日本フグはじめて物語(DE・タラ・ME)
遥か昔。縄文時代とか弥生時代とかその辺。海辺に位置するイゾノ村にて、ガツオという好男児の葬式が行われていた。彼は不幸にしてフグを食して死んでしまったのである。村人達はカヅオを穴に埋めながら涙を流した。
「ちくしょう。カヅオはいいヤツだったのに。ちょっと珍しい魚を食べただけなのに」
村人全員が集まって行われた彼の葬式の最後に、イゾノ村の長老は村人に訴えた。長老はカヅオを死に至らしめた魚をその手に持ちながら、この魚の危険性について説いていた。
「皆よ聞け。漁でこの魚が取れてもこれからは食べてはいかんぞ。なんか美味そうだけれど、これを食べたガツオが昨日死んでしもうたわけじゃ。この魚には毒がある。これからは絶対に食べないように!死ぬぞ」
「へ〜い」
「我々はカヅオの死を無駄にはせぬのだ!」
「おお!」
こうして「フグという魚には毒がある」ということが認知されて、一見落着。誰もフグを食べないので、被害はもう出なかった。カヅオの死は無駄にはならなかったのである。こうして日本人は二度とフグを口にしなかった・・・とはならない。
めっちゃ不漁で食べ物が取れない時期が訪れる。イゾノ村で暮らす人々の主食は海で取れた魚なので、魚が獲れないともう皆は腹ペコになった。そんな時、またあの魚が獲れてしまったのである。そう。カヅオを死に至らしめた毒を持つフグだ。
2人の漁師達は船の上でフグをシミジミと見つめる。
「ノリズケよ。この魚ってフグだよなぁ。カヅオが食って死んじゃったヤツだろ?」
「マジかよ。でも今日はこいつ一匹しか獲れなかったぜ。どうする?」
漁師のナカシマとノリズケの2人はこの魚を浜に持って帰ってきたものの、扱いに困る。
「このフグ捨てるかぁ、ノリズケ。あ〜今日は全く獲れなかった」
しかし漁師ノリズケは納得しなかった。
「勿体ねえよ!フグ捨てんなよナカシマ」
「だって食えねえぞ。どうすんだよこんなもん」
ノリズケは悪魔のような笑みを浮かべた。
「焼いたら・・・イケんじゃね?」
「おぉ!?」
焼いたら大抵のもんはなんとかなるという信念。めっちゃ腹が減ってることもあって、2人の気持ちは揺らぐ。
「カヅオは生で食ったから駄目だったんだよ。阿呆だよアイツ」
「ん〜。焼いていけるかな?」
「いけるって。ちょっと俺試してみるわ」
「マジで!?ノリズケやんの」
ノリズケは火をおこし、フグをガッツリ焼いた。もう焦げまくってるほどに。そして焼け焦げたフグを持ってナカシマに見せつけた。
「どうだ美味そうだろ!もうその辺の魚だよな」
「いや焼きすぎだろノリズケ。これ食うところあんのか?」
「よっしゃ行くぞ!」
ノリズケは勢い良くフグを食べ始めた。
「おいおいっ!大丈夫かよノリズケ」
「ちょっと焼きすぎたかな。でもまあまあ食える魚だわ」
ナカシマは思った。これイケたんじゃね?ノリズケやってくれたんじゃね?と。
しかしナカシマの思いは裏切られる。しばらくするとノリズケは色んなところの調子がおかしくなってきた。そして浜辺で倒れたのだ。
「うぐぐ・・・ナ・・・ナカシマ・・・」
「ノリズケ〜!しっかりしろ!」
ナカシマの呼びかけも虚しくノリズケは帰らぬ人となる。焼いたらなんとかなるという信念はフグ相手には通じなかったのだ。そして後日、彼の葬式が執り行われた。
「ノリズケはいいヤツだったのに。ちょっと阿呆だっただけじゃねえか」
「焼いても駄目かよ〜。なんだよあの魚。ふざけんなよ」
村人全員が集まって行われたノリズケの葬式の最後に、イゾノ村の長老はもう一度村人に訴えた。長老はカヅオとノリズケを死に至らしめた魚をその手に持ちながら、この魚の危険性について改めて説いていた。
「なんでお前らは食うの?なんでチャレンジしちゃうの?ワシは何度も言ったじゃろフグは食うなって。これからは絶対に食べないように!死ぬぞ」
「分かりやした長老〜」
だが長老の呼びかけも虚しく同じ過ちはなんども繰り返された。不漁によって飢饉が起きる度に猛者達がフグに挑戦してしまうのであった。「塩漬けにしたらイケるって。大丈夫だって」と言って食べたアナーゴも死んだ。「干せば余裕だっての」と提案したナミヘーも死んだ。
だがある時、村に奇跡が起きる。フグをちょっとだけ食べてみたタラオが死ななかったのである。
「え!?なんで。なんでタラオは死なないの。お前、どこ食べたの」
「いや、ごめん。あんまし覚えてないわ」
「お前覚えとけって!」
タラオの生還によって「フグは毒のある場所とない場所がある」という情報が村全体にもたらされることになった。とは言うものの、フグを食すにはあまりにザックリした情報。まだフグは食材とはならないのだ。
そして20度目の飢饉&不漁が起きた。この不漁はかなりきつく、餓死者が出る寸前となってしまう。しかし不思議なことにフグだけは大漁となってしまった。
ここに至って長老も考えを改めた。長老は村人を集めてとあるチャレンジを提案する。
「皆のもの。私は考えを改めた。今、この村はピンチである。我々の食べれるものと言えば、もはやあのフグしかない」
「でも絶対毒あるんですよ。どうするんスか長老」
「もうあれだな。ロシアンルーレット的なヤツだね。部位ごとにフグアンルーレットやって、はっきりさせるしかないっていうな」
「マジすか!?」
20人ぐらいでフグの色んな部位を食べて、誰が大丈夫かはっきりさせようと長老は言う。確実に誰かに毒に当たるけど、この飢饉の中だから知ったこっちゃないっていう雑な提案だ。とは言え仕方ないので村人達はチャレンジしてみた。
「え!?俺が内蔵食べるの。これ絶対やばいヤツじゃん」
「しゃあねえだろ。お前がジャンケンで負けたんだから。俺は尻尾だけど」
「ふざけんなって。誰か代われって」
揉めに揉めたが、とりあえず食べてみた村人たち。
「せーの」
これが運命の分かれ道。舌鼓を打つものと、悶絶する者に分かれてしまう。
「あ!意外に美味いじゃん。イケるわぁ」
「やっぱり内蔵って駄目じゃん!ああ、なんかキタキタ!やばいやばい」
こうしてフグのどの部位に毒があるのかが判明した。日本人がフグを味わえるようになったのは、縄文時代だか弥生時代辺りのイゾノ村の若者たちの犠牲のお陰なのである(嘘)




