『恥ずかしい』は『愛』と同義語
はじめまして。
拙い文章ですが、読んでいただけましたら幸いです。
ガイドラインに沿ってR15つけましたが、微香な感じです。
ああ。人生の半分は、恥ずかしさでできている。
それとも、私という人間の半分が、恥ずかしさでできているのだろうか。
「加奈?」
隣にいるカレが、首をかしげて私の名を呼んだ。
「どうしたの? 緊張してるの?」
ええ。緊張はしていますとも。だって、この目の前の扉が開いたら、披露宴がはじまるんだもん。
そして人生の節目だからこそ、今までの思い出が、走馬灯のように駆け巡ったんだもん。
「今までの人生を、振り返ってマシタ。」
「ん?」
ともすれば冷たく見える切れ長の目が、私のソレを捕える。
幼い頃からこの目に見つめられているのに、未だに私の心臓は慣れない。
ドキドキと、大きく速く鼓動を打つ。
「周ちゃん。記憶って、最後まで残るのは恥ずかしさだね。私の半分は恥ずかしさでできてるよ。」
「何思い出してたの? こっちまで恥ずかしいんだけど。」
少し赤くなった周ちゃん。周ちゃんこそ、何思い出したのよ。
「吉祥寺で待ち合わせした、3年前のクリスマス。」
「ああ。あれは恥ずかしいね。」
ニヤリと笑った周ちゃん。だよね。恥ずかしいよね。
3年前のクリスマス。私と周ちゃんは、吉祥寺で待ち合わせて渋谷の教会へ行く約束をしていた。
パンがもらえるとか、ロマンチックとか。にわか信者以外の何物でもなかったけど、楽しみにしていたのは本当。
中央線に乗り、西国分寺駅で事件は起きた。車内はそれほど混んでなく、少しだけ立っている人がいるくらいだった。
ドアの脇に立っていた私を、乗り込んできた作業着姿のオヤジが、いきなり殴りつけてきた。
顔を殴られ呆然としたが、気の強い私は黙っていられず、オヤジの襟首をつかんで引っ張った。
「何すんのよ!」
「けっ。チャラチャラしやがってよ。浮かれてんじゃねえよ。んなとこ立ってっと、邪魔なんだよ。」
酒臭い息を吐くオヤジに、頭が沸騰した。
「殴っていい理由にはならないよね?」
「うるせえっ!」
あっ! と思った時には、オヤジに唾をかけられていた。
もう一発パンチをお見舞いされそうになった時、周りの乗客達が、オヤジをとり押さえてくれた。次の駅に着くまで、唾をティッシュで拭いつつ、震える私の肩をそっと抱いていてくれたお姉さん。
「いい歳して、人に迷惑かけるなよ!」
と、捕えたオヤジに説教している二人組の会社員。
床に捕らえられたオヤジは、おとなしく国分寺駅で警察に引き渡された。
「事情聴取をさせてほしいからあなたも一緒に。」
と言われ、お姉さんや会社員の人にお礼を言って、電車を後にした。
途中で周ちゃんのケータイに連絡を入れ、遅れる旨を伝えた。
びっくりした周ちゃんは、『迎えに行くから、事情聴取が終わってもそこで待っているように』
と言ってくれた。
事情聴取を終え少し待っていると、さっきのオヤジが警察官に連れられやってきた。
「悪かったな。」
警察官に諭されたのか、オヤジはポツリと一言呟いた。小さい声だったけど、目を見てしっかり謝罪の言葉をくれた。
「いえ。反省してくだされば、それでいいです。」
「訴える事もできますが、よろしいですか?」
問いかけてきた警察官に
「謝罪で十分です。」
と答えた。
どこかへ連れていかれるオヤジの背を見送りながらボーっとしていたら、肩を叩かれた。
「加奈」
「周ちゃん…ごめ…」
周ちゃんの顔をみたら、安心して涙がポロポロとこぼれてきた。
周ちゃんは泣きじゃくる私を、ギュッと、ずっと、だきしめていてくれた。
しばらくして落ち着くと、当然のことながら、事の詳細を話して聞かせるよう求められた。話している途中から、周ちゃんの顔色が変わっていった。
つかつかと、手近な警察官の所へいくと
「ちょっと。担当の人呼んで。訴える。こいつ断ったみたいだけど、訴えるから。その前に、犯人、一発殴らせて。ちょっと連れてきてよ。」
署内に響き渡るくらいの大声で、警察官にくってかかった。
「しゅ、周ちゃん?」
私の声に反応して、クルリと私の方を向いた。
「大体ね。加奈も加奈だよ。大事になる前に、逃げるとか周りに助けを求めるとか、何で思いつかないわけ? 襟首つかんでファイティングポーズ見せる前に、危険から回避すること考えてよ! 今回は、周りにいい人がいたから止めてもらえたけど、毎回そうとはかぎらないんだよ!」
ごもっとも。ごもっともなんですが、声を落として〜。署内一丸となって、その通りと頷いている気がするよぉ。
「心配したんだよ。」
打って変わって弱々しい声で。
「警察って聞いて、心配したんだよ。震える声で電話をもらって、しかも殴られたって聞いて恐かった。加奈が消えてしまうかと思って、恐かったよ。」
周ちゃんの手が、私の頬にそっと触れた。
「少し、赤くなってる。痛い?」
私は首を横に振った。
「大丈夫。」
切れ長の目に翳りが帯び、哀しみが溢れる。
「そんな時にそばにいなくて、ごめん。ごめんね加奈」
強く強く抱きしめてくれた。
唇に温かいものが触れ、周ちゃんを感じた。口づけが深くなったその時。
「で? 訴えますか?」
先ほど私に訴えるかと尋ねた警察官が、私の肩を叩き、苦笑しながら聞いてきた。
恥ずかしさであたふたしてしまい、何も言えない私に変わって、周ちゃんが答えた。
「いえ。結局はこいつに自覚してほしかっただけなので、訴えません。どうもお手数をおかけしました。ありがとうございました。」深々と頭を下げ、ついでに私の頭も下げさせ、周ちゃんは私の手を引き、警察署を後にした。
「うん。覚えてるよ。鮮明にね。」
「うぅっ! 鮮明に…」
「電車で乱闘は、確かに恥ずかしいよね。」
周ちゃんは、からかうように目を細めて私を見た。
「それももちろんだけど、真面目にお仕事してる皆さんの前で、深ーいキスを披露してしまったのも恥ずかしかったの!」
しかも周ちゃん、大声で叫ぶし。私を心配してくれての事だから、口には出せないけど。
「そこも恥ずかしい事なの?」
「えっ!? 人前でそういうことするのって、恥ずかしくない? その時は入りこんでるからどこまでも盛り上がるんだけど、一応私も常識がある大人でしょ。冷静になって思い出したら、何だかやっぱり恥ずかしいよ。」
「キスくらい普通でしょ。電車で暴れるのは普通じゃないからね。常識ある大人はしないよ。」
あう。みぞおちを抉られマシタ。
「あとさ、2年前。ナミん家に行ったとき。」
「ああ。ナミ、いいお母さんしてたよね。」
2年前、親友のナミが赤ちゃんを生んだので、泊まり掛けで会いに行ったのだった。
赤ちゃんは真ん丸で柔らかくて、とてつもなく可愛かった。
ナミの表情も幸せいっぱいに輝いていて、見ているこっちまで幸せを感じた。
「あぁ。加奈が『私も赤ちゃん欲しいな〜』なんて誘うから、風呂でイチャイチャして、ナミに怒られたっけね。加奈、声でかいんだもん。風呂って響くし。ん? これも恥ずかしいの? 愛が溢れてるよね!」
ええっ!?
「恥ずかしくないの?」
周ちゃんに尋ねると、
「イチャイチャは愛だよ。人んちの風呂場で、大声で喘ぐのは恥ずかしいけどね。」
またロンリー羞恥か!
私の恥メーターはちっとも目減りせず、というかダメ押しされてMAXまで振り切れてしまった。
大分へこんでいると、私の指に周ちゃんが指を絡ませてきた。
「加奈は『加奈の半分は恥ずかしさでできている』って言うけど、残りの半分はなにでできているのかな。僕は僕の全てが、加奈への愛でできているよ。今までの人生も、これからの人生も、至るところに加奈がいるよ。」
「周ちゃん…」
切れ長の目が、優しく、愛おしむように、私を見つめる。そして絡んだ指に力がこめられた。
「周ちゃん。ありがと。大好き。」
「残りの人生は、僕への愛でいっぱいにしてね。」
そっと触れた唇に、未来を感じた。
「扉、開きます。」
式場の介添えさんの声に我に返る。
扉の向こうからは、私と周ちゃんを祝福してくれる拍手と喚声が聞こえる。
扉が開く。
大勢の拍手に迎えられて、今日、私は彼の花嫁になる。
読んでくださってありがとうございました。
歳とともに、頭の引き出しの中は、恥ずかしい事でいっぱいになっていました。むしろ、それだけ。
色々経験してきたはずなのになぁ…と思いながら書いていました。






