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お題「ネコ」。

 決して松野の機嫌を取るためではないが、松野の求めるエクレアを、コンビニへとパシったわけではないが買いに行った。


 エクレアを食しながらも、美術部がいかにくだらないかとか、人生の損失かとか、凶悪犯罪者の八割は美術部出身らしいとか色々諭してみるも聞き入れてはもらえず、結局岬の「とりあえず実際に絵描いてみたらええんちゃうん?」というぼちぼち提案に、基本的人権をはく奪されたらしい人以外の全員一致で可決される。


 最初はコップなど静止画からがいいんだぞという専門職からのアドバイスも、「モチベーションがあがらない」というものすごく感覚的な理由で棄却された。

 結局、『かわいい→ネコ→描きたい』という連想ゲームにもならない理屈で三人の意見がまとまる。


 校舎を出て学校の敷地内をウロウロ。

急にネコなんていっても、そう簡単にモデルになってくれるようなネコなんて……案外探せばいるものだ。

 日陰になった駐輪場のコンクリートの上で目を細めて涼をとっている黒猫を発見する。


「いた! いたぞ! ネコ! ネコいた!」

 ネコを起こさないように声を潜めて三人を呼ぶ。

 「うわぁーホントだ、かわいいー!」などという展開などあるわけもなく。


「貴様はネコを直接見たことがないのか?」

「ポチがネコ見てワンと鳴く」

「動物園に一緒に行きたくないお父さんケース1ですね」

 世界がもし100人の村だったら俺は草だ。

 しかし、こいつらどうしてこんなに乗り気じゃないんだ。

 

 何にしても目的の猫を見つけ、その場に腰を下ろして描き始める三人。

 どんなものかと描いている後ろに回るも、『気が散る』『気が滅入る』『気持ち悪い』と言われたので仕方なく向かい側に回る。


 向かい側に回ると、三人とも三角座りをして描いているので、スカートの中がチラチラするがそんなことはどうだっていい。

 何か妙だ。スカートの中が全員短パンだとかそういうことではなく、描いている風景に違和感を覚える。

三人とも一生懸命描いている。描いてはいるが、一生懸命過ぎるというか、誰も被写体であるネコを見てないというか、これスケッチじゃなくね?  岬に至ってはさっきから自分の携帯をチラチラ気にしながら描いてるし。


 十分ほどして、できあがったらしい龍ヶ崎と岬の絵を見せてもらう。

 さすがにそれすら拒否されたら、そもそも何の為に描いているのかわからないから。

 ……なるほど。どちらも各々の個性がよく光った作品だ。


「岬、これはその、あれだな……キテイちゃんにちょっと似てるな」

「そりゃ、キテイちゃんやからな。携帯のストラップ見て描いてん」

「ほうほう。わざわざサンレオのキャラクターを青空の下で描くとは風流じゃないか」

「うまいやろ?」と誇らしげに胸を張る岬だが、正直、猫を描いているという状況とリボンというヒントがあっても、『キテイ……ちゃん?』ってレベルだ。

 見ながら描いたのにどうしてこんな絵になるのか。

 キテイちゃんには口はもちろん、こんなギザギザ牙なんてどこにも生えてないのに。

 こんなのとは絶対にコラボしたくない。


 そしてからに――。

「龍ヶ崎、何でこの縞模様のネコは体に窓が付いてるんだ?」

「ニャコバスだ。知らんのか貴様」

「知っている。純粋な心を持った子供にしか見えないというピュアピュアな乗り物だ」

 龍ヶ崎の描いたニャコバスは思い出しながら描いたにしても小学生にしてはよく描けている。

 高校生にしてはどうだかは別にして。

 いや、そもそも――。

「あそこのネコをモデルにして描いたんじゃないのか? よく見ろ、まずあのネコは黒猫だし、足はこんなにたくさん生えてないし、もちろん窓も付いてない。そしてこの窓からニコニコ目で手を振っている人はいったい誰ですか?」

「それは……私だ」

 照れくさそうに龍ヶ崎が呟く。

「どうして想像で絵を描く」

「ちょっとしたデフォルメだ」

「原型残ってねぇよ」 


 そして最後の一人。

「松野は……もう、いい」

 未だに一心不乱に描き続けている松野の絵は、何だかんだ言ってもやはり一番うまい。

 うまいが、ネコというモチーフなのに、二人の女の子が裸で絡み合っている意味が先生わかりません。

 

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