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第5章 王都攻防戦

<1>



 地球時間にして五月十五日の日曜日。午後十六時過ぎ。

 陽が徐々に沈みかけた、夕暮れ色のキャラウェイ前の街道にて、亜人の本隊とセラセラ家の守備部隊がぶつかった。


「ほれっ、乗り越えんか!」


 街道からキャラウェイまで、草を混ぜ込んで作られた土塁が並んでいる。亜人たちはそこを越えようとしながら戦っていた。

 亜人を率いているのはヴェロッジの星詠みである。彼は冒険者に指示を飛ばしていた。魔法を使えるものは土塁や柵の近くにいる兵士諸共吹き飛ばさんと、SPの続く限り最大威力の魔法を撃ち込んでいる。着弾するたびにくぐもった悲鳴と土煙とが上がった。

 隙を衝いて足の速い亜人が街道を抜け、町へと迫ろうとするが、キャラウェイの防御部隊は亜人の三倍である。弓兵は絶えず矢を放ち、矢の雨を突破しても長槍パイクを構えた重装歩兵に阻まれる。それらを突破したとして、キャラウェイが誇る騎馬兵団、通称《無尽隊》は未だ健在だ。

 平地ならば人に分がある。しかし星詠みは不利だと分かっていても戦いを挑まざるを得なかった。彼らは王都の南方に身を潜めていたが、これ以上はもたなかったのである。食料も、士気もだ。また、冒険者は熱っぽく冷めやすい性質を有している。さしたる意義もなく、一週間以上も戦い続けられるものなど少ない。時間が経てば裏切られる可能性だってあった。


 ――――手はある。


 星詠みは苦しげな顔をしていたが、その目には力強さがあった。鈍い輝きを宿した瞳は、セラセラ兵をじっと見据えつけている。


「来たぞ、セラセラの冒険者だ!」


 セラセラ兵が声を上げた。その声に応えるかのようにして数組のパーティが戦場に躍り出る。星詠みは冒険者に指示を出し、冒険者同士で戦うように言った。

 最前線はプレイヤー同士の争いになっている。その横をすり抜けるようにして、亜人とセラセラ兵が白兵戦にもつれ込んでいた。さすがに個々の技量は亜人の方が優れている。囲まれると弱いが、一対一に持ち込んだ亜人はセラセラの兵士を容易く屠った。

 湖上の華はもう目の前にある。あと少しでそこに手が届く。積年の思いを果たす時が来たのだ。星詠みも風の魔法を放つ。竜巻めいたそれが、遠方にいたセラセラの弓兵たちを襲った。



<2>



 キャラウェイの城内には見張り用の塔がある。目のいいものが見張りに立ち、四方に目を凝らすのだ。


「おい、今どうなってんだ」

「あ? ああ……」


 城内の兵士には一抹の余裕があった。見張り役の兵士は南側の出入口を確認する。まだ一人の侵入も許していないらしく、街道での戦いが続いていた。願わくは、町の中に敵を入れないで欲しいものだと兵士は思った。

 キャラウェイには南北に出入り口がある。北側に目をやった時、見張りの兵士は訝しげな顔をした。


「馬だ。どっから来た、ありゃ?」

「馬? 何頭?」

「一頭。誰か乗ってら」

「カルディアからじゃないのか?」


 見張りの二人は顔を見合わせた。援軍だ。アニスがカルディアから援軍をよこしたに違いない。

 間もなくして、アニスの率いる部隊が北側の街道に到着した。そうして、彼女の部隊は、北側の街道を守備するセラセラの部隊に対して盛大な攻撃を仕掛けたのだった。



<3>



 ドリスは伝令の兵士が持ってきた、アニス直筆の手紙をびりびりに破いた。これでもかというくらいにぐちゃぐちゃにして、捨てて何度も踏みつけた。


「あ、あ、アニスゥウウウウウウ! あのクソバカ! 外道! 悪魔!」


 他の人間の目があるというのにドリスは荒れていた。手紙には、要約するとこんなことが書かれていた。『ごめーん、負けちゃった。今ちょっと人質になっちゃってて、言うこと聞かないと殺されちゃうので亜人に協力しまーす。ドリスはドリスで頑張ってね。応援してるから。あなたのステキなお姉さまより。アニス・セラセラ』。


「最初っからこれが狙いだったのね!」


 ドリスは、檻に閉じ込められてノイローゼ気味になった動物のようにその場をぐるぐると歩き回った。

 裏切った(本人は否定するだろうが)アニスは北側から攻めてきた。これで南北の守備に頭を悩ませなくてはならなかった。アドバンテージはすでに失われつつあった。


「まあ、その可能性もなくはないと思っていましたが」


 バースニップはドリスを宥めようとしていたが、彼女は取り合わなかった。


「しかし、アニス姫が表立って兵を率いてくるとは思いもよらなんだ」

「………………まあ、そうね。あの卑劣な姉さまのことだもの、亜人に裏から手を回して私を追い落とすくらいは考えていたでしょうけれど。そして亜人が負けたとしても自分は何も知らなかったとシラを切れるくらいの保険を用意していると思っていたのだけど」


 アニスのことを考えていても始まらなかった。ドリスは城内の予備兵力を北側にも回すように通達した。伝令を受けた兵士と入れ替わるようにして、別の兵士が慌てふためいた様子でやって来た。


「今度は何かしら」

「ま、町の中に冒険者が現れました! 好き放題しっちゃかめっちゃか暴れ回っています!」

「はああ!?」


 ドリスはもう平静を保つことすら難しい状態になっていた。


「どうして冒険者が……」

「街道を突破されたという知らせはなかったはずですが」


 そこで思い至った。ドリスは、冒険者の性質というものをうっかり忘れていたのだ。


「教会だな。戦闘で死んだ冒険者が、キャラウェイの街中で復活したのだろう」


 す、と、ドリスの傍に控えていた男が動いた。闇が蠢いたように、その場にいたものは錯覚した。Sランク冒険者《ガーリャ百人斬り》こと黒盾である。


「俺が出よう」

「ちょっと、私の護衛は」

「すぐに戻る」


 言うが早いが、黒盾は部屋を出た。沈黙が少しの間場を支配した後、バースニップが腹を撫でた。


「頼もしいですな」


 ドリスは祈った。柱の神に。もう、かの神がこの地にいないことを何となく分かっていながらだ。



<4>



 星詠みは突撃の下知を与えた。わざと死なせた冒険者が、キャラウェイの町で反撃の狼煙を上げたのだ。森に潜ませておいた別の部隊も、南街道にいるセラセラ兵に襲い掛かった。

 この奇襲には冒険者含めたセラセラ兵も耐え兼ねた。横合いから鬨の声が上がり、そのままの勢いで徐々に押し込まれていく。亜人が剣を振るえば歩兵が倒れて、空に光が急行した。また一組、冒険者パーティが瓦解したのだ。死んだ冒険者は復活し、また街中で冒険者同士争うのだろう。星詠みはこの世の無常めいたものを見た気がした。そうさせているのが自分なのだとも気づき、自嘲気味の笑みを漏らした。



○●○●○●



「みなさーん! 気持ちがいいことは好きですかー!?」


 威勢のいい返事が返ってきて、アニスは満足げに頷いた。


「戦うのは気持ちがいいですかー!?」

「おーう!」

「女を抱くのは気持ちがいいですかー!?」

「おーう!」

「気持ちがいいのはよいことです。ではみなさん、今日も頑張ってくださいね」

「おおーう!」


 一際大きな声が返ってきたと同時、アニスの率いる部隊が前進した。

 北側の防衛部隊は訳が分からなかったが、襲ってくるものを敵だと認識する。


「ちっくしょう! なんだってんだ!?」

「とにかく撃て、撃てよ!」

「おい、勝手な真似をするなっ。指示を……」


 重装歩兵たちが驚きの声を漏らした。すぐ傍にいた上官が仰向けになって倒れ込んだのだ。


「ちーす。いやー、マジでマジで。やっちゃったとか、そういう感じじゃないんでシクヨロ? みたいな? ともかく今日は俺っちガッツリ目に戦っちゃうんでー、そこんとこしゃーす」


 全く。誰一人気付かない内に、その男は立っていた。男が上官を仕留めたのだと気づくのに、幾分かの時間を要した。


「そんじゃーバイブス上げていきまっしょーい!」

「しょーい!」

「いえええええええ!」

「あっ……!?」


 何だか妙な雰囲気の冒険者パーティが飛び込んできていたのだ。セラセラ兵は彼らに対して攻撃を仕掛けるが、どれも空振りに終わってしまう。そうして足並みを乱されているところに、アニス側の重装歩兵部隊が近づいてくる。その先頭には、水際立った大きさの冒険者がいた。先刻の冒険者パーティとは違い、よく統率された、規律的な部隊だった。彼らの圧力に、少しずつセラセラ側の防衛部隊が押されていた。

 後方からは矢玉と魔法が飛来する。土塁も柵もめちゃめちゃに壊されていた。


「あっはっはっは! あはーっはっはっは! おかしいですわ滑稽ですわ! 所詮は小賢しくて小憎たらしいドリスの部隊ですこと! このまま一息に捻り潰して差し上げなさい!」

「姫。我々は一応、亜人に脅されているという立場なのですが」

「そうでしたわね。ですが突撃ーっ!」


 副官は天を仰ぐ。アニスは絶好調だった。そのノリと勢いに背を押される形で、アニスの部隊も前進し、攻撃を続ける。


「くそがあああこっちはドリスさま派なんだよう!」

「町に入れるなあっ」

「ドリスさまばんざーい! 性悪姫は帰れ!」

「今性悪と言ったものをつるし上げなさい!」

「通すなっ、押し戻せ!」


 浮足立っていたセラセラ側の士気が高まる。北側、南側共に、戦いは拮抗し始めていた。



<5>



 冒険者の眼前に、黒い風が迫っていた。

 その風は盾で防ぐことも叶わず、冒険者数人がかりでも、捕まえることさえ出来なかった。


「とあぁぁぁぁああああっ!」


 漆黒色の鎧に身を包んだ男が振るう大剣によって、二人の冒険者がその場に倒れ伏した。


「なに、こいつ」

「やばくね? レベルひゃ――――」


 高く、乾いた音が街中に響く。

 剣を収めた黒盾は、ふうと息を吐き出した。倒れた冒険者にセラセラ兵が押し寄せようとするが、


「とどめは刺すな。縛って捕えろ。でないとまた復活するぞ」

「はっ! 了解しました!」


 黒盾の指示によって、冒険者は捕縛されることになっていた。彼は数人の供を連れて、キャラウェイの町で暴れる冒険者を次から次に叩いていった。落ち着くと、黒盾たちは教会近くに陣取り、敵側の冒険者が現れたなら弱らせて捕まえることに専念していた。


「これでしばらくは持つだろう。俺は城に戻るが、何かあれば遠慮なく呼ぶといい」

「はっ、了解であります、シュヴァルツシルト殿!」


 ふと、黒盾の胸をあるものが過ぎった。それは予感である。強敵が来るかもしれないという、戦いの予感であった。



<6>



 最後の砦はもぬけの殻だった。王都まではもう間もなくだ。俺たちはセラセラ兵の装備を脱ぎ捨て、各々の得物を確認しながら馬車を走らせた。走る馬車から、重たい鉄を投げ捨てる音が聞こえてくる。

 俺も装備やアイテムを確かめて、戦う用意を終えつつあった。キリハリリハに話しかけられたのは、短剣を胸のベルトに通した時のことだった。


「ナガオ。主に教えておく」

「今か?」

「今しかない。わしの魔法についてじゃ」


 風の糸か。


「マジか。アレを使えるようになるのか?」


 キリハリリハはそのことには触れず、俺の耳元に顔を寄せた。吐息がかかる。近い。


「『あなたさまをお慕いしております』」

「はっ?」


 婆さんのくせに妙に色っぽく笑むと、キリハリリハはさらに続けた。耳の中がぞわぞわする。


「『あなたに全てを捧げます。だからずっと傍にいてください』」

「な、なにを」

「くっ……かっかっか。なぁにを慌てておる。今のは呪文じゃ、精霊さまをお呼びする為のな」


 だったらそんな風に言わないで、普通にしてくれればよかったのに。

 からからと笑っていたキリハリリハは、すっと笑みを消した。


「ただ、今言ったのと同じことを言うても、主がわしのアレを使えるとは限らん」

「そうなのか?」


 呪文さえ唱えりゃあ魔法は起こるんじゃないのかよ。


「一つの言葉であってもな、その意味は千に変わり万に化ける。わしと主は違う。親が違い、血が違う。違う場所で生まれ、違うものを食い、違う言葉のもとで育った。同じ呪文を唱えても、まるきり同じことが起こるとは限らんというわけじゃ。力量もまるで違うしのう」

「じゃあ、俺には使えないってことか」

「見込みはある。と、思うておるよ」


 俺は頭を掻いた。たぶんだけど、あの糸は俺ではどうにもならない。キリハリリハはこれで意外と荒っぽくないし、あの糸を自在に操るには繊細さが必要なのだ。


「大事なのはな、より大きく、より多くの精霊さまをお呼びすることじゃ」

「その為にはどうすりゃいいんだ?」

「……さあのう。気に入られるのが一番なんじゃが」


 なんじゃそりゃ。

 うーんとか唸りながら、キリハリリハは俺の指を捕らえた。ぎゅっと掴んで、握って離してくれなかった。


「え、なんだよキリハリリハさん」

「いや、わしはどういう風に使っておるのかと思ってのう。指を意識……いや、指のその先の先を意識して……」

「くすぐったいんだけど」

「おばあさま?」


 シャイアさんが俺たちを見下ろしていた。何だか怒っているようにも見える。


「遊んでいないで準備してくださいね。ナガオさまも」

「あ、はい」


 ちょっと怖かった。

 キリハリリハは『なんじゃあの目は。怖いのう』とかぶつぶつと呟き、俺から少しだけ距離を取った。


「ナガオや。風の精霊さまに気に入られるどうかは分からぬが、わしには大事にしている言葉がある。誰から教わったものか忘れてしまったがな」

「どんなだ?」

「風は神さまが吹かせておる。じゃが、風はただ吹くだけ。風は何をも区別せず、一切合切を飲み込むだけ」


 ……うん。


「自由であれ。そういう意味だと、わしは思うておる」


 どっかで聞いたことある台詞っつーか、言葉だな。

 自由か。

 難しい言葉だと思う。俺は俺が出来ることをやろう。


『あなたがあなたのままであること――――』


 いや、そうじゃないか。俺にしか出来ないことだって、もしかしたらあるのかもしれない。


「煙が上がってるぞ!」

「始まってやがる!」


 俺とキリハリリハは同時に立ち上がる。転びそうになったので姿勢を低くし、荷台をいざるようにして御者台の方から外を見た。向かう先、王城の方からいくつもの煙が立ち上っていた。


「思ってたより早くないか?」


 戦いが始まっているってことは、星詠みに先を越されたってことか。

 だけどこっちに目を向ける連中の数は少なくなってるだろう。


「どうするよ、リーダー」

「どうするって」

「ザワー河を利用するのは分かった。だが、どこから侵入する? 河から向かったのでは時間がかかり過ぎるかもしれん」


 当初、俺たちは、街道から離れたところで馬車を乗り捨て、森の木々に紛れるように移動し、少人数で河を下るようにして進み、城へ侵入するつもりだった。アニスからはちょっとした隠し通路の場所も聞いている。そこを使えば城の一角、『神の庭』と呼ばれている場所に出るということも。出られれば、中庭から王城まで突き進めばいい。そうしてドリスを見つけるのだ。


「時間か」


 だが、想定よりも早く戦闘が始まってしまった。平らな場所ならセラセラ兵に分がある。星詠みの部隊は本命だといえ、セラセラ兵に数で勝るということはないだろう。

 戦いが終わってはならないのだ。セラセラではなく、星詠みでもなく、俺が勝たなきゃアニスに申し訳が立たないし、意味がない。


「長くはもたないはずだ」


 誰かに偵察してもらって、それからどうするか決めるか? いや、間に合うか? 俺たちも河を使っていくとはいえ猶予はない。そちらにだって兵が待ち構えているだろう。戦いになる。それに。時間をかければかけるほど、犠牲になるやつの数が増えちまう。


「状況によるけど、河を使うのはナシにしよう」

「何? では、どうするのだ。先行した部隊と合流するのか?」

「むう。それでは意味がなかろう」


 俺はキャラウェイ城に目を向けた。


「水路は使う。このまま街道を進むんだ」

「いいのか?」

「いい。もう、どうせこっちの馬車だって見られてんだろうし」


 馬車は速度を上げて街道をひた走る。亜人たちは声を上げた。俺は目を凝らし、彼らと同じ方を見る。


「いる、戦ってるぞ!」

「星詠みさまの部隊かっ」

「……違う。ありゃあ、あいつらは」


 イア族の男が息を呑んだ。


「アニス・セラセラの部隊だ」

「アニスの?」


 俺たちが向かうのは北側の街道だ。そっちに星詠みがいないなら、南側で戦っている可能性が高い。けど、どうしてアニスがいるんだ。あいつ、カルディアにいるって言ってたのに。しかも俺たちには何も言わず先に仕掛けたのか。


「ナガオっ。アニス・セラセラと合流するのか! 回り込んで星詠みさまと合流するのか! どちらかはっきりしろ、もう戦場はすぐそこなんだぞ!」


 よし。決めた。



<7>



「おい、なんか来るぞ!」

「馬車……?」


 街道を伝うように、三台の馬車が爆走するのが見えた。馬は嘶き涎を撒き散らす。セラセラの兵も、アニス麾下の兵たちも驚愕した。まさかこちらへ突っ込んでこないだろうな、と。


「高が三台だ、何が出来る!」


 されど三台である。あの勢いの馬車にぶつかり、轢かれれば一たまりもない。歩兵は戦闘の最中ながらも危険な存在へと肩越しに視線を投げるしかなかった。

 すわ直進してくるかと思いきや、馬車は急に方向を転換し、あらぬ方へと進路を変えた。


「ひゃっほー!」

「いけいけーっ、どこまでも行っちまえー!」

「もう知らねえからなあ!」


 荷台からはやけくそ気味の、悲鳴じみた叫び声が上がった。土煙を巻き上げて、馬車は町の出入り口ではなく、その外側へと向かっているようにも見えた。

 戦闘中の兵たちは呆気にとられたが、すぐに行動を再開する。アホに気を取られている暇などなかったのだ。

 だが、この場にいたアニスだけは、あの馬車がどこに向かうのかを知っていた。



○●○●○●



 森に潜んでいた星詠みの配下は、無茶苦茶に走り回る馬車の存在に気がつき、荷台に乗っているのが仲間であることにも気づいた。


「今は手が離せ……何じゃあ? ナガオさまたちが、おった?」


 配下からの知らせを受け、星詠みは少しの間だけ攻撃の手を緩めた。

 死んでいるとは思っていなかったが、今日、この時になって参戦してくるとは思ってもみなかったのである。星詠みにとってナガオたちは捨て駒のような存在だったのだ。


「よい知らせではないか。よし……」


 ナガオたちは北側の街道からやってきた。そちら側では何故だか知らないが、アニス・セラセラも部隊を率いてセラセラ兵を攻撃しているのも、星詠みは知っている。

 であれば、ナガオたちはこちらと合流し、援軍として現れるつもりに違いない。星詠みは満足げに頷いた。嬉しい誤算であった。


「ナガオさまたちを案内し、最前線に行ってもらおうかのう」

「あ、いえ、それが」

「む?」


 星詠みの配下は、酷く言いづらそうにしていたが、もごもごとしながらも口を開いた。


「通り過ぎてしまいました」

「は」

「恐らく、こちらへ来ることはないかと」

「な、何故じゃあ」

「馬車を乗り捨てておりましたので」


 星詠みの頭に血が上る。お前は何を見とったんじゃと。しかしそれこそが偵察の役目であり勝手な行動は慎めと指示を出していたのもまた星詠み自身なのである。


「馬車を乗り捨てて、あやつらどこへ……」


 このタイミングで、わざわざここまで来たのだ。ナガオたちが戦いから逃げることは有り得ない。ならば答えは一つだ。星詠みは怒りに飽かせて、杖で地面を叩いた。


「くあぁぁああ……やりよったな、あの、小僧どもがあぁぁぁああ!」


 自分は、囮に使われたのだ。最後の最後、この土壇場でまんまとしてやられたのだ。そのことに思い至った星詠みだが、成す術がなかった。



○●○●○●



「行けるぞ! 馬車を止めろ!」


 戦場を突っ切ったナガオらの乗った馬車は、町から外れていたが、ザワー河からの水を引き込んでいる水路に辿り着いていた。彼らは馬車を降り、その勢いのまま水路へと突き進む。


「時間がないぞ、走れ走れ!」


 彼らは事前の打ち合わせ通り、水路から王城へ侵入するパーティと、迂回して南側へ行くパーティに別れた。部隊の大部分は陽動の為、南側に回ることになっていた。

 水路を使うパーティは、ナガオ、キリハリリハ、シャーラブーラ、ライアシャイア、そしてエルフが三人である。その七人が皆の無事を祈り合い、風の魔法を使おうとしていた時だった。


「いたぞ! あいつら、水路から来るつもりだ!」


 セラセラ側の歩兵小隊がナガオらを発見していた。彼我の距離は百メートルといったところであった。


「あっ、くそ、なんでこっちに来てんだよ!」

「仕方あるまい。こちらの動きを怪しんだものがいたのだ」

「仕方ないわね」


 イア族の女が頭を振る。


「ナガオさまたちは手筈通りやってください。アレは、私たちでどうにかします」

「……頼む! 行くぞ皆、シャイアさんはやってくれ!」

「はいっ」


 ナガオたちが水路に飛び込んだ。水飛沫が高く上がるも、水中に没したものは誰一人としていなかった。エルフたちは風の魔法を使い、沈まないように、西日を受けて煌めく水面に立っている。ナガオはライアシャイアに捕まる形であったが。

 この水路は王都に繋がっている。普通に進めば、まずは城下町の区画に出る。更に進めば外壁を越えて王城のある区画へ行きあたる。しかしナガオたちは直接王城の区画までは行かず、水路を伝い、ぐるりと回って城下町区画手前の陸地に上陸する予定であった。そこにアニスの言う隠し通路がある。


「柱の加護を!」

「そっちにも!」


 水路を滑るように移動しながら、シャーラブーラは苦い顔を浮かべた。


「残った皆が無事だといいが」

「今は自分たちの心配をしよう。俺たちがやるべきことをやれば、戦いは終わるはずだ」


 そう言ってかっこつけるナガオだが、ライアシャイアにおっかな手を引かれて腰が引けていた。その様子を見て、先頭のキリハリリハが呆れたように息を漏らした。じき、陽が沈もうとしていた。

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