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5歳式の夜

幼女は愛でるべきだ。大切に大切に。

…いやわそう言う意味ではない。心中してやったりなど思ってはいない。

ほら!


「エマって何が得意なの?」

「うーん…お裁縫かな!お母様が教えてくれるんだ!」

「私の服も縫って欲しいなぁ…」

「私、お洋服はまだ作れないよ?」

「凄いなぁ、可愛いなぁ…」

「でもね!作れる様になったらエレミアのをまず作ってあげる!」

「おお!私の天使!」

「エレミア最初のイメージとちがう〜」

「柔らかいなぁ…うへへへぇ」

「は〜な〜し〜て〜」


問題など特に何も起きていない。

少々とばかりよろしくない空気にこそなってはいるものの、実際は何も起きていない。

状況としては、今、エマに魔法を披露している。

得意だった雷魔法を一発見せたのだが、興味を惹かれたらしく目を星の様に輝かせていた。

子どもにパフォーマンスすると手離しで喜んでくれるあれだ。

それが目の前で俺の為にしてくれている。これは張り切らなければ、男ではない。


「…清めの流れ、力を宿らせ押し流せ…フローウォータ」

"バシャン"

「……」(キラキラ


お気に召していただけた様で何よりだ。

この部屋は何故か対魔法用の結界と思しきモノが張られていて、雷魔法ぶっぱしても傷一つかない。

勿論俺の魔法がまだ対した事無い威力である事も原因だろうが。

夕日はもはや完全に見えなくなって部屋の蝋燭の灯り以外の光源は期待出来ない。

魔法を夕日が沈むまで使い続けたりしたが、この子が帰るのが夜遅くになり、親に叱られるのも忍びない。なので


「エマ、もうお外真っ暗だよ?」


こう遠回しの言い方をして、帰りを促す。エマが目に見えて落ち込んで駄々をこね出した。最終的には涙目でこちらを見つめて


「いや!遅くまで一緒にいるの!」


と冥利に尽きる言葉をいった。

遠回しな言い方の真意をすぐに捉えるとはこの子は天才とかその部類なのかもしれない。それか子供特有の勘の鋭さをいかんなく発揮したか。

グズって話が全く進まない中、何とか一緒に部屋まで着いていく事を条件に部屋に戻る事を承諾してくれた。

ベッドを力強く握り落ち込んでるけどこれは如何ともし難い。

夜は子どもにとっては冒険の場であり、天敵でもあるのだ、まだアドベンチャーをするお年頃では無い。それにいつ何が起きるかわかったものではない。

ただ俺はアドベンチャーする気満々だけどね。


「じゃあ…行くよ…」


なんとかドアの目の前に立ち、背が小さく力の弱い俺がドアノブになんとか手をかけてゆっくりとドアを開ける。


「ひゃいぃ!」


ドアの軋む音にビビるとは…そそる…いや今はそんな心持ちでいてはならない。

今回はお嬢様をエスコートする紳士…いや婦人になるのだ。煩悩に負けるわけにはいかない。


「…エレミアぁ…やっぱり暗いよお…」

「大丈夫、わたしがいるから」


励まそうとした自分の声が震える。

情けないと思うかもしれないがこの廊下、意外と怖い。

廊下に火を灯す燭台くらいあるかと思っていたのにそれがついていたあとすらない。

なんか幽霊がでて来そうなおどろおどろしい雰囲気があるのだ。

ファンタジーのテンプレの集まりみたいな世界観だからだろうか。

右手に部屋の火を灯した燭台を持ってエマの部屋まで連れて行く…


「そこ…左曲がって…」

「うん…」


下心があったのは最初だけで自分の部屋が見えなくなるとその余裕も何処か飛んで行った。

エマの記憶力に頼りにして、迷子対策なのかそこまで複雑ではない道を手づたいにゆっくりと進んで行き、暫く進む。そして何かを目撃した。


「ひっ……」

「声出しちゃダメ…」


火の玉だ。小さな火の玉が空中に浮かび上がっている。

悲鳴で大声をあげそうになったエマの口を押さえる。

その火は方向を頻繁に変えながら、まるでこちらを探すかの様にゆらゆらと動いている。色は真っ青でまるで…


「あれって…普通の色じゃ無いよね…?」

「近づいて来てる気がするんだけど…」


なにか硬いものが擦れ合わさった様な金属質な音を伴い、青い火が近づいてくる。そしてある程度近づくと…


「君たちはどこの子だい?」


火の玉を掲げた重厚な甲冑が、重々しい声を上げ、こちらを見る。

ひたすらに昏い兜の中身。

生気を感じさせない長い吐息。

その冷たい金属の様な手が二人を掴もうとする。


「「きゃ〜!!」」


喋る甲冑から全力で逃げた。

手は繋いでいるが、まだ恐怖の色の方が強い。二人とも涙が少し流れている。しかもエマはあの不気味なモノのせいで…


「ぐすっぐすっ…うぇぇん!怖いよぉお!」


とうとう大きな声で泣き出してしまった。

今まで無理して我慢させていた分、またあいつらが来てしまう事をいっても全く泣き止む様子がない。


「エマ!泣かないで!」

「火の玉がぁ…怖い人がぁ…こっち、こっちにぃ…うぇぇぇええ!」

「大丈夫、私がいるよ!ね?」

「グスッ…でもぉ…」


だがあの火、人魂やその類のものにしてはなんか眩しかった。

寒気もせず、むしろ本物の火の玉のように暖かくすらあった気すらする。

幽霊なんてモノがここに都合よくいるものだろうか。

あの甲冑はよくよく思い出してみると、番人の人が着込んでいた鎧と似ていた気がする。見回りの人だったのではないのだろうか。

そして火の魔法の色は確か赤色ではない。


「暗きを払い、人の心に炎あれ…ラウンドファイア」

「眩しい!…って火の玉の色…青だね…」

「あれっ…て事は…」

「あのカシャカシャ言ってたのって…」

「鎧の音じゃ無いかな…?」

「「……はぁあ……」」


あの人は俺たちを捜索してくれていたに違いない。

それなのにそれを押して逃げていってしまった。

俺たちがしてしまった行動に自身で呆れかえらされる。

俺たちは急遽騎士団を探す為、そこら辺をぐるぐる回っているということだ。

耳をよく澄まして聞いてみると、女の子を探しているらしい、

『お嬢さん!何処にいらっしゃいますか?』

という声や

『エマ=ライラス=サハナ=グラストーレス・グローレン様!』

とエマを探しているとしか思えない。

エマの手を引っ張り、そのエマを探しているであろう騎士のうちの一人に話かけると騎士の人は驚いた様子でこちらを見つめ、溜息をついた。


「お嬢様方は何をしているのですか…?」


騎士の一言である。

俺たちは一応伯爵位以上のご令嬢ではあるわけで…だから捜索隊を出していたのだろう。その騎士は兜を被っていないけど、他は完璧な騎士である。なんか違うな…騎士はもっとビシッとなっている筈だ!


「騎士さんはもっとビシッとしてる筈だよ!」

「そうだよ!もっとカッコ良いんだから!」


そう言うとはっとした表情をしてすぐ、やれやれとでも言う様な表情になり、ザッと居ずまいを正して


「お嬢さん方、今はもう夜だ。貴女方の様な貴婦人が何時迄もいるべき所ではない。私が送り届ける…ついてくる様に」

「「はい!」」


もうなんて言うか私たち二人は勿論の事騎士の人もノリノリだった。近い方のエマのへやへ辿り着き送り届けてくれて、次に私の部屋の前まで来てくれた。


「今回はありがとうございました」

「良いんだよ、君たちに会えて俺は嬉しい」

「はい!」

「ではまた貴女に女神の加護があらん事を」

「女神の加護があらん事を!」


やっぱり騎士はカッコ良い!正に騎士!って感じがする。貴族は貴族で楽しいものだ!

キビキビとした様子で帰っていく。なんとなく、軽く手をもう一度振って、ドアを閉じる。


「はぁー…もう終わるのか」


5歳式が終わってしまうと思うとちょっと寂しいものがあったのだった。

自分の部屋で一回限界まで魔力を使って魔術を使ってみる事にした。一番得意な雷魔法だ。これだけは無詠唱が出来る。厨二っぽくて技名は言けど。


「手の中でイメージ…と」


電気が手の平に溜まっていくイメージをする。その不安定なイメージの中に魔力を流し込むと、小さく、油が弾けるような音が手の平からする様になる。

そこでいつもは満足してしまって集中が切れて手から電流がながれてしまう。

今回は、手の中の電流を放ちたいとはやる気持ちを抑え、魔力を貯める。


「凄い色になってきたな」


魔力を込めた現象というものは力を込めれば込める程色が濃い色に変わっていく。

最初は薄い水色だったのだが、今は紫色にまで濃くなっている。

さらに音が明らかに大きくなっていて、鼓膜が破れそうですらある。

この時点で疲労はピークにまで達している。なのに魔力を込めた量の方はというとやっと半分かどうかと言ったところだ。これ以上力を溜めても何も起きないだろうしなんだかまずい気がする。

いい区切りだとでも思って壁に照準を向けて魔力を解き放ってみることにした。


「ジゴスパーぁああ!?!」


轟雷がぶん殴られる様な衝撃とともに放たれる。

紫色の雷が壁に落ち、それとともに本物耳をつんざく様な音がした。部屋中を焼き尽くそうとでも思っているのか。

窓に下ろされていたカーテンが音を立てて燃える。ベッドに雷が掠める。タンスの白く美しかった姿は雷のせいで原型をとどめておらず、黒く焦げた何かを残すのみとなっている。ドレッサーは鏡が割れ、机は足が折れてしまい、もうどうしようもなくなっていた。


「あっ!火事になる!''フローウォータ''!」


しかしもう手遅れ。燃えている所に片っ端から水をかけていくものの無事だった部屋の物はなく、焦げ付いた壁と彼女の座っていたベッドを除いて燃え尽きていないものはなかった。


「はは…………もう、おしまいだぁ…」


そして極度の疲労に信じたくない現実も加味され、そのまま死んだかのように眠りについてしまった。


そして、金色の魔力が燃え尽きた家具の数々を覆い…………


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