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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第5章

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第83話 前向きな王子様達

 シュヴァルツ王子とロッド王子が城にやって来た。

 ロッドとルイスはカーム王子の授業をうけ、シュヴァルツは城の人々に鞭や警棒の使い方のレッスンをした。


 授業とレッスンは時間を合わせて終わらせ、勉強部屋でルイスとロッドとシュヴァルツはお茶をした。三人共、ワイシャツにベストに黒いズボンに革靴と、似たような格好だった。


 シュヴァルツは窓に寄り、熱心に庭を眺めた。その姿を、ルイスははじめて会った時にも見たが、その時とは違い白い横顔には生気があった。


「シュヴァルツさん、元気になってよかったね」


 ルイスは隣のロッドに、こっそりと話しかけた。


「ああ、ここに来る日は、俺より張り切ってる。俺の方が、仕方なくついてきてる感じだな」


 ルイスが忍び笑いすると、シュヴァルツがいぶかしそうにふたりを見た。


「シュヴァルツさん、その髪のひもは女の人にもらったんですか?」


 ルイスは誤魔化すため質問した。シュヴァルツの長い黒髪は、赤い紐でひとつに束ねられていた。シュヴァルツは凛々しい顔つきだが、似合っていた。


「そうだ。なにも深い相手ではない」

「くれたのは、ひとりじゃなさそう」

「城中の女の人からもらってても、驚かないよ」

「全部使うまでは髪が切れないね。律儀だから」


 からかうようなロッドの問いかけに、シュヴァルツは仏頂面になったがうなずいた。


「このタイミングで、切るわけにはいくまい」

「全く、これじゃ告白されただけで、『断るわけにはいくまい』って、付き合いそうだな」


 本気で心配しているロッドの横で、ルイスは忍び笑いした。


「さすがに、それはない」


 シュヴァルツは断言したが、窓に目を戻してため息をついた。自衛のために、自分のレッスンを受ける女性達を思い出し、王子としての使命感が燃えはじめた。


「ああ、見回りに行きたくなった。姫君達を、守ってやらねば」

「えっ」


 ポカンとするロッドとルイスを、シュヴァルツは鋭く見すえた。


「驚いている場合ではない。お前達も来い⋯⋯いや、まだ修業が必要だな。ひとりで見回りできるようになるんだ」

「はい」


 ルイスは素直に返事をしたが、ロッドは側の花瓶から、真っ赤な薔薇を1輪取った。刺は取られていた。


「見回りより、こっちの方が、お姫様達は喜ぶんじゃない? 薔薇を口にくわえてるのを、見せてあげてください」


 ロッドが笑顔でシュヴァルツに薔薇を差し出し、ルイスは手を叩いて笑った。


「凄く喜びますよ! 見せてあげてください」


 にやつくロッドと爆笑するルイスに、シュヴァルツは眉をひそめた。シュヴァルツが薔薇をうけとらないので、ロッドは自分でくわえた。


「笑ったら、ダメだよ!」


 笑うロッドにアドバイスしつつ、ルイスは爆笑した。


「はい、お手本を見せてください」


 ロッドは花瓶から薔薇を取って差し出し、シュヴァルツは困惑に身を揺らした。


「正気か? 俺は今まで、薔薇をくわえた王子など見たことがないぞ」


 ロッドは薔薇を引っ込めて、つまらなそうな顔をした。


「なんだ、ノリが悪いな」


 シュヴァルツは動揺したまま、前髪をかきあげた。


「ノリの問題ではない⋯⋯お前達、俺が手本を見せてやって、それを本当に継承する気か?」

「えっ?」

「どんな時に、薔薇をくわえた姿を見せるのだ? 俺が教えてほしいものだな」

「⋯⋯さぁ」


 余裕を取り戻したシュヴァルツが、意地悪な笑顔を見せてする質問に、ふたりは答えられなかった。そんなふたりに、シュヴァルツは安堵して軽く手を叩いた。


「さあ、それより修業だ。武器の使い方を学ぶ方が、楽しいだろう?」

「はい!」


 ルイスが威勢よく返事をして、三人は部屋を出た。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 鍛錬部屋に移動した三人は、ゲオルグ王子と合流した。

 黒いシャツに黒革のベストにズボンにブーツと見た目は貴公子だが、勇者のように力強いゲオルグを前に、ルイスとロッドは緊張感を高めた。

 戦いの修業は、毎日来れないロッドが来た時は、自然とロッドが中心の内容になった。ロッドは嬉しい反面、大変だった。


 今日のロッドの修業は、人並外れたスピードを保ったまま、シュヴァルツとゲオルグの攻撃を避け、間合いを詰めるというものだった。


 ロッドは攻撃を避けるのは上手かった。なによりシュヴァルツとゲオルグの攻撃スピードより、ロッドのスピードが勝っていた。


 順調に攻撃を避けたロッドだったが、それに気を取られ過ぎてしまい、間合いの詰め方を間違えた。


「あっ!」


 気づいた時には、目の前にゲオルグの体があって、ロッドは急ブレーキをかけたように止まって、ゲオルグの顔を見上げた。ゲオルグも少し驚いた顔をした。


「ロッド、そこで立ち止まってはいけない」


 シュヴァルツが鞭を引っ張り、険しい顔で注意した。


「ゲオルグ王子だから、よかったものの、反応の素早い敵なら攻撃してきていたぞ」

「わかってるよ⋯⋯」


 ロッドは自分も思ったことを指摘されて、シュヴァルツをちらとにらんだ。確かにゲオルグは、剣がロッドに当たらないように手を広げて、体で受け止めるようにしてくれていた。


「ゲオルグさんが敵なら、一発くらってたね」


 見学者のルイスは、ロッドに歩み寄って言った。


 ロッドは言い返えすより、真面目に考えてみた。


「生き物相手だと、近づくのが難しいんだよ」

「⋯⋯機械のドラゴン相手には、上手くやってたよね」


 ドラゴン祭りで、ロッドは機械のドラゴンの体をかけ登り、簡単に胸に短剣を刺した。機械のドラゴンは、本物のように素早く動いていた。


「生き物相手だと、遠慮があるのか?」


 シュヴァルツも考えるように、腕を組んで聞いた。


「はい、下手にぶつかると、ヤバそうだなって」

「下手にぶつかれば、クラッシュ並の惨事かもな」


 ゲオルグも顎に指を当て、考えるように言った。


「お前も手探りだろうが、俺達もこんなスピードの持ち主の修業に付き合うのは初めてだ。少しずつ、テクニックを磨いて行くしかあるまい」

「はい」


 シュヴァルツの意見に、ロッドは素直にうなずいた。


 額の汗を手の甲で拭き、ほっと息をついたロッドは、見学者の立場で楽しそうなルイスを横目で見た。


「全く、お前もやってみろっての」


 ルイスは少しの間、本気で検討してしまった。


「悩ませないでほしいな。僕は、ドラゴンの意見を聞いてから、奇石を使いたいんだよ」

「わかってるよ」


 ぶれないルイスに、ロッドは笑みを見せた。


 鍛錬部屋を出た四人は、仕立て部屋に向かった。


 廊下を歩きながら、ルイスとロッドの後ろで、シュヴァルツとゲオルグは見回りに行く約束を交わした。


「この城は庭も凄いし、シュヴァルツさんはこの城に居る方が、幸せになれそうだね」

「そうだな、いよいよ俺が、城を受け継ぐ日も近いか」

「まだ早い!」


 聞き逃さなかったシュヴァルツの鋭い声に、ふたりはビクリと飛び上がった。

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