男の子が家に来たようです
5歳式は正直疲れたけどこんな出会いがあるのなら俺は超大歓迎だ。
あの天使に出会えるなら大抵のことは出来る。
そんな事を思いながらドアを押す。
「うぬぬぬぬぬぅ…!!」
「守衛が開けるのに….エレミア顔真っ赤にしちゃって…かぁわいい!」
「手伝って!ならお願いだから手伝ってよ!本当お願い!お願いだから!手伝ってよ!例のあれ使っちゃうよ!良いの!大変な事になるよ!ねぇ…!…手伝ってくれよぉ…」
「ごめんね!エレミア!泣かないで!ほら!開くわよ」
「最初っからそうしてよぉ…」
言葉ががたがたに崩れるまで媚びてやっと開く様に指示してくれた。
最悪だ。この出来事だけで殆んどマナーが吹き飛んだ。
「た、只今帰りました…」
「おかえりなさいませお嬢様、夫人。御主人様はまだしばらくお帰りにならないそうです」
『おかえりなさいませ!シェリー!エレミア!』
「はい、ただいま……す、拗ねないでエレミア!お願い!」
「もういいです!」
そんな言い争い、というか、下らない言い合いを止める存在がいた。
「…お邪魔…してます」
「ほぇ…?」
何処からかやって来た男の子だ。確か来る前はいなかったはずだけど。可愛らしい小さな男の子が目の前にいる。これのせいで残っていた作法が全て消え去った様な気がした。
「お父さんがね!あなたの5歳式で出来たお友達との様子を聞いてね、連れて来たのよ!」
貴族の闇とも思しきものの一端を見たきがする。子どもを何処からともなく連れてくるというのは絶対普通の事情ではない。
このこ何処の子なのだろうか。
元《母親》の所に戻してあげて欲しい。勝手に連れて来ていいものではないはずだ。
「お母様、人の子どもを勝手に連れてきてはいけません!」
「…う〜ん…そういうわけじゃ無いんだけど…」
「何処が違うんですか!」
「エレミア、丁寧な言葉は地味にきついよ…」
「…僕は、孤児院出身のアルスです、名字は…無いです」
「あっ、そうなんだ…」
全くの誤解だった。何か誘拐の様なことをして来たのかと思っていたけど、そうではないらしい。孤児院だが、綺麗な格好している。多分正式に迎えているのだろう。家族の一員になるのだろうか。
「エレミアのお話相手になるのよ!大丈夫…だと思うわ」
「孤児院から…よろしくね!アルス!」
「ぅゎぁ………かゎぃぃ子………あ…うん、よろしく…おねがいします」
気が弱そうな子だねぇ…俺が鍛えてやろう!
まぁ俺の様な箱入り娘の典型ではまず無理だろうが。
こんな俺じゃなくて多分鍛えるとしたらお父様が鍛えると思う。ちょっと顔が赤くなっている。大丈夫だろうか?
「具合は大丈夫?」(ピトッ
「へっ?!…ふぁぁ…はいぃ…」
デコぴとっ、は一回やってみたかった事でもある。小さな頃、それをやられると冷たい額が当たって気持ちが良く、安心したものだ。だからアレクにも実行しようと思ったのだが、そういや貴族としてあるまじき事してるな。
「うぅん…孤児院の子がエレミアと…でもお話相手だし……でも出身が…」
お母様はお母様で悩んでた様だった。当然か。孤児院の子にたいして初対面なのにこんなのなのだから。
「大丈夫です!これからお話相手になるのですから!」
「エレミアぁ…ねぇ…許してよぉ…丁寧語やめてよぉ…」
「どうしたのですかお母様、お具合が悪く見えますが」
「グスっ…もう良いもん!エリスに慰めてもらうもん!」
と泣きながらエリスさんの部屋まで直行して行った。何か情けなさと、やってしまったな…という気持ちがないまぜになる。
本来お父様の部屋に行くのだろうけれど、今はお父様、バークは何か報告があるとの事で中央部に滞在したまま。いわばそれはこの少年と一緒に二人でいるという事であり…
「………」
「………」
…気まずい…!非常に…この状況…!無言…沈黙…膠着が、広がる…!ムードメーカーが立ち去り、まさに膠着…拮抗と呼ぶに相応しい状況…!
「ぷっ…エレミア様…変な顔してる!」
「……えっ?…///ちょっ!ちょっと!」
「あははは!…顔がくわっ!てなってる!」
「そう…?……」(くわっ
「あっははははははは!」
今まで固まりきってた顔が柔らかくなっていく。何か強張っていた顔は崩れてお腹を抱えている。くだらないギャグで緊張がとれたのだろう。笑いが抜けなくなって、今にも転げ回りそうだ。
「……友達になろう!」
「…へ?」
「…聞こえなかった?友達になろうぜ?」
「エレミア様…?口調が…」
「うーん!こっちの方がやっぱし楽だよ!」
「…?どういう事ですか…?」
まずい。あまりにも男友達が出来た事が嬉しすぎて素が出た。もう誤魔化しは効かないなだろう。だからと言って転生した男とも言えないし…
「う…あ〜…」
「何か秘密が?」
しばらく腕組みをして、頭の中で考え込む。どうすれば何とかなるだろうか、このまま放って置いてもいいけどそれだったらこの子に変な子だと思われる。…そして一つ、悩み抜いた末に思いついた。
「まず覚えたのが男の子の口調で…次に覚えたのが女の子の口調何だよ!」
「……何かよくわからないけどそうなのか!ならしかた無いね!」
誤魔化せたか…所詮は5歳児という事か…これからは二人きりの時は男口調になるのは間違いないな。だいぶ楽になりそうだ素の口調が遠慮なく言えるのは大きい。
「よろしく、アルス」
「これからよろしくエレミア!」
エマとは週一に手紙をしあう約束を帰り際にしてたからまずそれからする事にしよう。直接男友達が出来た、というのは憚れるので、男の子とお知り合いになりましたっていう内容にしよう。ビックリするだろうか?
……………………
エレミアのいる部屋ドアの向こうでは…
「何話してるのかしらあの子達」
"くいっくいっ"
「何ですか、シェリー様」
「エリスぅ…貴方までやめてよぉ」
「分かってるわシェリー、あの子が何で母親より今日会った子が仲良くしてるのかって?」
「そぉよぉ…何で?あの子なでなでしたいよう…頬ぷにぷにしたいよぅ…」
はぁっ…と少々大袈裟にため息をつき、肩をすくめる。そしてエリスはこう指摘した。
「シェリー・ヴァルヴィア?貴女だってちっさい時はあんなんだったわよ?私あの時寂しかったんだから」
「そうだったね…でも今は仲良いでしょ?」
「そうよ、それが答え。今は同い年のお友達が欲しいお年頃なのよ」
「なら私は貴女とぷにぷにしてます」
"ぷにゅ"
「やめなさい」
「いつっ…もう!」
「貴女はもう大人なんだから、自覚なさい」
「はい………何であの子が聖女なのかしら…平和に暮らして欲しかったのに……」
「いきなり親の様な…いや親か。でも愛しているでしょう?」
「愛しているわ…あの子は何てったって私の娘なんだもの」
…………………
………
「そこで心の読める妖怪は言いました…『えへへ…おめぇ…やさしいなァ。』」
「グスッぐすっ」
「『ミノルみたいだよ…』」
「うわぁぁあん!!」
「だ…大丈夫?」
「良い…お話だね…グスン」
「良い話だろ?」
「語りも凄い上手くて凄い良かった!」
「……あ…ありがとう」
これはデレではない、天地神明に誓うとなればわかんないけど大抵のものに誓える位には違う。
俺の天使はエマだけだ。
投稿が少々遅くなりました!ネタが中々まとまらず、今後の展開へもっていく為、かなり無理をしました!今後ともよろしくお願いします!
字幕の付け方がわかんないです…