本物語。
俺の両腕にどっとウェイトがかかる。
念のためにと近付いていたおかげでギリギリ間に会ったが、
岬が稼いだ一瞬がなかったらと思うと、ぞっとするタイミングだった。
ひと安心したところで自分の腕の中にあるきょとんとした顔に心臓が数センチ跳ねあがる。
慌てて目線を逸らすと、今度は白いのが二房。
目に毒だ。
更に目線をずらすと七瀬の足首が目に入る。
やはり激しく捻ったらしく、足首が腫れあがっていた。
まだショーは終わっていないが、さすがにこれは中止するしか――
「それが本物の王子ですにゃー!」
そのよく通る声の方へと目をやると、
そこにはステージの上にボブショートのよく似合う猫耳メイドさんの姿があった。
もちろん来栖だ。
「王子は身分を偽り、客席で真に心の美しい女性が訪れるのを待っていたのにゃー。さぁ王子、十二時の鐘が鳴り終わる前にシンデレラを連れて駆け落ちするのにゃー」
駆け落ちって、もっとマシなアドリブなかったのかよ。
「走るぞ、七瀬」
「わ、私自分で歩くから」
「そんな足して何言ってんだよ。俺だって恥ずかしいんだから我慢しろ」
七瀬をまさにお姫様抱っこしながら走る俺の背後から、
「酒と女と食糧をありったけ出せぇ!」という叫び声が聞こえる。
走りながら少し振り返ると、
剣を振りまわしながら暴虐の限りを尽くそうとする岬王子を他のキャラクター達が取り囲んでいるところだった。
何物語だよこれ。




