第7話 王子と勇者の教え
ルイス一行はなだらかな上り坂を、ゆっくりと歩いていた。
ルイスは鳥の声に空を見上げた。綺麗な青い空で、これなら野宿でも大丈夫そうなので安心した。
「おい、くっつくな」
アンドリューのぶっきらぼうな声に、ルイスは隣を見た。アンドリューの左腕に、ペルタが両腕を巻きつけていた。
「カイト君が、とにかく、独身は放すなって」
アンドリューはカイトを思い、空を睨んだ。
「癒されるわ。このたくましい腕」
ペルタはアンドリューの様子に気づかずに続けた。
「腕が細いと、お姫様抱っこが出来ない。そうでしょ?」
ペルタはお姫様願望をむき出しにして、高飛車に言った。
「細い腕でも、好きな女の為なら一生懸命するさ。ファウストの為にはどうだろうな?」
「どういうこと?」
アンドリューの疑問に、ペルタがまた高飛車に聞き返した。
「そんな態度のファウストにする奴は、余程の物好きか、途方もない無知か。なにか、裏があるやつだな」
アンドリューの断言に、ペルタは怒りに呼吸が荒くなったが、直ぐに思い直してしおらしく言った。
「お願い。お姫様抱っこしてください、お願いします」
「その態度なら、誰かがしてくれるだろ」
我関せずなアンドリューを、ペルタはキッと見上げた。
ルイスはアンドリューとペルタのやり取りを聞いて、自分の細い腕を撫でた。そして、ペルタがくっついているアンドリューの腕を見た。映画や二次元でしか見たことがないような、筋肉のついた腕をしている。
フアンの腕も見た。服に隠れてわからないが、細い気がした。
「ペルたんの言葉が耳に痛いね」
ルイスの視線に気づいたフアンが、困った笑顔で腕をさすった。ルイスはフアンに笑みを見せてうなずいた。
ペルタが2人の会話を聞いて言った。
「王子様はいいのですよ、細身で儚げで」
「お姫様抱っこ出来ますかね?」
ルイスの冷静な指摘に、ペルタは黙って考え込んだ。そしてフアンの側におずおずと寄ると、かしこまって言った。
「フアン様。私をどうか、お姫様抱っこしてください」
「いいよ」
フアンは予期していたのか、笑顔で手を広げた。
ペルタが至福の顔でフアンに体を寄せると、フアンはゆっくりとペルタを抱え上げた。
ルイスはお姫様抱っこを生で初めて見た。しかも、男性は王子様そのものだ。ルイスはただ釘付けになった。そんなルイスに、ペルタは満面の笑みを向けてきた。
「ルイス君、よおく見習うのですよ」
ペルタの言葉に、ルイスはフアンを見た。
フアンは微笑んでいたが、一瞬ギュッと目を閉じて、口を固く閉じた。明らかに重い物を持っている人の顔だった。ルイスは吹き出すのをなんとかこらえて、ペルタに微笑み返してうなずいた。
「大変だな。王子様」
アンドリューも目撃して、口を片手で押さえた。フアンは苦笑いをしながら、ペルタをゆっくりと下ろした。
「王子様、ありがとうございます」
「いえいえ」
ペルタはうっとりとして、今にも倒れそうだった。
「ルイス君、どうだった? 私の姿は」
フアンが一息ついて、ルイスに向かい合った。ルイスは笑顔でうなずいた。
「僕も」
「する?」
ペルタがルイスの肩に片腕を回してきた。
「ま、まだ早いよ」
「離れろ」
身の危険を感じて動けないルイスから、フアンとアンドリューがペルタを離れさせた。
「フ、フン! 私を迫害すると、後が酷いわよ!」
「まぁまぁ」
ペルタの大げさな抗議を、フアンがなだめた。
「ルイス、この国に居れば自然と力がつく。心配するな」
アンドリューが身を縮めているルイスに、フォローをくれた。
ルイスは笑顔でうなずいた。三人はルイスの真っ直ぐな態度に喜んで、頭を撫でたり、肩を叩いたりした。
「そうだな、体力や体格のハンデについて話しておくか。戦いにおいては武器で補うもんだ。ルイスの武器は剣だな」
アンドリューがルイスの腰の剣を、調べるように見ながら言った。
「はい、今は飾りみたいなものですけど」
ルイスも剣を見ながら自信なく答えた。アンドリューは顎に指を当てて少し考えて言った。
「もし、剣が合わなければ、槍や弓、扱いやすい武器が他にもある。それと、一応言っておくが、刀を使いたければイクサの国。銃を使いたければ、その他の国へ行くことになる」
「オトギの国で、刀を使ったらどうなるんですか?」
「どうなることもない。イクサの国で刀、この国で剣を使うのは、様式美の問題だな。オトギの国で刀を持っていたら、悪目立ちするのは間違いない」
アンドリューの返答に、ルイスとフアンは何度もうなずいた。