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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第5章

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第81話 何人ものお姫様と⋯⋯?

 城に帰りつき、自分の部屋に戻ったルイスを、アンドリューとペルタが取り囲んだ。


「ユメミヤと手を繋ぐとは、どういうことだ!?」


 ルイスの手を指差しながら、アンドリューが厳しく問いつめた。


 ルイスの恋路には下手に口は出さないと言ったが、真面目を貫くアンドリューには我慢できなかった。


 ルイスはアンドリューの激怒にうろたえた。同じくうろたえながら、ペルタが両手でアンドリューを制した。


「ちょっと、手を繋いだくらいで、そんなに興奮しないでよ」

「なにを言っている? 重大な問題だ! お前には、キャロルが居るだろ!?」


 アンドリューに指を突きつけられて、ルイスは電撃をうけたように体を震わせた。そして、ふたりに背を向けると、両手で頭を抱えた。

 最近、キャロルに手紙を書いていないことを、思い出したからだった。


 そんなルイスを見て、アンドリューとペルタは衝撃に歪んだ顔を見合わせた。


「⋯⋯とにかく、王子様にあるまじきことは、しないことだぞ!」


 アンドリューは忠告して、扉に向かって歩いた。その後に続いたペルタは、振り返ってルイスに言った。


「どんなことになっても、私はルイス君の味方よ!」


 アンドリューとペルタは静かに部屋を出た。


 廊下を歩き出したアンドリューを、ペルタが追いかけた。


「どこに行くの?」

「ユメミヤにも、忠告しておかないとな」

「やめてよ!」


 ペルタはマントを引っ張ったが、アンドリューは止まらなかった。ルイスの平和を守る使命感に燃えていた。


 ユメミヤを守る使命感に燃えるペルタは、アンドリューの頬をバチンとぶちのめした。その瞬間、アンドリューの体から一瞬、電流が出た。


「ビッ!」


 放電をうけたペルタは、大の字で飛び上がった。


 互いの攻撃に、ふたりともしばらく動けなかった。


「悪い。攻撃をうけると、勝手に出るのだ」


 頬を押さえたまま、アンドリューがぼそりと言った。


「私こそ、ごめんなさい」


 回復したペルタも謝ったが、まだアンドリューを警戒していた。アンドリューは頬に手を当てたまま言った。


「わかった。もうこれ以上、口は出さない。その代わり、ルイス達に巻き込まれるのは、お前だぞ」

「わかった!」


 ペルタが潔く引き受け、ふたりは客間に戻った。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 窓から夕日を浴びながら、ルイスはイスに座り、机に肘をついて頭を抱えていた。


 キャロルの顔を思い出すと、一緒にユメミヤが現れた。まずいと思った。これ以上、考えたくなかった。いっそ、今すぐドラゴンとひっそり暮らしたくなった。


「冷静になるんだ⋯⋯」


 ルイスはこぶしに力をいれたが、すぐにぐったりと机に突っ伏した。


『王子様にあるまじきことは、しないことだぞ!』というアンドリューの言葉と『どんなことになっても、私はルイス君の味方よ!』というペルタの言葉を思い出し、ルイスは体を起こした。変わらない仲間の存在が、落ち着きを取り戻させた。


 ルイスはレオドラ王子を思い出した。レオドラさんは⋯⋯何人ものお姫様と⋯⋯? そういえば、そんな王子様がこの城にも居たなと、ルイスは立ち上がって部屋を出た。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 ルイスは書斎で、カーム王子を見つけた。


 ワイシャツに茶色のズボン姿で、ゆったりと本を読んでいたカームは、ルイスの深刻な顔を見て、自室に連れていった。


 扉が閉められると、ルイスは立ったまま質問した。


「教えてください。王子様は、何人ものお姫様と、恋人になったり、結婚してもいいんですか?」

「えっ?」


 カームはギクリと肩を震わせて、力強くも美しい顔をひきつらせた。そして、ソファーの金の背もたれに、追いつめられたように寄りかかった。

 動揺するカームを見て、ルイスは初めて、カームに人間らしさと親近感を覚えた。


「前から、思っていたことですが、私の存在はルイス君に悪影響でしたか?」


 何人も恋人や妻が居るカームは、なんとか落ち着いた口調で聞いた。


「悪影響じゃありません。カームさんを尊敬しています」


 だからこそ自分もと思ったが、そこでルイスは、なんでもない服装でも、輝くようなカームに気づき、半歩後ずさった。同じような服装の自分が、カームの影のように見えた。


 なにを考えていたんだ僕はと、ルイスは早くも冷静さを取り戻した。


「そうですね。私としては、ルイス君にはひとりのお姫様と、結ばれて欲しいところですが」


 カームは正直な気持ちをルイスに伝え、天井を見ながら続けた。


「しかし、ルイス君が私と同じ道を行くのも、止めることはできませんね。この国は、言ってしまえば、無法地帯ですから、何人と結ばれても問題はありません」


 思わずカームを見つめるルイスを、カームは真剣な顔で見つめ返した。


「しかし、お互い納得していることが、肝心ですよ。相互理解というもので、私達はお互いを理解しています。多くの女性を愛したい、癒したい、気持ちに応えたい、そんな私を理解してもらっているのです」


 僕には、カームさんみたいな大いなる目標がないなと、ルイスはまた逃げ腰になった。


「だからこそ、私は全員を同じように愛せるのです」


 キャロルとユメミヤを同じように好きだったが、ふたりは自分のことを、好きでいてくれているのかと、ルイスはそこから心配になった。


「もちろん、女性同士も理解し合っています」

「女性同士も?」


 キャロルとユメミヤがふたり揃って、自分の恋人になるのを理解してくれるだろうかと考えた。想像の中のふたりは恐い顔で、それ以上、想像できなかった。


「愛と情熱を持って、ゆっくりと向き合うのです」


 どんなに時間をかけても、僕は何人ものお姫様と結ばれるのは無理だなと思い、ルイスは後ずさった。


「僕には、無理みたいです」

「そうですか⋯⋯」


 カームはほっとした笑顔を見せた。ルイスは敗北を感じながら笑顔を見せた。


「カームさんは凄いですね⋯⋯」

「私が凄いかはわかりませんが、私はルイス君がひとりのお姫様と結ばれること、嬉しく思いますよ。お姫様は、やはりそれを望んでいますからね」


 カームの言い分に、ルイスも納得した。


「僕は正統派王子、ですね」

「そうです⋯⋯応援していますよ」


 ルイスはプライドを取り戻し、異端王子カームはまた動揺に肩を揺らした。


「ありがとうございました、失礼します」


 ルイスはカームの部屋から出で客間に行くと、丁度よくアンドリューとペルタだけが居た。


「僕の彼女はキャロル、ユメミヤは仲間だよ」


 両手を後ろに組んで、力強く宣言するルイスを、アンドリューとペルタは驚きの顔で見つめた。


「現状維持か。そうだ! それでいい!」


 アンドリューが力強く、こぶしをテーブルに当てて言った。


「そうよ! そうね、そうよね⋯⋯」


 ペルタはため息をこらえて、テーブルを見ていた。


「僕は仲間として、ユメミヤを守りたいんだ! 手を握ったのも、だからだよ。それに、ユメミヤには誰かのお姫様になって、幸せになってほしい⋯⋯」


 誰かのと思うと、ルイスの胸は痛んだ。キャロルとユメミヤふたりを、自分のお姫様にしたい思いが、ルイスの胸をまだ締めつけていた。


「そうだ! 偉いぞ!」

「偉いわよ、ひとりのお姫様を愛し続けるなんて!」


 アンドリューとペルタは感動して、決然とした態度のルイスを見つめていた。ふたりの喜びように、ルイスも正しい選択をしたと思った。


「じゃあ、僕は、キャロルに手紙を書くから」


 念を押すように宣言してから、ルイスは扉に近づいてから、ふたりに振り向いた。


「あ、ユメミヤには、僕がどう思ってるかなんて、言わないでほしいな。いつか、自分から言うよ⋯⋯」

「わかった」

「私の口は、固いわ!」


 ルイスはペルタが少し心配だったが、ふたりを信じて客間を出た。


 ルイスを見送ったアンドリューとペルタは、しばらく扉を見つめていた。


 アンドリューはペルタにぶたれた頬を撫でた。


「もう決着したか。殴られ損のようだな⋯⋯」


 アンドリューににらまれて、ペルタは慌てた。


「私だって、電撃をくらったんだから、おあいこでしょ? さっさと決着がついたこと、喜びましょう」


 アンドリューは仏頂面で目を閉じると、イスに深く座り込んだ。ペルタはほっとして、頬杖をついた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 ルイスは宣言通り、すぐに手紙を書きはじめたが、ユメミヤのことは書けなかった。しかし、書いている内に、キャロルへの気持ちをしっかりと思い出せた。


 書き終わって、ルイスは胸の奇石に手を当てた。

 早く王子様になって、お姫様と結婚して、めでたしめでたしになりたいものだなと、心から思った。

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