ヒトオオカミ・26
翌日。
ラティファとワイズマンが宿泊していたホテルのオープンカフェ。庭に当たる部分に、日傘とテーブルがワンセットになっているものが幾つか設置してある。
その傘の下、ラティファとワイズマンは居た。ラティファはオレンジジュース、ワイズマンはホットコーヒーを目の前に置いている。
客数は少なく、二人以外では厚手のコートに帽子姿の男が居るくらいだ。
ラティファはオレンジジュースを口に含む。
「どうなるんだろうな」
「何がだ?」
「今回の事件の関係者のことだ」
ワイズマンもコーヒーに口をつける。「関与していた工員は、星海工業の方で処分を受けるだろうが、首謀者に当たる男はもう死んでいる。大したことは出来ないだろうな。アドバンスド・テックはこれからだ。彼は――」
一旦言葉を切った。ラティファはそこに迷いを見る。
「ウチで抱えることになるかもな。結論は出ていないが」
「何故?」
「取引の結果……ってところだな」
「そうか」
「ほっとした、か?」
ラティファは首を横に振る。「それは彼の問題だ。私がどうこう思うことじゃあないよ」
「それじゃあ、お前の問題は解決したのかい、ラティファ?」
ラティファは微笑んだ。
「解決はしていないが、今はしなくてもいいんじゃないかと思ったよ」
ワイズマンは挑戦的な笑みを浮かべる。「ほう」
「生きて、選んでいけば。それに誠実であれば、いずれ答えは出るかもしれない。だから、今は生きて行くよ」
穏やかな気分で言うことが出来た。風がそよぐ草原と、揺れる草のイメージが自分にあった。私はそれでいい。今は、それで。
「お前がそれでいいなら、それがお前に取っての正解なんだろう。きっとな」
「そう言ってくれるか?」
「そりゃあな。大体において、正しい生き方。正しい人生って、なんだ? ――そんなもん有りはしないさ。だったら、重要なのは自分がどう答えを出すかだろう」
「ああ、そうだな」
頷いたところで、電脳が時間を知らせた。オレンジジュースを飲み干し、立ち上がる。自分の仕事はもう終わりだ。
「後は頼んだ」
「任せろ」




