犬も歩けば暴にあたる。
初めまして双六と申します。
紆余曲折ありまして、「よし!小説を書こう!!」と思ったものの、
一人で書いているとどうにもモチベーションがあがらずウンウン唸っていた所にここの存在を知りました。
稚拙な文章ではありますが、
良しも悪しもご感想いただければ嬉しく思います。
こんな私ではありますが最後までお付き合いいただければ幸いです。
あなたは神様を信じますか?
神様は信じないまでも、何かそういう隠れたところから、他人の不幸をあざ笑うような小人だか妖精だか、そういう類がいるんじゃないかって思うときは誰にだってあると思う。
さっきここに置いたはずのリモコンを探したり、落としたと思った電車の切符が、家に帰ってシャツを脱いだ途端、どこからかはらりと落ちてきたり、家を出たら急に雨が降ったり、傘を買ったら雨がやんだり、白いシャツだから絶対汁を飛ばさないようにと用心してテーブルに肘をついたら、すでにテーブルの上が汚れていたり。
あとは――体育館裏で外壁にもたれて煙草を吸っていたら女子高生に真上から踏んづけられたり。
「お、ナイス。ポチ村」
もちろん俺はこんな変な名前ではない。
「おはよう岬。あと、ポチ村じゃない。犬村先生な」
「愛称や愛称」
「そういうのは蔑称って言うんだ。覚えとけ」
自分の頭の上に乗った人間と、朝からこんな軽快なやりとりをするなんてそうそうない。
そんな事を考えている間にも俺の頭をきっちり踏みこんで、トンッと目の前に女子高生が落ちてくる。
「おはようさん」
肩にかかった栗色の髪を後ろで束ねながら、関西イントネーションで岬杏里が俺に挨拶をする。
校内でもトップクラスの身長と身体能力を保持しておきながら部活には所属しておらず、入学してから遅刻日数と必須単位数の綱渡りに明け暮れる、高校二年の健全な不良だ。
「杏ちゃーん!」
再び声のする方へ目をやると、先ほどの岬と同じように、こちらにスカートの中身を披露しながら外壁にぶら下がっているのは松野衿。
岬と違う点は女子の平均身長にやや足りない故に俺の頭に足が届かない。
「おはよう。松野」
「あ、おはようございます。その声はポチさんですね」
本日二人目となる、頭上の人と挨拶を交わす。
「松野、『犬村先生』な」
「どうでもいいですけど、ポチさん、もしかしてスカートの中見ました?」
「見てはいないが、松野はいっつも白だな」
「絶対見てますね。あとでお金取ります」
「いくらだ」
「五百円です」
「案外良心的だな」
「一秒五百円です」
「すまん。あいにく、今日は喉の調子が悪くてな」
「大丈夫です、喉は全然関係ないですから」
「手貸してやろうか?」
「いやいや、結構です。飛びおりますから」
「いや、待て」
こちらの制止を聞かず、俺の頭を思いきり踏んづけて、目の前に着地する松野。
頭を押さえる俺には目もくれず、勢いでずれた眼鏡と捲くれあがったスカートの裾をなおす。
一見、地味な印象のその少女だが、ショートカットをサイドで結んだ髪型は品の良いマルチーズのようだし、少し大き目の眼鏡の奥をよくよく見ると十分美少女の部類に入る。
あくまで見た目の話だけど。
「ポチさんは毎日ここでボク達のスカートを覗いて変態ですね」
「失敬だな松野。毎朝俺がここで煙草を吸ってるとお前達がこの壁を乗り越えてくるもんだから、俺は見たくもないものを見せられて辟易としているんじゃないか」
「じゃあ、せめて目を背けるなりしたらいいじゃないですか」
「目の前にあるそのことから目を背けてばかりいても何も解決しないんだぞ」
「その前にまずは自分と向き合ってください」
「先生はお前達を愛している。生徒として」
「すみません、つわり起こしそうです」
松野が大袈裟に口に手を当てる。
「そもそもお前達、壁乗り越えても遅刻は遅刻だぞ。いい加減チクるぞ」
「ポチ村もここは喫煙所違うねんから、ちゃんと喫煙所行けや」
「あんな空気の汚れたところで吸ったら体に悪いだろうが」
「なら、煙草やめろや」
「納税は国民の義務だから仕方ない。そんな事よりもう予鈴鳴ったんだから、急がんと本当に遅刻するぞ」
「そうだよ杏ちゃん。急がないとただのパンツ見られ損です。あ、でもあとで集金に伺います。50万用意しといてください」
「そんなに見てねぇよ」
そう言い残して岬と松野は校舎へと走っていった。
「さってっとをわぁ~」
ぐっと伸びをすると欠伸が一緒に付いてきた。
我が職場へと向かうべく、体育館に沿ってちんちんたらたらと歩きだす。