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よろしくお願いします。

 七瀬が美術準備室を去ったあと、当然不平不満の嵐の三人。

 しかし、俺からしてみればこれは好機だ。


「オホン。まぁまぁ、お前達の気持ちもよくわかるがな」

「わかるなら黙ってろカス」

 龍ヶ崎の暴言にいきなり出鼻をくじかれそうになるが、そこは大人力でカバー。


「いやいや、しかしな、闇雲に怒ったところで物事は何も解決しないのが日本という国の難しさじゃないか。まずは何が問題なのかをひとつひとつ見つめなおしてみないか?」

「嫌だ」

 そんな龍ヶ崎の即答をスルーし、強引に話を進める。


「この放課後という時間、多くの生徒は何をしている? はい、岬」

「はあ? 部活やろ?」

「正解。えらいぞ岬。そう、サッカー部や囲碁部はそれぞれ蹴ったり打ったり。空手部やテニス部もまた蹴ったり打ったり。じゃあお前達は今何をしている?」

「コーヒーを飲んだり飲まなかったり」

「お菓子を食べたり食べなかったり」

「その通りだ。松野も岬も飲み込みが早くて先生助かる。そこでだ」

「嫌だ」

 龍ヶ崎は空気。


「お前達も蹴ったり打ったりしてみないか? 恋も部活も充実。なりたい自分になろう」

「貴様はどこのアカデミーの回し者だ」

「女子校内で恋充実させてどうすんねん」

「ポチさんは神拳ゼミの漫画読んで、よし俺もってなるタイプの小学生でしたか?」

 先生、早速フルボッコです。

「もう理屈は抜きだ。今日限りここに集まるのはやめよう」

「却下や」

「却下です」

「シ・ネ」

 大反響。


「じゃあ、どうするんだお前達は? 生徒会はお前達を認めない。お前達は引く気が無い。それなら部活を創れ。部活は嫌だ。これじゃ堂々巡りだろ? 戦争ってこうやって起こるんだぞ。たぶん」


「あのさあ」と岬がひじを折って小さく挙手すると「私達別にええよ? なぁ?」と他の二人に同意を求める。その二人もきょとんとした表情で「ふん」と頷く。

 こいつら素直だと、なかなかかわいいじゃないか。

 どういう心境の変化かはわからんが、気が変わらない内に話をまとめよう。


「じゃあ、まぁ、寂しくなるけどな。なに、別に今生の別れでもあるまいし、それどころか学校でばったり出会うこともあるし、週一回は美術の時間に顔を会わせることもあるだろう」

「あ、いやいや。そうやなくて」

 岬の否定に嫌なものを感じるので、このまま全力で押し切る。

「いやいやいや、 そうなんだって。誰しもいつかは通る道。後々振り返ってみて初めて『ああ、今思えばあれが大人の階段だったんだな』って、そう思う日が近日公開するから」

「いえ、ですから。ボク達が言いたいのは」

「わかるわかる。わかるから皆まで言うな」

「話を聞けゴミクズ」

 龍ヶ崎が人に向かって使ってはいけない言葉で俺の口を塞ぐ。


「何だ? なるべく俺の人生に差し支えない範囲で話してくれ」

「いや、せやから、うちらやってもええと思ってるんよ」

「やる? やめるだろ? 集まるのを。やるって何だ?」

「やる」

「何を?」

「部活」

 …………。

 岬の言葉を咀嚼反芻すること五秒。

「……あ、ああ、そうかそうか! うんうん、さっきも言ったけどな部活は素晴らしいんだ! 部活こそ学生の本分。勉強なんてしなくていい。部活は正義。ボールは友達。サンタクロースは恋人だ」

「それじゃ、そういうことでよろしくお願いします」

 そう言って頭を下げる松野。それに続いて、岬と龍ヶ崎も頭を下げる。

 何だこの違和感ありありの光景は。 


「ううん。違う違う。そこは『よろしく』じゃなく『お世話になりました』だ」

「『お世話になります』だ」

「ハハハッ……『なりますだ』だって。何だ龍ヶ崎、それ訛ってるのか?」

「いえ、訛ってませんよ。琴ちゃんは『お世話になりますであってるんですよ』って言ったんですよ」

「おいおい松野。人が見ないように逸らした現実を目の前に持ってくるなよ」

「すなわち美術部を創るということだ」とすなわち龍ヶ崎。

「えーとつまり何だ。君達はあれか? 何か? とどのつまりあれか? 美術部を創部したいとそう言っているのか?」

「正確には『創部してあげてもいい』という妥協案ですけど」

「で、それに当たって何故俺に頭を下げる?」

「ボクと契約して、顧問教師になってよ」

「じゃあ、俺の願い事も聞いてよ」

「嫌です」

 リスクオンリーかよ。


「冗談じゃない。今まで死守してきたんだ。今更、美術部だの顧問だのやってられっか。金にならない。時間のムダ。責任とか超面倒くさい」

「教師として、言うていい本音と悪い本音があるやろ」

「そもそも、お前達ちゃんと考えてもの言ってんのか? 美術部ってのは絵描いたり、石膏像作ったりするんだぞ? そんなの本当にやりたいのか?」

「そんなもんちゃちゃっと描いて、ぺぺって作ってあとはいつも通りしとったらええやん」

 それは言っていい本音なのか? 


「なめとるな。そんな考えでは、なおのこと創部なんてありえん」

 すると、松野が手の甲でクルクルとGペンを回しながら言う。

「何もここで絵画や石膏だけをするのが芸術ではないですよ。漫画描いたり、放課後にお喋りしたり、眠ったり、これもまたそれぞれの自己表現とは考えられませんか」

「ません。それに松野、お前のはそれはただの二次創作の同人活動だろ。そんな他人の褌で相撲を取るような事しておいて芸術云々――」

パキリ。

松野のさんGペンが折れます。

俺の話の腰も折れます。

「死体遺棄しますよ?」

 死ぬことは前提なんだ。


 彼岸花がパッと花開いたような松野の笑顔が不吉すぎて、

 それ以上話を続けられなかった。

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