表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/184

第79話 嵐の後は

 ファルシオン王子のサプライズパーティーの翌日、ルイス達は客間で、朝のお茶の時間を過ごしていた。


「これから、役場に行ってくる」


 お茶を済ませたアンドリューが、厳粛な顔で告げた。


「いってらっしゃい」


 気の抜けた返事をしたペルタを、アンドリューは鋭い目で見た。


「お前も勇者なら、ついてくるんだな。嵐の時は、事件や事故が起きやすい。自分の居る場所でなにが起きているか、役場に行って聞くんだ。情報交換は大事だぞ」

「役場で情報交換する勇者なんて、聞いたことがない!」


 ペルタはルイスとユメミヤに驚きの顔を向けた。


「うんうん、勇者が情報交換するのは普通、役場じゃなくて酒場じゃないかな? アンドリューさんはいくらなんでも、真面目過ぎるよ!」


 騒ぐルイスとペルタに、アンドリューは眉根にしわを寄せた。


「役場の情報のほうが確実だ! 酒場を(あなど)っているわけではないが、ルイスの護衛をしている間は、酒場に行くのは控えたほうがいいだろう」

「そうね、厄介ごとが絶えない場所だもんね」

「お前は、絶対に行くな。厄介を起こす側だからな」

「酒場か、行ってみたいな。いや、行かないよ!」


 ルイスは慌てて、アンドリューの視線に答えた。


「僕もついて行っていいかな? 町で買いたい物があるんだ」

「もちろんだ。そこそこ大きい町だ、欲しい物が買えるといいな」


 ルイスはユメミヤに笑顔を向けた。


「ユメミヤも行かない?」

「えっ」

「オトギの国に来たばかり、だったよね? 町を見てまわるのも、楽しいんじゃないかな? 珍しいお菓子を食べようよ」


 ユメミヤは頬を桃色に染めたが、視線を下に向けた。

 ルイスの誘いに飛びつきたい思いを、片想いで終わらせようという思いが止めていた。ユメミヤは意見を求めて、ペルタの目を見た。


「いいじゃない? みんなで行って、ご飯でも食べて帰りましょうよ」


 ペルタはユメミヤの視線に力強く応えて、立ち上がった。ユメミヤはルイスに笑顔でうなずいた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 まだ雨がりの匂いのする砂利道を、ルイス一行は町に向かって歩いた。


「滑らないようにね」


 砂利に水気があるので、ルイスはユメミヤを気遣って言い、ユメミヤは嬉しそうにうなずいた。


 そんなふたりを、アンドリューとペルタは後ろから見ながら歩いていた。


「王子様のエスコート、羨ましいわ」


 微笑ましいルイスとユメミヤにペルタはフフフと笑い、アンドリューも笑みを浮かべていた。


 町の役場に着くと、ペルタはルイスとユメミヤを追いたてるように、片手を振った。


「私達が役場に居る間、ふたりで町を回ってね」


 アンドリューが懐中時計を出した。


「1時間後に、戻って来てくれ。昼メシを食べよう」

「わかった」


 ルイスは笑顔で答えて、自分も腕時計を確認した。


 アンドリューが注意事項を告げる前に、ルイスとユメミヤは役場の階段を降りて行った。その楽しそうな後ろ姿を、アンドリューとペルタはぼう然と見送った。


 アンドリューが険しい顔で、腕を組んだ。


「キャロルはどうした?」

「ルイス君に聞いてよ⋯⋯」

「下手に口を出して、巻き込まれては困るからな」


 巻き込まれたことがあるのかと、問いかけてくるペルタの瞳を、アンドリューは目を閉じて避けた。


「お前は、キャロルの味方をしないのか?」

「⋯⋯ユメミヤには、ふたりの邪魔をしちゃダメって言っておいたけど」


 ペルタは力なく肩を落として続けた。


「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえと言うから、ユメミヤにしたら、私こそ邪魔者かもね」

「馬に近づかないことだな」


 真剣なアンドリューを、ペルタは力なくにらんだ。


「ルイス君の言うとおり、今日は真面目過ぎるわよ」

「俺は、いつも通りだ」


 力強く断言するアンドリューを気にせず、ペルタは力なく考え込んだ。


「オトギ話の王子様じゃないし、出会う女の子はお姫様ひとり、という訳にはいかないわよね」

「とりあえず、オトギの国という、夢うつつな国名を変えないとな」


 アンドリューは懐から、丸めた国名変更署名用紙を出して、息をはいて肩の力を抜いた。


「下手に関わらないにしても、護衛としては、ついて行くべきだったか」

「大丈夫でしょ、見たところ平和な町だわ」


 ペルタは眼前の景色を見回した。歩道の両側に、1階を店舗にしたレンガの綺麗な家が並び、どこまでも続いていて、人通りも多く賑わっていた。

 ルイスとユメミヤを信じて、アンドリューとペルタは役場に入った。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 人通りの多い道を、ルイスとユメミヤははぐれないように、寄り添って歩いていた。


「武器屋があるかな? 叔母さんの警棒を買いたいんだ。武器屋に売ってるか、わからないけど」

「叔母様に?」

「うん、勇者にならず王子になるお詫びと、お世話になっているお礼に、新しいのを送ろうと思うんだ」

「偉いです」


 ルイスが王子になるための攻防で、叔母から取り上げた警棒はかなり傷んでいた。それで思いついたことだった。


 武器屋を見つけて、ふたりは中に入った。

 広い店内には、剣や盾が魅力的にディスプレイされていて、ルイスの目を惹いた。ルイスがあらぬところで立ち止まっている間に、ユメミヤが警棒を探した。


 警棒も色々な種類があった。ルイスはユメミヤにも振ってもらい、1番使いやすいと思ったのを選んだ。


「ユメミヤも持っていたほうが、いいんじゃない? だけど、警棒を使うには、腕力がいるかな?」


 ルイスはさっき、ユメミヤが警棒を頼りなげに振っていた姿を思い出した。ユメミヤも自信なさそうだった。


「ふたりで旅をしてるのかい? 女の子の武器が警棒ひとつじゃ、なんとも心もとないね」


 通りかかった、店主のおじさんが言った。


「武器は多い方がいいですよね。アンドレアさんも、体中に武器を隠し持ってるって言ってたな。どんな武器がいいか、みんなに聞いてからにしようか?」


 叔母の警棒だけを買い、プレゼント用に包装してもらって、ふたりは武器屋を出た。


「次は、お菓子を探そうか」


 並ぶのは服屋や食べ物屋など、なんの変哲もない店だったが、異国というだけでふたりを魅了した。


「酒場だ! ちょっとだけ、いいかな?」


 ルイスはユメミヤをつれて窓に近寄った。笑い声が聞こえてくる、開いている窓からルイスは中をのぞいた。


 木の造りの明るい中では、いくつかの丸テーブルを囲み、客達が酒を飲んでいた。奥ではアコーディオンを弾いている者が居て、陽気な音楽が聞こえてきた。

 理想通りの風景を、ルイスは夢中で眺めた。


「あれ、レオドラさん?!」


 ルイスは男達の中に、レオドラ王子を見つけた。


「ここに居て」


 ユメミヤに告げると、ルイスは酒場に入った。ユメミヤは入り口の柱にしがみつき、ルイスの後ろ姿から目を離さなかった。


 少年のルイスを誰も気にしなかった。さすが無法地帯だなと思いながら、ルイスは幸せそうにテーブルに突っ伏している男の前に立った。


「レオドラさん? ルイスです!」

「⋯⋯おお! ルイスか!」


 レオドラはルイスの顔を見ると、体を起こした。


 レオドラの手にはしっかりと、ビールのジョッキが握られていて、肩まで伸びた茶髪を乱し、彫りの深い端正な顔も、たくましい体も酒で赤くなっていた。仕立てのいい白シャツに黒いズボンとブーツを履いていて、王子らしい物はそれだけだった。


「君に会いに来たんだぞ。会えてよかった、乾杯!」


 レオドラがジョッキを掲げると、同じテーブルの男達が、事情を知ってか知らずかジョッキを掲げた。


「君の叔母上が、えらくお怒りの電話をかけてきてね。『もう貴方の魔の手まで、伸びているとはね。ルイスは渡さない!』とかなんとか。電話越しでも、俺は恐怖に震えた。まさに、魔女の迫力だったな!」

「カエルにされる前に、飲もう!」


 同じテーブルの男がそう言って、酒場中が「カエルにされる前に飲もう!」の大合唱になった。


「叔母さんは、どういう存在なんだ?」


 客達の悪のりなのか本気なのか判断つかずに、ルイスは呟いた。レオドラが笑った。


「そういうことで、気になって飛んで来たんだ」

「飛んで来たんですか? 叔母さんからの電話って、何日も前のことですよね?」


 叔母がその件で、ルイスのところにやって来たのも、何日も前だった。レオドラのところに抗議の電話をかけたのは、さらに前のはずだった。


「ああ、ここにつくまで、少し寄り道したからな。カーム王子の城も通り越して、酒場に来てしまった」

「通り越さないでください⋯⋯」


 ルイスはさすがにあきれて、突っ込みを入れた。


「心配したのは、本当だぞ?」

「ありがとうございます」


 わざわざ会いに来てくれたレオドラに、ルイスは嬉しくなって笑顔で礼を言い、真剣な顔のレオドラに、叔母と和解するまでのいきさつを話した。


「よかったな、魔女は去った! 乾杯!」


 レオドラと男達はまたジョッキを掲げた。今度は「魔女は去った」という即興の歌が合唱されたが、ルイスは笑顔でその光景を見守った。


「問題が解決したなら、帰るとしよう!」

「ソニーと来たんですか?」


 ルイスはドラゴン(ソニー)に会えるのを期待して聞いた。


「ああ、だけど、怒ってどこかに行ったかもな」


 軽く言うレオドラを、ルイスはキッと見つめた。


「大事にしてください。さもないと、僕が」

「わ、わかってる。さぁ早く出よう」


 ルイスの凄みにうろたえて、レオドラは素直に答えると金を払い、ルイスの肩を押して酒場を出た。


「おや、可愛いお姫様だ。デート中だったのか」


 無事に出て来たルイスに、ピタリと寄り添うユメミヤを見て、レオドラがひやかした。


「邪魔はしない、またな! 城で待ってるぞ!」


 ルイスが動揺している間に、レオドラは片手を上げて、ルイス達に背を向けた。


「せっかく来たのに、城に行かないんですか?」

「いいんだ、城は堅苦しい。カーム王子の城は、女が沢山居るが、俺の考えている城とはどうも違う」

「全然違いますよ」

「だろ? ルイスにこうして会えて、ラッキーだった! また会おう!」


 レオドラは笑顔で言って、人混みに紛れてしまった。後ろ姿を見送ったルイスは、レオドラの腰に剣が差してあるのを見たが、細い剣なので心配になった。

 ルイスはユメミヤをつれて、レオドラの後を追った。


 道のはずれで、レオドラを完全に見失って途方にくれていると、前方の上空にドラゴンが現れた。


「ソニーだ! 待っててくれたんだ」


 背中にレオドラが乗っていた。ルイスとユメミヤは遠のくソニーとレオドラを、手を振って見送った。


「ルイス君、酒場に入ったりして、お酒くさいです」


 突然のレオドラ王子との出会いと別れに、ルイスがほっと息をつくと、ユメミヤがニヤリとして言った。


「しまった、アンドリューさんに酒場には行かないって言ったのに、まずいね」


 ルイスは服の匂いを嗅いで慌てた。ユメミヤが(そで)を使い、鳥が羽ばたくようにしてルイスに風を送った。ルイスは腕時計を見た。


「まだ1時間経ってないよ。お菓子を買って、公園かどこかで食べようか。匂いがとれるといいけど」


 ユメミヤが待ってました、と言わんばかりの笑顔でうなずいた。


「振り回して、ごめん」

「楽しいです」


 申し訳ない笑顔のルイスに、ユメミヤは微笑んで答えると、ふたりは菓子屋を探して歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ