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第六話 お母さんに相談!

『解析終了』


 私はその言葉を皮切りに、独り言をやめる。かれこれ30分くらいひとりで機械に話していたのだけど、話題は尽きなかった。

 なんでもいいと思って、身近なものから自由連想で次々話していったのだ。


「お疲れさまです」


 機械とも仲良くなれた気がする。

 私はそう言いながら、軽く会釈した。


『あなたの名前を教えていただきたい』


「坂上優花です」


『坂上優花さんですね。こちらへどうぞ』


 まるで人と話しているような感じに変わって、少し混乱する。だけど、壁の一部がウィーンって開いて、機械がその中に入っていった。私もそれに続く。


『どこから来ましたか?』


「地球……えーっと、こことは違う惑星ほしから」


 そう言えば、この惑星はなんていう名前で、地球からどのくらい離れた場所にあるのだろう?

 お母さんに聞いてみようかな……と思ったけど、やっぱりやめる。早々に神様に頼ったりはできない。

 向こうも向こうで、忙しいだろうし。

 本当に身の危険を感じたら、でいいや。


『やはり!』


 興奮したように、声を上げた。

 機械はさらに質問を重ねる。


『この惑星からどの程度離れていますか? その地球という惑星はどのような生物が住み、どのような文化を築いていますか?』


「お母さんに連れてこられたので……距離はわかりません。でも、生物とか、文化なら少しくらいは」


『お母様と一緒に来られたのですね。では、そのお母様はいったいどこにいますか?』


 真っ暗な通路を移動しながら、私は質問に答える。


「その、すみません。お母さんに送り込まれたので、お母さんは来てません」


 言葉を選びを間違えちゃったな、と訂正する。

 私は反省しながら、機械の次の言葉を待った。


『……では、坂上優花さんの知る生物と文化を教えていただけませんか?』


「いいですよ」


 お母さんのことを聞かれても、私もよく知らない神界というところにいるみたいだし、質問が変わるのは助かった。


「いまの地球は私のような人類が90億人います。私が住む国だと、人口は1億7千万人くらいですね。科学レベルは……こんな機械を作れるくらいです」


 どうやって科学レベルを示そうかと思い、私は腕時計という物をモデルにして作られたという端末を機械に向ける。

 一昔前では人類が増えすぎてやばいってなったみたいだけど、地下で食料の栽培を科学的に行うことに成功して、自然災害による収穫量の変動がなくなり、安定供給からの大量生産に次ぐ大量生産で、国内食料自給率は大幅に上昇した。

 だから、日本においては飢餓はない。貧しい国だといまでも貧困にあえでいるようだけど。


『拝借してもよろしいですか?』


「壊さないと約束してくれますか……?」


『もちろんです。データを取った後、お返しします』


「……わかりました」


 少し不安が残るけど、いつまでも信用しないようじゃ前に進めない。

 私は端末を外して機械に差し出した。


『解析開始』


 その状態で、何かが放射される。端末に当たり、腕にも当たる。けど、これと言って違和感やおかしなことが起きたりはしていない。


『解析終了。……なるほど。およそ、我々の30年先を進んでいるのですね』


 んん?

 私はこっちの世界のほうが進んでいると思ったのだけど……。

 しかも、その端末は私が産まれるより前からあるもの。だいたい40年ほど前に開発されたものだ。

 これよりも高性能なものは多々あるけど、どれも人体に影響を及ぼすかもしれないといろいろな団体が働きかけて、日本ではほとんど売られていない。

 その人体に影響を及ぼす内容が、精神や魂といったものにまで及ぶのだ。討論の終わりは見えない。

 最近では、まず魂と精神の実在性と観測について着眼点が置かれている。

 CERNもブラックホールの生成に成功し、さらに空間の穴を観測し、距離を線で結ぶのではなく点を重ねる方法で、いわゆるワープしようと企んでいたのだけど、息抜きに魂の生成にもチャレンジしているともっぱらの噂だ。


 とはいえ、神様のお母さんは魂の存在を確認しているらしい。はやく科学でも証明できたらいいね、なんて呑気に言っていた。


 そういういろいろなことを教えてあげると、機械は驚きの声を出す。


『んなっ……我々が、実質70年遅れですか……』


 と、ここでようやく通路が終わり、部屋らしきところに入る。そこはたくさんの物が置かれているようで、小物の反応が多数あった。

 生活空間のような……そんな感じがする。


『ここは私の部屋です。お寛ぎください。私はリーダーに連絡しなければなりません』


 そう言いながら、機械は壁際にある何かに、端子のような細いものを差した。

 それから10分くらい動かずにいた機械が動き、私もそれに反応してしまう。


「どうでしたか……?」


 話は聞かなかったけど、だいたいの予測はつく。大方、私の扱いについてだろう。


『ああ、安心してください。諸々のことは明日、日が昇ってから話をしましょう』


 日が昇ってから? いま、まさに日が昇っているのだけど。


「そうですか。わかりました」


 わかっていないけど、わかったと言っておく。ついでに話もそらそう。


「この惑星に人はいないんですか?」


『あぁ、私がそうですよ。リーダーも、ほかのみんなも、惑星中の人類は私のような機械の体をしています』


 不思議ですか? と表情のない機械で問われ、言葉に窮する。


「……はい。最初は、ロボットみたいだったので」


『あれはそういうモードです。いろいろあるんですよね。ほかにも聞きたいことがあればどうぞ、お気軽に』


 表情があれば、にこやかに笑みを浮かべているのだろうか?


「なんで機械の体に?」


 ずっと気になっていた。

 日本も同じように、いまでは遠隔地で機械にフルダイブしていろいろ危険な操作や作業をしているのだ。

 その中の人がいるのかいないのか。いるなら、どうしてこんなにも暗い世界で、しかも人の姿に戻らないのか。


『我々は、かつてAIの暴走によって、全人類がロボットにさせられたのですよ。いまではAIに管理される身です。……地上の建造物がありましたよね? あれが、私たちが人間だった頃の面影です』


 悲しそうな声音で、機械は、彼はそう言った。


『そちらの世界では、AIの暴走はありませんでしたか?』


「ありました。その、AIが暴走しかけて、すんでのところで止められたそうです。それから、ロボットに高度なAIを乗せるのは国際法で禁じられてますね」


『そうですか……。私には、心配事がひとつあるのですが、相談に乗っていただけませんか』


 真剣に、直向きに、私を見つめている彼。そう感じた。


「わかりました。言ってください。私の知る範囲でならお答えできます」


『ありがとうございます。……その、私に寿命はあるのでしょうか……?』


 ん……?


「どういうことですか?」


『人間の体は捨てて、こうして機械の体になりました。私に、死は訪れるのでしょうか?』


 とても、とっても難しい問題が来てしまった。

 正直まったくわからない。


「すみません。お母さんに聞いてみますね」


 なんだか、ここで、真実を知っていそうなお母さんに連絡を取らないのは、この人に対して不誠実だと思った。

 だから、私はお母さんに連絡する。

 左手の甲に埋められているチップに神気を流し込み、お母さんに話しかける。


「お母さん?」


『優花? どうしたの? 何かあった?』


「ん、特に問題はないんだけど。……あのさ、機械の体になった人に寿命ってあるのかな」


『それはまた難しいねぇ……。機械が壊れる、とかそういうことじゃないんだよね』


「うん」


 お母さんが、珍しく悩んでいる。

 いつも即答してくれるから、ちょっとだけ不安になった。


『そうだね。寿命はあるよ。……これは僕だからわかることなんだけど、魂や精神と言われるものが人にはあるっていう話をしたよね?』


「聞いたよ」


『実はその魂は、機械の体になったら機械の体に移るんだ。肉体には何も残されずに、ね。でも、機械の体になっても魂の年齢は加算されていくんだよ』


「魂の年齢?」


『そうだよ。負荷のかかりすぎた魂はいずれ、壊れる。だいたい200〜300年くらいが寿命かなぁ。……確かに長い寿命にはなるけど、魂の状態が悪すぎて転生できなくなるからオススメはしないし、永遠の寿命というわけでもないから特にメリットはないと思うよ。それなら、代替わりして技術を磨いていくほうがいいかな? 失われるものもあるけどね』


 そう言って、お母さんは締めくくった。

 お礼を言って、機械の彼にお母さんに言われた説明をわかりやすく、私なりに噛み砕いて説明した。


『……つまり、寿命はある。死ねる……!』


 彼のその言葉は、これまでに発せられたどの言葉よりも感情に彩られていて、とても嬉しそうだった。

間に合った

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