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5歳式の裏では

バーク・ヴァルヴィア視点


「バーク様…貴方も本来ならば5歳式に出席していただいたものを…失礼しました」

「いや、確かにエレミアの晴れ舞台は見たかったが、エレミアの為なら…な」


今日、本来なら5歳になったエレミアの自慢を散々するつもりだったがそうもいかない様で、夕暮れ、偵察隊が戻ってくる筈の時間に1人も戻ってくる事がない、偵察隊の進行ルートを逆に通る…おかしい、彼らがもしサボるとしても、一時間も道草する訳が無い。

彼らの巡回ルートはあらかじめ把握していた。

それに則ってその道を通る。

道は暗く、鳥や獣の声が遠くまで響く。

そこで魔法を唱え、掌の上に現れた青い火で周りを照らす。

これがなければ、少し先さえ見ることは叶わない。

足元を見て、通り道を通ると、異様な風景が広がっていた。


「なんなんだ…?これは……?……!!」


そして問題である偵察隊の姿を見かけた、彼らの首の上にあるべきものが無い。頭だけを綺麗に吹き飛ばされ、誰が誰だかが判別出来ないほどになって死んでしまっている。今回は、他の奴らに任せられる様な奴では無いだろう。彼らを一緒に捜します、と張り切って後ろについてまわっていた若い指揮官を横に立たせて、この風景を見せる。


「お前…指揮官だよな?」

「はい、どう行動いたしますか!」

「敵は遠距離の攻撃を使う奴がいる…騎士団は城内の貴族に被害がいかない様計らえ」

「…はっ…」


そう指揮官に伝え、この場から離れてもらう。残滓魔力からして敵は北東から攻撃を仕掛けてきたのだろう。距離は…大体1700〜1800か。敵は恐らくはチームかタッグを組んでいる。そろそろ早い奴ならここにつく筈だ。

そんな事を思う時とほとんど同時だっただろうか、客人が来なさった。


「後ろから失礼、あの豪邸まで案内していただきたいのですが」

「遠くからの来客ご苦労さん、だが俺は案内役では無いからな」


後ろで余裕そうな彼の様子を伺う為、右目に魔力を宿らせておき、後ろからの招かれざる紳士の気配を捉える。気配が薄く、魔力の流れが生物のものでは無い。堂々と登場した割には知恵を使うタイプの敵。正面から挑む攻撃型では無いのだろう。


「ならば…貴方は私が何なのか理解する事すら出来ずに死ぬだろう!」

「出来るならやってみな!」


俺は振り向くと同時に相手の顔の位置を狙って魔力を込めた拳で殴り抜く、が


「貴方の攻撃などかすりもしない、諦めなさい」


"予想通り"当たらない、いや効かない。やはり俺の懸念してした事で間違いはなさそうだ。


「そうだな、俺の攻撃を避けるなんて対したもんだよ、"空気を攻撃したみたいに"当たらない」

「そうだろう、そうだろう!」

「だから、こうする」


俺はそいつに手の先の魔力を集中させ、当てる。すると、奴の体から魔力で出来た糸が出た。その先に術者がいる筈だが…


「!?しまった!」


予想以上に敵の動きが早い、糸の先がかなり俺の場所から離れてしまっている。シェリーやエレミアが魔力放射型なら、相手は魔力傀儡と言われる魔力を形にする、魔力操作型。俺と同じタイプだ。本来魔力傀儡を使う奴は動きが遅い事が多いのだが…


「今更ですか?もう手遅…」

「うるさい!」


"パリィン"


魔力傀儡は魔術耐性は高いが、物理に弱い。今度はただこいつに魔力も込めずに殴る、するとまるでガラスを割ったかの様な音をたてる。


「くそっ…間に合え…!」


足に魔力を込めて全力で走る。相手も速い。まるで俺の経験則に当てはまらない。糸はまだ見える。木々が邪魔する。間に合うか?奴の糸が切れた。相手はもう着いてしまった様だ。耐えてくれ。奴の到着の十数秒後、門の前に着いた。


「ほんの少し遅かった様です、おかげで貴方の後輩が、ほら」


"ぐ… ぁ…" "うぅ…" "げほっ" "うぇ…" "か…ぅ…" "ぃ…づ…"



俺の後輩ではないが、鍛えられた筈の騎士たちがあの間に蹲っている。全員が全員苦悶の表情を浮かべている。体術も使えるのか…残滓魔力が騎士たちの鎧にも残っていない。


「おいおい…どうやってこんなに早く倒せた?」

「…簡単です、こうすれば良いのですから」


"ずぷ…ずぶぶ…"


粘着質な音が耳に響く。その不快な音が聞こえなくなると同時に紳士は三人に増えていた。


「そういう事か…」

「察しが良くてなによりです…まぁこの光景を見れば大抵の人は分かるでしょう。」


おそらく、本来なら騎士たちだけでもこいつを倒す事も捕まえる事もそこまで難しくはなかった。…相手が一人なら。騎士たちも一人で入って来た愚かな侵入者だと油断していたのだろう。しかし対した事無いであろうと高を括っていたところで敵は3人に増え、混乱したところで紳士が自分の速さをいかして倒した。こんなところだろう。


「…ただの騎士隊長に用はありません、貴族の部屋をあんないッ!?」"バキッ"!

「油断し過ぎだ馬鹿」


右ストレートが直撃した。騎士6人を一瞬で倒した事でおごれていたのだろう。実戦経験が一度も無い奴特有のおごりだ。

油断が過ぎる。一度成功したからと、二度も同じ戦法を子供の様に用いる。


「っつぅ…舐めるなぁ!」

「お前がな」

"パリンパリィン"!


分身だけを前に出して来た。それをすぐさま壊すと、紳士は驚いた様だ。こいつはまだ人を殺してはいない。

だから手加減をし、甘い。おそらく被害は騎士たち6人だけだろう。俺も無駄な殺生をしたい訳では無い。


「…誰がお前に指示を出した」

「!?」


少々離れていたが、相手の後ろをとることは出来た。実質の無力化に成功。こいつは俺のした事はわからないだろう。だがそれでいい。そうした方が都合良い。


「お前だけが来た訳無いんだ、お前の監視役か上司が来ているだろう?」

「…!そうだ!あの人がいる!あの人さえいれば…」

「あの人?」


…相当優秀な奴がいるらしい。いわばこいつは問題児か、それとも将来有望なのか。まぁ恐らく後者だ。それならこんな最重要任務を任せられ、何よりも混乱のなかとは言え瞬時に騎士を6人倒したという事実。こいつは将来厄介そうだ、騎士長にでも突き出そう。


「そいつは未熟な可愛い部下じゃ、返してもらうかの」


瞬間、空気が変わった。明らかに捕まえた奴とは格が違う。

強い。

後ろを向くと、それは貧相な白髪の老人だった。布を身に纏うだけの物乞いの様に見える。少し考えさせられるが、この老人には物乞いには無い覇気があった。流石にこいつはさっきの奴みたいに簡単にはいかないのだろう。

俺も少々魔術を使わせてもらうことにする。


「…偵察隊を殺したのはお前か?」

「さぁな、どちらかには間違いなかろう」

「ちっ…で、俺も殺すか?」


すると老人は大げさに首を横に振り、しゃがれた声で、三文芝居でもするかの様に


「遠慮しておくとしよう、かの英雄と戦うにはまだまだ早すぎるのでなぁ…そやつを離して欲しい」

「まさかこの方は…バークさ…!?」

「静かにしておれんのか未熟者のアホウが」

「み、みじゅ…っ!」

"サッ"「……良いだろう…じゃあ帰ってくんないか?娘と妻が待ってる」

「そうか…ならその二人にはすまない事をしたな」

「…どういう事だ」"バァン"!

「それは勿論頭が爆発した家族を妻子が見てしまうからに決まっておろう」

「…………」

「これから目的地に向かいますか」

「…やめておこう、大きな音を立て過ぎた。儂は良いが貴様は奇襲が向いているのであり強襲型ではない、貴様はこれからの任務に必要だ」

「しかし…!」

「…セイシン様からの御伝令だ、もう退却しても良いそうだ」

「………我々の負けですか」

「今回は作戦自体が失敗した訳ではない…"サイレイ"はなかろう」

「…ならば帰還致しましょう」

「そうじゃな」

"ザッザッザッザッ"


………………帰ったか。魔力も特に感じない。あいつには帰還途中にでも大怪我に見舞われて貰う事にしよう。魔力の操作は難しいなやはり。まぁギリギリ間に合ったから良かったものの、最低大怪我は負うところだった。


「はぁ…怪我はしなかったが服が破れちゃったな…シェリーにまた怒られる…あいつらは何をしたかったんだ…?」


そして直後、強烈な破裂音がする。

どうだい、ご老人、自分の爆発に、俺の魔力が混ざった必殺カウンターは。

…だが、あまり効いていない様だ。

これ以上追撃しても、二対一は不利なだけだろうし、若い方は増えるから、流石に簡単にいかないどころか今の俺じゃあ返り討ちに遭うだけだろう。

あいつらが俺に気付いて城に、家族に近づくなんて事の無い様にさっさと帰らねば。

俺は上半身が燃え落ちた服を睨みながら、帰る事にした。


「…まだ死にたくねぇなぁ」


これが俺の妻に対する本音だった。



………………………

…………



その頃エレミアはというと…?


「見ててよ……ザケル!」"バリバリバリ"

「おおー!」


今世でも初友達にテンパりすぎて、地味に雷魔法の無詠唱に成功していた。何やってんだこいつは。







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