第84.5話 圧倒的王子様
次の日、ルイスは改めてテオドールに会いに行こうと、彼の居ると聞いた談話室に向かった。
テオドールは確かに居たが、長イスに座る彼は女性達に囲まれていて、とても近づけなかった。
ルイスはそっと談話室を出た。
廊下を歩くルイスはファルシオンに出会った。ファルシオンは絵の具のついた服を着て、色とりどりのカップケーキの載った皿を持っていた。
「あ、ルイス君。テオドールに会いに行ったの?」
「はい、よくわかりましたね」
「顔を見ればわかるよ。浮かない顔をしてるからね。女の子達に、ちやほやされてるテオドールを見たんだね?」
ファルシオンにニヤリと言い当てられて、ルイスはたじろいだ。
「やっぱりね。全く、みんな、テオドールテオドールって、たまにしか帰って来ないからって」
ファルシオンはすねて、ケーキをかじった。
「まぁこっちは、絵に集中できていいけどね。ルイス君は、気になるよね?」
ルイスはウッと言葉に詰まって、視線を下に向けた。ファルシオンは優しく笑った。
「気になっても仕方ないよ。なんたって、テオドールはスーパーモデルもやってる男だからね」
「スーパーモデル!?」
「そうだよ、本人はただのモデルだって言ってるけど、王子役もこなす男が、ただのモデルなわけないよ! スーパーモデルに決まってるよ⋯⋯」
ルイスは圧倒されてフラフラしそうになりながら、出てもいない額の汗をぬぐった。
「カッコいい歩き方を教えてもらいなよ。モデルウォークってやつ?」
ファルシオンはどこか楽しんでいるように、ルイスには見えた。
「モデルウォーク⋯⋯」
突然の試練に、ルイスは息も絶え絶えになった。
テオドールさんに教えを乞うには、まだまだ勇気がないなとルイスは思った。
その日の午後、ルイスが客間に居ると、ペルタがやって来て言った。
「テオドール様を襲った魔女が、来たわよ!」
「なにっ、もう来たのか!」
アンドリューも驚いて、厳しい顔つきになった。
ルイスはアンドリューとユメミヤと一緒に、ペルタについて行った。ついた先は談話室で、四人は入り口からそっとのぞいた。
テオドールを襲った美女が長イスに座って、隣のカームと見つめあっていた。長い髪は大人しく背中を流れていた。
不思議に思うルイスの肩に、後ろから誰かが優しく触れた。振り向くと、テオドールだった。
「彼女は戻って来ると真っ先に、カーム王子に会いに行ったんだ。そして、あの様子だ。なんだか悔しいのは、気のせいかな?」
「これで、よかったんだと思います」
魔女に変身するような女の人は、カームさんに任せた方がいい気がしてルイスは答えた。
「テオドール様ったら、私が居ますわ!」
ペルタがずいっと肩を寄せてアピールした。
「フフフ」
片腕でペルタを抱き寄せたテオドールに、ルイスとアンドリューは驚愕した。テオドールから底知れぬ余裕を、次元の違いをルイスは確かに感じた。




