第1章 Dランク
<1>
「ダメだ。腹が減って倒れちまいそうだ」
「え? またか?」
「飛んでる時に人間に戻ったら全員落っこちて死ぬけどいいか?」
「よくねえよ。しようがない、あの辺で下りよう」
俺たち三人はパーティを組み、戦闘を避けながらセリアックを目指していた。
スィランが自分で言った通り馬よりは速いのかもしれないが、空を飛べても低空で、しかも短い距離だけ。飛ぶってよりもジャンプを繰り返して距離を稼ぐバッタのようなやり方である。あと、かなり揺れる。さゆねこは何ともないらしかったが、俺は少し酔ってしまった。
何よりもスィランの燃費は酷く悪かった。途中、街道沿いにある小さな村や冒険者同士の集まるキャンプなんかを見つけては休憩し、休憩しては飯を食う。俺とさゆねこの所持していた食料になりうるアイテムがすっからかんになるくらいだった。
そして、ここでもまた一つ問題が発生する。
「あのー、お兄さんたち。21時になったのでそろそろログアウトしなきゃなんですけど」
さゆねこログアウト問題である。
セリアックに急いで到着する為には夜を徹してでも移動したいところだ。とはいえそうするとスィランがパンクする。しかし二十一時は切り上げるには早過ぎる。
ここは街道だが、近くには冒険者が自由に使ってもいい小屋がある。そこでログアウトすれば比較的安全だろう。俺たちがいなくなってもスィランだってゆっくり休めるはずだ。
「え? いいのかよ、スィランはまだいけるぜ」
「とはいえ、俺とスィランだけ先に進んでもな。さゆねこがここで置き去りになっちまう」
「……置いてきゃあいいじゃねえか」
さゆねこが死にそうな顔になっている。……俺もそのことについては少し考えたけど、さゆねこは普通のプレイヤーだ。刹那たちに絡まれても『めんどくせーなこいつら』程度で済む。
「ここまで一緒に来たんだ。置いてはいけねえよ」
「じゃあどうすんだ? セリアックに用があんだろ?」
「……うーん。あっ、そうか」
俺はさゆねこに向き直った。
「さゆねこ。ログアウトはしなくていい」
「どういうことですか?」
「ほら、前にカルディアでもログアウトを忘れてたことがあっただろ」
ログアウトしないでアバターだけを残しておいてもらえれば、前みたいに『さゆねこを運べる』。あとはメッセージなりで連絡をしておいて、次に戻ってきた時に状況を確認してもらえればいい。
「お兄さん。ナイスアイデアです。でも、わたしのアバターが可愛いからって妙なことをしたら訴えます」
「お前は俺を何だと思ってるんだ」
「冗談です。では『わたし』のことをよろしくです、竜のお姉さんとド変態のお兄さん」
「ふざけんな! ……あっ、反応がねえな」
どうやらそのまま離席したらしい。ともかく、これでまだ先に進めるな。
スィランは、抜け殻となったさゆねこを不思議そうに見つめている。
「冒険者ってのはたまにこんな感じになるとは聞いてたけどよ、マジなんだな」
「ああ。丁重に頼むぜ。うちのパーティのお姫さまなんだからさ」
「スィランだって姫さまだぜ」
あー、はいはい。
「よく分かんねえけど、これでヤサカと二人きりになったわけだな。そんじゃあ、今日はどこまで進むよ?」
「次に休めそうな場所を見つけるまでは飛んでくれ」
「了解だ。スィランの背中は快適だろ?」
「ケツが痛くなってきた……」
結局、この日はセリアックに到着出来なかった。
<2>
翌日の火曜日。この日はさゆねこも途中でログインしたが、道すがらにある村や街道にいた行商人から買い物をするだけで、あとはほとんど移動するだけで一日が終わった。
夜になってさゆねこがログアウトし、俺とスィランは冒険者用の施設で一息吐く。丸太を組み合わせて造った山小屋のような建物だ。何となく落ち着く。
「他には誰もいないみたいだな」
「気楽でいいじゃねえかよ」
人間に戻ったスィランは気持ちよさそうに体を伸ばし、壁に背を預けて座り込む。つい最近のことだったし、こうしてると闘技場のことを思い出すな。
「よう、ヤサカ。こうして二人で狭いとこにいると闘技場にいた時を思い出しちまうな」
厳密には、さゆねこのアバターがあるので二人きりというわけでもない。
「スィランもか。俺もさっきそう思ってた」
「相性がいいんだな。あんたはスィランより弱いが、スィランの強さを引き上げてくれる。おまけに一緒にいて嫌じゃない」
「腰抜けとか散々言われてたけどな」
スィランは小さく笑い、俺の方にいざって近づいてくる。
「忘れろよ。今のあんたは腰抜けなんかじゃねえさ」
「そりゃどうも」
「……なあ、ヤサカ」
ん? スィランは珍しく思いつめたような顔をしていた。彼女が口を開くのを待っていると、胸元がぶるぶると震える。ケータイか。
「悪い、ちょっと外に出てくる」
「えぁ? はあ? ちょ……いや、いいけどさ」
俺はケータイを取り出しつつ小屋の外に出た。これにかけてくるのは一人しかいない。鶴子だ。
「おう、どした?」
『どうしたじゃないよう。そろそろ五月の連休があるでしょ』
「ああ、そんで」
『どっか行くって言ってたじゃない』
……そんなこと言ったっけか。
「ああー、うーん。でもなあ」
『私に付き合うよりゲームしてる方がいいんだ? へえええ、ふうーん』
「……用ってそれか?」
『かけちゃ都合が悪かった?』
「いや、別にいいんだけど……」
『だって何回も言わないと忘れちゃうじゃない』
大型連休に鶴子とどこかへ行く、か。
俺には今遊んでいる余裕はない。ナナクロをやらなくちゃいけないんだ。何か矛盾してる感じがするけど気にしない。
「考えとくよ」
『あっ。その言い方はまるで考えるつもりがないでしょ。もう、ナっくんはこれだから』
「切るぞ」
鶴子はまだ何か言っていたが、俺は電話を切って小屋の中に戻った。スィランは俺に背を向けて寝転がっていた。
「悪い悪い。で、さっき何か言おうとしてただろ」
「もういい」
拗ねてやんの。俺、何かしたか?
で。結局、スィランはこの後まともに口を利いてくれなかった。
<3>
翌日の水曜日。夜。
何かむしゃくしゃしていたスィランが爆走した甲斐もあって、セリアックに到着することが出来た。俺は、わざとかってくらいスィランが悪路を進むもんだから、彼女の背中を降りる前から酔ってて吐きそうだった。
「は、だらしねえ」
うるせえ。
俺はその場に屈んでからセリアックの周囲を見回した。……もう暗くなっているからよく見えなかったが、ここらは緩やかな丘陵地帯となっているらしい。セリアックの町は丘の上に位置しているようだ。
町の向こうには巨大な森が広がっている。ここからでは森の端が見えなかった。もしかするとセントサークル大陸まで繋がっているのかもしれない。
そして、柱だ。森の中ほどだろうか、そこに巨大な柱が建っている。円形で、その先端は雲に隠れていて見えない。いったいどのような手段で、どんなやつらが建てたのだろうか。
「じっと見てても始まらねえぜ。町に行こうや、ヤサカ」
スィランの言う通りだな。今日はセリアックで宿を探そう。
<4>
セルビルに似ている。
俺がセリアックに抱いた印象はそれだった。
近くには森があって、人々は穏やかだ。ロムレムがアレだったから、なんとなく安心してしまうな。
俺たちは宿屋で部屋をとり、今日のところはここで一泊することとなった。明日は柱へ向かわなくちゃあいけない。
「じゃ、さゆねこはよろしく頼むぞ」
「……ああ」
スィランはさゆねこと同室だ。面倒くさそうに、置物と化したさゆねこを室内に押し込むと、スィランは長い息を吐き出す。
「あんたはまたあいつらとやり合うんだよな」
「あいつらって……ああ、あの二人か」
刹那とろいどのことを言っているのだろう。
「そうなるかもしれないな」
「前にも聞いたな。死ぬのは怖いだろって。あんたはそうじゃないのか?」
「……いや、死ぬのはヤだよ。怖いし、痛い」
俺は一度『死んでいる』。出来ることなら二度と経験したくない。
「でも死ぬより嫌なこともあるんだ、俺には」
「スィランは……スィランは死ぬのが嫌だ。怖い。あんたはスィランを臆病だと罵るか?」
スィランは一度奴隷になって、今は解放された。そうして故郷に戻り、いずれ家族と再会する。そんな時に死にたいなんて誰が思えるだろう。口では強がりを言うが、彼女の気持ちはごくごく一般的なもので、もっと言えば普通の女の子らしかった。
「お前のことを馬鹿にするやつがいたら俺がそいつをどうにかしてやるよ。……明日、セントサークルまでの道を調べよう」
「そんで、あんたとスィランはお別れってわけか」
「自分のいるべき場所にいるのが一番なんだ。それに、お前がそっちの大陸にいてくれると助かる。俺が行った時に案内してくれよな」
「ああ、分かった。すまねえな、ヤサカ」
「いいんだって、そんなの。それより方向音痴は少しくらいマシにしとけよ」
「うるせえっ。……じゃあ、また明日な」
頷き、俺は自分の部屋に入って息を吐き出す。
……死ぬ、か。ここは現実世界じゃない。ナナクロの中だ。ヘリオスの時みたいに、またどうにかなるんじゃないかって期待感もある。気を引き締めなくちゃあいけないが、危機感が薄れているのは確かだ。
それでも安全な場所にこもり続けていられる時間はない。俺は前に進むんだ。
<5>
木曜日。現在時刻は『16:30』。
俺はナナクロにログインし、スィランたちと合流して宿を出た。スィランはセントサークル大陸までの道順を、俺とさゆねこは柱への道順を手分けして調べることにした。
そこで、ある問題が発生した。
「柱に行けない……?」
スィランは眉根を寄せて、森の中ほどにそびえ立つ柱を見据えた。
……スィランの方はどうにかなった。この町からほど近い港町まで行けばセントサークル行きの船があるらしい。フィッシュマウスまでは馬車で行けるし、船に乗るだけの金も彼女は所持している。問題はない。
問題なのは俺たちの方だった。
セリアックと柱の間には巨大な森林――――《ビュリャジリャドゥドゥメの森》が広がっている。この森を通らない限り柱まで辿り着けない。
だが、森へ入るにはある条件を満たしていなければならない。
「ああ。セリアックの冒険者ギルドで登録は済ませたんだけど、森は結構危険なエリアらしくて、入るには冒険者のランクってのが要るらしいんだ」
「盲点だったのです……」
俺とさゆねこはうなだれる。
完全に忘れていた。そう。一応、俺たちは冒険者という括りなのだ。ジョブを変えて剣士になろうが格闘家になろうが、根本的なところは変わらない。
「あんたらじゃあダメなのか?」
「今はな。依頼を受けてランクを上げれば認められるんだけど……」
「さゆねこもお兄さんもギルドのクエストをほとんど受けていないのです」
カルディアでもロムレムでもギルドには顔を出していなかったんだよなあ。……ギルドで受けた説明によるとランクは七つ。
・駆け出しのFランク。
・経験を積んだEランク。
・Eランクよりも経験を積み、信頼の出来るDランク。
・集団をまとめられるほどの実力を持つCランク(自分でクランを立ち上げるならCランクになる必要があるそうだ)。
・ここまで来ると数も少ない、単独でも大概の敵をぶっ飛ばすBランク。
・絶対的な力を持つAランク。
・最後に、賢者とも聖人とも、脅威に対する盾だとも唯一の罪だとも空を跳ねまわるだとも関わることイコール自殺志願者だとも言われているSランク。散々な言われようだが、それだけやばいやつしかここまで辿り着けないのだろう。
森に入るにはDランク相当の実力が要る。俺とさゆねこはまだFランクだ。面倒くさいが、一応、冒険者を守る為にランク分けされている面もある。初心者が危険な依頼を受けないような配慮がなされているらしかった。
「無理矢理森に入っちまえばいいじゃねえか」
「そう思ったけど、バレたら冒険者の資格を剥奪されるんだよ」
俺たちは冒険者だ。冒険者ではないという烙印を押されちまったなら、俺たちはゲームに参加できないってことにも繋がるだろう。要するにアカウントを凍結、あるいは消されちまうんだろうな。
ランクを上げるにはクエストを数多くこなさなきゃいけない。だけどチンタラやってる時間はないわけだ。今、こうしている間にも刹那たちは柱に何か仕掛けようとしているかもしれない。
「……バレんの覚悟で突っ込むしかないか……?」
「えー? でもゲームですよ。ルールを守らなきゃおかしいのです」
さゆねこの言うことはもっともだ。だけど……。
「もっかい冒険者ギルドとやらに行こうぜ。ガタガタ抜かしてんならスィランが締め上げてやるよ」
「暴力沙汰はよそうぜ。ここはロムレムの闘技場じゃないんだし」
「だったら何もしないでじっとしてるつもりかよ。あんたにはやることがあんだろ?」
スィランは俺たちを置いてどこかへ向かって歩き出そうとしていた。
「冒険者ギルドはあっちだぞ」
スィランは立ち止まり、何食わぬ顔で方向転換し、再び歩き出す。俺とさゆねこは溜め息を吐いてから彼女の後を追いかけた。
<6>
セリアックの冒険者ギルドの前に立つと、スィランはふんすと鼻息も荒く乗り込もうとした。
が、
「……あなた方は」
「だっ、て、てめえ……!」
ギルドから見知った顔が出てくる。そいつは俺たちを認めると、ふうと溜め息を吐いた。フェネル・セラセラだった。
ファイティングポーズのスィランはぎゃあぎゃあと喚く。……どうしてフェネルがここにいるんだ? いや、そういやこいつもセリアックに向かうと言ってたっけ。
「まだこんなところにいたのですか」
俺はスィランをどうどうと宥めつつ、フェネルを見た。
「そっちこそ、一応姫さまなんだろ。お供も連れないで一人かよ」
「数がもの言う相手ならばよかったのですが……お前も闘技場を荒らしたものの力は見たでしょう。アレに抗するには強い個の力が重要なのです」
「そりゃそうだけど……ん? 今この町に着いたのか?」
フェネルは小さく頷く。
「ワープはできないんじゃなかったのか?」
「ですから馬で来ました。三頭ほど乗り潰してしまいましたが」
俺たちより後に出たっぽいのに追いついてきたのか。
「ヤサカバカヤロウ! そんなやつと和んでんじゃねえよ!」
「ヤサカ・ナガオ。お前はまだそんなものと一緒にいるのですか」
なんだろう。どうして板挟みにあってんだろうか、俺。
睨み合い、言い争うスィランとフェネル。俺は醜い争いから目を逸らした。
「お兄さん。どう始末をつけるのですか」
俺が知るか。
しかし放置していると戦闘が始まりそうで怖い。フェネルは受け流しているが、スィランはセラセラ家に捕まったという意識がある。敵対心を持つのはしようがないだろう。
「スィラン、そこまでにしとこうぜ。……フェネル、お前は森へ入るつもりなのか?」
スィランは呼吸を整えつつ、フェネルから離れる。
フェネルは俺に向き直った。
「ええ。ギルドの許可は得ました。お前も森へ入り、柱へ向かうのでしょう?」
「いいや、俺たちは足止め食っちまった。冒険者のランクが高くないと森には行けないんだってよ」
「……馬鹿な」
「いや、マジで俺たちFランクなんだよ。まあ、フェネルが来たなら少しは安心出来そうだ。俺たちの代わりに柱を……お?」
フェネルは踵を返してギルドへ戻る。俺たちは顔を見合わせた。
しばらくすると彼女が戻ってきて、俺を指差した。
「ヤサカ・ナガオ。お前は今日からDランクの冒険者になりました」
「はあ……?」
「私がそのように進言したのです。お前はこの私に土をつけた冒険者です。資格はあると考えるべきでしょう」
俺はステータス画面を確認する。……マジで冒険者ランクが上がっていた。いいのかよ、こういうの。資格どうこうってより、セラセラの姫さまに言われたら従うしかないよなあ普通。
複雑だ。これで森に行けるかもしれないけど……。
「なあ、俺だけか? さゆねこはどうなんだよ」
「さゆ……ああ、そのイア族の少女ですか。無論、知りません」
「知らないって、そんな言い方は」
フェネルは俺の話を最後まで聞こうとせず、背中を向けて歩き出す。
「おいって!」
「お、お兄さんっ。わたしは大丈夫です。別に、いいですから」
「でもさあ」
「どうせ……」
ん?
さゆねこは俺からバッと距離を取り、声を荒らげた。
「ゲームです、ゲーム! 別にかまいませんし! お兄さんは用事があるんだったら早く先へ進んじゃえばいいんです!」
『さゆねこがパーティから脱退しました』
あっ。
俺が止めるのも聞かず、さゆねこは駆け出した。すばしこいやつはあっという間に見えなくなってしまう。
「フラれまくりじゃねえか色男」
スィランが俺の肩を叩いた。
「スィランで三人目だな」
「何が」
「ヤサカ。あんたが先を急いでんのは確かじゃねえか。柱に……いいや、そこにいるやつに用があんだろ?」
「ああ、そうだけど」
「だけどじゃねえ。いいから行けよ。あのチビスケならスィランが、まあ、少しくらいなら見てやるから」
スィラン……。
「ちゃんと一人で帰れるよな?」
「馬鹿にすんな。あんたこそ、ちゃんと帰ってこいよ」
帰ってこい、か。
どこに、とは聞かなかった。
「何かあったらセラセラの姫さまを見つけて一緒にいろ。いけすかねえが腕は確かだ。せいぜい盾にでもしてやれよ」
「どうだろうな、無視されるかもしれないけど」
俺たちは笑って別れた。
思いがけず一人になってしまった。寂しいし、心細い。だけど、まずは森を目指さないと。
<7>
セリアックの町で買い物を済ませた俺は、森の入り口を目指した。
森は町から出てすぐのところに見えている。一帯は柵で囲われていて、見張りの兵士が何人かいた。
出入口は一つ。柵が少しだけ開けていて、見張りの兵士が左右に分かれて立っている。俺がそこに近づくと、兵士はじろりとこっちを睨んだ。
「ギルドカードを見せてくれ」
俺はカードを差し出した。兵士はそれを確認すると、納得したように頷いた。
「Dランクか。問題ないな。だが、一人か?」
「そうっす」
兵士二人は顔を見合わせる。そして二人して頭を下げた。
「あまり大きな声でも言えんし、詳しいことは話せないんだが……ある人が――――ああ、女性なんだが、一人で森に入ってしまった。私たちでは止められなくてな」
「は、はあ」
「その人を見つけたら守って欲しい。君の出来る範囲で構わない」
あ、そうか。フェネルのことだな。
「分かりました。俺でよかったら頑張ってみます」
「助かる。森には特段凶悪な魔物はいないが、数は多い。火属性の攻撃に弱い魔物がほとんどだが……強力なものを使えば森ごと燃えてしまう。気をつけて欲しい」
「了解です」
「少し柱の様子がおかしいこともある。目撃例の少ない魔物が出たという話も聞いているんだ。森の中には小屋もあるし、中ほどまで進むと小さいが町のようなものもある。じき陽も暮れるから……」
「それまでに『ある人』を見つけて合流します」
「か、影ながら見守るっていう形でも構わない」
何じゃそりゃ。
しかし、馬鹿でかい森だ。迷ったら一巻の終わりだな。




