと思う! 素晴らしいわ!」
ペルタが拍手して、いち早く称賛した。
「半分は、ドラゴン目当てで来たか」
アンドリューがズバリ当ててきた。
「はい」
アンドリューの得意気な笑顔に、ルイスは笑い返した。
「そっか、ドラゴンが好きなのか」
フアンはいつもの穏やかな笑顔を見せて、空を見上げた。アンドリューとペルタも釣られて、空を見上げた。
「笑いませんか? 子供っぽいと」
「笑わないよ。ドラゴンはカッコいい。それに、危険な生き物たからね。真剣に向き合わなきゃならない」
「そうですわね!」
「そうだな」
ルイスは一気に三人の仲間を得たと感動した。
「それじゃあ、目指すはドラゴンに乗る王子、でいいかな?」
「はい! でも、ドラゴンには、奇石に頼らないで自力で乗れるようになりたいなって思ってまして」
「自力で!? なんて勇敢なんでしょう! 素晴らしい覚悟ね」
ペルタの称賛にアンドリューもうなずいた。
「しかし、自力で王子様になろうなんて奴は居ないよな」
「会ったことないね」
アンドリューとフアンの会話に、ルイスはほっとした。
「それで、盾はいらないって言ったんだね。ドラゴンに乗るには、手があいてないとね」
「そうなんです。すみません、隠してて」
「なぜ隠してたのかな?」
ペルタが代表して聞いた。
「立場上、欲張るのはどうかと」
途端に、遠慮しなくていいという言葉が飛び交った。
「じゃあ」
ルイスは前を向くと、また両手にこぶしを作って力強く宣言した。
「ドラゴンに乗ります!」
ルイスがそのままの勢いで歩き出すと、三人も笑顔で後に続いた。