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幼女に転生したようです

この地の名はセルトリア王国領ハイエント。

今だ過去の"かの戦い"の戦火により、半焼した北部にある森、それと対照的な西部の眩い程の輝きを放つ海岸。

それらに挟まれたこの領地は正にセルトリア王国の辺境と呼ぶに相応しい領地である。

春には涼しいというよりは寒い風が吹き、夏にはそこまで気温は高くならず、過ごしやすい。秋は夏の余韻を残しつつ冷たくなっていき、最終的に、厳しい冬が待っている。

そこにある少々大きな館、その館主であり領主でもあるバーク・ヴァルヴィア ハイエント辺境伯の妻、シェリー・ヴァルヴィア辺境伯夫人は新しい生命を産まんと四苦八苦していた。


…………………

……………



「はっ…はっ…うぐぅぅう!」

「もう少しだぞシェリー…産婦!状況はどうなんだ!」


陣痛は10分に一回くる様になると本格的に準備しなければならないらしい。

そこからもうすでに数時間たっていた。

今は産婦をしているあの人に聞けば、これは相当な難産だという。

シェリーはすでに陣痛を起こし、ずっと体からの痛みで苦しんでいた。シェリーは相当な痛みがあるのかその端正な顔を歪ませている。いつもの快活さからは想像出来ない程に。不安なのか痛いのか私の手を思い切り握っている。産婦をしているエリスは緊張した面持ちで


「バーク……このままだと母子共に…」


それだけ言って顔をしかめた。

産気づいてからかなり時間が経っているがまだ出てこない。あと少しで出産が終わるわけだがそのあと少しが難航しているのだ。

本来なら最初がつらく最後は比較的楽になる筈、なのだが…


「シェリー…大丈夫か?」

「私は大丈夫…まずは…この子が…一番…」

「もう少しの辛抱です!シェリー!」


最初が楽だったのだが、最後になっていきなり出てこなくなったのだ。まるで呪いの様だった。

悪魔でも憑いているのかと疑いたくもなった。

いや、やめておこう。あまり縁起の良い事では無い。

しかし妊娠の光景を見たことのない俺でもこれはおかしいとわかる。

肌の色が異様に白く、またふっくらした可愛らしい頬がこの数時間の間に明らかに細く骨ばんでいた。暗い雰囲気が漂い、蝋燭の灯りもままならなくなって来ている


「もう…ダメ…」


シェリーぱたりと気を失う様に倒れこむと…可愛らしい"女の子"が産まれた。オギャーとなんとも元気な産声をあげている。シェリーゆずりの声の大きさだ。

こんな難産の中、無事出産出来た。

エリスと私は頬を緩ませ、顔を見やった後赤ちゃん、我が娘を抱きあげた。


「バーク!ご令嬢よ!」

「良かったシェリー!…シェリー!?」


しかし私の緩んだ頬はすぐに引き締まる。

シェリーの手は俺が手を繋いで欲しい、と言われて、強く握りしめていたのだが、出産してからグッタリとなってぱたりと倒れ込んで以来動いてくれない。


「シェリー!女の子よ!」


エリスが声を投げかける様にシェリーへ話しかける。親友の掛け声でもまだ起きない。


「どうした?シェリー?疲れたかい?」


何故だ?確かに最近食欲は無かった。疲れ気味ではあった。顔を青くしたりもした。でもそれは妊娠の症状では無いのか?


「眠いのかい?シェリー」


俺は夫の前でクタッと眠りこけているシェリーの体を揺らした。

頭をグラグラと揺らすだけでなにも変わらない。

何かが連れて行こうとでもしているのか?


「起きてくれ……なぁ、シェリー、お願いだよ、何度もお願いをしてきたけど…今だけは聞いてくれ…」

「ねぇ、シェリーったら!……え?」


エリスが驚きの声をあげる。自分も"猛撃公"と呼ばれたが、さしもの自分も驚嘆の声をあげざるを得ない。目の前で奇跡が起きている。それも美しい奇跡が。それを起こしたのは王でも、神でも、あの悪魔ですらなく


「バーク!ご令嬢が!」

「これは……まさか…」


弱々しい我が娘だった。顔は赤く顔もしわくちゃだ。言葉も話せない、触るだけでも壊れてしまうんじゃないかという脆さ。無力で儚いと思っていたこの子から黄金色の強い魔力が放たれている。

それもシェリーのためだけに。

しかしそれはシェリーを攻撃する事なく、それよりは癒すためにある様で、攻撃的な力は全く感じられない。

怪しく、昏い気配が消えていく。


「なんと美しい…」


その力はまるで金粉の様に彼女を覆った。エリスは半ば惚ける様にして言葉を紡ぐ。

エリスに美しいと言わせた抱かれたままの子は産声をあげきったのかスヤスヤと寝ていた。シェリーも今までの青ざめた顔ではなく、ほんのりと頬を上気させて寝ている。寝ている様が瓜二つで

やはり親子だな。

と父親の自分は思った。


「この子に名を与える儀を始めるから退いてくれ」

「ですが…」

「これ位は私に任せよ、何、変な名前にするつもりは無い…退いてくれ」

「……はい」


はいの返事を無理やり引き出して退かせた。

名前は相談して決めるつもりだったがダメだ。これだけは譲れなくなった。子どもの名前くらいはやはり決めたい。何の名前がこの子に良いであろうか?

そうだ。この子には相応しい名前があった。

あの子はまるで太陽の様な光でシェリーを救ってくれた。太陽は神聖語でエウレ。

ならば彼女には太陽の意味を込めよう。


エレミア


うむ、我ながら良い名前を考えついたな。


「アーマクレイドにある城より我らを見守る方々へ、聖賢にして高尚なる神へ、バーク・ヴァルヴィアより妻シェリー・ヴァルヴィアから私の娘が産まれた事を報告いたします」


似合わないと自分でもわかる仰々しい言葉を呟く。

これは通過儀礼の様な物だ。しかしこの言葉を紡ぐと何かしているわけでも無いのに儀式を行うとその部屋がぼんやりと光りだしていく。隅にいた何かも完全に消えた。


「私の娘の名を僭越ながら語らせていただきます…エレミア、エレミア・ヴァルヴィアと言います」


自分の声が普通ではありえない程に部屋を反響する。これを聞くのは始めてだが確かにこれを聞けば信じたくもなる。成る程な。と思った。


「名の意味は神聖語で太陽、の意味を冠するエウレより取らさせて貰ました。よろしいでしょうか?」


この許可も通過儀礼だ。神聖語の引用は神の機嫌を損ねかねないと思うかもしれないがそれは無い。昔、王に勇猛な男である様と名付けられ、ある神の名を冠した方がいたが、天罰を受ける事なく発展にあらゆる面で貢献した王として語られている位だ。

やはりただ部屋は淡く光り、その色を一瞬強くしたがまた淡い金色になり、そして消えていった。少し強張っていた肩の力を抜いて、妻との愛の結晶であり、私の救世主の頭を撫でる。


「エレミア……産まれてきてくれてありがとう」


私は心の底から我が子、エレミアに感謝した。


…………………

…………


それから数ヶ月後



やっほーい!皆ー!元気してるかなー!俺は元気だよー!なんてったって自分の念願を叶えたんだからな!俺が目覚めたのはつい最近の事だ。最初はびっくりしたよ!だって俺の手が小さくて丸く、白くて綺麗になってたから。次に俺は自分が抱きかかられている事実にビックリした。俺が最初に思ったのは


"これってまさか転生じゃね?"


なんて言う取り止めも無い事だった。でもその浮かれた心を振り払い、冷静に考えたら…


"やっぱこれって転生じゃね?"


という事になった。俺の頭は単純で出来てるらしい。単純に、では無い。で、美人さんが俺を見下ろしているのだ。見下す様に、では無い。慈しむように、愛おしくて仕方ない者を見ているかのように見下ろしているのだ。そんな事される様なことしただろうか?


「あらあらどうしたの?エレミア?お腹空いたのかしら?」


すごい美人さんが快活な声でこちらへ声かけてくるのは何か来るものがある

相変わらず混乱はしてるけど。まず創作物の転生の定型パターンにどれほど当てはまっているのかがわからない。

自分でも何思ってるのかわからない。


「あー…うー」


発音が出来ない。当然か。まだこの体は…首は座ってるけどまだ歩けないし歩かせてくれない。生後数ヶ月ぐらいだろうか?一日中ぎゅーっと抱き締められてるから抜け出そうと必死に動いても腕が辛うじて振り回せる位。


「きゃー!かぁわぁいぃ〜!」


俺の苦悩も知らぬように、いや実際知らないが俺を褒めちぎってくる。美人さんに褒められるのは嬉しいことだけど恥ずかしい。精神年齢は20代の俺としては恥ずかしいのなんの。想像して欲しい。いい年した大人が自分よりちょっと年上程度の人にまるで赤ちゃんのような扱いを受けるのである。穴があったら入りたい。


「うぁ…う〜ぁー」

「可愛いなぁ…私の娘って本当誰に似てるのかしらぁ?まぁ私とバークなんだけどね!ぷにぷにした頬につぶらな金色の瞳!本当かわいい!」


そう言って頬スリスリをしてくる。恥ずかしさは相変わらずピークだけど、恥ずかしさよりは安心感の方が強かった。

……まてよ、今娘とおっしゃいましたか奥さん。


「うふふふ〜エリ〜それっ」


"ぷにゅ"


「うぁ〜うー」


えへへぇってそんな場合じゃない。

まずは俺の体はどうなってる。男か女か、それが大事だ。女の子にはなりたくない。


「やっぱりエリはかわいい女の子よ!私が自信を持ってお届けするわ!誰にも渡さないけどねぇあなた?」

「そうだな、シェリー」


やっぱり俺は女の子でございました。

実は意識が醒めてから数週間経っているが、今日初めて性別が分かった。

何がにが起きてる?

どんどん混乱して来た。


拝啓前世のお父様

俺の今を知ったらビックリするかもしれません。手軽な仕事を探していたら貴族令嬢というトンデモな仕事を頂きました。羨ましいか!あっ、そうでも無いですか、すいません。


「本当俺の娘は可愛いなぁ」

「男のあなたに言われても嬉しく無いわよ、ねぇー」

「むっ…」


その通りだ。

これは女の子になっても変わらない。俺の趣味よりもまずは整理しよう。

まず俺は女の子になりました。これだけでも変だが俺は異世界にきてしまったらしい。あの少女(?)の通り生まれ変わった訳だ。ここの雰囲気は中世ヨーロッパだ。

興味があったからそこはよくわかる。しかし幾つか変なところがあった。

その代表は世の中の中二病患者の羨望の対象になり得る魔法が使える。

あの小説家になろうで愛してやまない世界へ来た!初めて魔法を見た時の事、母、シェリーさんに俺は一度落とされかけた事がある。とは言ってもわざとではなく、落としかけたあとで


"ごめんね…!怖かった?怖かったよね?"


と泣きながらこちらを抱きかかえたのだ。こっちも悲しくなって一緒に泣いたのはいい思い出なんだけど、凄いのはその過程だ。魔法は詠唱しながらが常識なんだろうけどこのお方は詠唱すらせずに"風を起こした"のだ。その風の力でゆっくりと俺をおろしてくれた。

無詠唱って本当にあったのか!と感動したものだ。

それに感化されてしまったので見様見真似でそれをしようとして実行して見たが世界はそう都合良くはない。

手を伸ばしても何か思っても中二詠唱を思い浮かべても何も起きない。

当然だ。


「ねぇあなた?この子にいつ魔法教えましょうか?」

「シェリー…この子はまだ一歳にもなってないんだぞ?それはまだ気が早い」

「うぁーあー!」


『そんな事ありませんお父様!今すぐ!今すぐ魔法を!お教え下さい!』

それを今の出来る限界まで再現しようとしても、如何せんまだ幼児。うとあしか発音出来ない。教えてはくれないのか…


「ではこの子が話せる様になったら魔法を教えましょうよ!」


キター!!!(((o(*゜▽゜*)o)))救いの手キター!ありがとうお母様!お母様マジ天使。お母様マジ美人。…いやちょっと待ってくれ。言葉の理解については自我が目覚める前に完了してくれた様なので、大体生後10ヶ月以上は立っている様だ。でも子供が話せる様になるなんていつの話だったかな?結構時間かかった気が…


「4歳位か…ちょっと早い気もするがお前を救ってくれたからな…大丈夫だろうか?」


4年後が確定致しました!長ぇ…なんか自分が凄い事した様な言葉が聞こえた気がするけど、そんな事は無かったぜ!っしゃ!言葉を覚える事から始めるぜ!魔法も同時に覚えたいけど子どもにゃキツイらしいし無詠唱は流石に相当な高等技術だろうし。


俺は人生でおそらく初の、努力をする!




………………

………

という事で、俺は魔法という憧れのワードを使いこなす為、まず言葉を覚える努力をして行こう。道は長え、めちゃくちゃ長ぇ。それでも中二病心を叶える為、俺は全力を尽くして、努力をする事にした。


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