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ヒトオオカミ・24

 手当たりしだいだった。

 この辺りに居ることは――いや、あることは分かっていた。だから、探索の為にも破壊して回る。一枚一枚外壁を剥がし、内部を確認。外壁など、クラーケン・フレームのカギ爪の前では、紙も同然だ。

 裂け目から見えるのは、棺のような形状をした、一般的な輸送船だ。

 今回も外れだった。このブロックから離れて、次のブロックへ移動する。宇宙空間、周囲に機械類が溺れる中を行く。

 クラーケン・フレーム。

 外ではファントムと呼ばれているらしい。特殊なステルスシステムの実験機なのだ、とあの男は言っていた。よくは分からない。大事なのは、自分があの封鎖プラントに居た人間で、一番これを動かす適性を持っていたということだ。

 これを動かせば、あの封鎖プラントで働いている人を救うことが出来る。そう聞いて、死体役に志願した。迷いはなかった。

 今になって思えば、これが彼女へ言った、誠実であるということだったのだろう。前に行こうとすること。同じ立場でいる人達の為に動くこと。

 悔いはない。

 だが、彼女と戦いたくはなかった。

 会った回数は多くないけれど、彼女の人柄は少し分かった気がする。何処か抜けていて、自分が向けている好意にも気づかない人。

 そして、優しい人だ。きっと本来は民間軍事会社で働くことになんて向いていない人。

 戦わずに済ませるためにも、動く前のエーテルギアを破壊しなくては。また、それだけが自分とクラーケン・フレームが、彼女とあの黒銀色のエーテルギアに勝つ方法だと思っている。

 ステルスシステムの実験機であるクラーケン・フレームと、民間軍事会社が実戦に投入している機体では、真っ当な戦闘力で差があるのは当然だ。

 ドライバーにも大きな差がある。民間軍事会社で訓練や戦闘を行っている彼女と、エーテル適性があるというだけでまともな訓練を受けたことも無ければ、実戦の経験も殆ど無い自分。

 総合的な戦闘力は、比べるのも馬鹿らしいレベルに達するだろう。

 爪が切り裂いた外壁の内部に、あのエーテルギアを見つけた。黒銀色のフレーム。前に突き出た、犬の顔のような胴体。そして左肩には、ライブラ・セキュリティ・コントラクトのエンブレム。間違いない。彼女の機体だ。

 裂け目を両腕で大きく広げる。ドッグ内部から、修理用のオートマトンや、あのエーテルギアが装備していた銃器が空気と共に外へ吹き飛んでいく。機体自体はケージでしっかり固定されているためそのままだったが。

 このまま吹き飛んでもらえれば楽だったのだが、仕方ない。空気に押されながらドッグの内部に侵入。黒銀色のエーテルギアに向かい合う。

 威圧的な機体だ。だが、今は死んだ獣も同然。恐れる必要はない。

 右腕を大きく振りかぶり、叩き付けた。頭部から、エーテルギアの右肩部にかけてカギ爪が襲う。頭部はぐしゃぐしゃに破壊されて内容物を撒き散らし、右肩は関節部が完全に破壊されて、腕がまともに動かせる状態ではなくなった。

 もう一撃で完全に破壊できる。今度は左腕。振りかぶった時だ。

 電脳に警告が走った。背面から衝撃。六つの頭部カメラのうち、背面を見ているものから情報を得る。そこに映るのは、エーテルギアの姿だ。

 暗青色のザウルス・フレーム。どうやら右腕に持っているショットキャノンをこちらに向かって撃ってきたらしい。

 コロニーを守りに来た、島二号コロニーの近くに居たエーテルギアのようだ。

 もうちょっとのところで。

 思わず舌を打った。二発目が来る前に、ステルスシステムを起動させる。ザウルス・フレームが困惑したのが見て取れる。透明化には成功したようだ。

 透明化さえしていれば、そうそう撃たれることはない。何も居ないのに撃ってしまえば、コロニーを銃撃したのと同じことになる。

 ドッグを蹴って、コロニーから出る。外壁を蹴って加速。ザウルス・フレームのほうへ移動。ザウルス・フレームはきょろきょろと周りを見ている。側面を通りぬけざま、カギ爪を射出。相手からすれば、何も無いところからカギ爪が現れて、自分に飛んできたように見えるだろう。

 直撃。即座に引き戻す。武器を持っていた右腕が吹き飛んで、周囲を飛ぶドッグの内容物と見分けが付かなくなった。

 ザウルス・フレームは良い反応で左脚部側面ハードポイントに備え付けられた拳銃型の火器――ショートレンジ・プラズマガンを引き抜いて、射撃。撃った場所は、先程カギ爪が出てきた場所だ。当然、慣性による移動が続いているため、そこにクラーケン・フレームは居ない。

 スラスターによる移動を断続的に行ない、クラーケン・フレームの軌道を変更する。僅かなものなら、ステルスシステムで隠すことが可能だ。

 ザウルス・フレームは、完全にクラーケン・フレームを見失っている。クラーケン・フレームは、今はザウルス・フレームの左後方に居た。

 カギ爪を射出。左肩から先が吹き飛んだ。

 エーテルによる防御を行ってはいるのだろうが、エーテルギアの腕部丸ごとという大質量を弾けるほどの出力ではないようだ。

 死なせたくはない、そう思う。だから、胴体部は傷つけない。エーテルギアのコクピットは、大抵胴体部にある。

 今度は完全に後方に回る、狙いは下半身。両腕を同時に射出して、両膝を撃ち抜いた。これで、戦闘行動はとれないはず。漂流されても困るので、島二号コロニーまで蹴飛ばしてやる。

 さて、これで続きを――そう思った時だった。センサーが再び敵に反応した。

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