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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第5章

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第80話 成長

 ルイスとユメミヤが町を回っている間、アンドリューとペルタは役場に居た。

 小綺麗なカウンターに寄って、アンドリューは嵐の被害状況を聞いた。受付の年配の男はアンドリューの顔見知りで、世間話するように教えてくれた。


「町外れの老木がついに倒れたわい。後は、店の看板が飛んだり、目立つ被害はそんなとこだな」

「犯罪は?」

「おかげさまで、なにもなかったよ」


 受付の男は勇者アンドリューに、礼を込めた笑顔を見せた。王子のお膝元の町は、王子や勇者の見回りが活発なため常から平和だった。


「なんですって!? カロスが逃げた?」


 平和な町に安堵したアンドリューの耳に、ペルタの不穏な話が聞こえてきた。


 アンドリューから離れた受付で、ペルタは役場の若い女と話していた。


「どうも、女が手助けしたようです」


 カロスはルイス一行が訪れたドラゴン祭りで、ペルタが出会った男だった。カロスは完璧な美貌の男で、それを使ってペルタや女達を操り、ドラゴン祭りを滅茶苦茶にしようとした罪で、勇者達に捕縛されて牢に入れられていた。

 無法地帯のオトギの国にも牢屋はある。しかし、牢番が常態していないため、一度牢に放り込まれたら、放ったらかしという牢屋だった。逃げ放題だった。


「二度と、カロスが捕まることはないでしょう」


 ペルタがため息とともに呟いた時、アンドリューが側に来て、恐い顔でペルタを見下ろした。


「お前も、カロスを見かけても、なにもせず逃がすのだろうな⋯⋯」


 確認するように聞くアンドリューのマントに、ペルタはしがみついた。


「悔しい! なにもできない自分が!」


 アンドリューに図星をつかれて、ペルタは振り絞るように言った。アンドリューは険しい顔で目を閉じた。


「悔しいのは、俺だ!」


 カロスに操られたペルタに、アンドリューは眠り薬を盛られ、無様に眠りこけるという醜態を演じていた。やられっぱなしのアンドリューは、カロスと彼に騙されたペルタや女達を苦々しく思っていた。


「これに()りたら、せめて王子以外の男に目移りするのは、やめるんだな!」

「無理よ! もしかしたら、森で出会った薄汚い旅人が、実は王子様かもしれないし、町で出会った完璧に美しい男が、実は王子様かもしれない! 王子様は、どこにでも居るのよ!」


 ペルタの主張に、役場の若い女はうんうんと何度もうなずいた。


「全く、王子様とは厄介な生き物だ!」


 アンドリューは苦り切った顔で悪態をついた。


 役場を出たアンドリューとペルタは、時計を確認した。


「まだ、ルイス達が戻るまで、時間があるな」

「ふたりは、どこで買い物してるかしら?」


 アンドリューとペルタはなんとなく、ルイス達の後を追うように、町を歩き出した。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 その頃、ルイスとユメミヤは公園のベンチに座って、木の実のカップケーキを食べていた。

 嵐の後の公園は、小枝が散らばっていたが、水に濡れた木々の葉は、太陽光にきらめいて綺麗だった。


 ルイスとユメミヤは足元に集まった鳩達に、甘酸っぱい木の実やケーキのかけらをわけてやった。そんなほのぼのしているルイスとユメミヤに、ふたりの男が近づいて来た。


 ルイスが警戒の目を向けた時には、鳩を蹴散らすようにして、目の前に立ちふさがった。男達は若く、冒険者風の格好だった。


「あの男はそうは見えなかったが、お前達を見るに、王子と関係があるのは、本当のようだな」


 ルイスはいつもの勇者服だったが、髪も服装も綺麗にしていたし、ユメミヤは真新しいワンピースを着ていた。男達はそんなふたりをよく観察して言った。


 ルイスは男の話しと、酒に赤くなっている顔で、酒場からついて来たのだとわかった。酒場でレオドラは、自分が王子だとでも口走ったのか。


 レオドラさんは、とんでもない者を残して行ったなとルイスは思ったが、酒場に入った自分の軽率さも原因だと悔やんだ。ユメミヤに自分の腕のバリア装置を渡しておけばよかったと、それも悔やんだ。

 ルイスとユメミヤはお互いを守りたい思いで、男達を冷静に見ていた。


 そんなルイスとユメミヤの緊急事態を、男達の背後の木々の陰から、アンドリューとペルタが見ていた。


「一足遅かったな」

「私がふたりを、男達から引き離すわ」


 ペルタがアンドリューに負けず劣らず、勇者の鋭い顔つきで言った。勇者らしい、危機への迅速な反応だった。


「うむ、どうやってだ?」

「ルイス君のお姉さんのフリをするのよ。弟のデートを散々ひやかす姉の登場に、男達があっけにとられている隙に、素早くふたりを逃がすわ!」

「⋯⋯その救出方法だけは、阻止しなければな」

「なによっ⋯⋯大丈夫なの? 男達だけを狙える?」


 アンドリューの電撃なら、ここからでも男達を倒せるが、コントロールの精度をペルタは心配した。


「大丈夫だ、コツコツ修行をつんできた。後ろをとっている内にやる」


 アンドリューは右腕を、男達の後ろ姿に伸ばした。


「いざとなったら、ユメミヤがルイス君を庇ってくれるわ」

「よし⋯⋯ドラッ!」


 アンドリューは握りこぶしに溜めた電撃を、手を開いて解放した。電流は投網(とうあみ)のように、男達に襲いかかった。


「王子様、金目の物をくれないか? さもないと、そっちのおビ!!」


 余裕の男達が、いきなり細かい電流に包まれ、体を痙攣させだしたのを見て、ルイスとユメミヤはアンドリューの電撃だと察した。ユメミヤは体を張ってルイスを電撃から守った。ルイスもそんなユメミヤを守ろうとした。


 結果的に抱き合うふたりの前で、男達は倒れふした。


「大丈夫か! 上手くいったか?」

「絵に描いたような、子悪党の最後だったわね」


 アンドリューとペルタが、ふたりの元に駆けつけてきた。


「アンドリューさん、上手くいったよ!」

「おお、お前達に怪我はないか。やったぞ!」


 笑顔のルイスとユメミヤに安堵して、アンドリューは気絶した男達を、ベンチに座らせて様子を見た。


「脈もある、怪我もない。痺れているだけだな」


 男のひとりは目を覚ましたが、ぼんやりしていた。


「悪いことは、しないことだぞ」


 放心常態の男達にアンドリューは諭すと、ルイス一行は公園を出た。


「ありがとう、アンドリューさん。助かったよ」

「ありがとうございました」

「俺達が来なかったら、どうするつもりだったんだ?」


 アンドリューが解答をチェックしようと聞いた。


「もちろん、隙を見て、アンドリューさん達のところに逃げるつもりだったよ」

「うむ⋯⋯ルイス、お前少し酒くさいぞ?」


 解答に満足したのもつかの間、アンドリューは顔をしかめた。ルイスはギクリとしてすぐに白状した。


「実は、酒場をのぞいてみたんだ。窓からだよ! そうしたらレオドラ王子が居たから、酒場に入って話したんだ」

「レオドラ様!? どこどこ?」


 ペルタが素早い反応を示して、辺りをキョロキョロした。ルイスは思わず笑った。


「レオドラさんは、苦手じゃなかったの?」

「苦手は克服すべきでしょ?」


 ペルタは本当に王子様が好きだなと、ルイスは感心してうなずいた。


「レオドラさんは、もう帰っちゃったよ。ソニーに乗ってね」

「そうか、俺達も帰るか」


 三人は驚きの顔で、アンドリューを見た。


「えっ? 買い物は?」

「お昼ご飯は?」


 今度はアンドリューが、驚きの顔で三人を見た。


「恐い目に遭って、早く帰りたいんじゃないかと思ったが、タフだなお前達は」


 アンドリューも気を変えて、ルイス一行は昼食を食べることにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 ルイス一行は町で1番大きなレストランに入り、白いテーブルクロスのかかった四角いテーブルを囲んだ。

 テーブルには、それぞれの注文した料理と、真ん中にドラゴンの唐揚げがのった大皿と、鳥の丸焼きがのった大皿が置かれていた。


「ユメミヤ、ドラゴンの唐揚げ美味しいよ」

「ドラゴンの唐揚げですか!? た、食べません」


 ルイスの勧めを、ユメミヤは頑なに拒んだ。ドラゴンを愛するルイスに、ドラゴンを食べる姿は見せたくなかった。万が一にも、嫌われる危険のある行為は避けたかった。


「わかるわ、ユメミヤの気持ち。繊細な気づかいが」


 そう言いつつ、ペルタは唐揚げにフォークを突き刺すと、一切遠慮なく食べた。釣られてルイスとアンドリューも食べたが、ユメミヤはやっぱり食べなかった。

 ルイスはそんなユメミヤに、鳥の丸焼きを切り分けた。ユメミヤはそれは素直に食べた。


「鳥の丸焼きは、オトギの国のごちそうだけど、珍しくはないよね」

「いいえ、味つけがイクサの国と違って珍しいです」


 それから、一同自分の注文した料理を食べ始めた。


 ルイスは城の暮らしを忘れようと、大きなハンバーグステーキを注文したのに、いざとなるとフォークとナイフを繊細に使って、行儀よく食べる自分に成長を感じた。

 ルイスだけでなく、一同が姿勢も行儀もよく料理を食べていた。


「ルイス、城での修行の成果が見えるな」


 野性的なステーキを丁寧に切りながら、アンドリューが笑顔で言った。


「ありがとう。みんなも、王族に見えるよ」

「王族は大げさだろう」


 ニヤリとするルイスに、アンドリューも笑った。


「口のまわりが、全然汚れてないわ!」


 トマトソースを絡めたパスタを食べているペルタが、手鏡を見て驚きの声をあげた。


「これなら、お城で食べても大丈夫ね」


 ルイスとアンドリューは、ペルタの成長に感心してうなずいた。


「私も、やっとカチャカチャ音をたてずに、食べられるようになりました」


 ユメミヤも焼きソーセージと茹でたジャガイモにナイフとフォークを使いながら笑顔で言った。


「ユメミヤ、ナイフとフォーク重くない?」


 ルイスは大きなナイフとフォークを見て聞いた。


「はい、城のより少し重いですけど」


 ユメミヤが笑顔で答える横で、ペルタが驚きに身を乗り出した。


「ルイス君?! まさか『お姫様はナイフとフォークより重いものを持てない』なんて、信じてるんじゃないでしょうね? ま、信じてくれてた方が、私は嬉しいけど。素晴らしい王子様が誕生しそうね!」

「さすがにそれは信じるな。荷物持ちにされるだけだぞ」

「忠告、ありがとう⋯⋯」


 勝手なことを言うペルタとアンドリューにあきれるルイスに、ユメミヤが微笑んだ。


「ルイス君を、荷物持ちになんかさせません」

「ありがとう。ユメミヤがお姫様なら、安心だね」


 ルイスの言葉に、ユメミヤは頬を染めて、アンドリューとペルタはギョッとした。


 レストランを出たルイス一行は、買い物をしてから帰路についた。ルイスとユメミヤは手を繋いで帰り道を歩いた。

 アンドリューとペルタは後ろを歩きながら、繋がれた手から目を離せなかった。

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