SATC。
放課後になり、毎度お馴染み美術準備室の三悪人がはびこる。
最近こいつらがいない時間の方が少ないんじゃないだろうか?
「なあ、これって何の略やっけ?」
雑誌を開いていた岬が誰ともなしにぼんやりとした質問を投げかける。
俺は聞き流し、他の松野と龍ヶ崎は岬の肩越しにどれどれと雑誌を覗きこむ。
「ああ、映画ですね。それはあれですよ。えーと」
「セックス」
龍ヶ崎の声でとんでもない単語が飛び出したことに、慌てて振り向く。
「お前ら何の話してんだよ!」
「セックスに過剰に反応し過ぎやろポチ村。発情期か」
そういってゲスな笑いを見せる岬。
「映画のタイトルですよ。このSATCって何の略でしたっけ? セックスアンド……」
「そりゃあれだろ」と俺が答える前に岬が、
「わかった。セックスアタックや」
「どんな卑猥な技なんだ! アンドって言ってんだろ! そうじゃなくてセックスアンドザ」
「セックスアンドザセックス!」と松野。
「どんだけセックスに明けくれてんだよ! ただのセックス三昧か!」
「あ、わかったぞ」と今まで雑誌の文字と睨めっこしていた龍ヶ崎がぼそりと呟く。
絶対わかってない。
「セックスアジアトラディショナルセンター」
「何かちょっと世界にアピールしてる!?」
「セックスオートマチックカー」
「まさかの二本立て! そしてもう、それ何する車!?」
一体どこがどのようにオートなんだ。
ってか、この部屋さっきからセックスセックス言い過ぎじゃね?
「ったく、だからあの映画だろ? アメリカのドラマの。あれはお前、セックス――」
そこでガラガラと急に扉が開くと、そこには七瀬の姿があった。
「……あ、いやいや、今のは違うぞ七瀬。これは映画の話でセックス……」
「ごめん、雑巾貸してくれる?」
俺の狼狽をよそに、七瀬が自分の要件をぶつけてくる。
「ん、雑巾? 何に使うんだ?」
「掃除以外に何に使うのよ」
「生徒会室にも雑巾ぐらいあるだろ」
「貸してくれないならいい」
「ちょっと待てよ」
扉を閉めて帰ろうとする七瀬に向かって、近くにあったカラフル雑巾を放って渡す。
「そんなのしかないけど、いいのか?」
「うん。ありがとう」
「あ、そうだ。弁当箱は」
「今度でいい」
そう言って今度こそ扉を閉めて出て行く。
「あいつ最近どうしたんだ?」
「生理じゃないですか?」
「松野、恥じらいって何だろな」
「哲学の話ですか?」
「なんでもない」
その次の日からしばらく七瀬は学校を休んだ。
欠席理由は季節の変わり目らしく『風邪』ということだった。




