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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢に転生したっぽいが、そんな事より調合がしたい!

作者: 桜幕

リハビリ、リハビリ、リハビリ?とは思えない程、長くなって済みません。

前世、死ぬほどハマったゲームがある。


 そのゲームは、発売当時から人気が高くシリーズ化し、新しく発売するたびに購入しては毎回毎回コンプリートするまで、寝る間を惜しんでそのゲームをやりまくった記憶がある。

 ゲームをするたびに、私はその世界観に憧れを持ったものだ。

現実では難しい事で、ゲームの様になるにはあり得ない事だったので、そのゲームの世界に入り込む事で欲求を満たしていた。

自己満足だったけど、それなりに前世は幸せだったと思う。


 ―――25歳手間で交通事故によってあの世に逝くまでは…。



**



8歳になったある日、私は突然思い出した。


―――あれっ?もしかして私って悪役令嬢じゃね?


 キスイダ・エリトア


今世の私の名前だ。

前世、友人が貸してくれた乙女ゲーム『愛の方舟』に、出ていた悪役令嬢だ。

しかし、詳しい内容はあまり知らない。実はこのゲームをし始めて30分で、リタイアしたからだ。

 選択型ノベルタイプの乙女ゲームは、当時の私には持続してゲームをする気力は無かった。

 だが友人が貸してくれた事とキャラクターの名前のインパクトで、30分は頑張ってゲームしたけど、やっぱり無理なモンは無理だった。

 そんな私だったが、偶然の産物なのか悪役令嬢の名前だけはバッチリ覚えれた。


 突如、話は変わるが冒頭で前世の私はあるゲームにハマったと言っていたのを覚えているだろうか?

 これだけは言っておくが、決して乙女ゲームではない。

では、何かと言えばそのヒントが、悪役令嬢の名前にある。

  鋭い方はお気付きになっただろうか?


―――そう、悪役令嬢の名前を反対から読めばおのずと答えが解る筈……。


***


 前世に私がハマったゲームは、主人公の住居兼仕事場であったアトリエが舞台の材料を採取し合成に調合と薬から武器とあらゆるアイテムを作り出し、主人公の能力を上げ最終目標は賢者を目指すと言った、やり込み要素満載のロールプレイングゲームだ。

 本当、このゲームを生み出した人マジ神だわ。

 まぁ、何が言いたいかと言えば私ことキスイダ・エリトアが転生した乙女ゲームの世界は、魔法にドラゴンに妖精とファンタジーの世界なのだ!

そうとくればやる事は一つ!!


「採取に調合の腕を磨きながらリアル錬金術師になってアトリエだして、最終目標は賢者レベルになる!!」


この時点で、乙女ゲームの世界だった事など、リアル体験が出来る!と、喜んでいた私には頭の片隅からすっかり消え去っていた。

 後々、乙女ゲームのキャラクター逹に関わるなど、私は想像すらする事が無かったのであった。


◆◆◆

   

 『愛の方舟』


 ファンタジーの世界が舞台の乙女ゲーム。

 攻略対象は隠しキャラを入れて全員で3名。

王子に騎士に人外?と、王道路線な内容で山あり谷ありの乙女が好きそうな展開も含まれていたが、最大の売りは逆ハーレムルートで、世の乙女逹は同時に攻略対象から口説かれる事に萌えキュンしていた。

主人公は伯爵令嬢で、社交界デビューから攻略対象逹に出会う事から物語が始まる。

ちなみにキスイダは公爵令嬢と言う身分で、王子の婚約者であり悪役令嬢の役割なのだが……(作者談)


***


 あれから私は、父におねだりして庭の一角に小屋(アトリエ)(仮)を作ってもらった。

 娘に激甘な父は、可愛くうるうる目の上目遣いのアヒル口で、お願いしただけでその一週間後には建っていた。

 取り敢えず調合の為の器具を買い揃え置いておく部屋が必要だから。

調合に必要な器具は……まぁ、捜せばあるんじゃない?

 自分からおねだりしておきながらなんだけど、いいのか父よ?ヒョイヒョイ娘の言う事を聞いて、前世の記憶が無かったら絶対に、将来ワガママな娘に育っていたよ?

なにはともあれ、これから錬金術師(れんきんじゅつし)になる為に父親を頼る気満々の私も人の事は言えないけどね(笑)


 錬金術師になる為に先ず始めた事は、材料集めの前に薬草や鉱物などもろもろの調合に使えそうなアイテムを辞典や書物を調べる事だ。

 あのゲームも知識を取り込む事で、レベルを上げていったのだから!勿論私もそれに従う。

 後、魔物を倒して貴重なアイテムをゲットする為にも戦闘魔法を鍛えておかないとね!最初の内は一人で森や湖に採取しに行かないといけないから、かなり重要だと思う。

いずれ、冒険者を雇いたいけど将来、彼等の足手まといにならない様に頑張るぞ!

 


「……キスイダ、アスガルド王子の婚約者に決まったぞ。」

「はい?」


 わが家は、公爵と高い身分のおかげなのか自宅に図書館並の書物や本が沢山ある。

まだ10歳の私は外に一人で出るのは早いと言われた為に専ら勉強中だ。

 でも2年後には採取作業を開始したいので、どう上手く父親を言いくるめるか考え中だ。

そんな猛勉強中で、図書館(もうその呼び名でいいんじゃね?ってほど本が沢山ある)にいた所に父親が話しかけて来た。

 

「殿下はキスイダと同じ年で、彼に見合う身分と年齢で、お前に決まったみたいだぞ。」


「キャンセルで」

「………今、何と言った?」

「いいえ、何でもないです。」


 私の身分が公爵令嬢だから早めに婚約をしておこうと言う形になるのは、しゃーないかもしれないけど、私は錬金術師の腕を磨いて最終目標は賢者と言う名のキャリアウーマンになってバリバリ仕事をする予定の私には結婚は必要無いけど、ここで駄々を捏ねるのも面倒くさいから、今はその王子とやらの婚約者(仮)になっておこう。

 それに、王子と婚約しておけばある種の()よけ になるしね!父親も王家の命令なので断れなかったから仕方がないと言う雰囲気だしてるしね。

 婚約破棄については、将来その時になれば何とかなるでしょう。


***


 12歳になった私は、毎日森へと足を運んで薬草や鉱物を採取しに行っている。

んっ?父親の許可?

勿論OKもらってます!

 実は、去年ぐらいから父親の後頭部がやけに薄くなっているなぁ~って気づいた瞬間に私の中で電撃が走った!!


―――もしかして、例の毛生え薬のイベントか!?


 あのゲームの中では武器屋のハゲ親父だったが、目の前には実の父親だがハゲ予備軍がいればやるしかない!今はまだ良くても絶対に5~6年後には危険な状態に陥る筈。


父親の頭が!!


 そこで、ある事に気付いた私の頭は冴えていた。

 元々、父親は昔から髪に艶とキューティクルバッチリな髪の毛だ。多分植物オイルで毎日のお手入れに力を入れているんだろうと思う。

髪の色は黒だが、薄くなると地毛の肌色が目立つんだよね?因みに私の髪の色も父親と一緒の黒色だ。

 そして、祖父や先祖の肖像画が屋敷の奥の間に飾っているのをみたが、ほぼ100%と言っていい程に皆ハゲていた。

 遺伝だと思うけど、父親にとっては死活問題かもしれない。

そこに付け込んで、そろそろ一人で外出許可を欲しかった私は父親にこう囁いた。


「お父様の為に、時間は沢山かかると思いますが育毛剤を作りたいです……。」


 ―――結果としては、即答でOKゴーサインがでた。


 元々、私の魔法レベルも上がっていたし書物を沢山読んでいて、簡単だが庭に生えていた草や花で薬を作り、それを飲むと肌に潤いがでて綺麗になったという事で結果をだしていたので父親の許可が簡単に取れた。

 母親の許可については、父親がOKだったら全ていいので大丈夫!


そんなこんなで、私はいそいそと採取しに森や湖へと毎日足を運んでいた。



「ファイヤーブレスト!!」


 森の中で採取中に、魔物に会ったので魔法で一気に倒した。魔物のタイプは巨大ネズミで、サイズは私の身長ぐらいある。

 採取活動を始めて1年もすれば魔物を倒すのもお手の物になった。

魔物を倒したその場所は、黒こげになって魔物の死骸は無いが、黒く焼けた地面の上に光るクリスタルピンク色のハート型の石が落ちていた。

 

「やったね!これで調合のレパートリーも増える!!」


 私はいそいそと、手にしたアイテムを袋に入れた。

 ふと、視線を感じ顔を上げると3メートル離れた場所で金髪碧眼の美少年が口をあんぐり開けてこちらを見ていた。

同じ年頃に見える彼に私は訝しく見ていたが、ある事を思い出した。


―――森の中と言えば!!!!妖精さん!?嫌々、妖精さんを雇うには近場の森では無くて、妖精の森に行かないといけないんだった。

 でも、何故こんな森の中で男の子一人でいるんだろうか?着ている洋服を見れば上質な布を使っているので、上位貴族だと思うんだけど……。

 つらつら考えていると、美少年がおそるおそる近づいてきて


「君は強いんだね?それに魔物を倒した後に、何かを拾っていたけどもし良かったら見せてくれないか?」


 ああ、子供ってそういうの好きだよね?かなり興味津々で目をキラキラしながら話しかけていたので、私は先程袋に入れていた石を取りだした。

 石は太陽の光に当たりキラキラ光っている。


「初めて僕は知ったよ。魔物を倒した後に、こんな綺麗な石が出て来るなんて……」


 ほぅ、と息を吐く美少年を横目に私はあさって方向を向き視線を反らした。

 どうやら、魔物を倒した後にアイテムが出てくるのはこの世界では非常に珍しい事らしく、それは私の魔法と想像力と言う名の中二病……げふんっ、関係あるらしい。

 私って魔法チートじゃね?って色んな書物や人から聞いた話を統合して出した結論がその答えだった。

 そして、ある事にも気づいた。


「この石はどうするの?アクセサリーにすれば、さぞかし素晴らしい物になるだろうし高値で売れると思う」

「いえ、調合して何か薬でも作ろうかと思います。こう見えて私は錬金術師なんですよ」

「……えっ?錬金術師?初めて聞く名だ」


 そうなのだ、この世界は錬金術師という単語はないらしい。その職業に近くはないが、しいていえば魔法使いだが、物質を混ぜて新たにアイテムを誕生させるという発想は魔法使いにはない。

 魔法使いは自然の力を借りて魔法を使う事が主流なのだ。

 いずれ錬金術師と言う名の職業を浸透させるのも私の試練だと思う。

まずは、この美少年に簡単に錬金術師を教えようとしよう。


「錬金術師とは、物と物を合わせて薬や武器に日用雑貨とあらゆる物を創り出す事が出来る者の事を言うんです」

「……この石を使って薬を?」


 目を見開き聞いてくる美少年の表情はかなり驚いている。

まさか、薬を作るのに石を使うなんて想像しないだろうね、普通は薬草や花と言った植物で作るからね。


「……そうですね、この石を使った薬であれば難病にも効くでしょう」


 今の私であれば、そのレベルの薬は材料が揃えば作れるし、調合に使うアイテムも先日、一年に一度ある日食にしか咲かない花をゲットしたから、相当レベルの高い薬は作れる筈。

 そう美少年に伝えた瞬間に思いっきり肩を掴まれた。って痛いよ?君。


「頼む!!!その薬ができたら幾らでも払うから僕にくれないか!?」


 凄い剣幕で迫ってくる美少年に私は


「ちょっと、お願いだから落ち着いて。何故薬が欲しいのか説明して」


 彼を宥めながら、私の心臓はドキドキしていた。


「あっ、済まない。僕の母上が数日前に倒れて危篤状態なんだ。ジッとおし……屋敷におれず、この森のどこかに生えている花が、病気に効くと前に噂に聞いて探しに来たんだけど、結局は見つからず屋敷に戻ろうとした所を、偶然に魔物を倒している君を見つけたんだ」


これは、ある程度レベルが上がると発生する例のイベントよね?ゲームの中では親友の体が弱まって、彼女の病気を治す為に万能薬を作るイベントだったんだけど、多少の変化球は対応できる。


「医者には母上の体は持ってあと一週間と言われている」


悲痛な表情の彼には悪いが私の中では……


―――キタっ!!!!期間限定イベント!!!


 父親のハゲイベントはもう少し先なのでまだ育毛剤は作っていない。と、すればこのイベントが私に与えられた初めての依頼(試練)なのだ。もちろん私に断る理由は無い!!っていうか、3日あれば作れるので初試練にしては、簡単だがこのイベントを終わると新たなイベントが発生するかもしれない。

 私は、この高揚感を悟られ無い様に真面目な表情をしながら


「……分かった。偶然出会った縁で貴方のお母様の為に薬を作るわ。完全に病魔を取り払う事ができるかは、分からないけど4日後この場所に来て!その時に薬を渡すわ」


 出来上がった薬は材料が良いから100%病気は治るけど、ちょっと謙遜してみました。


 その4日後、約束通り美少年に薬を渡した。



彼に薬を渡した一週間後、食事中に父親が


「危篤状態になっていた王妃様が薬で回復したらしい。陛下も殿下も非常に心配されていたから、本当に良かった」


 へぇ―――、王妃様は病気だったんだ?初めて知った。殿下は確か、わたしと同じ年齢で13歳だったからその年で母親が亡くなったらかなり辛いかもね……。

 殿下には会った事ないけど(私が殿下に会うのを拒否しているので、体が病弱で屋敷から出れないと嘘を父親がついてくれている為)、近い年齢の私としては、他人事だけど何はともあれお母さん助かって良かったね!!


「……そうですね」

 

 私はモグモグとチキンを食べながら、そういやぁ病気で思い出したけど美少年の母親の病気は無事に治ったのかな?ちょっと明日、結果を聞くために会えるか分からないけど森に行ってみようと考えていた。



 次の日、森に行くとお礼の品を持った美少年が、私を待っていた。

結果としては、母親の病気は完全に完治したという事で、初めてのミッションクリアだろう。


「……僕は君にとても感謝している。あの日、君に出会えた事は奇跡だと思う。本当に感謝しきれない程だ」


 満面な笑顔で話す美少年は、私の手をギュッと握りしめ歓喜した表情で見つめている。

そこまで喜ばれると、初仕事はチョロイなと思った私は少し恐縮してしまう。


「そう言えば、僕は君の名前を聞くのを忘れていた。教えてくれないか?」


 あっ、言われてみればお互い自分の事がいっぱいで、自己紹介してなかった。

 だが、私は本名は言うつもりは無い。キスイダなんて珍しい名前はすぐに公爵令嬢をイメージさせるし、シャツに鎧にパンツと冒険者っぽい恰好をしている私にこの名前はあまりにもおかし過ぎるという事で、


「……スイと言います」


 キスイダの間をとってスイ。

スイと言う名はこの世界では一般的だから大丈夫っしょ?


「スイ……森の中で凛として華麗に咲く花の様な可愛い名前だね?僕の事はアスと呼んで?」


 ―――うへっ、砂吐いていいですか?それに花の名前にスイなんて聞いた事ないよ。

 それよりお礼の品が気になるんだけど、お礼の品は2つあって一つはお金が入っていそうな袋で、もう一つは少し長めの品を布で包んでいるけど、調合に仕えそうな物だったら嬉しいな!

 ワクワクしてたら、それに気づいたアスが


「この袋に入った物はお金なんだけど、もう一つは素晴らしい薬を作った君を見込んで僕から依頼したい物がなんだ」


 んっ?二つともお礼の品では無かったんだ……。でも、依頼という事はそれを調合しても良いんだったら、私はOKよ!調合大好き!!

 アスはスルッともう一つの方の物の布を外したら、鞘におさまった剣が出てきた。


「えっと、やけに年季が入っているね?」


 その剣は、はっきり言って茶色に染まって……と言うか、(さび)まくっていた。


「実はこの剣は家宝なんだけど、こんな感じだからその辺に転がっていたんだ。確かスイは初めて会った時に言っていたよね?物と物を合わせて武器を作れると。これで、新たな剣に生まれ変える事は出来ないかな?」


 アスの話を聞きながら、私の頭の中では作るのはアレしかないと決めていた。

それに、イベントを終えた事でアスと友人となりこれからちょくちょくと私に依頼に来るだろと考えると、自然に笑顔になるのは仕方がない事だった。


 私の笑顔を見てアスがドギマギしていた事など思いもせずに。


**


 アスからの依頼をするに当たって、私は聖剣を作る事に決めたが聖剣に関してはまだまだ知識が足りない。

 と言う事で、やって来ました!王城の門の前です。

 本来ならば公爵令嬢の私であれば、家の紋章を見せれば一発で通れるが現在の私の恰好はドレスでは無く、少し小奇麗にした商人クラスの娘が着る様な装いだ。

 すんなり通ってしまったら、新たなイベントを起こす為には例のキャラと顔見知りにならないといけないので、公爵令嬢では無く一民としてチャレンジするのだ。

それに、病弱設定の公爵令嬢の私は社交界に参加していないのでばれない筈。

 

 私は門の前に立つと、今回の目的相手である16歳位の若い騎士に声をかけた。

 それにしても、銀髪にアイスブルーの瞳とはアスもそうだけど、顔面偏差値高いのが多いな。


「済みません!王城の中にある図書館に入りたいんですけど?」

「許可書は?」

「……無いです」


 無表情に対応する若い騎士は、淡々としているが一回で王城の図書館に入れるとは私も思っていない。

このイベントは長期戦を要するので、一先ずここは引く事にした。


「分かりました!では、明日もきます!!」


私は笑顔で門の前を後にした。



「おはようございます!今日はいい天気ですね。ところで王城の図書館に入れてくれませんか?」

「許可書が無ければダメだ」



「こんにちは!いつも仕事お疲れ様です。お疲れな騎士様にレモンの蜂蜜漬けいかがですか?」

「ぐっ……美味い」

「これで、中に入れてくれませんか?」

「許可書は?」

「……なかなか難しいです」



「グレン様、お弁当を作って来たんでお昼に是非食べてください」

「ああ、スイか。わざわざお弁当を作って来てくれたのか?非常に申し訳ないが、許可書がないとお前を王城に入れる事は出来ない」

「……仕方がないですね。では、明日も来ます」



「今日は凄い雨ですね。この中でのお仕事大変でしょ?」

「スイ!!こんな台風の中を外に出る奴がいるか。早く自宅に戻れ」

「やっぱり王城に入いるのは難しそうですね」

「当たり前だ!!」


「グレン様、甘いもの好きですか?仕事の合間に食べれるクッキーを焼いてきました」

「ああ、……好きだ」

「へへっ、という事でちょっと王城の図書館へ……」

「スイ、それは駄目だ」

「やっぱり?」


 と、毎日毎日私は足繁く騎士ことグレン様に会いに行った。

 王城の図書館に入る事も大事な目的だが、先ずは門番の騎士であるグレン様と仲良くなれば、いずれドラゴンの牙と舌を手にする為に、仲間として闘ってもらうように頑張っているのだ。

 例え、餌付けという姑息な手を使ったとしても(笑)

 だが、最近グレン様の表情がかなり柔らかくなったと思うし、はにかんだ笑顔を見せてくれる様になった。

 通い始めた頃は無表情の鉄仮面だったのに。

 まぁ、そろそろ許可書を父親に貰って王城の図書館に入っても良い頃合いだろう。そのまま公爵家の紋章入りの許可書は私的に彼にばれるのは、よろしくないので上手く誤魔化して貰おう。

 そしてグレン様には、仲間になってもらう様にお願いしようと決めた。


「グレン様、グレン様。これを見て下さい!」

「おはよう、スイ。今日はやけに嬉しそうではないか?」

「じゃーん!!!念願の王城図書館の許可書です!!手に入りました」

「スイ!!良かったな。だが、どうやって手に入れたんだ?」

「んー、多分毎日私が通っていたのを見た心優しい貴族の方が許可書をくれたんですよ」

「……そうか、私ではまだ年が若いという事で断られた……」

「何か言いました?」

「いや、ただの独り言だ。で、調べ物は沢山あるのか」

「見たい書物は決まっているので、多分本日中には調べ物も終わると思いますよ?」

「!!では、明日からスイは此処には来ないのか?」

「はい、そうなりますね」

「……」

「あっ、でもグレン様にお願いがあるんで話だけ聞いてもらえますか?」

「スイの為なら何でも……」

「ありがとうございます!!」


 その後、聖剣も無事に完成しグレン様も私の仲間になってくれた事によって、採取しに行ける場所も増え、絆を深めていった。

 で、何故かグレン様が仲間になった事を知ったアスも自分の剣の腕は立つから仲間に入れろと言われた時は、二つ返事で了承した。

 だって、人数が多ければその分採取出来る量が増えるし、荷物持ちも増えるから当たり前だよね?



 アス達と出会って一年経ち私も気がつけば14歳とまだ若いけど、調合の腕は確実に上がった。

毎日、色んな薬や武器、そして家庭雑貨を作っているからね!!例えば、一口飲めば体の怪我が完全に治る薬とか、剣を一振りすればつららの形をした氷が飛び出したりとか、自分で勝手に掃除をしてくれるほうきとか数をあげればきりがないけど、私はそろそろ賢者の宝石の調合に取り掛かりたいのである。

 賢者の宝石とは、難度の高いアイテムなのだ。勿論、それなりに技術と魔法力に調合の腕は必要。

最近、簡単に調合が出来る様になったので自分のレベルを上げる為に賢者の宝石を作ろうと思う。

 その前に、材料であるドラゴンの牙か舌を手に入れないといけないんだけどね。


 一年もすれば、仲間であるアスとグレン(呼び捨てで呼んでくれとお願いされた)の剣の腕も上達してるので、ドラゴンを倒せるハズ!!

 ただ、この話をした時二人共、難色を示したがそこは無視という事で、ドラゴンが住む火山に向かった。

 一週間という長旅だったけど、念願のアイテムを手に入いるという事で、私は常に上機嫌だった。

ただ、アスとグレンが就寝時間になると険悪な雰囲気になっていたから、私は仲間なんだから仲良くしろよ!!と心配?はしてないけど、そう思いながらも二人に構わず爆睡していたけどね。

 

「……いた」


 私は、感動のあまり震える口調で呟いた。 

アイテムを手に入る事もそうだが、リアルドラゴンを見るのも生まれて初めてで、全てにおいて感激していた……と、感傷に浸ったのは約10秒ほどで、ドラゴンを倒すには時間が勝負!気づかれる前に即効で仕掛けないと、こちらが危ない。


「ファイヤーブレスト!!!」


 攻撃魔法を赤い鱗を持つ2メートル位の大きさのドラゴンに打ち込んだ。

その瞬間、白い煙が上がり周りが見えない状態だ。

……殺った?

 私は、煙が消えるのを待った。

どれ位経っただろうか、私はおそるおそる目を開けると、ドラゴンがいた場所には真っ赤な髪の身長180㎝位の20歳前後の美青年が立っていた。


「……あれ?ドラゴンは?って言うか、アイテムも落ちてない!!!」


私は辺りをキョロキョロ見回していると、いつの間にか近付いてきた美青年が私を見下ろし、フッと微かな笑顔を見せ


「我を人型にした者が、まさかこんなに愛らしい娘だとは思っていなかったぞ?お主は相当魔力を持っているな?この我を超える程に……」


 この美青年は今なんとおっしゃいました?彼から視線を反らせず、固まったままの私の思考回路は嫌な考えになっていた。

 そんな様子の私を見ながら赤毛の美青年は


「驚くのは無理は無い。我は先程お主が攻撃したドラゴンなのだからな……」

「いやぁ!!!!そんな設定いらねぇ!!!!!」


あまりのショックで思わず、口調が悪くなったのは仕方ない。


「なんで、ドラゴンの牙や舌とかアイテムが欲しかったのに……」


あっ、ダメだ、泣きそう。目に涙を浮かべた私の表情を見た美青年はギョッとして、


「牙や舌は痛いからやれないが、鱗はどうだ」


 焦りながら、いそいそ真っ赤な鱗を取りだしてきた。

……鱗か。鱗をアイテムとして調合するのを考えた事なかったけど、出来るかな?

無言で、その鱗を見つめていたら美青年が


「鱗も我が一部なのだから、牙と大差はない。……舌はよく分からないが」


 困り顔で話す美青年は、私を慰めようとしているのだろう。

まぁ、ドラゴンの鱗もある意味貴重だから折角なので受け取ろうとした瞬間、今までドラゴンの事ですっかり存在を忘れていたアスとグレンが


「「僕(私)が受け取ります!」」


 鱗を受け取ろうとした私の手の上に二人の手が入り、数秒早かったグレンが鱗を手にした。

それを確認した二人がホッとした瞬間、美青年がチッと舌打ちをしたのが見えた。

 一体、何なんだ?鱗を受け取る位なら良いじゃないの?と、この時の私は思っていたが、後から聞いた話では、人型になったドラゴンから直接に鱗を受け取ると求婚を受け入れた事になるので、それを聞いた私は、求婚を阻止してくれた二人に感謝しながらも冷や汗をかいた。

 しかし、私を気にいったドラゴン(名前があってビストらしい)は、山を降りて私についていくと言いだし、断ったけど鱗を沢山やるからと言われ、失敗しても何回でも調合に使用できると思いついついOKしてしまった。

 ただ、アスとグレンの二人からは絶対直接に鱗を受け取るなと厳重注意があったけど、理由は然り……。

 その後、賢者の宝石の調合に約1ヵ月かかり無事に完成させた。

 ただ、出来上がった形が優勝トロフィーみたいになったのは謎なんだけど、屋敷の大広間に飾られている。効果として実は広範囲レベルの魔物退散アイテムなので公爵家の領地内は完全に魔物の姿が消えていた。



***


 半年前からアスとグレンの姿を見かけなくなっていた。

 一時期はあんなに一緒に魔物を倒したり滝や遠くの森と採取しに行っていたのに、労働力が減ったのは本当に残念だ。

 確かに、会わなくなる前から二人の様子がおかしい事に気付いていた。急に考え込んだり笑顔が消えていったと思ったそんなある日にぷっつりと二人に会わなくなっていたのだ。

 ドラゴンのビストと言えば、私の小屋(アトリエ)に住んでいる。

いつだったか、二人の事を聞いた時に


「ふんっ、あ奴らは身分の壁がどうので……いや、気にするな。お前から勝手に離れた奴の事など気にする事ではない」


 ビストの話を聞いても意味が分からなかったので彼の言う通りに気にしない事でおく事にした。

 身分と言えば、ビストには公爵令嬢とばれたがアスとグレンには私は平民と思われている筈。

 だって、グレンは騎士だからいいとしてアスは貴族とバレバレなのに、嘘をついて冒険者と言っているからおあいこだよね。

 初めの頃にアスに冒険者を雇いたいと言っていた所為かしら?


 それは良いとして16歳なったある日の事、私は大きな溜息をついた。

父親に呼び出され聞いた内容が


「アスガルド王子から婚約破棄の申し入れがあった」

「……」

「大丈夫か?殿下との婚約破棄がそんなにショックだったか?」


 いやいやいやお父様、一度もあった事の無い王子様との婚約破棄なんぞでショックを受ける理由が見つからないわ。

 口には出さないけどね。

 そう言えば、わたしって婚約してたんだったわ……。って何てラッキーなの!!こちらから断る前に向こうから言ってくるなんて私ってついてる!!上機嫌な私とは反対に父親は、不満そうな表情で


「公爵家を馬鹿にしている。婚約破棄の理由が好きな人が出来たなぞ馬鹿馬鹿しい程にも程がある。その相手が伯爵令嬢で、殿下のみならず国で一番強いとされる騎士までも籠絡している悪女だ」


 腹が煮えくり返っている父親を見ながら、あまりストレスを溜めると毛根に良くないから落ち着く様に、伝えようとしたら


「キスイダ!明日後のアスガルド王子の16歳の誕生パーティーが王城で行われるから、それに参加しなさい。お前がどれだけ素晴らしい娘なのか殿下に思い知らせて、自分から婚約破棄を言いだした事を後悔させてやるのだ!!」

「はいっ?」

  

 え―――正直面倒くさい。

 確かに、公爵令嬢としてのマナーはビシバシしごかれ一度も社交界に参加していない私だけど、完璧にできる自信はあるけど……。

 嫌がる顔が出ていたのかその表情を見た父親から一言


「パーティーに参加してくれたら、街中に以前からお前が欲しがっていた工房(アトリエ)を買ってやろう」

「勿論参加しますわ!!」


 考える間もなく即答で返事をした私がいた。

 

***


「どうして、悪役令嬢の貴方が攻略対象のビストを連れているのよ!!!!」


 甲高い声で叫ぶ女性に、私の耳が痛くなった。

何なんだ、この馬鹿は?ストロベリーブロンドの髪に、緑の目の姿形は愛らしいが、中身とのあまりのギャップの差に驚いたが、エスコートの為、隣にいたビストに知り合い?と目で確認すると横に首を振っていたので、だったら電波女ね!と白い目でその女性を見ていると、懐かしい声が聞こえた。


「ユリナ?大声をあげてどうしたんだ?」


 優しくユリナと呼んだ女性をいたわる様に、近寄って来たその男性の顔にかなり見覚えがあった。

しかし、服装がいつものラフな姿ではなく白い詰襟のかっちりとした服装に左側の袖に施された紋章に気がついた私は嫌な予感がした。 


「アスガルド様、貴方の元婚約者のキスイダ様が私の事をわるく言うんですぅ!!」


 甘ったるい声を出す電波女は、理解不能な事を言いだしたが、私は目の前にいる男性の存在に固まっていた。

 アスガルドだからアスって、……王子だったんかい!!!


「キスイダ?」


私の名前に反応示したアスは顔を上げ、私を見た瞬間思いっきり目を見開いた。


「……スイがキスイダだったのか?」


震える声で尋ねてくるアスにって、アスガルド様か?私はニッコリ微笑み


「お久しぶりです。アスガルド様、改めて自己紹介をさせて頂きます。私はエリトア公爵の娘、キスイダ・エリトアと申します」

「……まさか、スイが僕の婚約者だったなんて。母上を助けてくれた恩人で僕の初恋だけど、平民だと思った君と僕との身分の差があまりにもあるので難しいから、諦めようと死ぬほど悩んで君の事を本気で好きになる前に、忘れようとスイから離れ会う事をやめ、やっと身分につり合う気になる女性が出来、一度も顔を見た事が無い病弱な公爵令嬢の婚約を破棄し新たな恋を始めようとしたのに……」


 悲痛な面持ちで話すアスガルドには悪いが、何故そこまでショックを受けているのか私には分からなかった。←恋愛ネタの部分はスルー

 勝手に自分から友人を辞め離れていったのに、今更私の身分が公爵令嬢だからって……ってアスガルドは王子だから身分は関係ないか?なら何でショックなのか意味が分からん。

 ぼんやり立っていると


「殿下がキスイダ様と婚約解消されたと言う事は、私にチャンスが来たのですね」


 再び懐かしい声を聞き、後ろを振り向くと凛とした姿で立つ黒の騎士の制服を着たグレンがいた。

私と目が合うと、にこやかに微笑み


「本当ならば、私はずっとスイに会いたかったのですが(くそ王子)の命令で已む得なく会いに行けなくなったんです。そして貴方を忘れようとして他の女性を……」

 

 チラリとユリナを見て


「私は先程まで、ユリナを可愛く思えましたが……スイ、貴方の姿を見た瞬間、私はやはり貴方が良いです」


 気の所為だろうけど、これって愛の告白っぽくね?と、考えていると


「どうして急にアスガルド様にグレン様はおかしい事を言いだすの!?だって、この女は悪役令嬢で私をイジメるキャラクターなのよ?それなのに、ビストは出会う筈だった森にはいなかったし、この女は全く姿を見せないし、好感度を上げるイベントもあまり発生しないしないなんて、そうじゃないと逆ハーレムルート達成できないじゃないのよ!!!」


 彼女の台詞に私は今の今まですっかり忘れていた事を思い出した。


 ―――ここは乙女ゲーの世界だった!!!


 待て待て、彼女はこの場にいる3人が攻略相手みたいな事を言ってなかったけ?……ええっ!!!知らず内に関わってたよ!!乙女ゲーキャラ何て関わるだけで面倒くさい。

 そうと決まれば、この場からとっとと逃げるのが勝ちね!

幸いドレスの下にはワープできる紐を持って来たから、これを結んで輪にし体をくぐらせば、家に帰れるわ!良かった、何気なく調合した紐でワープ逃亡用を作っといて!!


 「では、皆様ごきげんよう!!」


何か皆それぞれ叫んでいるけど、無視無視!!  



 

***一か月後


「殿下、貴方はスイと婚約を破棄したのだから此処に来る資格はありませんので、王城にお帰り下さい」

「グレン!お前だけ抜けがけなんて許さないぞ。それに婚約破棄に関しては元のさやに戻すよう陛下に申請中だ!!」

「お主ら、いい加減にしろ。お主等から一度はスイから離れたのだから、出戻りは見苦しいからとっとと自分の巣へ帰れ」


 念願のアトリエをオープンさせたけど、後ろの三人が煩いし、何故この場所がばれた?

でも、薬草やら鉱物やら宝石やら布やら……etc色々と調合で使うアイテムをタダでくれるから無下には出来ない。

 最近、少しずつだけどお客様からの依頼もそろそろお手伝いさん兼弟子が欲しいな……。

 そうだ!!妖精である小人さんを探しに旅に出よう!

アトリエの留守番は……うんっ、この3人の誰かに任せればいっか?どうやらこの場所がお気に入りらしいから。

 錬金術師には決断力が必要なので、決まれば即行動あるのみ!!!

旅先で新種の魔物に会えて新しいアイテムゲットできるかな?


―――とても楽しみ!!!錬金術師になって本当によかった!!



 ちなみに育毛剤が完成したので、父親に渡した次の日に頭の毛はふさふさで良かったんだけど、それ以外にも鼻や耳の間から毛が伸び大変な姿になっていた。

 



 うん、薬が効きすぎるのも問題ね……。

  


                           おわり


                               











例のゲームをネタにしてますが、たまに自己流にしている部分もあるのであしからず

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