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0章 第一話 〈プロローグ〉

 今日で三日目となる。この強い雨は何もかもを浄化しそうな位、綺麗な水たまりを幾つも創り上げた。だが、そろそろ人々もうんざりしてきた様だった。みな不機嫌そうな顔をし、下を向いている。今日が水曜日で、週の中ごろに差し掛かり、気落ちしているところへ三日の雨だ。イライラもかなり溜まるだろう。

 ほらね、器の小さい子供な大人たちが階段の下で喧嘩してるよ。

 俺の中のもう一人の俺、ショウが俺にささやいた。

「フフ・・・。」

 実際、ことの発端は、鞄がぶつかった程度のことらしい。その階段を使う人々も困ってるし、小さい子供も大声で叫ぶ大人たちに怯えているような顔を向けているが、器とともに視界も小さい大人たちは気づいてない。

 止めないのか?

 ショウはその大人たちに対して憤りを覚えていた。

「大丈夫・・・。」

 ショウに言われるまでもなく俺の脚はその大人たちへ向かっていた。



 いま俺は駅前の交番のカウンターに向かって座ってる。

 あの喧嘩を止めようとした俺は確かに大人たちを止めようとはした。だが最初に突っかかっていったと思われるほうに俺は突き飛ばされた。運悪くバランスを崩した俺は後ろにいた女性に思いっきりぶつかってしまった。階段から降りてきたばっかりで、状況のわからなかった女性は俺のことを変人と勘違いしたようで、俺を引っ張ってこの交番まで来てしまったのだ。


「・・・るのか?君?」

「はい?」

「まったくもう、何とかあちらの被害女性が気を静めて納得してくれたからよかったけど、あの女性がもし分かってくれなかったら君大学退学だったんだよ。わかるか?」

「いや被害って・・・。ホントに俺がなんかしたみたいな言いかたしますね。」

「あのね、君・・・。まあいい、とにかく気をつけなさいよ!」

 俺は腑に落ちないまま交番を後にした。

「納得いかないな。」

 仕方ないよ、この世は被害とつけばそれが一番なのさ。

 ショウはいつもやけに落ち着いている。

 それより大学遅れるよ?いいのかい?

「あ・・・」

 気が付けばいつも乗っているちょうどいいタイミングの電車は発車していた。

 気のせいかこんな俺をあざ笑うかのように雨脚も強くなったようだ。


 運良く次の電車はすぐ来た。しかも車内もすいている。ホームに入ってくる列車を見ていたら肩に手がかかった。振り向くと、そこにはさっきの顔を真っ赤にして怒鳴っていた大人がいた。今でも顔は真っ赤で、元から酒を飲んでいたらしい。それがこっちを睨んでいた。

「なんですか?」

 尋常で無い睨みに多少警戒しながら聞く。

「さっきお前俺の話に首突っ込んだよな?邪魔なんだよ若造のくせに!」

 また大声を出し始めた。ちょうどそこへホームに高速で入ってくる列車の警笛が響いた。

「俺のほうが何十年も生きてんだよおぉ!」

 その大人は俺を目を真っ赤にして怒鳴りつけると、最後にこう言った。

「俺の前にいるな!」

 そういって俺の肩をかなり強く弾いた。

 俺が乗るはずだった列車のライトと警笛がいつもより近く感じられた瞬間、体がホームから浮いた。


 電車ってやっぱり冷たい・・・

「鉄の塊だな・・・。」


 皮肉なものだ。

「皮肉なものだな。」


 ショウと俺は同じことを最後につぶやいた。



 イオリ、イオリ!

 ショウが俺を呼ぶ声がする。

 何故だ?俺は確か・・・。

 イオリ!

「ん・・・?」

 目を開けるとそこは病室のようなところだった。なぜか俺はベッドの上に立っている。思わず下を向くと、そこには「琴道 伊織」と書かれたプレートの付いたベッドに横たわるコードだらけの俺がいた。ニュースでも俺の名前を俺もよく知ってるキャスターが喋っている。

「今日午前9時ごろ、○○駅で大学生、琴道伊織さんが、酔っ払いに線路に落とされ、電車に跳ねられ死亡する事故が・・・」

 どうやら僕たち死んじゃったんだね。

 そこまで困ってない雰囲気でショウは言う。

「いやいやいや・・・、死んだ俺が何でいんの?」

 いわゆる・・・幽体離脱ってやつかなぁ?

 窓の外ではきれいな夕日がこちらを向いていた。

「でも・・・どーせ死ぬんだったら太陽の下がよかったな。」

 かもね・・・。

 その時、病室内に聞いたことのないミュージックホーンが鳴った。

「なんだ?」

 なんだろう?

 俺たち以外の患者や、医師たちは気にしてないみたいだ。いや聞こえてないのかもしれない。

 きょろきょろしていると、不意に病室の景色の一部が歪んだ。そして特急っぽい列車が病室の中に入って来た。

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

 うわわわわ!

 普段は冷静なショウも驚いたようだ。一両目の真ん中のドアがちょうど俺の目の前にとまった。

 そしてそのドアを含め、すべてのドアが開いた。

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