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ヒトオオカミ・終

 ラティファが去ったあともワイズマンはカフェに残ってコーヒーを啜っていた。待っていた。あの男が来るのを。この事件の終りを。

 面倒で、絡み合った事件だった。だが、それももう終わる。

 足音と共に、その男はやって来た。

「遅かったじゃないですか」

「そうかな? 時間は丁度だと思うが」

 やってきた男――デイビッド・セーファーは、そう返してテーブルに座った。何時もの笑みを、面に貼り付けている。

 ――そんな顔を出来るのも、あと少しの間だがな。

「それで、何の要件で私をこんなところまで呼び出したというんですか?」

「貴方にも無関係ではない事件が終わったので、お知らせしておこうかと」

「ほう、それはファントムの件について、ですか」

 分かりきっているはずのことを、セーファーは問う。

「そうですね。ファントムは我社のエーテルギアが撃墜しました」

「それは良かった」

 白々しいほどの笑み。当然、知っているはずだというのに。

 ――まぁ、見ているがいいさ。

「しかし、貴方がたはしくじりましたね」

「ほう」

「予定では、ファントムの撃墜で全ての証拠を湮滅するつもりだったのでしょうね。もっとも、パーツなどは残っても知らばっくれるつもりだったのでしょうが……」

「……何のことです?」

 セーファーの笑みから余裕の色が薄くなっていると、ワイズマンは見て取る。段々と、剥がれてきている。

「回収させてもらいましたよ、貴方が関わっている証拠を」

 言って、ワイズマンは呼んだ。

「さ、出てきてくれ、李君」

 近くに座っていたコートの男が、帽子とコードを脱いでワイズマンの方に歩いてきた。簡単な変装を解いたその姿は、李 鳳林その人だった。

 ウェアウルフがファントムの撃墜に出る直前。ファントムのドライバーが李だと聞かされたワイズマンは、一つの指示をラティファに出していた。ドライバーを殺すな、必ず生かして戦闘不能にしろ、と。

 セーファーの余裕は剥がれて、明確に地肌が露出していた。丸くなって揺れる目。額に伝う冷や汗。開いた口。

「紹介の必要はなさそうですが、一応は言っておきましょう。我々がファントムと呼んでいたエーテルギアのドライバー、李 鳳林君です。李君? 君はこの男に見覚えが?」

 李は頷く。「有ります。僕があのエーテルギア……クラーケン・フレームに乗ることになったときに、会いました」

「だ、そうです。ああ、ウチの会社で電脳ウィルスの除去は行っておいたので、今からウィルスで殺そうなんていうのも無理ですよ? 彼の証言を元に、星海工業はアドバンスド・テック社との交渉に入ります。最終的には、目撃証言が出ている貴方が個人的にやったこと、などとなるかもしれませんが」

 封鎖プラントにおける火災で、彼が死んだことになった理由。それは彼をエーテルギアのドライバーにするためだった。事前に行っていたであろうエーテル適性検査で、ドライバーの候補は選定済みだった、ワイズマンはそう予想する。

 アドバンスド・テックからドライバーを出さなかった理由は、唯一つ。情報の漏洩を防ぐため、ファントムのドライバーは死ぬ予定だったからだ。

 セーファーの切り捨ては、ほぼ確実に行われるだろうとワイズマンは踏んでいる。真実がどうあれ、最早そうする他ないからだ。

「糞ッ!」

 急にセーファーは立ち上がって、懐から何かを取り出した。

 黒光りする拳銃。旧世紀からのスタンダード、ベレッタ。

「ひっ……!」

 ワイズマンの背後で、李が短く悲鳴をあげた。セーファーの殺意は、李に矛先が向いていた。血走る目。口の端に泡。

 銃声。

 それは、火薬によるものではなくモーターの作動音に近いものだった。

「が……」

 セーファーは苦悶の声を漏らし、蹲る。その右腕から拳銃と指が二本吹き飛ばされ、血を流していた。

「やれやれ。そういうのは素人が持ち出しても碌な事にならないもんです。相手が私達のようなプロなら、尚更だ」

 椅子に座ったまま言う、ワイズマン。その右手には、モーター動作式の拳銃、シュタール・ゼクスがあった。

「再生医療の代金はそちら持ちで。先に抜いたのは貴方だ。そうでしょう?」

 そう言うと、ワイズマンは懐に拳銃を戻し、未だ震える李を連れてそこから去った。

 後には全てを失った男だけが残った。

・挨拶とか

 初めましての人には初めまして。そうでない人は、また会ったな悪友。下降現状です。今回はリアルロボットものです。Pixivに上げていたものですが、ちょいちょい弄ってこちらに上げ直すことにしました。楽しんでもらえたら幸い。

・謝辞

 これがここにあるのは、「さぁ、なろうにも上げるんだ」的に煽ってくれたり、色々アドバイスをくれたりした藤村文幹さんことと~かさんのお陰です。ありがとうございました。これを読んだ人は、と~かさんのボクスボットも読めば良いと思います。

・今後

 続きます。ただ、このヒトオオカミにそのまま続きを書くのではなく、シリーズ物という形で。どのエピソードから読んでも大丈夫だよ的な、ナンバリングされてないシリーズ物小説みたいな形が好きなので、そういう形にしました。

 シリーズとしてのタイトルは、『百機夜行』になります。百鬼夜行のごとく色んなメカがボロボロ出てくる感じになれば良いなあってノリでのタイトル付けなので、まあ今後も色々出ます。多分。

・終に

 今作のBGMは、アーマード・コア4より「Thinker」で。シンカーにしてシューターなラティファがどう戦って行くかは、今後のお楽しみということで一つ。

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