寝てません。
文化祭オープニング、企画出し会議二日目。
前日の反省から、きっちりした会議にはなったが、斬新なアイデアを出しても予算が厳しかったり、日数が厳しかったり、夢物語だったり。逆に予算と時間と相談したらしたで、今度はビンゴやガラポンに粗品景品と、商店街のテント企画になる始末。
会議開始から二時間、いい加減に脳が思考を拒否し始め、あくびがあくびを呼ぶ。
カコン。コロコロロ……。
「す、すみません」
菊池がホワイトボードのマーカーを落としたのもこれで四度目だ。
「菊池」と七瀬が菊池を睨む。
「ね、寝てません」
「あんたねぇ……」と、そこまで言った七瀬はあきれた様子で俯くと、
「まあ、いいわ。気をつけなさい」と繋げる。
真向かいに座っている俺にはよく見えるのだが、七瀬の目には涙が溜まっている。
だからって、七瀬は別に何かを悲しんでいるわけでも、どこかが痛いわけでもない。
菊池に小言を言おうとした矢先に、出そうになったあくびを噛み殺したからだ。
別に今だけでなく、こいつはさっきから密かにあくびを噛み殺しまくっている。
「なあ、ここらで一旦休憩しないか?」
「賛成ー!」
「異議なし。法案可決です!」
俺の意見に目を輝かせて賛同する岬と松野。
「はあ? まだ何も決定的なアイデアが出てないのに何言ってんのあんた」
案の定噛みついてくる七瀬。
「んなこと言ったって、こんな状況で続けても仕方ないだろう」
「そんなの取り組む姿勢の問題よ。あんたの隣りの龍ヶ崎さん見てみなさいよ。あくびひとつせずに、ずっと真剣な顔して考えてるじゃない」
「え、こいつ? こいつは随分と前から寝てるぞ」
隣で腕を組んで目を開けてはいるが、龍ヶ崎からはすぅーすぅーと寝息が聞こえてくる。
「なっ……起きろー!」
七瀬の怒声にびくんっと目を覚ます龍ヶ崎。
「まだとべる!」
何の夢見てたんだこいつ。
「かわいそうなことすんなよ。だいたいお前だって、さっきからあくび噛み殺してるじゃないか」
「こ、殺してないわよ!」
カタッ、コロコロコロ……。
左隣りから七瀬の前にシャーペンが転がってくる。それを何事もなかったかのように回収する長谷川。
…………。
「わかったわよ。十五分休憩!」
そう言って七瀬がパンと手を叩く。
「え? あっ! はっ! ね、寝てません私!」
菊池、不憫な子。




